生きるゲーム

青西瓜(伊藤テル)

文字の大きさ
上 下
4 / 16

【04 塔の内部】

しおりを挟む

・【04 塔の内部】


 『塔の中も霧の中だ』と感じた直後だった。
 入ってきたはずの入り口が閉ざされたと思ったら、壁があったはずのなのに、自分が来た側も霧に包まれ、試しに、入り口に戻ろうとすると、いつまでたっても壁に手が付かず、ずっと霧が広がっているだけだった。
 そんな僕の行動をじっと見ていたリーエが、
「後戻りなんてできないんだよっ」
 と言って笑った。
 確かにそうかもしれないけども、不思議な世界過ぎる。
 僕は仕方なく、前を向いて、あてもなく歩き出すと、徐々に霧が晴れてきた。
 晴れてきたというか見える範囲が広がったというイメージか。
 というか塔の中なんだから、霧があるなんておかしなことだし、そもそも僕が塔の周りを歩いた時よりも、この塔の内部は明らかに大きい。
 まあこんな世界で現実の道理を当てはめても仕方ないということかもしれない。
 今はとにかく次に進む場所を探して、と思った時、目の前から何かが歩いてきた。
 それは身長二メートルくらいの大男、というか、体全体が一枚の布に覆われて、筋肉隆々の腕だけ出しているような怪物。
 その怪物は鈍器のようなモノを持っていて近付いてきている。
 ヤバイということは明らかだった。
 僕はリーエの手を握って逃げようと、踵を返すと、僕は何か壁のようなモノに顔をぶつけた。
 何だろうと思っていると、なんとあの怪物がもう一体いて、既にその怪物は鈍器のようなモノを振りかざしていた。
「わっ!」
 僕はその鈍器の一振りをなんとかかわした。
 どうやらこの怪物の一振りは重そうだ。ただ遅いけども。
 でもこんな怪物のいる部屋、早く出ないと、と思って、怪物がいない方向に走り出すと、すぐさま壁に辿り着いた。
「リーエ、この壁を辿って扉を探そう!」
 僕はすぐさま壁を辿って走り出そうとすると、リーエが、
「一緒に走っていいの? アタシは逆側から辿ろうか?」
「でも離れることも危険だと思う!」
「そうか、そういう考え方もあるね、でもどうやって一周したことを調べる?」
 一周する前に扉がある可能性もあるけども、と思ったが、無かった時のことも考えたほうが確かにいいか、と思って僕は服の中に入れていたミョウガを取り出して、
「これを目印に置いていこう」
 と言うと、リーエはミョウガを見て一瞬フッと笑ったが、すぐに頷き、一緒に一周することにした。
 果たして扉があるのか、それとも中央部に階段がある塔なのか、できれば扉があれば、と思っていたが、すぐに一周し、目印のミョウガが転がっている地点まで戻ってきた。
 僕は一応またミョウガを拾い、周りを改めて見渡すと、なんと霧が完全に晴れていて、一番遠い側の壁が完全に見えていた。
 怪物は二体いて、中央部で立っている。扉も階段も無い。丸い、筒型の密室で、何だかさっき歩いていた感覚よりも狭く感じる。
 これだと逃げ続けていてもいつか鈍器で殴られる。
 ならば怪物を倒す? いやでも子供の力で倒せそうではない。体格差が大きすぎる。
 武器になりそうな枝でも持ってくれば良かったと今更後悔した。
 どうすればいいか迷っていると、リーエが、
「さて、これからどうするかは当然ヒロが考えるんだよね?」
 と言ってきたので、やっぱり自分で考えないといけないんだ、と思った。
 でも同時に”考えればクリアできるステージなんだ”とも思った。
 案内人のリーエが”考える”と言ったのだから、きっと考えればどうにかなるんだ、と。
 スピードの遅い怪物が二体、何で二体なんだろうか、この二体ということが何か意味あるのだろうか。
 またゆっくりと、怪物が二体、こちらへ向かって歩いてくる。
 そうだ、きっと鈍器を振り下ろしてくることも、何らかのヒントなんだ。というか、そう思うしかない。
 と思ったところでリーエは僕に向かって微笑みながら、こう言った。
「そうそう、起きている物事の要素が決して多くない場合、こっち側のやり方もシンプルになるよっ」
 リーエとはやっぱり通じ合っている。そして案内人のリーエがそう言っているのだから多分正解なんだろう。
 僕はリーエに対して、こう言った。
「怪物にそれぞれ追いかけられて、怪物同士が対面するような状況にしよう!」
「分かった! それが一番良いと思うよ~!」
 僕は一体の怪物を担当し、リーエはもう一体の怪物を受け持って、追いかけられるようにし始めた。
 怪物のスピードは遅いので、僕とリーエは歩くだけで事足りる。
 そしてうまいこと怪物同士を対面させたら、僕とリーエは背中合わせに立って、
「しゃがむ!」
 僕の合図にリーエも同時にしゃがみ、鈍器を振り下ろした怪物二体はそれぞれ目の前の怪物を殴り、相打ちのようになって怪物はその場に倒れ込んだ。
 すると今まで何も無かった場所に登りの階段が現れた。
「こうやってクリアしていくんだね」
 と僕がポツリと呟くと、リーエが笑いながら、
「どうやらそういうことのようだね!」
 と僕の肩を叩いた。
「リーエ、君は全てを知っているんだね」
 リーエは首を横に振って、
「ううん! 何も分からない!」
 果たして本当にリーエは記憶喪失なのか、全てを知った上で僕を試しているのか。
 でもとりあえず今回の行動でリーエが僕の味方ということは確定した。
 それが分かれば、それで十分だ。
 リーエという心強い味方と通じ合っている、それだけでどんどんいけるような気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

すぐケガしちゃう校長先生を止める話

青西瓜(伊藤テル)
児童書・童話
 この小学校の生徒会長には大切な仕事があった。  それは校長先生を守ること。  校長先生は少し特殊な個性や能力を持っていて、さらにそれを使ってすぐケガしちゃうし、大声で泣いてしまうのだ。  だから生徒会長は校長先生のお守りをしないといけないのだ。  それを補助してくれるはずの生徒副会長の桜さんも天然ボケがすごい人で、今日も今日とてハチャメチャだ。  これは僕と校長先生と桜さんの話。

七不思議解決譚

青西瓜(伊藤テル)
児童書・童話
この小学校には七不思議があり、それを解決して平和な小学校にしたいと思っている緋色。まず一番危険と言われている闇に引き込んで生徒の性格を攻撃的にする七不思議から解決に行こうとすると、目の前は廊下のはずなのに行き止まりになっていた。隣の教室の後ろの扉から入り、前の扉から出て壁を通過できたけども、振り返ると行き止まりにしていた壁が無くなっている。これは壁が増えるという七不思議だということに気付き、じゃあと思って壁の七不思議から解決することに。そこで壁のあやかし・壁太郎と出会い、闇に引き込むあやかしは危険だと止められる。緋色は幼馴染がイジメで転校してしまった話をして、どうしても小学校を平和にしたいということを伝えると、

コボンとニャンコ

魔界の風リーテ
児童書・童話
吸血コウモリのコボンは、リンゴの森で暮らしていた。 その日常は、木枯らしの秋に倒壊し、冬が厳粛に咲き誇る。 放浪の最中、箱入りニャンコと出会ったのだ。 「お前は、バン。オレが…気まぐれに決めた」 三日月の霞が晴れるとき、黒き羽衣に火が灯る。 そばにはいつも、夜空と暦十二神。 『コボンの愛称以外のなにかを探して……』 眠りの先には、イルカのエクアルが待っていた。 残酷で美しい自然を描いた、物悲しくも心温まる物語。 ※縦書き推奨  アルファポリス、ノベルデイズにて掲載 【文章が長く、読みにくいので、修正します】(2/23) 【話を分割。文字数、表現などを整えました】(2/24) 【規定数を超えたので、長編に変更。20話前後で完結予定】(2/25) 【描写を追加、変更。整えました】(2/26) 筆者の体調を破壊()3/

落語のような世界

青西瓜(伊藤テル)
児童書・童話
 サッカーに取り組んでいたが、ケガをして選手になる夢が絶たれた由宇。  やりたいことが無くなって虚ろにリハビリを繰り返していると、幼馴染の京子が暇つぶしにと落語のCDと落語の本を持ってくる。  最初は反発したが、暇過ぎて聞いてみると、まあ暇つぶしにはなった、と思う。  そのことを1週間後、次のお見舞いに来た京子へ言うと、それは入門編だと言う。  そして明日は落語家の輪郭亭秋芳の席が病院内で行なわれるという話を聞いていた京子が、見に行こうと由宇を誘う。  次の日、見に行くとあまりの面白さに感動しつつも、じゃあ帰ろうかとなったところで、輪郭亭秋芳似の男から「落語の世界へ行こう」と誘われる。  きっと輪郭亭秋芳の変装で、別の寄席に連れてってくれるという話だと思い、由宇と京子は頷くと、視界が歪む。  気が付いたら落語のような世界にワープしていた。

シンクの卵

名前も知らない兵士
児童書・童話
小学五年生で文房具好きの桜井春は、小学生ながら秘密組織を結成している。  メンバーは四人。秘密のアダ名を使うことを義務とする。六年生の閣下、同級生のアンテナ、下級生のキキ、そして桜井春ことパルコだ。  ある日、パルコは死んだ父親から手紙をもらう。  手紙の中には、銀貨一枚と黒いカードが入れられており、カードには暗号が書かれていた。  その暗号は市境にある廃工場の場所を示していた。  とある夜、忍び込むことを計画した四人は、集合場所で出くわしたファーブルもメンバーに入れて、五人で廃工場に侵入する。  廃工場の一番奥の一室に、誰もいないはずなのにランプが灯る「世界を変えるための不必要の部屋」を発見する五人。  そこには古い机と椅子、それに大きな本とインクが入った卵型の瓶があった。  エポックメイキング。  その本に万年筆で署名して、正式な秘密組織を発足させることを思いつくパルコ。  その本は「シンクの卵」と呼ばれ、書いたことが現実になる本だった。

魔法アプリ【グリモワール】

阿賀野めいり
児童書・童話
◆異世界の力が交錯する町で、友情と成長が織りなす新たな魔法の物語◆ 小学5年生の咲来智也(さくらともや) は、【超常事件】が発生する町、【新都心:喜志間ニュータウン】で暮らしていた。夢の中で現れる不思議な青年や、年上の友人・春風颯(はるかぜはやて)との交流の中でその日々を過ごしていた。 ある夜、町を突如襲った異変──夜にもかかわらず、オフィス街が昼のように明るく輝く事件が発生する。その翌日、智也のスマートフォンに謎のアプリ【グリモワール】がインストールされていた。消そうとしても消えないアプリ。そして、智也は突然見たこともない大きな蛇に襲われる。そんな智也を救ったのは、春風颯だった。しかも彼の正体は【異世界】の住人で――。 アプリの力によって魔法使いとなった智也は、颯とともに、次々と発生する【超常事件】に挑む。しかし、これらの事件が次第に智也自身の運命を深く絡め取っていくことにまだ気づいていなかった――。 ※カクヨムでも連載しております※

荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 今より少し前の時代には、子供らが荒川土手に集まって遊ぶのは当たり前だったらしい。野球をしたり凧揚げをしたり釣りをしたり、時には決闘したり下級生の自転車練習に付き合ったりと様々だ。  そんな話を親から聞かされながら育ったせいなのか、僕らの遊び場はもっぱら荒川土手だった。もちろん小学生最後となる六年生の夏休みもいつもと変わらず、いつものように幼馴染で集まってありきたりの遊びに精を出す毎日である。  そして今日は鯉釣りの予定だ。今まで一度も釣り上げたことのない鯉を小学生のうちに釣り上げるのが僕、田口暦(たぐち こよみ)の目標だった。  今日こそはと強い意気込みで釣りを始めた僕だったが、初めての鯉と出会う前に自分を宇宙人だと言う女子、ミクに出会い一目で恋に落ちてしまった。だが夏休みが終わるころには自分の星へ帰ってしまうと言う。  かくして小学生最後の夏休みは、彼女が帰る前に何でもいいから忘れられないくらいの思い出を作り、特別なものにするという目的が最優先となったのだった。  はたして初めての鯉と初めての恋の両方を成就させることができるのだろうか。

鎌倉西小学校ミステリー倶楽部

澤田慎梧
児童書・童話
【「鎌倉猫ヶ丘小ミステリー倶楽部」に改題して、アルファポリスきずな文庫より好評発売中!】 https://kizuna.alphapolis.co.jp/book/11230 【「第1回きずな児童書大賞」にて、「謎解きユニーク探偵賞」を受賞】 市立「鎌倉西小学校」には不思議な部活がある。その名も「ミステリー倶楽部」。なんでも、「学校の怪談」の正体を、鮮やかに解明してくれるのだとか……。 学校の中で怪奇現象を目撃したら、ぜひとも「ミステリー倶楽部」に相談することをオススメする。 案外、つまらない勘違いが原因かもしれないから。 ……本物の「お化け」や「妖怪」が出てくる前に、相談しに行こう。 ※本作品は小学校高学年以上を想定しています。作中の漢字には、ふりがなが多く振ってあります。 ※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。 ※本作品は、三人の主人公を描いた連作短編です。誰を主軸にするかで、ジャンルが少し変化します。 ※カクヨムさんにも投稿しています(初出:2020年8月1日)

処理中です...