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【根】
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・【根】
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亀本商店街のテーマソングを作ることは朝のホームルームの時に、校内放送で流れた。
祝福してくれたクラスメイトたち。
そうだ、この中に敵なんていないんだ、疑心暗鬼になる必要なんてないと思ったその時だった。
最近スマホを手に入れた紗栄子が俺の傍に走ってきた。
同じ教室内なんだから、そんな走る必要は無いのに、と思っていると、紗栄子が息をやけに切らしながら、こう言った。
「また悪口言われている!」
「そんなこと、もういつものことと思うしかないじゃないか」
と言って平常心を保とうとする俺。
その言葉を遮るように紗栄子が、
「違う! 亀本商店街のテーマソングを作るなんて調子乗ってるって書かれてるんだ!」
その言葉を聞いた時、俺は耳を疑った。
何故ならその情報は一部の商店街の人、そして今この学校にいる人しか知らないはずだから。
というか、と思ったところで紗栄子が先に言った。
「タイミング的に小学校にいるヤツだ!」
俺はそれ以上の言葉が出なかった。
何故ならそれ以上でもそれ以下でも無い事実だと思うから。
このことを人一倍、クラスメイトに囲まれているアタルに言いたいが、今はそんなチャンスは無い。
不幸中の幸いがあるとしたら、多分この書き込みをした人間がクラスメイトではないということだ。
校内放送が流れてからずっと、クラスメイトはアタルや俺、紗栄子の周りにいたので、多分スマホをイジる隙は無い。
でも同じ小学校の人間、俺は正直ショックだった。
どこかの誰か知らない人間が自分たちのことを誹謗中傷していると思っていたし、ずっとそう思いたかった。
しかしこのことにより、小学校にいることが分かってしまった。
一体誰だ。
もしかすると俺はソイツに塩対応してしまっていたのではないか。
そのせいでアタルと紗栄子が巻き込まれているのではないか。
また暗い闇に覆われそうになったその時、俺と紗栄子の異変に気付いて、アタルが近付いてきた。
「一体どうしたんだい? カラダみたく元気にやっていこうよ!」
紗栄子は黙ってスマホをアタルに見せた。
急にスマホの光っている画面を目の前に見させられて、一瞬怯んだアタルだったが、書いてある誹謗中傷の文を読み、こう言った。
「う~ん……」
言葉というか唸り声。
これにはさすがにアタルも困ってしまったようで、次の言葉が出てこないといった感じだ。
勿論、かなりの高い確率で小学校の人間だということはアタルも気付いているだろう。
それだけに次が、無い。
俺の脳内は何だか曇りになってきた。
黒い雲が広がっていき、豪雨になりそうだ。
しかしそれよりも先に紗栄子が雷雨となった。
「信じられない! こんなことをするなんて!」
そう叫びながら、紗栄子は急に走り出した。
俺とアタルは突然のことであっけにとられていると、紗栄子は教室の外に出てしまった。
追いかけないと!
と思った俺はアタルがどうとかよりも、まず体が動いていた。
俺も教室を飛び出し紗栄子の後ろをついていく。
姿は見えていないけども、焦った足音で方向が分かる。
その音が聞こえるほうへ走っていくと、大体紗栄子がどこに行こうとしているか分かったので、俺はここでギアを上げた。
紗栄子の姿が見えた時、それは多分目的の場所、放送室の前だった。
「紗栄子! そういう悪口言うヤツに反応するのは止めろって!」
「いいじゃん! 言ってやらないと気が済まないよ! イライラ・ギリギリしているんだよ! こっちは!」
「放送室で止めろって宣言することは止めろ! そんなんやっても収まることはきっと無いぞ!」
「でも収まらないんだって! 私の怒りが! 頭脳が噴火寸前だよ!」
俺は紗栄子の肩を掴んで、
「反応したら負けみたいなことアタルも言っているから! 絶対やめたほうがいいって!」
「でも! でも! 反応しなくても負けじゃん! このままなら!」
「俺たちの勝ち負けはここじゃない! ラップで観客を盛り上げたら勝ちだ!」
「そんな言い方ズルい……」
そう言って瞳に涙を浮かべた紗栄子。
そりゃ、紗栄子の苦しみも分かる。
そう思ってしまう思考回路もよく分かる。
でも
「紗栄子、ここは我慢してほしい」
「分かった、我慢するから、我慢するから、泣いているところ見ないで……」
そう言ってボロボロと涙を流し始めた紗栄子を俺は抱き締めて、俺の視界に紗栄子が映らないようにした。
何でこんな悪口を言う人間がいるんだ。
俺には理解できない。
頑張っている人間の足を引っ張って何になるんだ。
そんなに俺へ恨みがあるのか?
それなら俺に向かってきてほしい。
紗栄子もアタルも巻き込まないでほしい。
紗栄子の涙の音が止んだところで、俺は紗栄子から離れて、手を繋いで教室に戻っていった。
授業はもう始まっていたので、教室の後ろの扉からこっそり入って、席に着いた。
振り向いたクラスメイトはいたけども、タテノリ先生は一切こっちを見ずにいてくれた。
授業もどんどん過ぎていき、中休みはまたアタルはクラスメイトから囲まれて、昼休みはクラスメイトに促されるまま、グラウンドへ遊びに行ったアタル。
アタルは気に掛けている目線を送ってくれるけども、アタル自体は人気者で非常に忙しいので、あんまり喋ることはできなかった。
そしていつの間にか放課後になった。
・【根】
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亀本商店街のテーマソングを作ることは朝のホームルームの時に、校内放送で流れた。
祝福してくれたクラスメイトたち。
そうだ、この中に敵なんていないんだ、疑心暗鬼になる必要なんてないと思ったその時だった。
最近スマホを手に入れた紗栄子が俺の傍に走ってきた。
同じ教室内なんだから、そんな走る必要は無いのに、と思っていると、紗栄子が息をやけに切らしながら、こう言った。
「また悪口言われている!」
「そんなこと、もういつものことと思うしかないじゃないか」
と言って平常心を保とうとする俺。
その言葉を遮るように紗栄子が、
「違う! 亀本商店街のテーマソングを作るなんて調子乗ってるって書かれてるんだ!」
その言葉を聞いた時、俺は耳を疑った。
何故ならその情報は一部の商店街の人、そして今この学校にいる人しか知らないはずだから。
というか、と思ったところで紗栄子が先に言った。
「タイミング的に小学校にいるヤツだ!」
俺はそれ以上の言葉が出なかった。
何故ならそれ以上でもそれ以下でも無い事実だと思うから。
このことを人一倍、クラスメイトに囲まれているアタルに言いたいが、今はそんなチャンスは無い。
不幸中の幸いがあるとしたら、多分この書き込みをした人間がクラスメイトではないということだ。
校内放送が流れてからずっと、クラスメイトはアタルや俺、紗栄子の周りにいたので、多分スマホをイジる隙は無い。
でも同じ小学校の人間、俺は正直ショックだった。
どこかの誰か知らない人間が自分たちのことを誹謗中傷していると思っていたし、ずっとそう思いたかった。
しかしこのことにより、小学校にいることが分かってしまった。
一体誰だ。
もしかすると俺はソイツに塩対応してしまっていたのではないか。
そのせいでアタルと紗栄子が巻き込まれているのではないか。
また暗い闇に覆われそうになったその時、俺と紗栄子の異変に気付いて、アタルが近付いてきた。
「一体どうしたんだい? カラダみたく元気にやっていこうよ!」
紗栄子は黙ってスマホをアタルに見せた。
急にスマホの光っている画面を目の前に見させられて、一瞬怯んだアタルだったが、書いてある誹謗中傷の文を読み、こう言った。
「う~ん……」
言葉というか唸り声。
これにはさすがにアタルも困ってしまったようで、次の言葉が出てこないといった感じだ。
勿論、かなりの高い確率で小学校の人間だということはアタルも気付いているだろう。
それだけに次が、無い。
俺の脳内は何だか曇りになってきた。
黒い雲が広がっていき、豪雨になりそうだ。
しかしそれよりも先に紗栄子が雷雨となった。
「信じられない! こんなことをするなんて!」
そう叫びながら、紗栄子は急に走り出した。
俺とアタルは突然のことであっけにとられていると、紗栄子は教室の外に出てしまった。
追いかけないと!
と思った俺はアタルがどうとかよりも、まず体が動いていた。
俺も教室を飛び出し紗栄子の後ろをついていく。
姿は見えていないけども、焦った足音で方向が分かる。
その音が聞こえるほうへ走っていくと、大体紗栄子がどこに行こうとしているか分かったので、俺はここでギアを上げた。
紗栄子の姿が見えた時、それは多分目的の場所、放送室の前だった。
「紗栄子! そういう悪口言うヤツに反応するのは止めろって!」
「いいじゃん! 言ってやらないと気が済まないよ! イライラ・ギリギリしているんだよ! こっちは!」
「放送室で止めろって宣言することは止めろ! そんなんやっても収まることはきっと無いぞ!」
「でも収まらないんだって! 私の怒りが! 頭脳が噴火寸前だよ!」
俺は紗栄子の肩を掴んで、
「反応したら負けみたいなことアタルも言っているから! 絶対やめたほうがいいって!」
「でも! でも! 反応しなくても負けじゃん! このままなら!」
「俺たちの勝ち負けはここじゃない! ラップで観客を盛り上げたら勝ちだ!」
「そんな言い方ズルい……」
そう言って瞳に涙を浮かべた紗栄子。
そりゃ、紗栄子の苦しみも分かる。
そう思ってしまう思考回路もよく分かる。
でも
「紗栄子、ここは我慢してほしい」
「分かった、我慢するから、我慢するから、泣いているところ見ないで……」
そう言ってボロボロと涙を流し始めた紗栄子を俺は抱き締めて、俺の視界に紗栄子が映らないようにした。
何でこんな悪口を言う人間がいるんだ。
俺には理解できない。
頑張っている人間の足を引っ張って何になるんだ。
そんなに俺へ恨みがあるのか?
それなら俺に向かってきてほしい。
紗栄子もアタルも巻き込まないでほしい。
紗栄子の涙の音が止んだところで、俺は紗栄子から離れて、手を繋いで教室に戻っていった。
授業はもう始まっていたので、教室の後ろの扉からこっそり入って、席に着いた。
振り向いたクラスメイトはいたけども、タテノリ先生は一切こっちを見ずにいてくれた。
授業もどんどん過ぎていき、中休みはまたアタルはクラスメイトから囲まれて、昼休みはクラスメイトに促されるまま、グラウンドへ遊びに行ったアタル。
アタルは気に掛けている目線を送ってくれるけども、アタル自体は人気者で非常に忙しいので、あんまり喋ることはできなかった。
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