最強勇者の物語2

しまうま弁当

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第5章 アグトリア動乱

逆転

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ヌエド軍は目標であったドロメ団長を討ち果たす事は叶わなかった。

だがワイツでの戦いでドロメ団長に勝利した事によってヌエドの元には兵が集まりつつあった。

一方のドロメ盗賊軍はこのワイツの戦いで大きな被害を被った。

ドロメ団長を包囲網から救い、自身の脱出にも成功したガブロだったがその代償は大きかった。

ガブロの部隊は戦闘前には1600人が預けられていた。

半数の800人がグリーロ川で溺死し、その後の突破戦で400人以上が戦死した。

ガブロの部隊で生還できたのは400人足らずであった。

ドロメ団長率いた本隊は2500人であった。

本隊からも千人以上の死者が出ており、生還者のほとんどは橋の上に取り残された者達だった。

被害が少なかったのはグロッケンの部隊だけであった。

グロッケンの部隊は第三陣を命じられ後方に配置されたせいもあり大きな損害は出ていなかった。

ドロメ盗賊軍はこの時、危機的状況に追い込まれていた。

バトロアの進攻前のドロメ盗賊軍の総兵力は一万九千であった。

だがドロメ盗賊軍の八割近くがこの時までに失われており、およそ四千人を残すのみとなっていた。

更に問題だったのはドロメ団長が依然として意識を失っていた事であった。

ドロメ団長の傷はポーションによって回復したが、意識がまだ戻っていなかったのである。

ワイツの戦い前まではヌエド軍が危機的状況であったが、今度は逆にドロメ盗賊軍が危機的状況に置かれていた。

そんな状況の中、バトロアに残っていたカスパーがドロメ盗賊軍に合流したのだった。

そして8月2日の昼過ぎカスパーはビヘイブ村の広場にいた。

広場にはたくさんの村人達がカスパーの呼び掛けによって集まっていた。

広場の中央にカスパーが立っていた。

村人の一人がカスパーに大声で尋ねた。

「カスパー様、いい仕事があるって聞いたんですが?本当ですか?」

カスパーがその村人に言った。

「ああ、本当だ。緊急の工事を行うので、その作業員を募ろうと思っている。」

別の村人がカスパーに尋ねた。

「その工事の作業員ってのはどんな仕事をするんですか?あんまり難しい事は分かんねえ。」

カスパーがその村人に言った。

「やってもらう事は簡単だ。指示された場所を掘ってもらいたい。そして掘った土を指示された場所に集めて山を作ってもらいたい。」

その村人がカスパーに尋ねた。

「掘る?土を集める?そんだけですか?」

カスパーがその村人に言った。

「ああそれだけだ。体力は必要になるがな。」

その村人がカスパーに言った。

「それならわしにもできそうだな。」

別の村人がカスパーに尋ねた。

「それでどのくらいの期間で報酬はどのくらい貰えるんですか?」

カスパーがその村人に言った。

「一週間ほどを予定している。報酬は1人当たり100万トリム支払うつもりだ。」

その村人がカスパーに驚いて聞き返した。

「一週間で100万トリム?!!本当ですか?」

カスパーがその村人に言った。

「ああ、本当だ。更に仕事がはやかった者には追加で200万トリムを支払うつもりだ。」

村人達が大声でカスパーに尋ねた。

「そ、それじゃあ仕事をはやくこなせば300万トリム貰えるって事ですか?」

カスパーが村人達に言った。  

「ああ、そうだ。」

これを聞いた村人達は歓声をあげた。

「おおー!!」

「すげー!!」

そして村人達が大声で言った。

「俺もやります!!」

「俺もやります!」

「ワシもだ!」

たくさんの村人達が作業員の仕事に申し込んだ。

カスパーが仕事を申し込んだ者達に言った。

「では仕事をしてくる者達は村の外で少し待っててくれ!」

そして広場に集まっていた人々は、ぞろぞろと村の外に移動を始めた。

するとそこにグロッケンがやって来た。

カスパーがグロッケンに言った。

「ああグロッケンか、ちょうど良かった。お前と話がしたかったんだ。」

だがグロッケンがカスパーに大声で言った。

「おい!カスパー!!テメエには聞きたい事が山ほどある?まず俺に質問に答えろ!!いいな!」

カスパーがグロッケンに言った。

「分かった、ただグロッケン?場所を変えよう?ここではまずいだろう?」

グロッケンがカスパーに言った。

「ここで構やしねえだろうが?」

カスパーがグロッケンに尋ねた。

「ここでできる話か?」

グロッケンが舌打ちした。

「ちっ!」

グロッケンが移動する事に同意した。

カスパーとグロッケンはビヘイブ村の集会所の奥にある小さな部屋に移動した。

カスパーが部屋の扉を閉めた。

カスパーがグロッケンに言った。

「ここなら問題ないだろう。それで何が聞きたいんだ?」

グロッケンがカスパーに大声で言った。

「カスパー!テメエ今まで何してやがった?テメエがいない間にドロメ様が大敗したんだぞ!!テメエがいりゃヌエドの策なんぞに嵌まらなかっただろうに!!」

カスパーがグロッケンに言った。

「グロッケン?前にも話したが、ヌエドとの戦いに専念するにはジフロル盗賊団に背後を襲われない事が絶対条件だ。そしてジフロル団長は信義を重んじる。今我々の方から協定違反をするわけにはいかない。だがロイの部下達がたくさん取り残されていた。だからバトロアに残って敗残兵の収用と捜索をする必要があったんだ。」

グロッケンがカスパーに言った。

「ちっ!分かった。それはもういい。」

グロッケンがカスパーに言った。

「ドロメ様は大丈夫なんだろうな?」

カスパーがグロッケンに言った。

「ああ、大丈夫だ。ドロメ様の意識が戻らない事を心配しているのだろう?」

グロッケンがカスパーに言った。

「そうだ!ポーションを使って傷は癒えたんだ。それなのになぜドロメ様の意識が戻らないんだ?!」

カスパーがグロッケンに尋ねた。

「グロッケン、一つ確認したい事がある。」

グロッケンがカスパーに聞き返す。

「なんだ?」

カスパーがグロッケンに言った。

「ドロメ様を回復させた時に間違いなく発光現象は起こったんだな?」

グロッケンがカスパーに言った。

「ああ、ドロメ様にポーションの液を振りかけたら光ってたぞ!」

カスパーがグロッケンに言った。

「であれば問題ない。ドロメ様はいずれ目を覚ますはずだ。」

グロッケンがカスパーに尋ねた。

「本当だろうな?!!」

カスパーがグロッケンに言った。

「ああ、ポーションの回復によって傷の回復と意識の回復に時間的ずれが生じる事がまれにある。教会関係者はこれを遅効作用(ちこうさよう)と呼ぶらしい。」

グロッケンがカスパーに言った。

「んな事はどうだっていい?それでドロメ様はいつ頃目を覚ます?」

カスパーがグロッケンに言った。

「おそらく8月20日くらいまでには目を覚まされる。遅効作用が起こった場合は最長で20日前後かかるからな。」

グロッケンがカスパーに言った。

「おいおい!20日まで待ってられねえだろうが?」

カスパーがグロッケンに言った。

「こればっかりはどうしようもない。待つしかないだろう。」

グロッケンがカスパーに尋ねた。

「それまで悠長にヌエドの野郎が待ってくれると思うか?」

カスパーがグロッケンに言った。

「いや、恐らく仕掛けてくるだろうな。ヌエドにとっては我々を打倒できる絶好の機会だ。兵が集まりしだい西岸に進攻してくるだろう。」

グロッケンがカスパーに言った。

「こっちワイツでの敗戦によって兵力を大きく損耗しちまってる。おまけにドロメ様が意識不明だ。状況はかなり悪いぞ?」

カスパーがグロッケンに言った。

「だからヌエドを迎え撃つための準備を始めるつもりだ。」

グロッケンがカスパーに尋ねた。

「さっき村人を集めてたのはその準備の為か?」

カスパーがグロッケンに言った。

「そうだ。この後すぐに工事に取りかかるつもりだ。」

グロッケンがカスパーに尋ねた。

「それでテメエの考えてる策ってのはどんなんだ?」

カスパーはグロッケンに自分の策を説明した。

グロッケンが訝しげにカスパーに尋ねた。

「そんな手うまくいくのか?」

カスパーがグロッケンに言った。

「この策が一番有効であると私は考えている。」

グロッケンは納得できない様子でカスパーに言った。

「ふーん?」

カスパーがグロッケンに尋ねた。

「聞きたい事はそれだけか?」

するとグロッケンがカスパーに尋ねた。

「いやカスパーもう一つ聞かせろ?今このドロメ盗賊団でまともに動けるのはこの俺だけだ。さてはその作戦を俺にやらせるつもりだな?」

カスパーが少し困った様子でグロッケンに言った。

「ああ、そのつもりだ。」

グロッケンが大声でカスパーに言った。

「おいおい、偉くなったもんだな?カスパー!!?テメエごときがこの俺に指図する気か?」

カスパーがグロッケンに言った。

「グロッケン、勘違いしないでくれ。あくまで私は提案をしているだけだ。ドロメ様の指示を仰ぐ事はできない以上、幹部同士で協議して物事を進めていくしかないだろう?」

グロッケンがカスパーに言った。

「提案ねえ?拒否しにくい状況にして自分の策を押しつけようとするのが提案か?俺の意見を聞きもせずに勝手に人を集めておいて協議して物事を進めていくだあ?俺を舐めるのもいい加減にしろ!!俺ならどうとでも言いくるめられると思ってんのか?!!」

カスパーがグロッケンに言った。

「すまない、グロッケン。確かに強引なやり方だった。事前に話し合って承諾を得てから動くのが筋だ。だがもしグロッケンの承諾の後に動いたらヌエドの進攻までに準備が間に合わなくなる。今は非常時だ。そこは理解してほしい。」

グロッケンが大声でカスパーに言った。

「だからテメエの手足となって命令通りに戦えってか?冗談じゃねえ?!!俺はテメエの部下じゃねえんだぞ?なんでテメエの指図を受けなきゃならねんだ?」

カスパーがグロッケンに言った。

「グロッケン?そうは言っても、ヌエドを撃退できる策をお前は持っていないだろう?」

グロッケンがカスパーに言った。

「ちっ!痛い所をついてきやがる。」

カスパーがグロッケンに言った。

「何かヌエドに対する策はあるのか?無いならば私の策に協力してくれないか?」

グロッケンは黙り込んでしまった。

するとグロッケンは何か思いついたようだった。

グロッケンがカスパーに言った。

「そうだ。なあカスパー?こんな手はどうだ?」

カスパーがグロッケンに尋ねた。

「ほう、どんな手だ?」

グロッケンがカスパーに言った。

「ガブロさ、ガブロを使うのさ。」

カスパーがグロッケンに言った。

「ガブロか?さっき会った時はまだ塞ぎこんでいた。戦力としてはまだ期待できない。」

グロッケンが笑いながらカスパーに言った。

「あの鉄槌振り回すだけの能なしがドロメ様が意識不明になったとたん、塞ぎ込んでやがるんだぞ?まったく笑えるよな?」

カスパーがグロッケンに言った。

「ガブロは問題の多い奴だが、ドロメ様への忠誠は本物だ。」

グロッケンがカスパーに言った。

「だがガブロは塞ぎこんで役立たず、ドロメ様の意識はまだ戻っていない。つまり現状戦力として戦えるのは俺だけだ!」

 カスパーはグロッケンの意図を察して何も言わずに聞いていた。

グロッケンが話を続けた。

「そうだ、ガブロとドロメ様をヌエドに引き渡しちまえばいいんだよ。ドロメ様を引き渡せばヌエドの奴も俺を厚遇してくれるだろう。どうだ?いい考えだと思わないかカスパー?」

カスパーはグロッケンに何も言わなかった。

グロッケンがカスパーに言った。

「そうだカスパー?お前も一緒にドロメ様を裏切れ!お前は頭が回る。きっとヌエドも厚遇してくれるぜ?」

カスパーが静かにグロッケンに言った。

「グロッケン、戯れ言はそのくらいにしておいたらどうだ?」

グロッケンがカスパーに言った。

「戯れ言だと?いい手だろうが?」

カスパーがグロッケンに尋ねた。

「グロッケン、それは本心からの発言ではないだろう?」

グロッケンが逆にカスパーに尋ねた。

「カスパー?俺に忠誠心があるように見えるか?」

カスパーがグロッケンに言った。

「いや、お前に忠誠心はないだろう。自分の損得で動く人間だ。」

グロッケンがカスパーに言った。

「その通りだ。」

カスパーがグロッケンに言った。

「だからこそ、お前はドロメ様を裏切らないはずだ。」

グロッケンが笑いながらカスパーに言った。

「おいおい、ドロメ盗賊団は追い込まれてるんだぞ?戦況を有利に進めているヌエド側につくのは得な判断だろうが?」

カスパーがグロッケンに言った。

「確かに、一般的な価値観ならばそれは得な判断だろう。だがグロッケン?お前の価値観ではそれは得にならないんじゃないのか?」

するとグロッケンから笑みが消えてカスパーを鋭く睨みつけた。

カスパーがグロッケンに言った。

「ヌエドは良識家だ。一般とはかけ離れた価値観を持っているお前がヌエドとうまくやっていけるとはとても思えないが?」

グロッケンがカスパーを睨みつけていた。

そして突然笑い出した。

グロッケンは笑いながらカスパーに言った。

「はっはっは!本当にテメエは頭が回る。いいだろう!カスパー!テメエの指示に従ってやるよ!!」

カスパーがグロッケンに言った。

「グロッケン、感謝する。」

グロッケンがカスパーに言った。

「感謝は要らねえ!だからドロメ様を!いやこの俺を必ず勝たせろ!!いいな!」

カスパーが頷きながら言った。

「ああ。」

グロッケンはそう言うと部屋の外に出ていった。

カスパーも部屋の外に出て村の外へ向かった。
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