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一章
マンションの管理人
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6月19日の午前11時になった。
晴南達は明井田市郊外にある二実のマンションへとやってきていた。
もちろん二実の引っ越しを手伝うためである。
晴南達は三緒と一緒に二実のマンションまでやってくるとすぐに荷づくりを始めた。
そしてダンボールへの荷物の詰め込みをまず終了させてから、二実の部屋からの荷物の運びだしを始めた。
それぞれが荷物を抱えてマンションの1階の出入口前まで下りて行った。
正午を過ぎた頃に引っ越し荷物を一階に下ろし終えた。
マンションの出入口は道路に面しており、引っ越し荷物の半分くらいが道路にはみ出して道路を塞ぐ形になっていた。
だがそれが大きな問題になる事はなかった。
避難指示が解除されたばかりでありまだ半数近くの人々が明井田に戻ってきておらず、道路を歩いている人も往来する車もほとんどいなかったからだ。
そして二実が駐車場へと向かって歩いていった。
晴南達は出入り口前に残って二実が来るのを待っていた。
すると晴南が三緒に尋ねた。
「三緒さん?荷物はどうやって封木神社まで運ぶんですか?」
三緒が晴南に言った。
「二実がトラックをレンタルしてるはずよ。今日は車をあっちに置いてきてって言ってたから。」
晴南が三緒に言った。
「それじゃあ私達は?」
三緒が晴南に言った。
「行きと一緒でバスで帰る事になると思うわ。」
すると晴南達の前に大型車両がやってきてマンションの出入口の前に停車した。
そしてその大型車両から二実が下りてきて、晴南達に向けて言った。
「みんなお待たせ!」
三緒が二実に尋ねた。
「二実??何よこれ??トラックはどうしたのよ?」
二実が三緒に言った。
「えっ??トラックなんか借りてきてないわよ?トラックは2か月先まで埋まってるって言われちゃってさ?さすがにそんなに待ってられないでしょ?だから代わりにこれを借りてきたわけよ。」
三緒が二実に言った。
「トラックを借りれなかった理由は分かったけど、それでなんでマイクロバスを借りてくるのよ?」
晴南達の前にはマイクロバスが止まっていた。
二実はマイクロバスを運転してきたのだった。
「ちゃんと考えてるわ。」
三緒が二実に尋ねた。
「ちょっと二実?もしかしてマイクロバスで荷物を運ぶつもりなの?」
二実が三緒に言った。
「もしかしなくてもそうよ、というか三緒?バスを誤解してるわよ。バスって意外に便利なのよ。だってたくさんの荷物も人も運べるのよ?」
三緒が二実に言った。
「いやバスじゃ荷物をたくさん運べないでしょ?」
二実が三緒に言った。
「そこが誤解なのよ。客席に荷物を積んでいけばかなりの荷物を載せれるわよ?このぐらいの荷物なら多分半分のスペースも要らないと思うわ。みんなもそのまま乗せてけるし。マイクロバスだったら中型免許で運転できるしね。」
二実がみんなに言った。
「それじゃあみんな?バスの中に積み込みを始めてくれる?バスの後ろの扉を開けるからそこから積んでって。」
さっそく全員で協力して荷物をバスに積んでいった。
全員で作業したこともあり、およそ十分ほどで引っ越し荷物のバスへの積み込みが完了した。
二実が三緒に言った。
「それじゃあ管理人さんに挨拶してくるからみんなちょっと待っててね。」
二実はすぐに管理人室に向かおうとしたが、ちょうどその時ふくよかな年配の女性がマンションの出入口から出てきたのだった。
すると二実がその女性に声をかけた。
「あっ久美子(くみこ)さん!ちょうどよかったです!」
すると久美子(くみこ)と呼ばれた年配の女性が二実に気が付いて二実の所にやってきて声をかけた。
「あ~ら二実ちゃんじゃない?良かったわ!無事だったのね。心配してたのよ?」
二実が年配の女性に言った。
「久美子さんすいません。ご心配をおかけしました。」
年配の女性が二実に言った。
「いいのよいいのよ。」
久美子と呼ばれた年配の女性が晴南達に気がついて言った。
「あらっ?確か二実ちゃんのお友達の三緒ちゃんだったわね。えっとその後ろの子達は?」
二実が久美子に言った。
「九木礼中学の後輩達なんです。今日は明井田に来てもらってるんです。」
久美子が二実に言った。
「そうなのね。」
すると二実が晴南達に言った。
「ああみんなごめんね。この人はこのマンションの管理人をされてる木内久美子(きうちくみこ)さんよ。」
久美子が晴南達に言った。
「このマンションの管理人の久美子です。みんな宜しくね。」
晴南が久美子に大きな声で言った。
「はい!!よろしくお願いします!!」
すると二実が久美子に尋ねた。
「久美子さんはいつここに戻ってきたんですか?」
久美子が二実に言った。
「昨日避難指示が解除されてからすぐに戻ってきたわ。マンションのみんなが心配だったからね。避難指示が出た時は慌てて逃げたから余計にね。」
二実が久美子に尋ねた。
「あの久美子さんは火災があった日にここにいたんですか?」
久美子が二実に言った。
「ええ、ここにいたわよ。本当に嫌な週末だったわね。あれだけ嫌な週末は生まれて初めてよ。」
すると今度は久美子が二実に尋ねた。
「二実ちゃんはあの日どこにいたの?」
二実が久美子に言った。
「九木礼にいました。」
久美子が二実に言った。
「そっかそれで難を逃れたわけね。」
二実が久美子に言った。
「はい。当日はどんな感じだったんですか?」
久美子が二実に言った。
「いや今思い出しても身震いがするわ。あの日は疲れてたから早めに布団に入ってたのよ。確か午後10時くらいだったかしら?このマンションの4階に住んでる村下(むらした)さんが私を呼びにきたのよ。こんな夜中になんだろうって思って話を聞いたら市の中心部で大火災が起きてるっていうじゃない?それを聞いて慌てて外に出たわ。ほら夜ってこの辺は街灯が少ないから真っ暗になるじゃない?でもね、あの日の夜は本当に明るかったのよ。町の中心部の火災の炎がここからでもはっきり見えたの。それですごく明るかったのよ。町の中心部が燃えてるって一目瞭然だった。まるでこの世の終わりがきたみたいで本当に怖かったわ!あんな光景は二度と見たくないわね。」
二実が久美子に言った。
「11日の夜は大変だったんですね。」
久美子が二実に言った。
「ええ本当に。おかげで11日の夜はほとんど寝れなかったわね。でも大変だったのは12日の方かしらね。明井田市の全域に避難指示が出たでしょ?ここは市の中心部からは離れてるから、避難はしなくていいと思ってたのよ。不思議なものよね。すごく怖く感じているのに、逃げ出そうとはしなかったのよ。なぜかみんなここは大丈夫って思ってた。そしたら12日の昼過ぎに避難指示が出たでしょ?それからが大騒ぎで大変だったのよ。みんながパニックになっちゃって。」
二実が久美子に聞き返した。
「パニックって??」
久美子が二実に言った。
「それがね化学工場から有毒ガスが漏れ出してるって噂が流れたのよ。有毒ガスが漏れ出したから避難指示が出たんだってね。それでみんながパニック状態になっちゃったのよ。私もマンションのみんなと一緒に慌ててここから逃げ出したわ。それから子戸倉(ことくら)まで歩いて避難したんだけど、まさか10キロちかく歩く羽目にあるとは思わなかったわね。おかげでまだ足が痛いわ。」
二実が久美子に言った。
「大変でしたね。」
久美子が二実に言った。
「私なんて村下(むらした)さんの所に比べれば全然ましよ。里穂(りほ)ちゃんがいなくなっちゃったからね。」
すると二実は驚いた様子で久美子に聞き返した。
「えっ里穂(りほ)ちゃんが?それどういう事ですか?」
すると久美子は少し困った顔をしながら二実に言った。
「そっか二実ちゃん里穂ちゃんと仲良かったもんね。出入口の所でよくおしゃべりしてたもんね。」
二実が強い口調で久美子に尋ねた。
「里穂ちゃんに何かあったんですか?」
久美子が二実に言った。
「ここだけの話だけど、里穂ちゃんがさ、戻ってないらしいのよ。11日の朝にこのマンションを出てったきりね。」
すると三緒が二実に尋ねた。
「えっと二実?りほちゃんって誰??」
すると二実が三緒に答えた。
「ああごめん。里穂ちゃんは明井田高校の2年生でこのマンションの4階に住んでるの。本名は村下里穂(むらしたりほ)っていうの。里穂ちゃんとは結構気が合ってさ?よくおしゃべりしてたんだよね。」
二実が再び久美子に尋ねた。
「それで久美子さん?里穂ちゃんはその日どこに行ったんですか?」
久美子が二実に言った。
「それがね、分からないらしいのよ。ご両親にも何も言わずに出かけたみたいなの。」
二実が久美子に聞き返した。
「両親にも何も言わなかったんですか?」
久美子が二実に言った。
「そうなのよ。それでね、実は私さ里穂ちゃんが出かける所を目撃してるのよ?」
二実が久美子に言った。
「えっ?本当ですか?」
久美子が二実に言った。
「あれは11日の朝の午前5時くらいだったと思うんだけど、ちょうど私が朝のジョギングに出かけようと一階の管理人室を出た時だったわ。里穂ちゃんを見かけたのよ。大きなリュックを背負ってマンションのエレベーターから降りてきたの。それで、里穂ちゃん早いのね?どこかに出かけるの?って尋ねたんだけど、返事をしてくれなかったのよ。無言でそのまま出入口から出て行っちゃたのよ。それでおかしないなって思ったの。」
二実が久美子に言った。
「確かにおかしいですね。里穂ちゃんならいつもちゃんと返事をしてくれるのに?」
久美子が二実に言った。
「そうでしょう?里穂ちゃんって礼儀正しい子なのに、無視するなんて珍しいなって思ったの。」
久美子が二実に言った。
「そうそう、そう言えばこんなうわさ話もあるのよ。これも内緒にしててほしいんだけど、実はさ里穂ちゃんみたいな子が他にも結構いるらしいのよ?」
二実が久美子に聞き返した。
「他にも結構いるってどういう事ですか??」
久美子が二実に言った。
「それがね、里穂ちゃんみたいに11日の朝一に無言で出かけて、戻ってきてない子が他にも結構いるらしいのよ。しかもみんな午前5時頃に出かけてるらしいのよ。明井田中学校と明井田高校のかなりの数の子達が同じふうに行方不明になってるって話よ。市の教育委員会や明井田中学校や明井田高校の先生達は今その事でてんてこ舞いらしいわ。」
二実が久美子に言った。
「それって一体???」
久美子が二実に言った。
「ああごめんなさい、変な話をし過ぎちゃったわね。もう私って噂話とか大好きだから。口にチャックをしなきゃとはいつも思ってるんだけど?」
すると久美子はようやく出入口前に停車しているバスに気が付いた。
「あら?このバスは何かしら?」
二実が久美子に言った。
「あっそうだった。久美子さんこのバスは荷物を運ぶ為に借りてきたんです。」
久美子はあっけらかんとした様子で二実に聞き返した。
「荷物を運ぶ??」
二実が久美子に言った。
「あの実は久美子さん。急な話なんですけど、今日でここを引っ越す事にしました。今までお世話になりました。」
久美子が二実に尋ねた。
「えっ二実ちゃん?引っ越すつもりなの?」
二実が少し申し訳なさそうに久美子に言った。
「はいそうなんです。」
久美子が二実に言った。
「ああそれでマイクロバスを借りてきたって事なのね。」
すると久美子が残念そうな様子で二実に言った。
「でもそっか?二実ちゃんも出てってちゃうのね?寂しくなるわね?」
すると二実が聞き返した。
「二実ちゃんもって事は?」
久美子が二実に言った。
「ええ、昨日から引っ越しをするって挨拶にくる人が何人かいてね。二実ちゃんはこれで三人目よ。まあ仕方ないわよね。あんな事があったんじゃね。」
久美子が二実に尋ねた。
「それでどこに引っ越すの?」
二実が久美子に言った。
「九木礼に引っ越す予定です。」
久美子が二実に言った。
「そっか九木礼か、まあ元々二実ちゃんは九木礼の出身だもんね?こんな状況じゃ何をするにも大変だと思うけど頑張ってね。」
二実が久美子に言った。
「はい、ありがとうございます。」
久美子はそう言うとマンションの中へと入っていった。
二実はそれを見届けると晴南達と共にバスの中に乗り込んだ。
そして各々は好きな席に着席していった。
晴南達は明井田市郊外にある二実のマンションへとやってきていた。
もちろん二実の引っ越しを手伝うためである。
晴南達は三緒と一緒に二実のマンションまでやってくるとすぐに荷づくりを始めた。
そしてダンボールへの荷物の詰め込みをまず終了させてから、二実の部屋からの荷物の運びだしを始めた。
それぞれが荷物を抱えてマンションの1階の出入口前まで下りて行った。
正午を過ぎた頃に引っ越し荷物を一階に下ろし終えた。
マンションの出入口は道路に面しており、引っ越し荷物の半分くらいが道路にはみ出して道路を塞ぐ形になっていた。
だがそれが大きな問題になる事はなかった。
避難指示が解除されたばかりでありまだ半数近くの人々が明井田に戻ってきておらず、道路を歩いている人も往来する車もほとんどいなかったからだ。
そして二実が駐車場へと向かって歩いていった。
晴南達は出入り口前に残って二実が来るのを待っていた。
すると晴南が三緒に尋ねた。
「三緒さん?荷物はどうやって封木神社まで運ぶんですか?」
三緒が晴南に言った。
「二実がトラックをレンタルしてるはずよ。今日は車をあっちに置いてきてって言ってたから。」
晴南が三緒に言った。
「それじゃあ私達は?」
三緒が晴南に言った。
「行きと一緒でバスで帰る事になると思うわ。」
すると晴南達の前に大型車両がやってきてマンションの出入口の前に停車した。
そしてその大型車両から二実が下りてきて、晴南達に向けて言った。
「みんなお待たせ!」
三緒が二実に尋ねた。
「二実??何よこれ??トラックはどうしたのよ?」
二実が三緒に言った。
「えっ??トラックなんか借りてきてないわよ?トラックは2か月先まで埋まってるって言われちゃってさ?さすがにそんなに待ってられないでしょ?だから代わりにこれを借りてきたわけよ。」
三緒が二実に言った。
「トラックを借りれなかった理由は分かったけど、それでなんでマイクロバスを借りてくるのよ?」
晴南達の前にはマイクロバスが止まっていた。
二実はマイクロバスを運転してきたのだった。
「ちゃんと考えてるわ。」
三緒が二実に尋ねた。
「ちょっと二実?もしかしてマイクロバスで荷物を運ぶつもりなの?」
二実が三緒に言った。
「もしかしなくてもそうよ、というか三緒?バスを誤解してるわよ。バスって意外に便利なのよ。だってたくさんの荷物も人も運べるのよ?」
三緒が二実に言った。
「いやバスじゃ荷物をたくさん運べないでしょ?」
二実が三緒に言った。
「そこが誤解なのよ。客席に荷物を積んでいけばかなりの荷物を載せれるわよ?このぐらいの荷物なら多分半分のスペースも要らないと思うわ。みんなもそのまま乗せてけるし。マイクロバスだったら中型免許で運転できるしね。」
二実がみんなに言った。
「それじゃあみんな?バスの中に積み込みを始めてくれる?バスの後ろの扉を開けるからそこから積んでって。」
さっそく全員で協力して荷物をバスに積んでいった。
全員で作業したこともあり、およそ十分ほどで引っ越し荷物のバスへの積み込みが完了した。
二実が三緒に言った。
「それじゃあ管理人さんに挨拶してくるからみんなちょっと待っててね。」
二実はすぐに管理人室に向かおうとしたが、ちょうどその時ふくよかな年配の女性がマンションの出入口から出てきたのだった。
すると二実がその女性に声をかけた。
「あっ久美子(くみこ)さん!ちょうどよかったです!」
すると久美子(くみこ)と呼ばれた年配の女性が二実に気が付いて二実の所にやってきて声をかけた。
「あ~ら二実ちゃんじゃない?良かったわ!無事だったのね。心配してたのよ?」
二実が年配の女性に言った。
「久美子さんすいません。ご心配をおかけしました。」
年配の女性が二実に言った。
「いいのよいいのよ。」
久美子と呼ばれた年配の女性が晴南達に気がついて言った。
「あらっ?確か二実ちゃんのお友達の三緒ちゃんだったわね。えっとその後ろの子達は?」
二実が久美子に言った。
「九木礼中学の後輩達なんです。今日は明井田に来てもらってるんです。」
久美子が二実に言った。
「そうなのね。」
すると二実が晴南達に言った。
「ああみんなごめんね。この人はこのマンションの管理人をされてる木内久美子(きうちくみこ)さんよ。」
久美子が晴南達に言った。
「このマンションの管理人の久美子です。みんな宜しくね。」
晴南が久美子に大きな声で言った。
「はい!!よろしくお願いします!!」
すると二実が久美子に尋ねた。
「久美子さんはいつここに戻ってきたんですか?」
久美子が二実に言った。
「昨日避難指示が解除されてからすぐに戻ってきたわ。マンションのみんなが心配だったからね。避難指示が出た時は慌てて逃げたから余計にね。」
二実が久美子に尋ねた。
「あの久美子さんは火災があった日にここにいたんですか?」
久美子が二実に言った。
「ええ、ここにいたわよ。本当に嫌な週末だったわね。あれだけ嫌な週末は生まれて初めてよ。」
すると今度は久美子が二実に尋ねた。
「二実ちゃんはあの日どこにいたの?」
二実が久美子に言った。
「九木礼にいました。」
久美子が二実に言った。
「そっかそれで難を逃れたわけね。」
二実が久美子に言った。
「はい。当日はどんな感じだったんですか?」
久美子が二実に言った。
「いや今思い出しても身震いがするわ。あの日は疲れてたから早めに布団に入ってたのよ。確か午後10時くらいだったかしら?このマンションの4階に住んでる村下(むらした)さんが私を呼びにきたのよ。こんな夜中になんだろうって思って話を聞いたら市の中心部で大火災が起きてるっていうじゃない?それを聞いて慌てて外に出たわ。ほら夜ってこの辺は街灯が少ないから真っ暗になるじゃない?でもね、あの日の夜は本当に明るかったのよ。町の中心部の火災の炎がここからでもはっきり見えたの。それですごく明るかったのよ。町の中心部が燃えてるって一目瞭然だった。まるでこの世の終わりがきたみたいで本当に怖かったわ!あんな光景は二度と見たくないわね。」
二実が久美子に言った。
「11日の夜は大変だったんですね。」
久美子が二実に言った。
「ええ本当に。おかげで11日の夜はほとんど寝れなかったわね。でも大変だったのは12日の方かしらね。明井田市の全域に避難指示が出たでしょ?ここは市の中心部からは離れてるから、避難はしなくていいと思ってたのよ。不思議なものよね。すごく怖く感じているのに、逃げ出そうとはしなかったのよ。なぜかみんなここは大丈夫って思ってた。そしたら12日の昼過ぎに避難指示が出たでしょ?それからが大騒ぎで大変だったのよ。みんながパニックになっちゃって。」
二実が久美子に聞き返した。
「パニックって??」
久美子が二実に言った。
「それがね化学工場から有毒ガスが漏れ出してるって噂が流れたのよ。有毒ガスが漏れ出したから避難指示が出たんだってね。それでみんながパニック状態になっちゃったのよ。私もマンションのみんなと一緒に慌ててここから逃げ出したわ。それから子戸倉(ことくら)まで歩いて避難したんだけど、まさか10キロちかく歩く羽目にあるとは思わなかったわね。おかげでまだ足が痛いわ。」
二実が久美子に言った。
「大変でしたね。」
久美子が二実に言った。
「私なんて村下(むらした)さんの所に比べれば全然ましよ。里穂(りほ)ちゃんがいなくなっちゃったからね。」
すると二実は驚いた様子で久美子に聞き返した。
「えっ里穂(りほ)ちゃんが?それどういう事ですか?」
すると久美子は少し困った顔をしながら二実に言った。
「そっか二実ちゃん里穂ちゃんと仲良かったもんね。出入口の所でよくおしゃべりしてたもんね。」
二実が強い口調で久美子に尋ねた。
「里穂ちゃんに何かあったんですか?」
久美子が二実に言った。
「ここだけの話だけど、里穂ちゃんがさ、戻ってないらしいのよ。11日の朝にこのマンションを出てったきりね。」
すると三緒が二実に尋ねた。
「えっと二実?りほちゃんって誰??」
すると二実が三緒に答えた。
「ああごめん。里穂ちゃんは明井田高校の2年生でこのマンションの4階に住んでるの。本名は村下里穂(むらしたりほ)っていうの。里穂ちゃんとは結構気が合ってさ?よくおしゃべりしてたんだよね。」
二実が再び久美子に尋ねた。
「それで久美子さん?里穂ちゃんはその日どこに行ったんですか?」
久美子が二実に言った。
「それがね、分からないらしいのよ。ご両親にも何も言わずに出かけたみたいなの。」
二実が久美子に聞き返した。
「両親にも何も言わなかったんですか?」
久美子が二実に言った。
「そうなのよ。それでね、実は私さ里穂ちゃんが出かける所を目撃してるのよ?」
二実が久美子に言った。
「えっ?本当ですか?」
久美子が二実に言った。
「あれは11日の朝の午前5時くらいだったと思うんだけど、ちょうど私が朝のジョギングに出かけようと一階の管理人室を出た時だったわ。里穂ちゃんを見かけたのよ。大きなリュックを背負ってマンションのエレベーターから降りてきたの。それで、里穂ちゃん早いのね?どこかに出かけるの?って尋ねたんだけど、返事をしてくれなかったのよ。無言でそのまま出入口から出て行っちゃたのよ。それでおかしないなって思ったの。」
二実が久美子に言った。
「確かにおかしいですね。里穂ちゃんならいつもちゃんと返事をしてくれるのに?」
久美子が二実に言った。
「そうでしょう?里穂ちゃんって礼儀正しい子なのに、無視するなんて珍しいなって思ったの。」
久美子が二実に言った。
「そうそう、そう言えばこんなうわさ話もあるのよ。これも内緒にしててほしいんだけど、実はさ里穂ちゃんみたいな子が他にも結構いるらしいのよ?」
二実が久美子に聞き返した。
「他にも結構いるってどういう事ですか??」
久美子が二実に言った。
「それがね、里穂ちゃんみたいに11日の朝一に無言で出かけて、戻ってきてない子が他にも結構いるらしいのよ。しかもみんな午前5時頃に出かけてるらしいのよ。明井田中学校と明井田高校のかなりの数の子達が同じふうに行方不明になってるって話よ。市の教育委員会や明井田中学校や明井田高校の先生達は今その事でてんてこ舞いらしいわ。」
二実が久美子に言った。
「それって一体???」
久美子が二実に言った。
「ああごめんなさい、変な話をし過ぎちゃったわね。もう私って噂話とか大好きだから。口にチャックをしなきゃとはいつも思ってるんだけど?」
すると久美子はようやく出入口前に停車しているバスに気が付いた。
「あら?このバスは何かしら?」
二実が久美子に言った。
「あっそうだった。久美子さんこのバスは荷物を運ぶ為に借りてきたんです。」
久美子はあっけらかんとした様子で二実に聞き返した。
「荷物を運ぶ??」
二実が久美子に言った。
「あの実は久美子さん。急な話なんですけど、今日でここを引っ越す事にしました。今までお世話になりました。」
久美子が二実に尋ねた。
「えっ二実ちゃん?引っ越すつもりなの?」
二実が少し申し訳なさそうに久美子に言った。
「はいそうなんです。」
久美子が二実に言った。
「ああそれでマイクロバスを借りてきたって事なのね。」
すると久美子が残念そうな様子で二実に言った。
「でもそっか?二実ちゃんも出てってちゃうのね?寂しくなるわね?」
すると二実が聞き返した。
「二実ちゃんもって事は?」
久美子が二実に言った。
「ええ、昨日から引っ越しをするって挨拶にくる人が何人かいてね。二実ちゃんはこれで三人目よ。まあ仕方ないわよね。あんな事があったんじゃね。」
久美子が二実に尋ねた。
「それでどこに引っ越すの?」
二実が久美子に言った。
「九木礼に引っ越す予定です。」
久美子が二実に言った。
「そっか九木礼か、まあ元々二実ちゃんは九木礼の出身だもんね?こんな状況じゃ何をするにも大変だと思うけど頑張ってね。」
二実が久美子に言った。
「はい、ありがとうございます。」
久美子はそう言うとマンションの中へと入っていった。
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【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
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