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一章

非日常

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6月13日午後2時頃、こちらは九木礼町にある麻衣子の自宅である。

麻衣子の自宅は九木礼郵便局の近くにあった。

麻衣子の家は二階建のレンガ造りの建物で、敷地の境界線はレンガの塀が設けられていた。

一階部分の玄関側の部屋が麻衣子の部屋となっていた。

麻衣子の部屋の中はちゃんと整理整頓されていた。

麻衣子は部屋の中の勉強机に座って自分のスマホとにらめっこをしていた。

麻衣子は自分の部屋の中でとある人物からの連絡をずっと待っていた。

するとピンポーンと自宅のチャイムが鳴ったのだった。

そしてその後に聞き覚えのある声が麻衣子の部屋の中まで響いてきた。

「麻衣子!!私よ!!開けてちょうだい!!」

声の主は晴南で麻衣子の家の前までやって来ているようだった。

麻衣子は晴南の声を聞くとすぐに部屋から飛び出して、玄関のロックを解除した。

麻衣子はすぐに玄関の扉を開けた。

すると玄関の前には声の主である晴南がいた。

麻衣子が心配そうな顔で晴南に尋ねた。

「晴南!!どう?あれから連絡あった?」

晴南が真剣な眼差しで麻衣子に言った。

「健太からは連絡があったわ!大丈夫だったみたい。」

麻衣子が晴南に言った。

「そう、健太君は無事だったのね?良かった!!それで柚羽(ゆずは)の方は?」

晴南が麻衣子に言った。

「柚羽(ゆずは)の方は分からないわ。まだ連絡が取れないの。」

麻衣子が晴南に尋ねた。

「健太君が柚羽(ゆずは)の行方を知ってるんじゃないの?」

晴南が麻衣子に言った。

「私もそう思って健太に聞いたんだけど、わからないって。」

麻衣子が晴南に言った。

「そう。柚羽(ゆずは)大丈夫なのかしら?」

晴南が麻衣子に言った。

「きっと大丈夫よ?なんたって私の同級生なのよ?」

大柳(おおやなぎ)柚羽(ゆずは)は一年前まで九木礼中学校に通っており晴南達の同級生だった。

もう一人の大柳(おおやなぎ)健太(けんた)は柚羽(ゆすは)の一歳年下の弟で、同じく九木礼中学校に通っていた。

晴南と麻衣子は柚羽(ゆずは)や健太(けんた)とも仲良くしていたが、柚羽(ゆずは)と健太(けんた)は家の事情で2018年10月に明井田中学校へと転校してしまったのだ。

すると麻衣子が晴南に言った。

「でも明井田はあんな大惨事になってるのよ?そんな断言はできないでしょ?」

晴南が麻衣子に言った。

「もちろん分かってるわ、だけど沈んでたってしょうがないでしょ?」

麻衣子が晴南に言った。

「そうかもしれないけど、晴南みたいに楽観的にはなれないわ?」

すると晴南が笑みを浮かべながら麻衣子に言った。

「それなら柚羽に連絡がついたら、真っ先に柚羽に言ってあげるわ。麻衣子が柚羽がいないと生きていけないのって大泣きしてたって!!」

すると麻衣子が慌てた様子で晴南に言った。

「そんな事言ってないし、大泣きもしてないでしょうが!!」

晴南はとぼけた様子で麻衣子に尋ねた。

「えっ?さっき言って無かった?」

麻衣子が大きな声で晴南に言った。

「言ってないし、泣いてないわ。」

晴南が麻衣子に言った。

「そうそう、そうやって麻衣子は私のボケにちゃんと突っ込みを入れてくれないと?言ったでしょ?麻衣子は私の専属のツッコミ役だって?」

麻衣子が晴南に尋ねた。

「専属のツッコミ役って、そのネタまだ引っ張るつもりなの?」

晴南はおどけた様子で麻衣子に言った。

「えっ?そうねえ?あと二、三回は使うつもりよ?」

麻衣子が晴南に尋ねた。

「エンターテイナーのプライドとやらが許さないって昨日言ってなかったっけ?」

晴南が麻衣子に言った。

「そう、そこよ。同じネタ何十回と使うのはマンネリでダメだけど、超面白い事を三回ぐらい繰り返し使う事はアリじゃないかと気づいちゃった訳よ。」

麻衣子が晴南に言った。

「あっそうなの。まあ晴南がいいなら別にいいんだけどね。」

すると麻衣子は少し笑いながら晴南に言った。

「ありがとね、晴南?元気づけようとしてくれて!!」

晴南が麻衣子に言った。

「そうでしょう、そうでしょう。私はエンターテイナーの鏡なのよ!!だからもっと誉めなさい麻衣子!!」

麻衣子が晴南に言った。

「調子に乗らないで!!」

麻衣子が晴南に尋ねた。

「ところで晴南?今日はどうしたの?家に遊びに来てくれたの?」

晴南が麻衣子に言った。

「そうだった、これからみんなで集まろうって話になってるんだけど、来るでしょ?」

麻衣子が晴南に言った。

「えっ?集まるってどこに?今日はどこも混雑してるでしょ?」

明井田市の全域に避難勧告が出た事によって、近隣自治体である九木礼町にも避難してきた人々が多数来ていた。

晴南が麻衣子に言った。

「空いてる場所があるからそこに集まろうってなったのよ、そうだ麻衣子!!せっかくだからクイズをしましょう!ヒントを出してくからその場所を当ててみなさい!」

晴南の唐突な思いつきでクイズが始まった。

晴南が麻衣子に言った。

「第一のヒントよ?今週は中学校が休みになったでしょ?」

麻衣子が晴南に言った。

「それがヒント?確かに九木礼中学校は避難所として開放するって決まったから、今週は中学校は休みだって朝に連絡きたよね。でもそれがどうかした?」

晴南が麻衣子に言った。

「うーん、難しいかしら?それじゃあ第二のヒントは先週訪れた場所よ?」

麻衣子が晴南に言った。

「先週に行った場所か?ベリエやグルグルマートは見てきたけど、すごい混んでたし?」

晴南が麻衣子に言った。

「そうそう、ベリエなんてすごい行列ができてたわよね。」

麻衣子が晴南に言った。

「ちょっとわかんないわ。今日はどこも混んでるんじゃないかな?空いてる場所なんてなさそうだけど?」

晴南が麻衣子に言った。

「じゃあ第三のヒント、いつもは行かない場所よ?」

麻衣子が晴南に言った。

「いつも行かない場所か?先週行った所でいつもいく場所以外だと九木礼温泉に九木礼山に封木神社かな。この中に答えある?」

晴南が麻衣子に言った。

「ええ、もう言ったわ。」

麻衣子が晴南に言った。

「答えは封木神社?」

晴南が麻衣子に尋ねた。

「正解、どうして分かったの?」

麻衣子が晴南に言った。

「まあ実質三択だったし。」

晴南が麻衣子に言った。

「二実さんに今日も封木神社に来ないかって誘われたの。」

麻衣子が晴南に言った。

「そっか、二実さん明井田に住んでるから、戻れないんだったわね。でも封木神社は空いてるの?封木神社にも人がたくさん来てそうだけど?」

晴南が麻衣子に言った。

「なんかグールルの地図にはまだ載ってないから人が来なかったらしいわ。」

晴南達の関心は、知らない間に起きていた明井田火災に集中していた。

相対的に昨日封木神社で起きた怪奇現象への関心は薄れていたのだ。

麻衣子は昨日の怪奇現象に恐怖を感じていたが、それ以上に明井田火災の悲壮感や柚羽(ゆずは)との連絡が取れない不安感の方が圧倒的に勝っていた。

その不安感を紛らそうとしていたのだ。それ故に麻衣子は封木神社に行く事に拒否反応を示さなかった。

晴南にいたっては昨日の怪奇現象をむしろ楽しんでおり、封木神社に行かないという選択肢はなかっただろう。

麻衣子が晴南に尋ねた。

「ふーん、そうなんだ。あれっ?でもさ?第一のヒントってどこがヒントだったの?中学校が休みになったって関係なさそうだけど?」

晴南が麻衣子に言った。

「関係ないわよ。第一のヒントは引っかけだから。」

麻衣子が晴南に聞き返した。

「えっ?引っかけって何よ?」

晴南が麻衣子に言った。

「ヒントじゃないって事よ?引っかけ問題ってあるじゃない?あれのヒントバージョンよ?ひっかけヒント、ヒントじゃないから参考にしちゃダメよ。」

麻衣子が晴南に言った。

「ヒントに引っかけとか不親切すぎるでしょ!!」

晴南が麻衣子に言った。

「ひっかけ問題っていうのがあるんだから、ひっかけヒントがあってもいいと思わない?」

麻衣子が晴南に言った。

「全然思わないわ。」

すると麻衣子の家の前に白いワンボックスカーが現れた。

そして白いワンボックスカーの運転席から二実が顔を出して晴南と麻衣子に声をかけた。

「晴南ちゃん!麻衣子ちゃん!!」

声をかけられた麻衣子は二実の車の方を向くと、慌てて二実に言った。

「あっ!二実さん!!こんにちわ。」

二実が晴南と麻衣子に言った。

「神社に来てくれるのなら二人とも車に乗って。」

晴南が麻衣子に言った。

「という訳だから麻衣子、一緒に来てちょうだい。」

麻衣子が二実に言った。

「すいません、二実さん、準備するから少し時間をください。」

麻衣子はすぐに出かける準備を済ませて、晴南と共に二実の車に乗り込んだ。
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