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一章

確認テスト

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やってきた長身の若い男性が校舎入口の鍵を開けた。

彼はこの中学校の武藤哲夫(むとうてつお)という教師だ。

晴南達は校舎の中に入ると、すぐに三年一組の教室に向かった。

三年一組の教室に全員が揃った。

全員が着席すると武藤先生が教室の扉を閉めた。

武藤先生が教卓の所に立ち頭を下げながら晴南達に言った。

「みんな遅れてすまない。」

晃太が武藤先生に尋ねた。

「武藤先生、今日はなんで遅刻したんですか?」

武藤先生が晃太に言った。

「それがな。恥ずかしい話なんだが、道に迷ったんだ。」

武藤先生が晃太に言った。

「来る途中で別の車が立ち往生しててな。迂回しようと別の道を進んでいったんだが、その進んでいった道が行き止まりでな。元来た道を戻ろうとしたんだがそのまま迷ってしまったんだ。」


武藤先生は昨年まで隣町の明井田市(あけいだし)にある明井田中学で教鞭をとっていた。

だが今年から九木礼中学を含めた複数の中学校を掛け持ちで担当する事になったのだった。

それまでは車はほとんど運転せずに公共交通機関を使って通っていたので、車の運転が苦手でよく道に迷うのだった。

武藤先生がみんなに言った。

「よし全員いるようだし、点呼と朝の会は省かしてもらうぞ。これから数学の授業を始める。じゃあ先週言った通り三年生は今から二乗に比例する関数の所の確認テストをする。」

晴南が武藤先生に言った。

「えー武藤先生?確認テストやるんですか?遅れたんだし今日は確認テスト無しにしましょうよ?」 

武藤先生が晴南に言った。

「だめだ。まだ確認テストをやる時間はあるからな。」

武藤先生がみんなに言った。

「それじゃあ机を少し離して、教科書を机の中にしまって机の上には筆記具だけにしてくれ。」

三年生は武藤先生の指示通り机を少し移動させて教科書とノートを机の中にしまった。

机の上には筆記具だけが置かれていた。

だが晴南だけは教科書だけを机の中にしまった。

晴南が武藤先生に尋ねた。

「ノートはしまわなくていいですよね?」

武藤先生が晴南に言った。

「もちろんノートもしまって!」

晴南が渋々とノートを机の中にしまった。

晴南が武藤先生に尋ねた。

「それじゃあ分からない所は聞いていいですよね?」

武藤先生が晴南に言った。

「質問はダメだ。」

晴南が武藤先生に言った。

「えっ、でも武藤先生?前の授業の時に分からない所はどんどん質問してくれって言ってませんでした?」

武藤先生が晴南に言った。

「いや、これは確認テストだから。テスト問題の答えを教えてしまったら、テストをする意味がないだろ?」

晴南が武藤先生に言った。

「そういえば九木礼公園のチューリップが見ごろなんです。武藤先生も見といた方がいいですよ。」

武藤先生が晴南に尋ねた。

「ほう?九木礼公園にはチューリップが植えてあるのか?」

晴南が武藤先生に言った。

「はい、たくさん植えてあってとってもきれいですよ?」

武藤先生が晴南に言った。

「そうか、それは一度見に行ってみるのもいいかもしれんな。じゃなくて水内?少し黙っててくれないか?テストが始められないだろ?」

だが晴南は構わずに武藤先生に言った。

「そうだ!先生は魚がはねるのを見た事あります?魚って本当にはねるんですね?朝学校に来るときに始めて見たんですよ!いやもうビックリしました。」

武藤先生が晴南に言った。

「水内頼むから、黙っててくれ!」

見かねた晃太が晴南に言った。

「なあ晴南?武藤先生困ってるぞ?そろそろ諦めて口を閉じたらどうだ?」

晴南が晃太に言った。

「いい事を教えてあげる晃太!どんな苦しい時も絶対に諦めちゃいけないのよ?」

晃太が晴南に言った。

「いや晴南?諦めちゃいけないってこういう時に使う言葉じゃないだろう?晴南はテストの邪魔してるだけだぞ?」

晴南が晃太に言った。

「邪魔とは心外ね。私は諦めたくないだけなのよ?」

麻衣子が晴南に言った。

「ねえ晴南?もうその辺にしときなって。晃太君の言う通り黙ってテストを受けなよ?」

晴南が麻衣子に言った。

「麻衣子、私を諦めさせようとしても無駄よ!私は絶対に諦めてないって言ってるでしょ?!!」

麻衣子が晴南に言った。

「そう、分かったわ、晴南。それなら私にも考えがあるから!」

晴南が麻衣子に聞き返した。

「考え?」

麻衣子が晴南に言った。

「確認テストの邪魔するなら鳥岩先生にチクっちゃうよ!!」

晴南が驚いて言った。

「なっ?!!」

晴南が麻衣子に言った。

「私達は親友でしょ?麻衣子はそんなひどい事しないわよね?私は麻衣子を信じてるわ!」

晴南が麻衣子に言った。

「私達の友情はそんな物だったの?ううん違うわ!!麻衣子はそんな人間じゃない!麻衣子??小学校の卒業式の日の事を覚えてる?あの日麻衣子は私に言ってくれたわよね?」

麻衣子が晴南に言った。

「それじゃあ、鳥岩先生にチクっとくね!」

晴南が麻衣子に言った。

「麻衣子!!待って!!」

それから晴南はようやく諦めて静かになった。

武藤先生が三年生に言った。

「よしでは始め!」

ようやく数学の確認テストが始まった。

武藤先生は三年生がテストを受けているのを確認すると、亜美と長孝の席に移動して個別授業を始めた。

亜美が武藤先生に尋ねた。

「武藤先生ここが分かりません?」

亜美はそう言うと教科書の問題を指さした。

武藤先生が覗きながら亜美に尋ねた。

「問3の2x+2=8の方程式でいいかな?」

亜美が武藤先生に言った。

「はい、そこです。」

武藤先生が亜美に言った。

「どこが分からないんだ?」

亜美はどう答えればいいか分からないようだった。

「えーと?」

武藤先生が亜美に尋ねた。

「うーん、それじゃあ方程式がどんなものか分かるか?」

亜美が武藤先生に言った。

「ちんぷんかんぷんです。」

武藤先生が亜美に言った。

「この数式には=8って答えがもう出てるよね。そこまではいいかな?」

亜美が武藤先生に言った。

「はい。」

武藤先生が亜美に言った。

 「xはどんな数字なんだろう?って考えるんだ。1かもしれないし、2かもしれない。はたまた0かもしれない。」

亜美が武藤先生に尋ねた。

「xは分からない数字って事ですか?」

武藤先生が亜美に言った。

「そう、分からない数字をとりあえずxってしてるだけなんだ。この分からない数字のxを探し出すのが、方程式なんだよ。何となく意味は分かったかな?」

亜美が武藤先生に言った。

「はい、何となくですが。」

武藤先生が亜美に言った。

「計算方法は=の右側に数字を移動指せる場合はプラスはマイナスになるから、+2は-2になるね。すると2x=8-2となって、2x=6となる。あとは両辺を2で割るとx=3と導き出せるんだ。」

亜美が頷きながら武藤先生に言った。

「あー、なるほどです。よく分かりました。」

すると武藤先生が長孝に尋ねた。

「羽部はどこか分からない所はあるか?」

長孝が武藤先生に言った。

「はい、大丈夫っす。」

するとリーンゴーン、リンゴーンとチャイムが鳴った。

武藤先生が三年生に言った。

「終わりだ。筆記用具を置いて。」


その後すぐに武藤先生が確認テストの用紙をそれぞれの机から集めて回った。

回答用紙を集め終わると武藤先生がみんなに言った。

「それじゃあ一時間目はこれで終わりだ。そのまま休憩でいいからな。」

武藤先生はそう言うと教室より出ていった。
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