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前日譚。
前日譚。とある娼婦は考える。上※虐待、胸糞あり。苦手な方は読まないでください。
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※胸糞、狂愛注意。
※この話は他の前日譚と違って、全く救いの無い話となっています。
※ヤバい女の話です。心が弱っているときにはご注意を。
__________
とある娼婦は、考える。
ふらふらと薄暗い路地裏へ向かいながら。
肌触りの悪い着古した服は、前よりも痩せたせいか、少しだぶついている。けれど、新しく買い替えることはできない。かと言って、自分でサイズを直す気力も無い。
昔は・・・服を着古すなんて、ましてや自分で繕うだなんて、そんなこと考えたことすら無かった。
服は常に何着もクローゼットにあって、手入れをされて綺麗に仕舞われていた。
そして、欲しいと思えば・・・いや、別に欲しいと思っていなくても、欲しがるような素振りを見せるだけで、男達は惜しげもなく服や装飾品、花などを私に贈った。私の歓心を買う為に。
お洒落なドレスや余所行きの可愛いワンピース、ネックレス、指輪、腕輪、髪飾り、耳飾り、帽子、靴、日傘、化粧品、香水、マニキュアなどなど。
色々な物を持っていたというのに・・・今は、安い布の服を着古していることが恥ずかしい。
白く滑らかだった手肌は見る影も無く、荒れてしまってガサガサ。爪だってボロボロのガタガタ。酷く惨めな気分になる。
一体、なにがいけなかったのかしら?
私はなにも悪くない。絶対に悪くない。
なにも悪くない筈の私が、なんでこんな惨めな目に遭っているの?
虚ろな瞳の、骨と皮ばかりに痩せ細った薄汚い連中が転がる冷たい路地裏。
なんで私が、こんな場所にいるの・・・?
何度、自分にそう問い掛けただろうか? それでも、答えは判らない。解らない。分からない。
意味がわからない。
でも、私はなにも悪くないことだけは確かだ。
こんな薄暗くて、汚くて臭い連中が居る場所は、全く以て私に相応しくない。私はこんなところに、好き好んで来たワケじゃない。
お金だって無い。けれど、あぁ・・・
身体が怠くて、あちこちが痛む。
早く、早く楽になりたい。
頭が重くて、思考がまとまらない。
なんで私が、こんな目に・・・?
答えの無い自問にも、既に倦んで疲れた。
だから、それら全てを忘れる為・・・卑しい笑みを浮かべる男になけなしの金を払い、パイプに詰めてもらったそれへと火を点け、逸る気持ちを抑え、ゆっくりと深く息を吸う。
すると、漂っていた饐えたような悪臭が、朦々とくゆる紫煙の甘酸っぱい匂いに包まれて混ざり、段々と気にならなくなる。
紫煙を呑むと身体のあちこち苛んでいた痛みが遠くなり、次第に頭がぼんやりとして来て、なにもかもがスッとどうでもよくなって行く。
薄暗くて汚い場所も、虚ろな表情で転がる阿片中毒者達も、卑しい売人の笑みも、路地の冷たさも、少し前に考えていた自分が理不尽な目に遭っている理由も、次に阿片を買う為の金の工面も、なにもかも全部、全部がどうでもよくなって――――
女は冷たい路地裏に座り込み、今にも雨が降り出しそうな鉛色の重い空を見上げた。
故郷の空とは全く違う、重苦しい色の空を、虚ろな瞳に映して――――
※※※※※※※※※※※※※※※
波打つ金髪に、白い肌、パッチリとした薄茶の瞳を彩る長い睫毛、ツンと高い鼻に滑らかな頬、艶やかな赤い唇、細い顎。愛らしい人形ような容姿のリシュエンヌは、フランスの裕福な子爵家に生まれた一人娘。
子爵という下位貴族の家ではあるが、下手な高位の貴族よりも余程裕福な暮らし振りで、大きな屋敷で両親と使用人達に囲まれ、蝶よ花よと大切に大切に甘やかされて育った。
そんなリシュエンヌは幼い頃から、美しいモノや綺麗なモノが、とてもとても大好きだった。
けれど、リシュエンヌが気に入って大事に大事にしているモノは、なぜかすぐに壊れてしまう。
お気に入りのうさぎのぬいぐるみも、金の髪と透き通った青いガラスの瞳が綺麗なお人形も、手足が捥げたり腹が裂けて中の綿が出たり、首が取れてしまったりしてあまり長持ちしなかった。
手足が取れて、綿が出たり、目が失くなったり、髪が禿げたりしても、リシュエンヌはそれらを大事にしていたのに、いつの間にか壊れたぬいぐるみや人形は不気味だと、侍女達に処分されてしまい、また新しいぬいぐるみや人形に入れ換わっている。
リシュエンヌは、壊れたモノは壊れたモノとして可愛がって大事にしているのに、それらが勝手に処分されて新品に入れ換えられてしまうことを、少し残念に思ったりもした。
そんなリシュエンヌの小さい頃、特にお気に入りの遊びは――――薔薇の咲き誇る庭でひらひらと舞う蝶を捕まえ、その翅を毟り、脚を捥いで、地面に落とし、無様に踠いて、やがて弱って動かなくなる。蝶だった面影を無くした虫が死ぬまでの、その過程をじっくりと眺めることだった。
蜻蛉や蝉、飛蝗などの地味な虫ではなく、美しい蝶の翅を毟って地面に墜とすことが、リシュエンヌは好きだった。
子供の頃の、無邪気で酷く残酷な遊び。リシュエンヌのその遊びを止める者は誰一人無く、庭には沢山の翅が散って行った。
けれど、リシュエンヌは長ずるにつれ、段々と蝶のような単なる羽虫では物足りなくなって行った。
リシュエンヌは、美しいモノが大好きだった。
美しいモノを踏み躙って、その美しいモノの苦しむ姿を見ることが、特に。
最初は屋敷に勤める侍女だった。若くて綺麗な・・・そして、可哀想な女だった。
彼女はリシュエンヌよりも高位の貴族だったのに、家が没落し父親が自殺。病気の母親を抱えて、リシュエンヌの家の侍女になったという。
物語のような転落人生。そんな可哀想な境遇にもかかわらず、真っ直ぐな瞳でリシュエンヌを見詰め、「お嬢様、ぬいぐるみや人形をもっと大切に扱ってください」「翅を毟って殺すなど、蝶が可哀想ではありませんか」そんな苦言を呈した女。
リシュエンヌは、「わかったわ。あなたが私と遊んでくれるなら」と返事をして、シンデレラのような可哀想な境遇なのに、とても健気で綺麗な彼女と遊ぶことにした。但し、舞踏会は開かれず、王子様も現れることは無いけれど。
それから、その侍女は一月も経たずにリシュエンヌの屋敷を辞めてしまった。
遊んでくれると言ったのに・・・
なぜか、リシュエンヌのお気に入りのモノは長持ちしない。いつの間にか、失くなってしまう。
リシュエンヌは酷く残念に思った。
それから屋敷の使用人達は、なぜかリシュエンヌにビクビクした態度を取るようになった。
十代に入ったリシュエンヌは益々美しくなり、子爵令嬢という身分にもかかわらず、その美貌に高位貴族からも縁談の話が多く舞い込んだ。
リシュエンヌは男達にはちやほやされていたが、女性達からはとても恐れられていた。
リシュエンヌの目に留まり、遊び相手として気に入られた女性は悲惨な目に遭う。「まるでサロメのような令嬢リシュエンヌ」「目を付けられないよう気を付けないと」そんな噂を囁きながらも、率先して遊びに便乗していた令嬢達もいたが、それでもリシュエンヌは男達の人気者だった。
早熟な美しい容姿に、蜜のように甘ったるい声。我が儘で気分屋。男を振り回す猫のような性格。
男達はまだ年端も行かぬ少女であるリシュエンヌにこぞって傅き、甘い言葉を囁き、プレゼントを貢いでその歓心を得ようとした。
そんな日々に翳りが帯びたのは、リシュエンヌが十四歳になった頃だろうか?
リシュエンヌのお気に入りだった可哀想な令嬢が遺書を遺して自殺した。
リシュエンヌは、その可哀想な境遇の令嬢が不幸になって行く様を愉しんでいたのだが・・・リシュエンヌの歓心を買いたい男達が、その令嬢を複数人で暴行したらしい。
無論、リシュエンヌとしては、そんなことは全く望んでいなかった。
けれど、それがリシュエンヌの指示で行われたことで、この身を穢されたので生きては行けない……と。そんな遺書を遺し、高位貴族の令嬢が自殺した。
リシュエンヌはただ、お気に入りの可哀想な令嬢の不幸な様を見物していたかっただけなのに、馬鹿な男達がそれを邪魔した。挙げ句、リシュエンヌの為にやったと吹聴して回った。
考え無しの馬鹿な男達のせいで、リシュエンヌはお気に入りの可哀想な令嬢を失った。
更には、「男を侍らせて気に入らない女を酷い目に遭わせる毒婦」そんな噂が立てられた。
酷い、侮辱だと思った。
あの子を気に入らないだなんて、リシュエンヌはそんなこと、一度として思ったことは無い。
だってリシュエンヌは可哀想なあの子のことがとても大好きで、一緒に遊びたかっただけなのに。
できることならリシュエンヌは、可哀想でとても綺麗なあの子を、自分の手で直接傷付けたかった。なのに、その機会を永遠に奪われた。
酷く憂鬱な気分で過ごしていたら、それから程なくしてリシュエンヌの嫁入りが決まった。あれよあれよと言う間に、リシュエンヌは三十も年の離れた田舎者の伯爵へと嫁ぐことになっていた。
どうやら、『男を侍らせて気に食わない女を酷い目に遭わせる毒婦』という噂のせいで、リシュエンヌへのまともな縁談が逃げてしまったそうだ。
馬鹿なことを仕出かしたあの男達の中には、リシュエンヌを娶りたいと申し出た者もいたそうだが、また馬鹿なことをされては敵わないと、家族に大反対されてリシュエンヌとの接触を禁止されたという。
リシュエンヌとて、あんな馬鹿な男達の顔なんて見たくもないと思っていた。けれど・・・
三十も年上の、全く見知らぬ男に嫁ぐのと馬鹿な彼らだったら、まだ馬鹿な彼らの中から選ぶ方がましだったかもしれない。リシュエンヌがそう思ったときには、既に遅かった。
短期間でリシュエンヌの嫁入りの準備は整い、話が出てから二ヶ月も経たないうちに、リシュエンヌは田舎の伯爵領へ向かう馬車に揺られていた。
着いた伯爵家は、リシュエンヌの子爵家よりも小さく、酷く田舎臭い外観だった。
そしてリシュエンヌは、結婚式さえ挙げずに三十も年上の伯爵の妻となった。
伯爵家にいるのは、皆年配の者ばかり。一番年下なのが十代のリシュエンヌ。そのすぐ上がもう、三十代のメイド。若い人が少ない。
そして、リシュエンヌがなにより退屈だったのは、夫となった伯爵を含め、美しい者がいないことだった。地味で華の無い、パッとしない容姿。醜いとまでは行かないが・・・リシュエンヌの好きな、綺麗で可哀想なモノが見当たらない。美しいモノ、綺麗なモノの無い、長閑なだけの、冗長で退屈な田舎暮らし。
見渡す限りの田園風景に都会のきらびやかさは無く、美味しい物も新しいお菓子も無い。服もアクセサリーも、香水も化粧品も、少し遠出して町まで行かないと手に入らない。そして、遠出しても、それらは全て流行遅れの物ばかり。
都会に住み、両親に甘やかされ、美貌を誇り、男達にちやほやされ、欲しい物を我慢したことの無かったリシュエンヌに、そんな田舎暮らしが耐えられる筈もなかった。
リシュエンヌは数ヶ月も経たずに酷く退屈して、田舎暮らしに飽いていた。
だからリシュエンヌは、田舎に突然現れた、あの男の誘いに乗ってしまったのだろう。
その若い男は、退屈していたリシュエンヌに甘い言葉を囁いて近付いた。
都会にいた頃なら兎も角、リシュエンヌの眼鏡に適う美しいモノの無い田舎だったからリシュエンヌは――――
「逃げよう。あなたは、こんな場所にいていい人じゃない。俺がなんとかする。だから・・・」
抱き締めてそう囁いた男の言葉に、頷いた。
そして、男の手配に従って馬車に乗り、あの美しいモノの無い田舎を出て、港から船へ乗った。
船が着いた港で聞こえて来たのは英語ばかり。
「さあ、教会へ行って離婚手続きをしよう」
そう微笑んだ彼に従い、リシュエンヌは教会へ行って言われるがままに離婚の手続きをした。
「ああ・・・これで、やっと・・・」
感慨深そうに、うっそりと呟いた男は、リシュエンヌを見て嬉しそうに笑い、
「それじゃあ、今夜からの宿に行こう」
リシュエンヌをとある宿へと案内した。
そこは高級そうな宿だったが、男は部屋へ腰を落ち着けることも無く、
「用事を済ませて来る」
と一人で出掛けて行った。
暫くしても男が戻って来る様子は無く――――
部屋へとやって来たのは、宿のオーナーを名乗る男性だった。そして、男性はこの宿がどういう場所で、リシュエンヌがどういう立場にあるのかということを、フランス語で話して聞かせた。
「あなたは、彼に売られたのですよ」
と、ニヤニヤとした笑顔で。
「どうぞ。彼からの手紙です」
差し出された手紙には、『オリヴィエの屈辱を思い知れ』とだけ強く書き殴られていた。
オリヴィエというのは、リシュエンヌが好きだったあの自殺した『可哀想な令嬢』の名前。
「なんでも、あなたは彼が可愛がっていた親戚のお嬢様の仇なのだとか」
ニヤニヤと笑う男。
こうしてリシュエンヌは、住んでいたフランスの…嫁ぎ先の田舎から男と駆け落ち同然にイギリスへと渡り、騙されて娼館へと売り飛ばされた。
最初は、娼婦になるなど冗談じゃないと思った。けれど、ここは母国のフランスじゃない。海を渡った外国だ。荷物は持っているが、お金の管理や移動の手配は全て男に任せていた。
今のリシュエンヌは無一文に等しい。いや、身を売られたのだから、借金持ちということになる。
リシュエンヌは実家へ連絡して迎えに来てもらおうか、一瞬考えた。
けれど――――実家へ連絡して迎えに来てもらったとしても、どうせまた直ぐにあの田舎のような場所へ追いやられ、押し込められるのかもしれない……と、思ったリシュエンヌは、それを嫌った。
あんな、リシュエンヌが大好きな可哀想で美しいモノや可哀想で綺麗なモノの無い、鄙びた場所へ戻るくらいなら、いっそ・・・
こうしてリシュエンヌは、復讐として娼婦へと身を堕とされたと言えるが――――
「ふふっ・・・彼も甘いわよね」
娼婦は娼婦でも、リシュエンヌがなったのは、高級娼婦。
高級娼婦というのは、国営の娼館に勤める娼婦のこと。街の路地なんかで袖を引くような私娼との一番の違いは、自分で客を選ぶことができることだろう。高級娼婦は、無理に男達に身を任せなくてもいい。その代わり、高い教養と知性、社交性とが必要不可欠となるが。
元々、リシュエンヌは下位貴族ではあるが子爵家の令嬢。それも、裕福だった実家でそれなりの教育が施されていたし、美しいモノ好きだったこともあり、教養も高い。
そして、その美貌、蜜のように甘ったるい声、フランス人としてのファッションセンス、気紛れで猫のような性格とで次々と男達を夢中にさせ、あっという間に売れっ子になり、借金を全額返済した。
リシュエンヌは『彼』の思い描いていた娼婦像とは、確実に異なる生活をしているだろう。『オリヴィエの屈辱を思い知れ』という『彼』の目論見も、今のところリシュエンヌには無縁だ。
高級娼婦のリュリュとしてドレスを纏い、化粧をし、寄って来る男達の相手をして、観劇や音楽鑑賞、美術館、食事などへ誘われ、酒を飲み交わし、プレゼントを貰う。
リシュエンヌが結婚させられる以前のような生活に、男達の相手をすることへの義務と酒が付随するようになったような感じだろうか? 強いて不満を挙げれば、フランス生まれのリシュエンヌには、イギリスの食事が不味いことに辟易しているが。
それに、リシュエンヌが高級娼婦も悪くないと思う一番の理由。それは――――
高級娼婦達が皆、それぞれ美しいことだ。中には地味な女もいはするが、それは極小数。リシュエンヌの同僚である高級娼婦達はきらびやかで華やかで、綺麗で美しい。そしてなにより・・・可哀想な女性が多いことが嬉しかった。
勿論、中には好きで高級娼婦として働いている女性もいなくはない。けれど、そんな女性は少ない。
大半の女性達はやむにやまれぬ事情で高級娼婦となり、けれど高級娼婦となったことを憂いていた。または、それを恥じている女性もいた。
家庭の事情で。大金が必要となって。または、リシュエンヌのように男に騙されて・・・
綺麗で美しいのに、不幸で可哀想な女性達。
リシュエンヌは、彼女達が不幸であれば不幸である程、愛おしくて堪らない。
だからリシュエンヌは――――
歌手を夢見ている同僚へ強い酒をたくさん飲ませ、わざとその喉を潰した。
弟の学費の為に働いている同僚に、その上客の前でわざと粗相をさせた。
家族の生活費を秘密で稼いでいる同僚を、顔の広い客へと紹介した。
同僚になったばかりで男あしらいが苦手な新人へ、酷く評判の悪い客を宛がった。
病気の家族の為に高価な薬が必要だからと、嫌々働いている同僚が零した悪口を客へ耳打ちした。
父親の借金の為に働いている同僚の父親を、知らない振りをして店に招待した。
娼婦達の間で不和が起こった。
客達が暴力事件を起こした。
刃傷沙汰が起こった。
娼婦の一人が自殺した。
そうして、どんどん暗い顔になって可哀想に行く彼女達を愛でていたら・・・リシュエンヌはある日、娼館のオーナーに別の娼館を紹介された。
この店への借金はもう無いのだから、頼むから出て行ってくれと、頭を下げられた。
リシュエンヌがいると、店の娼婦達が次々と駄目になって行くから、と。
リシュエンヌは、それに応じて店を移った。
そしてまた、似たようなことを繰り返した。
不幸で可哀想な娼婦達を愛おしく思い、愛でて、更に不幸にさせて行く。
こうしてリシュエンヌは、長いと数年。短いと数ヶ月程で、娼館を転々として行った。
リュリュから、アンヌ、アン、アンネ、アンナ、リュシー、リズ、リュー、リュンと名前を変え、化粧を変え、印象を変えながらも・・・
やがてリシュエンヌには娼婦潰しという悪名が立ち、大きな街の娼館には居られなくなり、少しずつ小さな街の娼館へと移動して――――
__________
※薬物乱用は心身を損ないます。薬物乱用は絶対にしないでください。
※この話は他の前日譚と違って、全く救いの無い話となっています。
※ヤバい女の話です。心が弱っているときにはご注意を。
__________
とある娼婦は、考える。
ふらふらと薄暗い路地裏へ向かいながら。
肌触りの悪い着古した服は、前よりも痩せたせいか、少しだぶついている。けれど、新しく買い替えることはできない。かと言って、自分でサイズを直す気力も無い。
昔は・・・服を着古すなんて、ましてや自分で繕うだなんて、そんなこと考えたことすら無かった。
服は常に何着もクローゼットにあって、手入れをされて綺麗に仕舞われていた。
そして、欲しいと思えば・・・いや、別に欲しいと思っていなくても、欲しがるような素振りを見せるだけで、男達は惜しげもなく服や装飾品、花などを私に贈った。私の歓心を買う為に。
お洒落なドレスや余所行きの可愛いワンピース、ネックレス、指輪、腕輪、髪飾り、耳飾り、帽子、靴、日傘、化粧品、香水、マニキュアなどなど。
色々な物を持っていたというのに・・・今は、安い布の服を着古していることが恥ずかしい。
白く滑らかだった手肌は見る影も無く、荒れてしまってガサガサ。爪だってボロボロのガタガタ。酷く惨めな気分になる。
一体、なにがいけなかったのかしら?
私はなにも悪くない。絶対に悪くない。
なにも悪くない筈の私が、なんでこんな惨めな目に遭っているの?
虚ろな瞳の、骨と皮ばかりに痩せ細った薄汚い連中が転がる冷たい路地裏。
なんで私が、こんな場所にいるの・・・?
何度、自分にそう問い掛けただろうか? それでも、答えは判らない。解らない。分からない。
意味がわからない。
でも、私はなにも悪くないことだけは確かだ。
こんな薄暗くて、汚くて臭い連中が居る場所は、全く以て私に相応しくない。私はこんなところに、好き好んで来たワケじゃない。
お金だって無い。けれど、あぁ・・・
身体が怠くて、あちこちが痛む。
早く、早く楽になりたい。
頭が重くて、思考がまとまらない。
なんで私が、こんな目に・・・?
答えの無い自問にも、既に倦んで疲れた。
だから、それら全てを忘れる為・・・卑しい笑みを浮かべる男になけなしの金を払い、パイプに詰めてもらったそれへと火を点け、逸る気持ちを抑え、ゆっくりと深く息を吸う。
すると、漂っていた饐えたような悪臭が、朦々とくゆる紫煙の甘酸っぱい匂いに包まれて混ざり、段々と気にならなくなる。
紫煙を呑むと身体のあちこち苛んでいた痛みが遠くなり、次第に頭がぼんやりとして来て、なにもかもがスッとどうでもよくなって行く。
薄暗くて汚い場所も、虚ろな表情で転がる阿片中毒者達も、卑しい売人の笑みも、路地の冷たさも、少し前に考えていた自分が理不尽な目に遭っている理由も、次に阿片を買う為の金の工面も、なにもかも全部、全部がどうでもよくなって――――
女は冷たい路地裏に座り込み、今にも雨が降り出しそうな鉛色の重い空を見上げた。
故郷の空とは全く違う、重苦しい色の空を、虚ろな瞳に映して――――
※※※※※※※※※※※※※※※
波打つ金髪に、白い肌、パッチリとした薄茶の瞳を彩る長い睫毛、ツンと高い鼻に滑らかな頬、艶やかな赤い唇、細い顎。愛らしい人形ような容姿のリシュエンヌは、フランスの裕福な子爵家に生まれた一人娘。
子爵という下位貴族の家ではあるが、下手な高位の貴族よりも余程裕福な暮らし振りで、大きな屋敷で両親と使用人達に囲まれ、蝶よ花よと大切に大切に甘やかされて育った。
そんなリシュエンヌは幼い頃から、美しいモノや綺麗なモノが、とてもとても大好きだった。
けれど、リシュエンヌが気に入って大事に大事にしているモノは、なぜかすぐに壊れてしまう。
お気に入りのうさぎのぬいぐるみも、金の髪と透き通った青いガラスの瞳が綺麗なお人形も、手足が捥げたり腹が裂けて中の綿が出たり、首が取れてしまったりしてあまり長持ちしなかった。
手足が取れて、綿が出たり、目が失くなったり、髪が禿げたりしても、リシュエンヌはそれらを大事にしていたのに、いつの間にか壊れたぬいぐるみや人形は不気味だと、侍女達に処分されてしまい、また新しいぬいぐるみや人形に入れ換わっている。
リシュエンヌは、壊れたモノは壊れたモノとして可愛がって大事にしているのに、それらが勝手に処分されて新品に入れ換えられてしまうことを、少し残念に思ったりもした。
そんなリシュエンヌの小さい頃、特にお気に入りの遊びは――――薔薇の咲き誇る庭でひらひらと舞う蝶を捕まえ、その翅を毟り、脚を捥いで、地面に落とし、無様に踠いて、やがて弱って動かなくなる。蝶だった面影を無くした虫が死ぬまでの、その過程をじっくりと眺めることだった。
蜻蛉や蝉、飛蝗などの地味な虫ではなく、美しい蝶の翅を毟って地面に墜とすことが、リシュエンヌは好きだった。
子供の頃の、無邪気で酷く残酷な遊び。リシュエンヌのその遊びを止める者は誰一人無く、庭には沢山の翅が散って行った。
けれど、リシュエンヌは長ずるにつれ、段々と蝶のような単なる羽虫では物足りなくなって行った。
リシュエンヌは、美しいモノが大好きだった。
美しいモノを踏み躙って、その美しいモノの苦しむ姿を見ることが、特に。
最初は屋敷に勤める侍女だった。若くて綺麗な・・・そして、可哀想な女だった。
彼女はリシュエンヌよりも高位の貴族だったのに、家が没落し父親が自殺。病気の母親を抱えて、リシュエンヌの家の侍女になったという。
物語のような転落人生。そんな可哀想な境遇にもかかわらず、真っ直ぐな瞳でリシュエンヌを見詰め、「お嬢様、ぬいぐるみや人形をもっと大切に扱ってください」「翅を毟って殺すなど、蝶が可哀想ではありませんか」そんな苦言を呈した女。
リシュエンヌは、「わかったわ。あなたが私と遊んでくれるなら」と返事をして、シンデレラのような可哀想な境遇なのに、とても健気で綺麗な彼女と遊ぶことにした。但し、舞踏会は開かれず、王子様も現れることは無いけれど。
それから、その侍女は一月も経たずにリシュエンヌの屋敷を辞めてしまった。
遊んでくれると言ったのに・・・
なぜか、リシュエンヌのお気に入りのモノは長持ちしない。いつの間にか、失くなってしまう。
リシュエンヌは酷く残念に思った。
それから屋敷の使用人達は、なぜかリシュエンヌにビクビクした態度を取るようになった。
十代に入ったリシュエンヌは益々美しくなり、子爵令嬢という身分にもかかわらず、その美貌に高位貴族からも縁談の話が多く舞い込んだ。
リシュエンヌは男達にはちやほやされていたが、女性達からはとても恐れられていた。
リシュエンヌの目に留まり、遊び相手として気に入られた女性は悲惨な目に遭う。「まるでサロメのような令嬢リシュエンヌ」「目を付けられないよう気を付けないと」そんな噂を囁きながらも、率先して遊びに便乗していた令嬢達もいたが、それでもリシュエンヌは男達の人気者だった。
早熟な美しい容姿に、蜜のように甘ったるい声。我が儘で気分屋。男を振り回す猫のような性格。
男達はまだ年端も行かぬ少女であるリシュエンヌにこぞって傅き、甘い言葉を囁き、プレゼントを貢いでその歓心を得ようとした。
そんな日々に翳りが帯びたのは、リシュエンヌが十四歳になった頃だろうか?
リシュエンヌのお気に入りだった可哀想な令嬢が遺書を遺して自殺した。
リシュエンヌは、その可哀想な境遇の令嬢が不幸になって行く様を愉しんでいたのだが・・・リシュエンヌの歓心を買いたい男達が、その令嬢を複数人で暴行したらしい。
無論、リシュエンヌとしては、そんなことは全く望んでいなかった。
けれど、それがリシュエンヌの指示で行われたことで、この身を穢されたので生きては行けない……と。そんな遺書を遺し、高位貴族の令嬢が自殺した。
リシュエンヌはただ、お気に入りの可哀想な令嬢の不幸な様を見物していたかっただけなのに、馬鹿な男達がそれを邪魔した。挙げ句、リシュエンヌの為にやったと吹聴して回った。
考え無しの馬鹿な男達のせいで、リシュエンヌはお気に入りの可哀想な令嬢を失った。
更には、「男を侍らせて気に入らない女を酷い目に遭わせる毒婦」そんな噂が立てられた。
酷い、侮辱だと思った。
あの子を気に入らないだなんて、リシュエンヌはそんなこと、一度として思ったことは無い。
だってリシュエンヌは可哀想なあの子のことがとても大好きで、一緒に遊びたかっただけなのに。
できることならリシュエンヌは、可哀想でとても綺麗なあの子を、自分の手で直接傷付けたかった。なのに、その機会を永遠に奪われた。
酷く憂鬱な気分で過ごしていたら、それから程なくしてリシュエンヌの嫁入りが決まった。あれよあれよと言う間に、リシュエンヌは三十も年の離れた田舎者の伯爵へと嫁ぐことになっていた。
どうやら、『男を侍らせて気に食わない女を酷い目に遭わせる毒婦』という噂のせいで、リシュエンヌへのまともな縁談が逃げてしまったそうだ。
馬鹿なことを仕出かしたあの男達の中には、リシュエンヌを娶りたいと申し出た者もいたそうだが、また馬鹿なことをされては敵わないと、家族に大反対されてリシュエンヌとの接触を禁止されたという。
リシュエンヌとて、あんな馬鹿な男達の顔なんて見たくもないと思っていた。けれど・・・
三十も年上の、全く見知らぬ男に嫁ぐのと馬鹿な彼らだったら、まだ馬鹿な彼らの中から選ぶ方がましだったかもしれない。リシュエンヌがそう思ったときには、既に遅かった。
短期間でリシュエンヌの嫁入りの準備は整い、話が出てから二ヶ月も経たないうちに、リシュエンヌは田舎の伯爵領へ向かう馬車に揺られていた。
着いた伯爵家は、リシュエンヌの子爵家よりも小さく、酷く田舎臭い外観だった。
そしてリシュエンヌは、結婚式さえ挙げずに三十も年上の伯爵の妻となった。
伯爵家にいるのは、皆年配の者ばかり。一番年下なのが十代のリシュエンヌ。そのすぐ上がもう、三十代のメイド。若い人が少ない。
そして、リシュエンヌがなにより退屈だったのは、夫となった伯爵を含め、美しい者がいないことだった。地味で華の無い、パッとしない容姿。醜いとまでは行かないが・・・リシュエンヌの好きな、綺麗で可哀想なモノが見当たらない。美しいモノ、綺麗なモノの無い、長閑なだけの、冗長で退屈な田舎暮らし。
見渡す限りの田園風景に都会のきらびやかさは無く、美味しい物も新しいお菓子も無い。服もアクセサリーも、香水も化粧品も、少し遠出して町まで行かないと手に入らない。そして、遠出しても、それらは全て流行遅れの物ばかり。
都会に住み、両親に甘やかされ、美貌を誇り、男達にちやほやされ、欲しい物を我慢したことの無かったリシュエンヌに、そんな田舎暮らしが耐えられる筈もなかった。
リシュエンヌは数ヶ月も経たずに酷く退屈して、田舎暮らしに飽いていた。
だからリシュエンヌは、田舎に突然現れた、あの男の誘いに乗ってしまったのだろう。
その若い男は、退屈していたリシュエンヌに甘い言葉を囁いて近付いた。
都会にいた頃なら兎も角、リシュエンヌの眼鏡に適う美しいモノの無い田舎だったからリシュエンヌは――――
「逃げよう。あなたは、こんな場所にいていい人じゃない。俺がなんとかする。だから・・・」
抱き締めてそう囁いた男の言葉に、頷いた。
そして、男の手配に従って馬車に乗り、あの美しいモノの無い田舎を出て、港から船へ乗った。
船が着いた港で聞こえて来たのは英語ばかり。
「さあ、教会へ行って離婚手続きをしよう」
そう微笑んだ彼に従い、リシュエンヌは教会へ行って言われるがままに離婚の手続きをした。
「ああ・・・これで、やっと・・・」
感慨深そうに、うっそりと呟いた男は、リシュエンヌを見て嬉しそうに笑い、
「それじゃあ、今夜からの宿に行こう」
リシュエンヌをとある宿へと案内した。
そこは高級そうな宿だったが、男は部屋へ腰を落ち着けることも無く、
「用事を済ませて来る」
と一人で出掛けて行った。
暫くしても男が戻って来る様子は無く――――
部屋へとやって来たのは、宿のオーナーを名乗る男性だった。そして、男性はこの宿がどういう場所で、リシュエンヌがどういう立場にあるのかということを、フランス語で話して聞かせた。
「あなたは、彼に売られたのですよ」
と、ニヤニヤとした笑顔で。
「どうぞ。彼からの手紙です」
差し出された手紙には、『オリヴィエの屈辱を思い知れ』とだけ強く書き殴られていた。
オリヴィエというのは、リシュエンヌが好きだったあの自殺した『可哀想な令嬢』の名前。
「なんでも、あなたは彼が可愛がっていた親戚のお嬢様の仇なのだとか」
ニヤニヤと笑う男。
こうしてリシュエンヌは、住んでいたフランスの…嫁ぎ先の田舎から男と駆け落ち同然にイギリスへと渡り、騙されて娼館へと売り飛ばされた。
最初は、娼婦になるなど冗談じゃないと思った。けれど、ここは母国のフランスじゃない。海を渡った外国だ。荷物は持っているが、お金の管理や移動の手配は全て男に任せていた。
今のリシュエンヌは無一文に等しい。いや、身を売られたのだから、借金持ちということになる。
リシュエンヌは実家へ連絡して迎えに来てもらおうか、一瞬考えた。
けれど――――実家へ連絡して迎えに来てもらったとしても、どうせまた直ぐにあの田舎のような場所へ追いやられ、押し込められるのかもしれない……と、思ったリシュエンヌは、それを嫌った。
あんな、リシュエンヌが大好きな可哀想で美しいモノや可哀想で綺麗なモノの無い、鄙びた場所へ戻るくらいなら、いっそ・・・
こうしてリシュエンヌは、復讐として娼婦へと身を堕とされたと言えるが――――
「ふふっ・・・彼も甘いわよね」
娼婦は娼婦でも、リシュエンヌがなったのは、高級娼婦。
高級娼婦というのは、国営の娼館に勤める娼婦のこと。街の路地なんかで袖を引くような私娼との一番の違いは、自分で客を選ぶことができることだろう。高級娼婦は、無理に男達に身を任せなくてもいい。その代わり、高い教養と知性、社交性とが必要不可欠となるが。
元々、リシュエンヌは下位貴族ではあるが子爵家の令嬢。それも、裕福だった実家でそれなりの教育が施されていたし、美しいモノ好きだったこともあり、教養も高い。
そして、その美貌、蜜のように甘ったるい声、フランス人としてのファッションセンス、気紛れで猫のような性格とで次々と男達を夢中にさせ、あっという間に売れっ子になり、借金を全額返済した。
リシュエンヌは『彼』の思い描いていた娼婦像とは、確実に異なる生活をしているだろう。『オリヴィエの屈辱を思い知れ』という『彼』の目論見も、今のところリシュエンヌには無縁だ。
高級娼婦のリュリュとしてドレスを纏い、化粧をし、寄って来る男達の相手をして、観劇や音楽鑑賞、美術館、食事などへ誘われ、酒を飲み交わし、プレゼントを貰う。
リシュエンヌが結婚させられる以前のような生活に、男達の相手をすることへの義務と酒が付随するようになったような感じだろうか? 強いて不満を挙げれば、フランス生まれのリシュエンヌには、イギリスの食事が不味いことに辟易しているが。
それに、リシュエンヌが高級娼婦も悪くないと思う一番の理由。それは――――
高級娼婦達が皆、それぞれ美しいことだ。中には地味な女もいはするが、それは極小数。リシュエンヌの同僚である高級娼婦達はきらびやかで華やかで、綺麗で美しい。そしてなにより・・・可哀想な女性が多いことが嬉しかった。
勿論、中には好きで高級娼婦として働いている女性もいなくはない。けれど、そんな女性は少ない。
大半の女性達はやむにやまれぬ事情で高級娼婦となり、けれど高級娼婦となったことを憂いていた。または、それを恥じている女性もいた。
家庭の事情で。大金が必要となって。または、リシュエンヌのように男に騙されて・・・
綺麗で美しいのに、不幸で可哀想な女性達。
リシュエンヌは、彼女達が不幸であれば不幸である程、愛おしくて堪らない。
だからリシュエンヌは――――
歌手を夢見ている同僚へ強い酒をたくさん飲ませ、わざとその喉を潰した。
弟の学費の為に働いている同僚に、その上客の前でわざと粗相をさせた。
家族の生活費を秘密で稼いでいる同僚を、顔の広い客へと紹介した。
同僚になったばかりで男あしらいが苦手な新人へ、酷く評判の悪い客を宛がった。
病気の家族の為に高価な薬が必要だからと、嫌々働いている同僚が零した悪口を客へ耳打ちした。
父親の借金の為に働いている同僚の父親を、知らない振りをして店に招待した。
娼婦達の間で不和が起こった。
客達が暴力事件を起こした。
刃傷沙汰が起こった。
娼婦の一人が自殺した。
そうして、どんどん暗い顔になって可哀想に行く彼女達を愛でていたら・・・リシュエンヌはある日、娼館のオーナーに別の娼館を紹介された。
この店への借金はもう無いのだから、頼むから出て行ってくれと、頭を下げられた。
リシュエンヌがいると、店の娼婦達が次々と駄目になって行くから、と。
リシュエンヌは、それに応じて店を移った。
そしてまた、似たようなことを繰り返した。
不幸で可哀想な娼婦達を愛おしく思い、愛でて、更に不幸にさせて行く。
こうしてリシュエンヌは、長いと数年。短いと数ヶ月程で、娼館を転々として行った。
リュリュから、アンヌ、アン、アンネ、アンナ、リュシー、リズ、リュー、リュンと名前を変え、化粧を変え、印象を変えながらも・・・
やがてリシュエンヌには娼婦潰しという悪名が立ち、大きな街の娼館には居られなくなり、少しずつ小さな街の娼館へと移動して――――
__________
※薬物乱用は心身を損ないます。薬物乱用は絶対にしないでください。
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