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あぁぁァあァぁぁァーーっ!!!!

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 唄が、止んだ。

 けれど、唄の聴こえた方向は判る。

 そこは、知る人ぞ知る阿片窟の裏路地で・・・
 レイニーに、「なにがあっても絶対ぇ近寄ンな」とキツく言われている場合だ。

 どう、するか?

 声の主は、この奥にいる。
 それが判っている・・・・・・・・

「・・・」

 危ないと思ったら、直ぐ様逃げる。
 そう覚悟を決めて、足を踏み入れると・・・

※※※※※※※※※※※※※※※

 ぼーっと歩いていて、気付いたらいつの間にか知らない路地裏にいて・・・

 とても綺麗な女の人・・・が、いた。
 ローズねーさんよりも綺麗な女の人を、初めて見た。いや、ローズねーさんは人間の範疇はんちゅうでの綺麗さなのだと、そう・・理解させられた。この人…ヒトの綺麗さは、初めて目にするような人外の美しさをしている。

 どこか、見覚えがあるような・・・?
 よく、思い出せない。けれど・・・判る。

 人間では、有り得ない程の圧倒的な美貌。
 彼女は美しいが、その美しさは魔性。
 男を破滅させるたぐいの女だ。
 前にコルドが話してくれた・・・ファム・ファタールと呼ぶのに相応しいであろう魔性の女。

 その彼女が、わらった。
 その圧倒的な美貌に見蕩みとれ、遅れて赤い唇が紡いだ物騒な言葉に、ハッとする。

「…殺人、者?」

 それは、後ろへと向けられた声。

 たのしむように、けれども明らかに見下したような、蔑むようでいて、そしてなにもかもを見透かしている風なアクアマリンの視線は、こちらを通り越し、その背後へ向けられている。

 後ろには、誰がいる?

「そう。妖精の取り換え子チェンジングの子供。お前をここへ呼んだつもりは無かったのだがな?早く逃げた方が身の為だ」

 憐れむような視線が、こちらを向いた。

「チェンジング?それって…」

 次いで、

「シルトっ!?チッ、間に合わんか・・・」

 アクアマリンが慌てたように見開いてなにかを言い、そして・・・ドン!と、突き飛ばされた。

「わっ!?」

 固い地面に転ばされる。

った…」

 誰だと思って後ろを振り返ると、

「…え?」

 警察のおじさんがナイフを振り上げていて、

「っ…げろ、ばかっ!」

 今朝に聞いた、言わせてしまったしゃがれ声が、した。今朝よりも怖い顔でこっちを向いているコルドの肩に、

「コル、ド?」

 鈍く輝くナイフが、

「っ!?」

 突き立てられるのが、やけにゆっくりと見えた。

「クソっ!」

 低い声の悪態が響いた。長身の男が、警察のおじさんを殴り飛ばした。カランと、赤く濡れたナイフが地面に落ちるのが見えた。

 それから、ふらりとコルドが倒れて・・・

 飛び散る真紅の、熱。

 辺りに、強く、血の、匂いが、漂い・・・

 頭が真っ白になった。そして、

「あぁぁァあァぁぁァーーっ!!!!」

 誰かの、絶叫が聴こえた。

 ヤだっ!!!
 なにこれ違うっ!?
 こんなのっ、嫌だっ!?
 おかしいよっ!?!?
 間違ってるっ!?違う違う違う違うっ!!!
 なんでっ!?コルドがっ!?
 誰か、助けてっ!?

 倒れたコルドへ震える手を伸ばし、ドクドクと赤い熱を流す傷口へそっと触れ、強く抱き締める・・・

 少し低めの体温が、傷口から流れ出て行く・・・

「誰、か…僕の、コルドを…助けてっ!!!」

 とろりと熱くて、赤い血が手を濡らし・・・

 ・・・・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・

「なにをしているっ!?」

 突然、とても怒ったような声がして、ぐいっと肩を掴まれてコルドから離される。

「・・・え?」

 僕を非難の眼差しで強く睨むのは、眼鏡の神父。

「君はっ、自分のになにをしているかわかっているのかっ!?」
「なに、って・・・?」

 僕は、コルドの傷口に触れ、て・・・?

「血に狂ってる場合かっ!?」

 あ、れ?あかくて綺麗な血を流す、

「僕、は・・・」

 ぐったりとしたコルドの肩の傷へ、

いつものように・・・・・・・口付け、て・・・?」

 美味しい美味しい、コルドの血の味が・・・
 口の中に、広がっている。

 僕はコルドへキス、して・・・

 熱くて甘い、綺麗な紅い液体が・・・

 コクリと喉を通る感触がした。

 僕は、なにを、して、いる・・・?

 コルドに、なにを、した・・・?

※※※※※※※※※※※※※※※

 深夜。それはいつも、満月に近い周期で起きた。

 カチャリと、真夜中に開く部屋のドア。
 オレの部屋へと入って来るのは、薄く柔らかい笑みを浮かべるホリィ。

 ぼんやりと赤い燐光を帯びる青灰色の瞳。
 どこか酔ったように上気する頬。

 オレを抱き寄せたホリィが、首筋へ口付ける。

 そして、皮膚が食い破られる痛み。
 コクコクと小さく喉が鳴り、ホリィがオレの血を飲んでいるのが判る。

 この行為がいつの頃から始まったのかは、わからないけど・・・覚えている限りでは、リーシュに首を絞められるよりも前からだと思う。

 不思議と、誰もこのことを知らない。

 オレの血を飲んだということを、翌朝のホリィは、全く覚えていない。

 翌日に、ホリィの噛んだ傷跡が首に残っているのが、オレの夢ではないという証拠。

 だからこれは、夢遊病の一種なんだ。

 栄養失調だったり、異食症という病気。
 他人の血を好んで飲むという病気もある。
 図書館で、調べた。沢山調べたんだ。
 いろんな本を読んだ。
 だから・・・
 ホリィは、病気・・・なんだよ。

 吸血鬼なんか、いるワケないんだから。
 狂人か、病気にる異常な行動。

 ホリィは、ヴラド・ツェペシュやエリザベート・バートリのような異常者なんかじゃない。

 夢遊病は、寝ているときに普通ではない行動を取ってしまって、それを自覚しないという病気なのだと、本に書いてあった。
 だからホリィは、血を飲みたくなる夢遊病。

 首はいつも隠しているし、オレは傷の治りが早い方だから、誰にもバレてない。
 満月の狂気ルナティックが起こす、ホリィの夢遊病。
 瞳が赤くなっているのは、気のせい。見間違い。
 そう、自分に言い聞かせて来た。ずっと・・・

 ああ、でも・・・今はまだ、夜じゃない。
 満月も、こないだ終わったのに・・・

 首じゃなくて、肩が熱くて痛い。

 ホリィの瞳が、赤い燐光を放つ。
 口元が、赤く染まっている。
 服も、赤い。

 本当はさ、ずっと聞きたかったことがあるんだ。「最初に…首を切られて捨てられていたオレを見付けて助けたときに、オレの血を飲んでしまったから、ホリィはそう・・なったの?」って。
 でもさ、ずっと怖くて聞けなかったんだ。
 ホリィが覚えてないからって、そう自分に言い訳して、それ・・を聞く勇気が無かった。

 また、ホリィを血塗ちまみれにしてしまった。

 ねぇ、ホリィ。オレが悪いのかな?

「止血するっ、退けっ!」
「僕、は・・・なん、でっ?コルド、ごめ・・・」

 震える声。ライに、無理矢理オレから引き剥がされたホリィの顔が、絶望に染まって行く。

 なんで、こんなところにいるのさ?
 折角せっかくオレが、遠ざけていたのに。
 誰にも、言わなかったのに。
 みんなに、隠してたのに。

 お前自身にも、上手く隠せてたのに。

 そんな顔、させたくなくて・・・

 ホリィのこんな顔、見たくなかった。
 こんな風に、謝らせたくなかった。

 ホリィの、ばか・・・

__________

 こんなところで切っといてなんですが、コルドの性別については、敢えて明記していませんでした。

 GLいつ出て来るんだ?と思っていた方、もう既に出ていました。コルドとローズのイチャイチャが百合シーンです。ステラとの絡みも、微百合に入るかもしれません。
 ちなみに、ローズとリーシュはコルドが女の子だと知っています。

 ネタバレは、次回も続きます。
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