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なに?この組み合わせ。

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 娼館の外へ出ると・・・

 待たせていたファングを、なぜか撫で捲っているステラがいた。ファングは迷惑そうだが、ステラはとても幸せそうだ。
 その横には、ニヤニヤ笑うレイニー。

「なに?この組み合わせ」

 不思議に思ってレイニーを見上げる。

「ああ、ドチビがお前と仲良いコイツに八つ当りしてたから連れ出した。ンで、犬見付けて突進。撫で捲ってる。ケケケっ、見ろよ?この迷惑そうなツラ

 笑うレイニーを、チラリと一瞥する蒼い瞳。

 オレのせい、か・・・

「・・・ごめん、レイニー」
「いや、謝ンならコイツにだろ」

 意味不明なままでスノウに八つ当りされるステラは、堪ったもんじゃないだろう。
 しかも二人は、意思疎通ができない。スノウの方に、する気が全く無い。

「うん。後で謝る」
「あ?…今は、無理か。なんも見てねー」

 ご満悦の表情でもふもふな銀灰色の毛並を撫で捲るステラ。その邪魔をするのはちょっと・・・

「ローズねえと会ってたのか?」
「まあね」
「めっちゃ匂い付いてンぞ。なにしてた?」

 探るように見下ろすレイニー。

「なにって・・・男がうらやましがるようなこと?話して、キスされてハグされた」

 無論、ディープなのは黙っておく。

「・・・お前、オモチャにされてね?」
「ま、多少ね」
「お前、こないだもローズ姉ンとこだったろ。多くねーか?最近」
「…例の高利貸し、ローズねーちゃんの客だったってさ」
「そっか。それでお前を・・・」

 ローズねーちゃんがオレで精神安定させることを、レイニーは察している。こういうとこが鋭い。

「…キツいか?」
「別に。ローズねーちゃんだから平気」
「お前、本っ当ローズ姉にだけ、懐いてンのな?」
「ローズねーちゃんは・・・これ見ても気持ち悪いとか、可哀想・・・って言わないからね」
「・・・」

 首を撫でて言うと、レイニーが顔を歪めた。普段は悪振って悪態ばかり吐くけど、案外繊細だ。スノウやホリィよりも、実は他人の機微に聡い。

「ステラはオレが見てるから。レイニーはもう、行っていいよ?」
「気を付けろよ?」
「レイニーもね」
「じゃあな」

 ぽんとオレの頭を撫で、レイニーが行った。

 ウキウキと迷惑そうなファングを撫で回すステラの肩をぽんと叩くと、

「?、………っ!」

 音の無い声がにこりとオレを呼ぶ。

 そして、拾った枝で地面に字を書く。

『スノウが、ごめん。八つ当り』

 ステラはふるふると首を振り、オレから枝を取って字を…返事を書く。

『いいよ。慣れてる』

「・・・」

 慣れる程の八つ当り・・・

『ホントごめん』
『コルドのせいじゃない。わたしとスノウ、元から仲良くないもの』

「それは…」

 そうだけど・・・

『あの子、ワガママだし』
『確かに』
『コルドは大丈夫なの?今朝の喧嘩、ウェンとレイニーから聞いた』
『平気。スノウがそう思うなら、そうなんだろ。オレはスノウに冷たいんだ』

「っ!?」

 キッとオレを睨み、木の枝を奪い取るステラ。

『違う違う違う』

 乱暴な筆跡で、ふるふると首を振る。

『スノウは、スノウがバカなだけ』
『あの子はわかり易く優しくしてくれる人しか好きじゃないだけ』
『わたし知ってる』
『好き』
『コルドもウェンもレイニーも、本当はすごく優しいから好きだもん』

 ガリガリと枝を動かすステラの目尻に滲む涙。

「あ…」

 慌ててステラの頭を撫でる。

「ごめん。泣かすつもりはなかった」
「?」
「・・・怒ってくれて、ありがとう」
「??」

『ステラも、優しい。オレも好きだよ』

 手の平に書いた言葉に、えへへと照れ笑い。

『場所移動しよ』
『どこに行くの?』
『ステラの行きたいとこ。付き合うよ』

 にこっと笑顔で手が引かれる。
 泣かせなくてよかった。

 あっちあっちと、指を差すステラの向かうままに街を散歩。二人と一匹で歩き回る。無論、危険な場所へは行かないよう誘導して。

 あちこち気ままにうろうろして、休憩がてらに公園へ。ステラと二人で芝生に座ると、ステラがぽんぽんと芝生を叩いてファングに自分の隣に座るよう強要?している。

 ステラはホリィやスノウと違って、公園に来ても寂しいとは言わない。悲しい顔をしない。
 むしろ、公園にいる親子や兄弟姉妹を見るのが好きなようだ。にこにこと眺めている。

 オレは特になにも思わないが・・・
 ステラが寂しくないなら、それでいい。

 幸せそうにもふもふと、迷惑そうな銀灰色の毛並を撫でるステラ。どうやらファングは、ステラに負けたようだ…を、ぼんやりと眺める。
 微妙に恨めしげな蒼を無視。勝手にオレに付いて来ているのはファングの方だ。オレはステラといるのだから、それが嫌ならどこかへ行けばいい。

「おーい」

 遠くから、誰かが誰かを呼ぶ声がした。

「ちょっと、君。無視はヒドくない?」

 近くで柔らかいテノールの声がして、横合いからぬっと影が差した。

「?」

 顔を上げると、黒い神父服。どこかで見たような・・・薄味な顔に眼鏡の若い男。

「・・・ああ、こないだの迷子か」

 思い当たったのは、こないだ教会まで案内してほしいとオレに頼んで来た迷子の神父。

「!・・・まあ、確かに迷子だったけどさ」

 がくりと項垂うなだれる眼鏡。

「教会、辿たどり着けた?」

 案内はしなかった。物くれなかったからな。

「うん。上を見上げると、地図よりも判り易かったよ。ありがとう」
「別に。オレはなにもしてない」
「ボクの名前はライ」
「ふぅん・・・」

 Rじゃなくて、Lの発音。

「いや、普通は自己紹介したら名前を教えてくれるものじゃない?」

 困ったようにオレを見下ろすライ。

「勝手に自己紹介したのはアンタの方だろ」
「いや、まあ…そうなんだけどさ…そっちの女の子は、ボクの方を見もしないし・・・」

 ファングに夢中のステラを見て、自分に全く見向きもしない様子にへこむライ。

 まあ、聴こえないからしょうがない。ステラは、集中力がとても高いんだ。だからステラは、外へは一人で出せない。治安がよくない場所で周りが見えなくなるのは致命的に危ない。

「なに?なんか用?」
「用って程でもないんだけど・・・もっとこう、和やかに会話してくれてもいいと思うな?」

 にこりと、会話をしてほしいという催促。

「・・・もしかしてアンタ、友達いないの?」
「うっ…そんなにハッキリ言わなくても…」

 図星のようだ。

「一回会っただけのガキ相手に寂しさ紛らわそうとするなよな?いい大人がさ」

 辛辣な言葉を投げたのに、薄味な顔が口を開く。

「なんか…この街、変だろう?その空気が少し…合わないっていうか・・・」

 沈んだようなテノール。
 そりゃあ、変だろう。変に決まっている。ここは今、連続変死…いや、殺人事件の真っ只中だ。

「…余所よそ者だから、ハブられてんの?」

 今の空気感なら、有り得る。

「そうじゃなくて、ボクは噂について、客観的に話ができる相手が欲しいんだ」

 ということは、ライは客観的じゃない噂を聞かされているということ、か。教会だからな?不安を口にする人の相談に乗らなくてはいけないのだろう。吸血鬼やら人狼だかの不安を口にする住民の、ね。

「ふ~ん…」
「君は…こう言っちゃなんだけど、歳の割に大人びていて現実的だから」

 少し、気が変わった。

「明日、暇な時間帯は?」
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