上 下
1 / 6

しおりを挟む

 王城の、自分の居住区にあるサロンにて。

 月に二回の定例のお茶会の席。

 気合いを入れて用意を整え、着席した婚約者と対面したわたしは、人払いをした。

 これから、婚約者へとても重要な話をする。

 使用人達が出て行くのを確認して――――

「婚約を解消するか、白い結婚。そうじゃなければ、愛人を認めてくれるかしら?」

 わたしは、婚約者にそう切り出した。

 婚約者は目を見開いてわたしを見ている。いつもは凛々しい顔が、とても驚いている。ふふっ、そんな顔も可愛らしいわ。

「どうして、と聞いても?」

 まあ、理由を聞くのは当然のことよね。

 わたしがとても理不尽なことを言っているのは、自分でも充分判っているもの。

「これから話すことは、内密にしてくれる?」
「了承致しました」

 婚約者は無闇に怒り出すこともなく、真剣な顔で頷いてくれた。やっぱり、頭のいい人ね。

 気が重いけど、口を開く。

「……うちの王族って、詰んでると思うのよねぇ」

 頬に手を当て、溜め息を吐く。

「詰んでいる、とはどういうことでしょうか?」

 ぱちぱちと瞬く婚約者の瞳。

「ほら、少し前に風邪が流行ったじゃない? それでうちの王族、軒並みダウンしちゃったでしょ? そのときわたし、思ったのよね。王子が死ぬと、本気でマズいって」

 つい一月ひとつき程前に、国内で風邪が流行った。

 その風邪自体は、一般の人には軽い症状が出る程度の、毒性の強くない風邪の筈だった。
 しかし、その風邪は王族に猛威を振るった。風邪を引いた王族は、軒並みダウン。高熱と酷い頭痛とで、最低でも二日は寝込んでしまった。体力の無い年寄り連中は、一月ひとつき経った今でも寝込んでいる者もいる。

 王族と血の遠い貴族や平民達は、咳やくしゃみなどの軽い症状。寝込むのは、体力の無い老人や乳幼児ばかりだったという。

 幸いなことに、この風邪に因る死者はあまりいない。感染の方も、落ち着いて来ているという。

 まぁ、王族が軒並みダウンしちゃったから、お城は今……滞った執務の片付けに追われていて、鬼のような忙しさが続いてるんだけどね!

 わたしも勿論、寝込んじゃって……回復してからは怒濤どとうの忙しさ。この、定例のお茶会の時間を捻り出すのも、なかなか大変だったのよねぇ。治ったばかりなのにあまりの忙しさに、また体調を崩すかと思ったわ。

 頑張ったわたし、偉い!

 とは言え、切り出した話の内容が……

「それは、当然のことではありませんか?」

 これだけじゃあ、やっぱり納得してくれないわよね……『婚約解消か白い結婚、愛人を許せ』だなんて。本っ当に気は進まないけど、話を続けましょうか。

 はぁ……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました

四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。 だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

婚約破棄ならもうしましたよ?

春先 あみ
恋愛
リリア・ラテフィール伯爵令嬢の元にお約束の婚約破棄を突き付けてきたビーツ侯爵家嫡男とピピ男爵令嬢 しかし、彼等の断罪イベントは国家転覆を目論む巧妙な罠!?…だったらよかったなぁ!! リリアの親友、フィーナが主観でお送りします 「なんで今日の今なのよ!!婚約破棄ならとっくにしたじゃない!!」 ……… 初投稿作品です 恋愛コメディは初めて書きます 楽しんで頂ければ幸いです 感想等いただけるととても嬉しいです! 2019年3月25日、完結致しました! ありがとうございます!

【完結】仕事を放棄した結果、私は幸せになれました。

キーノ
恋愛
 わたくしは乙女ゲームの悪役令嬢みたいですわ。悪役令嬢に転生したと言った方がラノベあるある的に良いでしょうか。  ですが、ゲーム内でヒロイン達が語られる用な悪事を働いたことなどありません。王子に嫉妬? そのような無駄な事に時間をかまけている時間はわたくしにはありませんでしたのに。  だってわたくし、週4回は王太子妃教育に王妃教育、週3回で王妃様とのお茶会。お茶会や教育が終わったら王太子妃の公務、王子殿下がサボっているお陰で回ってくる公務に、王子の管轄する領の嘆願書の整頓やら収益やら税の計算やらで、わたくし、ちっとも自由時間がありませんでしたのよ。  こんなに忙しい私が、最後は冤罪にて処刑ですって? 学園にすら通えて無いのに、すべてのルートで私は処刑されてしまうと解った今、わたくしは全ての仕事を放棄して、冤罪で処刑されるその時まで、押しと穏やかに過ごしますわ。 ※さくっと読める悪役令嬢モノです。 2月14~15日に全話、投稿完了。 感想、誤字、脱字など受け付けます。  沢山のエールにお気に入り登録、ありがとうございます。現在執筆中の新作の励みになります。初期作品のほうも見てもらえて感無量です! 恋愛23位にまで上げて頂き、感謝いたします。

愛するひとの幸せのためなら、涙を隠して身を引いてみせる。それが女というものでございます。殿下、後生ですから私のことを忘れないでくださいませ。

石河 翠
恋愛
プリムローズは、卒業を控えた第二王子ジョシュアに学園の七不思議について尋ねられた。 七不思議には恋愛成就のお呪い的なものも含まれている。きっと好きなひとに告白するつもりなのだ。そう推測したプリムローズは、涙を隠し調査への協力を申し出た。 しかし彼が本当に調べたかったのは、卒業パーティーで王族が婚約を破棄する理由だった。断罪劇はやり返され必ず元サヤにおさまるのに、繰り返される茶番。 実は恒例の断罪劇には、とある真実が隠されていて……。 愛するひとの幸せを望み生贄になることを笑って受け入れたヒロインと、ヒロインのために途絶えた魔術を復活させた一途なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25663244)をお借りしております。

婚約破棄は計画的に。

秋月一花
恋愛
「アイリーン、貴様との婚約を――」 「破棄するのですね、かしこまりました。喜んで同意致します」  私、アイリーンは転生者だ。愛読していた恋愛小説の悪役令嬢として転生した。とはいえ、悪役令嬢らしい活躍はしていない。していないけど、原作の強制力か、パーティー会場で婚約破棄を宣言されそうになった。  ……正直こっちから願い下げだから、婚約破棄、喜んで同意致します!

(完)婚約破棄ですね、従姉妹とどうかお幸せに

青空一夏
恋愛
私の婚約者は従姉妹の方が好きになってしまったようなの。 仕方がないから従姉妹に譲りますわ。 どうぞ、お幸せに! ざまぁ。中世ヨーロッパ風の異世界。中性ヨーロッパの文明とは違う点が(例えば現代的な文明の機器など)でてくるかもしれません。ゆるふわ設定ご都合主義。

(完)婚約破棄ですか? なぜ関係のない貴女がそれを言うのですか? それからそこの貴方は私の婚約者ではありません。

青空一夏
恋愛
グレイスは大商人リッチモンド家の娘である。アシュリー・バラノ侯爵はグレイスよりずっと年上で熊のように大きな体に顎髭が風格を添える騎士団長様。ベースはこの二人の恋物語です。 アシュリー・バラノ侯爵領は3年前から作物の不作続きで農民はすっかり疲弊していた。領民思いのアシュリー・バラノ侯爵の為にお金を融通したのがグレイスの父親である。ところがお金の返済日にアシュリー・バラノ侯爵は満額返せなかった。そこで娘の好みのタイプを知っていた父親はアシュリー・バラノ侯爵にある提案をするのだった。それはグレイスを妻に迎えることだった。 年上のアシュリー・バラノ侯爵のようなタイプが大好きなグレイスはこの婚約話をとても喜んだ。ところがその三日後のこと、一人の若い女性が怒鳴り込んできたのだ。 「あなたね? 私の愛おしい殿方を横からさらっていったのは・・・・・・婚約破棄です!」 そうしてさらには見知らぬ若者までやって来てグレイスに婚約破棄を告げるのだった。 ざまぁするつもりもないのにざまぁになってしまうコメディー。中世ヨーロッパ風異世界。ゆるふわ設定ご都合主義。途中からざまぁというより更生物語になってしまいました。 異なった登場人物視点から物語が展開していくスタイルです。

処理中です...