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 学園で準備をして、クラスの確認したり、アホ共とわちゃわちゃ過ごして――――

 新学期が始まった。

 入学式で新一年生が入って来て、初々しいと思ったり、教師からの気を引き締めるようにとのお達し。三年生なんだなぁと実感が湧いて来る。

 ちなみに、今回もレザンとテッドとは別の普通クラス。あの二人は三年間同じみたいだ。レザンはレザンで取り扱いが難しいから、コミュ力の高いテッドと一緒なのかな?

 別に積極的に問題を起こしているワケではないけど、売られた喧嘩は買い叩くスタイルだというのと、一年生のときのことが尾を引いているのだろう。とは言え、お祖父様が学園にお話しに来てから、教職員の対応が心なしかわたしに丁寧なんだよねぇ。七光りありがとうございます。

 うん。偶に、なんかよくわからないけど・・・男性の教職員から期待するような視線なんかは、全く感じていませんとも。あれは気のせいだ。

 ケイトさんは卒業したというのに・・・

 とりあえず、レザンとわたしは混ぜるな危険と教職員に思われているのかもしれない。

 そして、乗馬クラブにも新入生がやって来ましたよ。

 部長のレザン、副部長のわたしとアンダーソン嬢が自己紹介をして、歓迎・・・しようと思ったんだけどなぁ。

 まぁ、あれだ。やっぱり、一定数はこういうのが湧くよねぇ。

「女が副部長なんて冗談じゃない。女なんかに務まるのかよ? 女は男の下で黙って従ってりゃいいんだよ」

 と、馬鹿にするような笑みを浮かべるクソガ……いや、一年男子。

「あからさまな男女差別をするのはやめろ」
「いやですね、男女差別なんかじゃありませんよ。女の方がか弱いんですから、男が守ってあげないと駄目じゃないですか。守ってあげないとなにもできない女に負担を掛けるのはどうかって思っているだけでーす」

 低い声で窘めるレザンにニヤニヤと返すクソガ……男子生徒。

「クロフト部長。わたくし、あの方とちょっと……」

 口許だけ笑みの形の据わった目で、レザンへ顔を向けるアンダーソン嬢。ああ、これはあれか。勝負を吹っ掛けるつもりなのか。

「あら、では、是非ともわたくし達に淑女としての乗馬をお教え頂きたく存じますわ」

 ふふんと胸を張り、クソガ……一年男子へと微笑み掛けるレイラ嬢。

「レイラ様!」
「いい機会ですもの。殿方が教えられると思うのでしたら、淑女の乗馬・・・・・を教えてくださいな」

 にっこりと、それはそれはイイ笑顔で言う。

「れ、レイラちゃん……」

 なぜか、エリオットが真っ青な顔であわあわし出す。

「ハッ、いいでしょう。では、俺が手取り足取り教えて差し上げますよお嬢様」

 ニヤリと下心の透けて見える顔でそう言う……もう、クソガキでいいか。

「まあ! では、まずは準備をしなくてはいけませんわね! ちょっと手伝いなさい、エリオット」

 パンっと手を叩いて、エリオットを顎で使う気満々のレイラ嬢。

「ふぁい!」

 条件反射なのか、まだなにも聞いてないのにエリオットはパッとレイラ嬢の近くへ向かう。

「では、行きますわよ。馬の前に着替えが必要ですわね」
「はぁ……それじゃあ、待っててあげますから早く着替えて来てくださいよ」

 馬鹿にしたような態度。

「あら、なにを言っているのですか? お着替えをするのはあなたの方でしてよ? その格好で淑女としての乗馬を教えるなど、お手本にもなりませんわ! 少々型は古いですが、女子更衣室に貸しドレスが置いてありますから、誰かサイズの合う大きめのドレスを持って来てくださいな」

 と、それはそれはイイ笑顔でレイラ嬢が言い終わる前にパッと走って行く女子生徒。

「は?」
「殿方ですし、女子更衣室に入れるワケには行きませんので、男子更衣室で着替えて来てください。一人で着替えられなくても大丈夫ですわ。エリオットが手伝ってくれますもの。ねえ? エリオット」
「!」

 コクコク頷くエリオット。

「はあっ!?」
「ふざけっ」
「君が、自分で言ったんだよね? 女子生徒に、乗馬を教える、と。フィールズ公爵令嬢は、その手配をしているだけでしょう? さあ、早く着替えて来るといい」
「そうですわね。是非とも、淑女の乗馬をお教えくださいませ?」
「うむ。自分で言ったことの責任は取るといい。一人では無理だというのなら、俺も手伝おう」

 と、部長、副部長であるわたし達の言葉を受け、クソガキは泣く泣くレザンとエリオットに付き添われてドレスに着替えることに。

 異例の事態にざわめく部員を落ち着かせると、

「さすがレイラ様ですわ……」

 アンダーソン嬢がぼそりと呟いた。

 それから暫くして、如何にも嫌々、羞恥に真っ赤になったクソガキが似合わないドレス姿でみんなの前へ連れて来られた。

「では、淑女の乗馬を教えてくださいな?」

 にっこりと、それはそれは冷たい笑みの女子生徒達がクソガキを見詰める。

 待機していた馬に跨ろうとして、

「淑女がそんな風に足を上げるなどはしたない! 台に上がってから、スカートが捲れないように横座りをするのです!」

 厳しい駄目出しが飛ぶ。

 足は閉じ、キチンと揃える。絶対に開くな。横向きで腰を捻って手綱を取るのは難しい? 不安定な体勢でバランスを取るのが難しい? 寝言を言うな。落ちないよう、片手で鞍を掴み、片手で馬を御せ。なにつらそうな顔を見せている、笑顔を作れ。笑え。どこを見ている。下を向くな。こんなこともできずに、淑女の乗馬を教える? 片腹痛いわ。

 と、おかんむりな女子生徒達から辛辣な言葉が飛び交う。

「こんなのやってられるかっ!?」

 そうクソガキが怒鳴ると、

「エリオット。やってみて」

 との一言で、エリオットが台を使って馬に横座りで乗った。

 足を閉じ、キチンと揃えて、若干引き攣った青い顔ではあるけれど、無理して作った笑顔で、片手で馬を御してコートを歩かせる。

「あら、殿方でもできる方はいるみたいですわよ?」

 ハンっと、クソガキを鼻で笑うレイラ嬢。

「わたくし達に、手取り足取り教えてくださるのではなかったのですか? 伝統的な淑女の乗馬の難しさはどうでしたか? 体験してみると、女子生徒が副部長をしている理由がわかりまして?」

 クソガキは涙目で馬を飛び降り、男子更衣室へ走って行った。ドレスの裾を翻して。

 そしてこの日、乗馬クラブに暴君が誕生したと専らの噂になった。ついでに、女子生徒が役職に就くことで文句を言う者もいなくなった。

 更衣室ではドレスから着替えようとして、脱げなくて泣いていたクソガキを発見。エリオットが脱がせて、着替えを手伝ってあげていた。

 それ以来、あのクソガキは乗馬クラブへ来なくなった。

 ご愁傷様だ。

 レイラ・フィールズ公爵令嬢を敵に回すととんでもない目に遭うという噂も広がった。

 一部の男子生徒達が震え上がっているという。

 そして、エリオットが女子生徒達に尊敬の目で見られている。

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