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「ん? 狩り・・をするときには色々あった方が便利だぞ?」

 まぁ、育った環境が環境なだけに、キアンはナチュラルに物騒なんだよねぇ。飄々としているように見えて他人の気配にかなり敏感だし、常に人の位置を把握して、いつでも動けるようにしている。

 一応それは、訓練をすればある程度は身に付くことではあるんだけど……キアンについては、訓練以前から骨身に染みている、という感じだ。

「うむ。俺はロングソードと猟銃、ショットガンを持っている」

 キアンを肯定するように頷くレザン。

 まさかコイツ、別荘付近の地図を見ているときから……?

「君、本気で熊を狩る気だったの?」

 じーっとレザンを見やると、

「マジかっ!?」

 上がる驚きの声。

「・・・いや、万が一のときの為だ」

 そして、ついっと目が逸らされた。どうやらレザンは、ここに来る前から熊を狩りたかったらしい。

「まあ、よいではないか! して、どう狩るか……」
「うむ。まずは、どの辺りに出没するかと個体数を確認をしてからだな。子熊を連れている母熊だったら危険だ」
「いや、だからまだ許可は出てないからね?」

 そう言うと、

「……ふむ、来たか」

 ふっとキアンが顔を上げ、パタパタという足音。

「狩猟の許可、もらって来ましたよ~っ!」

 にこにこと笑顔で宣言するエリオットに、

「よくやった、小動物!」

 キアンが上機嫌に応じる。

「では、早速」
「あ、その前にお昼ごはんの時間だそうですっ」
「ほう、もうそんな時間か。腹が減っては戦はできぬからな。食事だ!」

 と、お昼ごはんにすることになった。

 食べながら話す。

「して、小動物よ。この付近ではどのような鳥獣が生息している?」
「そうですね~。鷺や鳩などの野鳥、猪、鹿、うさぎさん、キツネさん、くまさんと言ったところでしょうか? 狼は駆除済みだそうです。あ、野生のうさぎさんには気を付けてくださいね? いいですか? うさぎさんの後ろ脚キックには、キツネさんの頭蓋骨を砕くくらいの威力がありますから、不用意に手を出すと危険なんですよ。メルン先輩」
「は? 俺?」
「……まあ、如何にも一番触りそうではあるな」
「そして、植物に関してはベリー類、キノコなんかが採れるそうですっ」
「たんぽぽやスミレ、白詰草なんかも、食えるぞ?」
「え? マジ?」
「ああ。花を茹でたり、サラダに入れて生でもイケるし、根も食える。たんぽぽの根は長いから掘るのは多少面倒だが、根を炙って煎じるとコーヒーの代替品にもなり、綿毛以外は全て食える。菊科の植物だとチシャ……レタスなどが有名だが、レタスでない種類のものでも、葉は少々硬くとも食えるし、ゴボウなど、根が食える物もある。他にも、プラムなどは実だけでなく、葉や茎、幹から根に至るまで、皮を剥げば全て食える上、薬の材料にもなる」
「……以外に博識なんだな」

 驚いたという風に瞬くリールに、

「言ったであろうが? 俺は狩りのプロなのだと!」

 ふふんと得意げに胸を張るキアン。

「とりあえず、植物採集組と狩猟組に分けようか?」
「うむ」
「ふっ、よかろう!」
「どういう組分けにするんですか?」
「とりあえず、今日のところはキアンは採集組で決定」
「ん? 俺は狩猟の方ではないのか?」
「テッドとリールに森の歩き方を教えてあげて。君は狩りのプロで、教えるのは先達の務めなんでしょ?」

 そもそも、拾い食いしたキノコに当たって具合の悪い奴が、率先して熊を狩りに行こうとするってどうなの? 一応、ちゃんと休んで回復したっぽいけど、それでも万全ではないだろうに。これだからこのアホは放っておけないというか・・・

「……まあ、よかろう。では、仕立て屋と眼鏡は俺が面倒を見てやる」
「ええっ!? 俺ら、イケメンにーちゃんと一緒っ?」
「……かなり不安なんだが?」
「案ずることは無い!」
「で、レザンは狩猟組ね。エリオットはどっちがいい?」
「そうですね~。僕は……」
「是非ともハウウェルは採集組で頼む!」

 珍しく、リールの強い頼み。

「ふっ、眼鏡は麗しき同志のことを信頼しているようだな!」
「……信頼と言えば信頼だが、ハウウェルの方が頼りになるからな」

 はぁ……と、キアンとテッドの二人を見て深い溜め息を吐くリール。

 まぁ、確かに・・・この二人と一緒に行動するのは、なんというかちょっと? いや、少し? 不安になる気持ちもわからないではない。

「いいよ。それじゃあ、エリオットはレザンと狩猟組ね?」
「はいっ、がんばります!」

 と、キアン、テッド、リール、わたしの四人が採集組。レザンとエリオットの二人が狩猟組と、組分けが決定した。

__________


 テッドだけならかく、キアンのボケは一人ではさばき切れないとリールは判断した。(笑)

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