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「あ、セディー」
「これはこれは、ハウウェル様ではありませんか。ごきげんよう」

 心配そうだったセルビア嬢の表情が、セディーを認めた途端に薄い微笑みへと変化する。

「こんにちは、ケイトさん。お久し振りですね」

 と、セディーもすぐさま薄い微笑みを返し、なぜか漂う緊張感。

「ええ。卒業式以来でしょうか? ところで、ハウウェル様はこちらでなにを?」
「見て判りませんか? 僕もお茶会に参加しているのですよ」

 と、どこか不穏さを感じさせる挨拶が済むと――――

「そうですか・・・では、ご紹介させて頂きましょう。こちら、わたしの自慢の弟のリヒャルト・セルビアです。どうでしょう? この愛くるしさは? 言葉では言い表せなかった、リヒャルトのこの素晴らしく可愛らしい姿! 実際に見てみれば、ハウウェル様もこの可愛さに言葉も出ないのではありませんか?」

 いきなりリヒャルト君の自慢をし出したっ!?

 頬を染めて、目の色が変わっている気が・・・あ、リヒャルト君がおろおろしている。

「・・・確かに。リヒャルト君が可愛らしい男の子なのは認めましょう」

 と、リヒャルト君を見下ろし、静かに同意するセディー。リヒャルト君がセディーの強い視線に怯んだのか、わたしの足に身を寄せて服の裾をきゅっと掴む。

「ねえさまたち、けんか……ですか?」
「大丈夫ですよ……多分……」

 ちょっと申し訳ない気がするので、リヒャルト君を抱き上げて宥めるようにぽんぽんとその背中を撫でる。子供の身体は柔らかくて温かいですね。

 スピカの小さな頃を思い出します。ああ、懐かしい……と、現実逃避したい気分だ。

「ええ、ええ。そうでしょうとも!」
「ですが、それはリヒャルト君が大きくなってからも、その可愛らしさがずっと維持されているかは判らないではないですか? それに比べ、僕のネイトは小さい頃から可愛らしい上、こんなに大きくなっても変わらず……いえ、益々麗しくなって行くこのかんばせ! 一見クールビューティーに見える顔立ちではありますが、浮かべる表情によっては可愛らしさまでプラスされるという完璧っ振りです!」
「ちょっ、なに言ってんのセディーっ!?」

 めっちゃ恥ずかしいんだけどっ!? 男にかんばせとか言わないでほしい!!

「くっ・・・確かに。将来的にも、リヒャルトがまだこのままの愛くるしさを留めているかは不明ですがっ・・・ネイサン様の美貌は、一目瞭然。お顔立ちも、これからそうそう変わることもないのでしょうね」
「フッ、当然です」

 なぜか悔しげなセルビア嬢に勝ち誇るセディー。

 美貌とか、言わないでほしいです。

「さあ、負けを認めるのなら、今のうちですよ?」
「・・・わたしの一番は、リヒャルトです」
「いや、ちょっとセディー! なに言ってるの!」
「? なにって、ネイトの自慢だよ?」
「やめてよね! 恥ずかしい。大体、勝ち負けってなに? 一体なんの勝負をしてるワケ?」
「どっちの弟が可愛いかっていう勝負だよ? 勿論、僕が一番可愛いのはネイトだから安心してね?」

 にっこりと微笑むセディーに、思わず呆れ混じりの視線を向ける。

「そんなこと聞いてないから」
「? なにが言いたいの? ネイト?」
「・・・なんかセディーってば、普段頭良いクセして、偶にバカだよね」

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