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主を諫める気概を持たず、我儘を増長させ、暴君に育て上げる側仕えなど、無能を通り越して害悪にしかならん。

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 ここまで来て漸く、国王は重い腰を上げてクラウディオの愛人達を排除することを決めた。かなり遅い決断だったが――――

 その矢先、クラウディオの婚約者の父親である公爵から婚約の解消、または白紙撤回を求められてしまう。クラウディオが初対面での顔合わせでサファイラへ告げた言葉や、クラウディオの愛人達がサファイラへと行った仕打ちの詳細な報告書と共に。

 公爵は不快だとハッキリ態度に示し、婚約の解消を迫った。

 国王はクラウディオとの婚約を解消し、新たに第二王子との婚約をと提案したが、にべも無く断られた。更には、「クラウディオ殿下のご容体は如何でしょうか? いやはや、あのようなところをお怪我するとは……男として大変に同情致します」と、クラウディオがどこに怪我をしたのか判っている、ということを存分に匂わされた。

 色々と不始末が多く、これから更に後始末や火消しなどが残っているときに、公爵にまで敵に回られては敵わぬと、国王はクラウディオとサファイラの婚約を白紙撤回に同意した。

 ついでとばかりに、公爵は掛かった王子妃教育の費用、及び慰謝料の請求はしない代わりに向こう十年間の公爵領の税へ優遇措置を捥ぎ取って帰って行った。今後、サファイラの婚約に関しては王家は一切関知しないという文証と共に。

 十年間の税金優遇はかなり痛いが、王子妃教育に掛かった金額、及びクラウディオとその愛人達の仕打ちに対する慰謝料を請求されない分、マシだと思い直した。

 バタバタと慌ただしくして、クラウディオの愛人と見られる側近や近衛、使用人達の排除を開始。愛人ではなくとも、サファイラへ嫌がらせをしていた者達も同様。理由は、当時クラウディオの婚約者であった公爵令嬢に対する不敬罪。

 本来であれば、準王族であるサファイラへ不敬や無礼を働くなどもってのほか。気付かなかったなら、無能。気付いていて放置していたのであれば、クラウディオは自身の妻となる予定の女性……将来の王妃を蔑ろにしてもよい相手だと周囲に思わせたことになる。

 国王自身も含めて無能……となるのだが。

 サファイラへとせっせと嫌がらせを行っていた者達を降格、左遷、王宮からの追い出し……と、ある程度一掃した時期にクラウディオが回復。

 本人は気付いていなかったが、このときにはもう表立ってクラウディオの支持をする者は王宮にはいなくなっていた。第二王子陣営に付く者、第三王子陣営に付く者、様子見をする風見鶏、中立を貫く者、そもそもが貴族派……などなど。盛大に失脚したクラウディオに向けられるのは冷ややかな視線ばかり。

 故に、クラウディオの王太子位返上と保養地での療養もスムーズに決まった。

 無論、クラウディオの側近や側仕えだった者達は……まず一度もクラウディオと関係を持ったことが無く、サファイラへ嫌がらせを行ったことが無い者の中で、クラウディオの身を案じている、幼少期のクラウディオに仕えていた者達のうち、極一部だけが残った。その少数の者達と共に、クラウディオは保養地で療養することが決まっている。

 ここからどんなに頑張って、死に物狂いで名誉挽回したところで……他の王位継承権上位者が続々と死亡でもしない限り、クラウディオが王位に就くことは難しいだろう。

 クラウディオが保養地で療養し始めて暫くすると、『クラウディオ元王太子は男色だった』『男色だから王太子を降ろされた』『第一王子は美男を侍らせていた』『お城で男漁りをしていた』『婚約者を冷遇していたのは男色だったから』『公爵令嬢は第一王子の男遊びに耐え切れなくて婚約解消した』『国王はクラウディオ王子の男色を知っていて、公爵令嬢に婚約を強要した』『公爵令嬢は第一王子の男色を知ったショックで国を出た』などというとんでもない噂がまことしやかに流布され、噂の的になった貴族家や王家の評判はガタ落ち。

 まことしやかというか、クラウディオが実は両刀だということ以外は、概ね事実なのだが。

 そこから、クラウディオと関わり、左遷や降格、馘になった者達数十名の地獄が始まった。

 まずは――――左遷や降格、王城から馘にさせられた者達の中で婚約している者は、婚約者の家から婚約の見直しを求められた。

 王城勤務の人間は、貴族家の二男二女以下の者が多い。故に、実家に余っている爵位があるか、本人が非常に有能で新たな爵位を授けられたりしない限りは、他家に嫁入り、婿入りでもしないと大抵は平民となる。

 婚約者がいた男は、当然婿入り予定の者が多かった。他の貴族家、または裕福な平民の家へと入る予定だった・・・。中には、平民と結婚の約束をしていた少数派の者もいた。

 しかし、そんな中で降格、左遷、馘になった者達は……クラウディオ付きや、クラウディオの近くで勤務していた者ばかり。

 婚約者本人やその家人から、そして自身の家族から、『コイツ、実は男色ではないか? 元王太子の愛人だったのでは?』と、疑いの眼差しで見られることになった。中には、クラウディオと関係を持っていなかった者、真実異性愛者で、婚約者や恋人を大切にしている者もいたのだが……

「男色趣味の者を娘と結婚させるワケにはいかん!」「後継はどうするつもりだ!」「男色の男と結婚して娘が幸せになれるとでもっ!?」「公爵令嬢へ嫌がらせをしたそうだな? 公爵家に睨まれては敵わん」などなど、ある意味自業自得で婚約を……穏便に解消や白紙撤回されたり、家で飼い殺しにされたのはマシな方。

 なんだったら、「約束が違う!」「騙しやがったなっ!?」と婚約破棄をされて慰謝料を請求され、実家から縁を切られた者もいた。

 身内から白眼視や軽蔑に満ちた目で見られ、家を追い出され、平民に落ち……田舎や国外に逃れたりして、それでもどうにか踏み留まった者は、肩身が狭くとも日々を後悔しながら懸命に生きることになった。

 そこから踏み留まれずに更に堕ちた者は、裏社会であっという間に食い物にされ、男娼に身を窶した。エリートコースに乗っていた者達の散々な末路。

 それよりも悲惨な目に遭ったのは、クラウディオの近衛を勤めていた者達だ。腐っても……実際の性格や性根がどんなに腐っていようとも、元は王太子付きの近衛。一部縁故採用されていたりする者がいても、騎士としての実力はそれなりにあった。

 故に、彼らは家族に迫られる。「我が家はまかり間違っても公爵家を敵に回すつもりはない。故に、選ぶがいい。潔く自裁するか……それが嫌なら自分で利き手の指を落とすか、腕の腱を切るか。ちなみに、去勢措置を施すことは決定済みだ」と、命か、剣士としての生命線を失うことの選択を。

 自裁……要は、自殺のことだ。そして指を落とすなら、親指か小指のどちらを切り落とすか自身で選べ、と。

 親指を無くせば、非常に物が掴み難くなり、ありとあらゆることが不自由になる。小指を無くせば、親指が無くなるよりも物は掴めるが、力が入らなくなる。切るのが腱なら指は残るが、思うように腕が動かなくなる。

 どちらにせよ、剣を捨てさせて剣士でいられなくなることが決定している。

 去勢すると男性機能を失い、闘争心が弱くなる。力や体力も落ちる。王家や公爵家、それに連なる家などに復讐を考えようとしないようにという措置。去勢を受け入れ、自らの指か、腱を差し出した者は家の中で一生飼い殺しとなった。家族に疎まれながらを生涯過ごし――――家族の判断で、病死・・させられた者もいた。

 どれも嫌だと泣き叫び、往生際悪く家族の慈悲を乞うた者は……「では、我が家から貴様の貴族籍を抹消し、国外へ放逐する」と、貴族籍を抹消。つまり、家に最初からいなかった者とされ、去勢された後……または、男性不妊になる薬を処方された後に浮民として国外へ追放された。その中には、国を出る前にひっそりと始末された者も含まれていた。

 サファイラの父。公爵家の当主は……娘へ理不尽を強いた者達の顛末に、おおよそ満足した。クラウディオ本人が地方で療養しているだけなのについては、大いに不満ではあるが。

 国外追放された元近衛などの動向を探り、近くには来ていないことを確認。

「ふん……主を諫める気概を持たず、我儘を増長させ、暴君に育て上げる側仕えなど、無能を通り越して害悪にしかならん。せめてウェイバー殿を切り捨てなければ、こうまではならなかっただろうに」

 クラウディオに人生を狂わされたとも言える者達。されど、クラウディオをそういう風に育て上げた、ある意味では自業自得とも言える者達。

 公爵は苦い呟きを落とし、自分の度肝を抜いた幼い王子達との、新しい交易のことを考えることにした。


―-✃―――-✃―――-✃―-―-


 公爵パパは怒りながら他の貴族家に、『娘がこういう目に遭った。おそらくクラウディオ殿下は……王家と縁を結ぶなら、気を付けた方がいい』『娘を侮辱した連中は許せん』という感じのことをちょろっと洩らしただけ。ヒソヒソ(。・艸-)(-艸・。)ヒソヒソ

 やらかした貴族令息の中でも、元近衛騎士は下手に武力がある為にかなり重い罰になってますね。ヽ(;゚;Д;゚;; )ギャァァァ

 まあ、本来側近は仕える主を諫めるのも仕事のうちなので、クラウディオの言うことを聞くだけ聞いて意見もせず、調子に乗らせた挙げ句、諫めようとしていたシュアンの邪魔をして足を引っ張っていたので、その責任と言ったところでしょうか。┐( ̄ヘ ̄)┌

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