上 下
138 / 157

むしろ、密会はシュアンの護身術がある程度仕上がるまで待っていた感じね。

しおりを挟む



 視点変更。

――――――――――――


「ネロ様ネロ様、最近ウェイバー様がやる気を出しているみたいです。以前は嫌々やっていた走り込みも、今は無理のない範囲内で多く走ろうとしてくれるようになりました。どのような心境の変化があったのでしょうか? とは言え、ウェイバー様がまだひょろひょろのもやしなのは変わりありませんけど」

 と、護身術講座を開始した当日からミリーシャが毎日報告して来る。

「そうですか」
「はい。そして、ウェイバー様とは打って変わって、アーリー君はなかなか筋がいいですね。もっとがっつり鍛えたら、もしかすると本職の護衛になれる程強くなるかもしれません」

 ほうほう、やっぱりアーリーたんは隠しキャラだけあって、かなりハイスペックのようね!

「とは言え、あの美貌ですからね。隠さないと目立ってしょうがないので、やっぱり護衛にはあまり向いていないかもしれませんが。とりあえず、男性に襲われた場合には情け容赦無く、無慈悲に股間を蹴り潰すようにと教えておきました!」

 誉めて誉めて! というのが書いてある顔であたしを見下ろすミリーシャ。

「最初は顔を青くして反対していたウェイバー様と若干引き気味だったアーリー君も、わたくしの説得により、見事意見を翻して賛同してくださいました!」
「シュアンが意見を翻したのですか。それはすごいですね」
「はい! 『もし、取り逃がしたらどうなると思いますか?』という質問をして、懇々と丁寧に、性犯罪者は再犯率が高いこと。これ以上の被害者を出さないようにする為には、性欲の源を断ち切ることこそが肝要だと説明を致しました!」

 まあ、ある意味間違っちゃいないわね。

 よし、適当に目の前のお菓子を手渡しておこう。

「はい、ミリーシャ。どうぞ」
「ありがとうございます♪」
「わたくしやミリーシャのように、抵抗できる術のある女性や子供の方が世の中では圧倒的に少ないですからね」

 そうねー。狙われるのが女性ばかりとは限らないもの。

「最終的に、ウェイバー様も納得して……『犯罪を犯した小児性愛者の去勢を求める、という法案を提出しましょう』と大賛成してくださいました!」
「シュアンにしてはなかなか過激な法案ですねぇ。まあ、わたしも賛成ですが」

 ホント、一体どういう心境の変化かしら? シュアンなら、犯罪者にも人権が~どうこうで……非道な真似はするものではありません、とか言いそうなのに。

「素晴らしい法案ですね。是非とも議会に提出してもらい、必ずや通ってほしいものです。追加で、婦女子へ暴行を働いた性犯罪者全般に、という条件も加えて頂きたく思いますわ」

 にこりと微笑む侍女長。うんうんとイイ笑顔で頷く女性使用人達とは対照的に、段々と男性使用人達の顔色が悪くなって行く。

「ああ、そうです。お二人へ、護身用の薬品類の使用方法もレクチャーを終了致しました」
「そうですか」
「はい。お二人共、真剣に聞いてくださいました」

 まあ、危険物取り扱いの際に、真剣にやらない人には扱わせるのを見送るわよね。一応、人体に有毒で命を奪う可能性のある薬品だし。

 シュアンはかなりまともな人だし。アーリーたんも、現時点では心優しくも神々しい麗しの美少年。緊急事態以外で悪用する可能性は大分低いんじゃないかしら?

 まあ、緊急事態……誰ぞに襲撃されたり貞操の危機に際した場合には、それこそ一切の躊躇無く即座に使用をしてほしいところではあるけど。

 で、だ。シュアンが順調? に、へばりながら護身術講座を受けている間。こっちもこっちで書類の山脈を切り崩しながら、サファイラフィーラちゃんパパとの交渉を重ねて――――

 とうとう実際に極秘会談こと、密会を取り付けることに成功したワケですよ。ま、パパ公爵は未だに交渉相手をアストレイヤ様だと思っているみたいだけどっ☆

 ミレンナミリィちゃんにお手紙を出して、明光風靡且つ、癒しを求める人がリフレッシュできそうな観光地を幾つかピックアップしてもらって、その中から更にアストレイヤ様に警護がし易い場所を絞ってもらい、更に更に候補地の中からパパ公爵に都合のいい密談場所を選んでもらった。

 準備万端! まあ、ミリィちゃんとのやり取りで『お前、仕事のし過ぎで疲れているんじゃないでしょうね? 子供は遊んだりすることも必要なのよ。いい場所を教えてあげるから、確り休みなさい』『わたくしが言えたことではないとはわかっているけど、あまり働き過ぎないように。いいように使われていないで、自分の身体を大事にしなさい』な~んて、めっちゃ心配の透けて見えるツンデレなお返事を頂いて、『お仕事仲間に神経質気味で胃が弱いお兄さんがいるので、そのお兄さんにリフレッシュしてほしいと思ったので、ミリィちゃんに聞いてみました。わたしは大丈夫っ☆』という感じの返事を出した。

 すると、『ならいいけど、無理はしないことね』というお返事とは別に、匿名で側妃宮宛にお菓子や疲労回復に効果のあるハーブティーが届いた。『お前達に恵んでやるから、有難く思うことね』というメッセージカード付きで。ミレンナってば、デレ捲りじゃない? 可愛らしいわ♡

 アストレイヤ様的にはもう、お前あたしの好きにしろって感じみたい。

 げっへっへ、なにをどうしてやろうかしら?

 シュアンも体力が付いて来たみたいだし。万が一、パパ公爵側がなにやらよからぬことを企んでいたとしても、ある程度自衛ができるようにはなっているでしょう。

 つか、あちらさんの……パパ公爵とサファイラちゃん両方の顔見知りであるシュアンは、密会に連れて行くことが決定(多分そんなことはないだろうけど、シュアンが嫌がっても連れてく所存!)してるし。むしろ、密会はシュアンの護身術がある程度仕上がるまで待っていた感じね。

 パパ公爵がフィーラちゃんのことで隣国王家に激おこだとしても、隣国の利益になる為に私情を押し殺して、こっちを騙し討ちするとも限らないし。ま、純粋に隣国の利益追求の為に動くなら、現王家に苦情入れ捲って、正す方向で動くのが筋だとは思うけどさ?

 とりあえず……サファイラちゃんを保護するのが第一目的で、スカウトが可能ならスカウトしたいけど。まあ、普通に断られる可能性のが高いし。あたしの目の届かないとこでも可愛らしい女の子が元気にやってるなら、それもそれで善し。
 
 そしてフィーラちゃんのことは兎も角。パパ公爵とは、こっちの有利になる条件で貿易を取り付けたいわよねー。

 さてさて、パパ公爵とはどういう風に交渉を進めて行こうかしら?

❅❆❅❆❅❆❅❆❅❆❅❆❅❆❅

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】腐ったお姉様。伏してお願い奉りやがるから、是非とも助けろくださいっ!?

月白ヤトヒコ
ファンタジー
腹違いだという妹の、 『あぁ・・・生シエロたん、しかも無垢なショタバージョン、マジ尊い♥』 その意味不明な筈の言葉を聞いた途端、『俺』は前世で姉貴から頼まれたBLゲームを買う道中で死んだことを思い出した。 しかも、生まれ変わった先は件のゲーム。ヤンデレ好きご用達レーベルの、最良でメリバしかない鬼畜BLゲームに転生していたっ!? 鬼畜、ヤンデレ、執着監禁親父、ストーカー、メンヘラ、拷問好きサイコパスという攻略対象達から命と貞操と尊厳を守るため…… 『腐ったお姉様。伏してお願い奉りやがるから、是非とも助けろくださいっ!?』 メリバ、バッドエンド、死亡フラグを回避して、俺は普通の恋愛がしたいんだっ!! ※BLゲームの世界に転生という設定ですが、BLを回避する目的の話なので男性同士の絡みはありません。あしからず。 会話メイン。設定はふわっと。

妹に出ていけと言われたので守護霊を全員引き連れて出ていきます

兎屋亀吉
恋愛
ヨナーク伯爵家の令嬢アリシアは幼い頃に顔に大怪我を負ってから、霊を視認し使役する能力を身に着けていた。顔の傷によって政略結婚の駒としては使えなくなってしまったアリシアは当然のように冷遇されたが、アリシアを守る守護霊の力によって生活はどんどん豊かになっていった。しかしそんなある日、アリシアの父アビゲイルが亡くなる。次に伯爵家当主となったのはアリシアの妹ミーシャのところに婿入りしていたケインという男。ミーシャとケインはアリシアのことを邪魔に思っており、アリシアは着の身着のままの状態で伯爵家から放り出されてしまう。そこからヨナーク伯爵家の没落が始まった。

転生した世界のイケメンが怖い

祐月
恋愛
わたしの通う学院では、近頃毎日のように喜劇が繰り広げられている。 第二皇子殿下を含む学院で人気の美形子息達がこぞって一人の子爵令嬢に愛を囁き、殿下の婚約者の公爵令嬢が諌めては返り討ちにあうという、わたしにはどこかで見覚えのある光景だ。 わたし以外の皆が口を揃えて言う。彼らはものすごい美形だと。 でもわたしは彼らが怖い。 わたしの目には彼らは同じ人間には見えない。 彼らはどこからどう見ても、女児向けアニメキャラクターショーの着ぐるみだった。 2024/10/06 IF追加 小説を読もう!にも掲載しています。

よくある父親の再婚で意地悪な義母と義妹が来たけどヒロインが○○○だったら………

naturalsoft
恋愛
なろうの方で日間異世界恋愛ランキング1位!ありがとうございます! ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 最近よくある、父親が再婚して出来た義母と義妹が、前妻の娘であるヒロインをイジメて追い出してしまう話……… でも、【権力】って婿養子の父親より前妻の娘である私が持ってのは知ってます?家を継ぐのも、死んだお母様の直系の血筋である【私】なのですよ? まったく、どうして多くの小説ではバカ正直にイジメられるのかしら? 少女はパタンッと本を閉じる。 そして悪巧みしていそうな笑みを浮かべて── アタイはそんな無様な事にはならねぇけどな! くははははっ!!! 静かな部屋の中で、少女の笑い声がこだまするのだった。

【完結】死がふたりを分かつとも

杜野秋人
恋愛
「捕らえよ!この女は地下牢へでも入れておけ!」  私の命を受けて会場警護の任に就いていた騎士たちが動き出し、またたく間に驚く女を取り押さえる。そうして引っ立てられ連れ出される姿を見ながら、私は心の中だけでそっと安堵の息を吐く。  ああ、やった。  とうとうやり遂げた。  これでもう、彼女を脅かす悪役はいない。  私は晴れて、彼女を輝かしい未来へ進ませることができるんだ。 自分が前世で大ヒットしてTVアニメ化もされた、乙女ゲームの世界に転生していると気づいたのは6歳の時。以来、前世での最推しだった悪役令嬢を救うことが人生の指針になった。 彼女は、悪役令嬢は私の婚約者となる。そして学園の卒業パーティーで断罪され、どのルートを辿っても悲惨な最期を迎えてしまう。 それを回避する方法はただひとつ。本来なら初回クリア後でなければ解放されない“悪役令嬢ルート”に進んで、“逆ざまあ”でクリアするしかない。 やれるかどうか何とも言えない。 だがやらなければ彼女に待っているのは“死”だ。 だから彼女は、メイン攻略対象者の私が、必ず救う⸺! ◆男性(王子)主人公の乙女ゲーもの。主人公は転生者です。 詳しく設定を作ってないので、固有名詞はありません。 ◆全10話で完結予定。毎日1話ずつ投稿します。 1話あたり2000字〜3000字程度でサラッと読めます。 ◆公開初日から恋愛ランキング入りしました!ありがとうございます! ◆この物語は小説家になろうでも同時投稿します。

そして乙女ゲームは始まらなかった

お好み焼き
恋愛
気付いたら9歳の悪役令嬢に転生してました。前世でプレイした乙女ゲームの悪役キャラです。悪役令嬢なのでなにか悪さをしないといけないのでしょうか?しかし私には誰かをいじめる趣味も性癖もありません。むしろ苦しんでいる人を見ると胸が重くなります。 一体私は何をしたらいいのでしょうか?

婚約破棄を突き付けてきた貴方なんか助けたくないのですが

夢呼
恋愛
エリーゼ・ミレー侯爵令嬢はこの国の第三王子レオナルドと婚約関係にあったが、当の二人は犬猿の仲。 ある日、とうとうエリーゼはレオナルドから婚約破棄を突き付けられる。 「婚約破棄上等!」 エリーゼは喜んで受け入れるが、その翌日、レオナルドは行方をくらました! 殿下は一体どこに?! ・・・どういうわけか、レオナルドはエリーゼのもとにいた。驚くべき姿で。 殿下、どうして私があなたなんか助けなきゃいけないんですか? 本当に迷惑なんですけど。 ※世界観は非常×2にゆるいです。 文字数が多くなりましたので、短編から長編へ変更しました。申し訳ありません。  カクヨム様にも投稿しております。

氷の姫は戦場の悪魔に恋をする。

米田薫
恋愛
皇女エマはその美しさと誰にもなびかない性格で「氷の姫」として恐れられていた。そんなエマに異母兄のニカはある命令を下す。それは戦場の悪魔として恐れられる天才将軍ゼンの世話係をしろというものである。そしてエマとゼンは互いの生き方に共感し次第に恋に落ちていくのだった。 孤高だが実は激情を秘めているエマと圧倒的な才能の裏に繊細さを隠すゼンとの甘々な恋物語です。一日2章ずつ更新していく予定です。

処理中です...