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クラウディオ殿下がまともな方であったならば、このような事態にはならなかったものを。子育てに失敗した国王陛下、正妃様をお恨み致しますぞ。

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 視点変更。

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 クラウディオ殿下を嵌めた、と自称する『誰か』と文を交わすこと数度。

 その『誰か』、の思惑は未だ掴み切れない。

 しかし、文面から察するに……我が娘サファイラのことを気遣っている様子が見て取れる。まあ、手紙での文面なので、如何様にも都合良く書けることではあるが。

 それを踏まえた上で手紙の内容を窺うと、どうやらシュアン・ウェイバー伯爵令息は生きているらしい。クラウディオ殿下に見捨てられ、弱っているところを拾った、とも取れる。信用はできないが。

 ウェイバー伯爵令息は、クラウディオ殿下の側近の中で唯一娘を気遣ってくれた方。酷い怪我や重い病などを得ていなければいいのだが……

 そう言えば、ウェイバー伯爵はご子息が亡くなったことにショックを受け、葬儀を終えた途端に爵位を返上し、国を出て行ってしまった。非常に優秀な文官の家系で、引き留める者もいたが……現在の所在は不明だ。

 もう少しこの手紙が届くのが早ければ、お教えすることもできたのだが……いや、それとも下手に希望を与えずに済んだと捉えるべきだろうか? だが、ウェイバー伯爵令息の生存をちゃんと確認してからであれば、どうにかお伝えできないものか。

 そして、ふと思い至った。もしかして、この手紙の主は女性なのではないか? と。

 サファイラのことを気遣い、クラウディオ殿下……と思われるどこぞの王子に嫌悪を隠さない文面。柔らかな筆跡。考えれば考える程、相手が女性にしか思えなくなって来た。

 親として、娘をそのような男へ嫁がせることにならずに済んでよかったのではないか、という質問にも似た文面。おそらく、相手は子供がいてもおかしくはない年代の女性。

 そう言えば、クラウディオ殿下の似顔絵付き手配書を最初に作らせたのは、とある子を持つ・・・・高貴な・・・ご婦人・・・だという話だった。

 そして、『破壊工作への対処として、そちらのプリンス一行を我が国・・・から一掃したまでのこと』という文面からして、国の中枢にいる人物。

 となると、導き出される答えは……手紙の主はアストレイヤ王妃殿下ということかっ!?

 あちらの国は若い国王が寵姫に現を抜かして色々やらかし、腑抜けとなっていた。その国王の尻拭いをしていたのが、切れ者の王妃殿下だった筈。

 成る程。そろそろ、子育てが一段落して第一王子殿下が手を離れた頃合いと言ったところ。本格的に動けるようになったということだろう。

 我が公爵家への侵入を幾度も許していることについては多少業腹ではあるが。手紙を届けている正体不明の者が、おそらくは隣国王室の影となれば、納得も行く。

 今まで手が回らずに放置していたクラウディオ殿下の破壊工作を、あのような驚愕……というか、ある意味ぶっ飛んでいると言っても過言ではない手で一掃したということか。

 アストレイヤ王妃殿下は、元は軍閥の姫。質実剛健で、公正な人物だと聞き及んでいる。なれば……サファイラを任せても、そう悪いことにはなるまい。

 そうと来れば、是非とも極秘にアストレイヤ王妃殿下と密会の約束を取り付けたいところだ。そして……クラウディオ殿下との婚約で傷付いているであろうサファイラのことを、宜しく頼みたい。

 いつものやり取りではなく、我が公爵家として正式にアストレイヤ王妃殿下へ依頼を出そう。

 ただ、この手紙の送り主がアストレイヤ王妃殿下ではなかった場合。その保険も兼ねて、手紙に記すのは、我が公爵家との交易としておこう。

 クラウディオ殿下が破壊工作を仕掛け、失敗した後で婚約者の家が連絡を寄越したことで不審には思われるだろうが……よくて無視。最悪、不敬として国への抗議。または、こちら側に不利な交易条件を突き付けられると言ったところか。

 国としての貿易ではなく、公爵領独自に隣国との交易とすれば、王家の横やりも入りはしまい。今の王家は、隣国とはなるべく関わり合いになりたくないだろう。多少は王家の顰蹙ひんしゅくを買い、公爵の手腕が落ちたとこき下ろされる程度で済む筈。

 今まで……いいや、未だにクラウディオ殿下に苦しめられている娘の身の安全を図る為なればその程度のそしりや、多少の損失などは安いもの。

 まあ、アストレイヤ王妃殿下がハズレであった場合には、いつも通りの手法で手紙の主と交渉を重ねればいい。但し、これまで以上に相手のことを慎重に探る必要はあるが。

 場合によっては手紙の主を当てにせず、サファイラを単独で国外へ逃がすべきだろう。

 まずは、サファイラの婚約を解消。無かったこととする白紙撤回が一番望ましい。その次は、サファイラを国から出すことを妻に納得させねばならん。もしくは、妻も一緒に国外へ出すか。荷物や秘密裏に動ける少数精鋭の護衛、使用人の手配。

 それが終われば、王位継承権争いで領民が被害を受けぬよう色々と対策に動かねば。食糧、燃料、生活必需品の類の備蓄も、数年分は見越して増やさねばならん。寄り子貴族達、派閥の貴族達にも注意喚起を促して取り纏めつつ、王家や敵対派閥を確り監視しなくては。

 やることが山積みで時間も差し迫っている。

 はぁ……本当に、クラウディオ殿下がまともな方であったならば、このような事態にはならなかったものを。子育てに失敗した国王陛下、正妃様をお恨み致しますぞ。

 娘を無理矢理婚約者に指名しておきながら粗末に扱い、あろうことか男色を嗜み、愛人の手綱も握れず、娘への嫌がらせに気付かず……もしくは、気付いていたのに放置し、いたずらに娘を傷付け続けた男。

 不幸中の幸いは、娘がクラウディオ殿下を慕う様子が無いこと。娘がそのような男に手を出されずに済んだこと。そのような男と婚姻を結ばずに済むこと。そして、娘がクラウディオ殿下の男色に気付いていないであろうこと。

 自分という婚約者がありながら、城内に勤務していた若い男を取っ替え引っ替えしていた、など。娘が知れば……いいや、サファイラでなくとも、普通の神経をした婦女子であればいたくプライドを傷付けられ、如何程のショックを受けることだろうか。

 ああ、穢らわしくも忌々しい!

 一刻も早く、王家とサファイラとの縁を切ってしまいたいものだっ!!

―-✃―――-✃―――-✃―-―-

 微妙に鋭いような、けれどしっかりと中身アラサーな茜のお手紙に惑わされちゃっている、サファイラちゃんパパでした。(*ノω・*)テヘ

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