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ウェイバー様をお連れして宜しいでしょうか?
しおりを挟むまたまた視点変更。
――――――――――――
たったの、四日。
わたし達のやって来たことが、たったの四日で、全て崩された。
それも、こんな……艶やかな黒髪に紫紺の瞳。神秘的ながらも、どこか妖艶さを感じさせる美貌と銀糸のような髪に水色の瞳の儚げな美貌の……まだ、十にもならないような子供達に……?
と、二人の王子と交わした言葉に衝撃を受け、どれだけ呆けていただろうか?
気が付くと、応接室は――――
「はい、こっちは終了。次の書類持って来てください。ああ、そっちの未処理のものとは確り分けて置いてくださいね。崩れて混ざると困りますから、もう少し離して」
「ハッ!」
「お~い、こっちインク切れそう。お代わりよろしくー。零すなよー」
「はい、ただいま!」
ふと顔を上げると、テーブル一杯の書類を華麗に捌く黒髪の美少年……いや、もしかしたら彼の双子の妹のネレイシア姫である可能性も……? と、眉間に皺を寄せて白紙に計算式を書き込みながら書類にチェックを入れる銀髪の美少年。
どうやら、先程言っていた帳簿の精査中のようだ。二人は文官と見られる大人達に交じり……いや、自身を取り囲む護衛も文官も顎で使って、あれこれ指示を出している。
難しそうな顔で、
「あ、やべ、ミスった」
などと呟きながらも、その計算速度は大人顔負けのシエロ王子。というか、顔に似合わずシエロ王子は……王族としてはかなり口が悪いと思う。その辺りを誰も注意していないようだが、いいのだろうか?
「ふっふ~ん♪」
鼻歌を口遊みながらサラサラと手を動かすネロ王子。こちらはもう、大人顔負けどころではない。尋常ではない華麗なスピードで書類が処理されて行く。あんな速さでミスは無いのだろうか? とも思うが、
「あ、シエロ兄上。そっち計算ミスしてます。そうそう、その行の七桁目です」
チラリと覗いただけで隣のシエロ王子のミスを指摘する余裕まである。
え? なにこの子供達? 世に言う天才というやつだろうか?
わたしは、これまで自分のことを優秀であると自負していた。
実際、家庭教師からの評価や学園での成績。どの教科でも、満点に近しい点数を取っていた。
二つ年上のクラウディオ殿下とは幼少からの付き合いがあり……性格的に合わないのだが、わたしの優秀さから彼の側近に選ばれた。学園では二年スキップして、クラウディオ殿下と同じ学年に合わせて入学と卒業。
殿下も、優秀との触れ込みではあったが……あれはハッキリ言って、王宮の教育が最高なだけだ。クラウディオ殿下自体は、その教育がなされてもアレなのだから、王宮の教育でも殿下の性欲は抑えられないということだろう。
いや、王族の血の大切さを教育されて育ったからこそ、ああなったのだろうか? 男同士であれば、子はできない。そこらの女性を無闇に弄び、傷物にするよりは、多少はマシ……なのだろうか? 色々と最低なことに変わりはないと思うが。
憚りながら、わたしの私見としては、我が国の王室はクラウディオ殿下の教育を失敗したと言わざるを得ない。
側近として、そんなクラウディオ殿下の尻拭いをさせられること、苦節数年――――
わたしは、自分のことを優秀だと思っていた。
だが、わたしは・・・どうやら、自分よりも頭の良い人間に出逢っていなかっただけのようだ。
自分が子供の頃……同じような年齢だったときに、ネロ王子やシエロ王子と同じことができていたか? というと、この子達のようなことは絶対にできなかった、と断言できる。
他国の王太子の破壊工作を、あんな突拍子もない奇策と口先で撃退し、しかもその策での武力衝突はなされず、死傷者は一切出ていない。……まあ、クラウディオ殿下が股間を蹴られて負傷したことを除けば、ではあるが。アレは、クラウディオ殿下が余計なことをしなければ、ネロ王子もあのようなことをしなかった筈。悪いのは、クラウディオ殿下で自業自得だ。
これからを予測するに辺り、大変な大打撃を我が国に与えた。それも、一切武力に訴えることなく。代わりに、我が国やクラウディオ殿下の評判は地に堕ちたが……
ある意味では、平和的な解決策だったと言える。ネロ王子の手腕は非常に素晴らしい。
わたしは、本物の天才を知らなかった。
数時間にも渡って、帳簿の精査を黙々と。文句も言わず……シエロ王子の方は偶に悪態を吐いているが。それでも、余所見をすることなく、素早く手を動かして行く。
ぼんやりと、二人の王子を見詰めていると――――
「……医師の手配を。検診を徹底的に、と伝えてください」
「入浴の準備も進めておくこと」
「了解しました」
「衣服は……そうですね。勝手に焼却することはできないので、洗濯と消毒を忘れないように」
ぼそぼそと使用人達が、小声でなにか話している声が聴こえた。
検診、入浴、衣服の消毒? 屋敷内に誰か、病気の者がいたのだろうか?
王子達がいるので、そういう部分は過敏になるのも仕方ない……と、そう思っていた。
「ウェイバー様。準備が整いましたので、移動を願います」
「移動、ですか」
なんの準備だろうか?
「ええ。ネロ様」
「はい、なんでしょうか?」
使用人が声を掛けると、ネロ王子が書類から顔を上げてこちらを見やる。
「ウェイバー様の健康状態をチェックする為、医師へ検診を手配しております。ウェイバー様をお連れして宜しいでしょうか?」
「そうですね。健康は大事です。病歴の有無や体質など、話したくなければ話さなくても構いませんが。健康診断は受けておいてください。食事なども、食べられない物、身体が受け付けない物などを申告して頂けると助かります。無論、それらを悪用してあなたに危害を加えるつもりはありませんので」
「……善処します」
身体が受け付けない食物などを知られるのは、暗殺の危険性がある為、他人に知られるのは非常にリスクが高い。話さなくてもいい、とのことだが……
「では、失礼します。行きましょう、ウェイバー様。あちらです」
と、騎士が左右に付き、使用人の先導で部屋を出た。
そして・・・
「な、な、なんっですかっ、この問診票はっ!?」
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