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夜毎悪夢に魘されてもっとハゲ散らかればいいのです。

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 ネロはわたしを笑い死にさせるつもりか? まあ、ネロにその意図は無さそうだが……

 『そして、クラウディオと思しき男に身代わり、もしくは囮として置いて行かれた付き人の男を捕縛。クラウディオ陣営が領主館から逃走したので、ネロ様が監査の執行を宣言。現在、領主夫妻を拘束。子息二名、及び領主館内の人間を軟禁し、屋敷内を捜索中』

 『ネロ様、シエロ様が領主と面談。第二王子であるシエロ様を簡単に御せる子供だと侮り、国王陛下に言い付けるぞという仄めかしをし、シエロ様に謝罪を要求』

 シエロを簡単に御せるだと? あれもあれで、そんじょそこらの子供ではないというのに。なにより、ネロが黙ってはいまい。領主は盛大に自爆したものだな。

 『シエロ様はしれっとした顔で聞き、領主が話し終えたところでネロ様が口を開いた。「貴重な証言をありがとうございます。では、選んで頂けますか? 一族郎党。及び、屋敷の使用人諸共連座で処刑台へ上るか、それとも全て自供して、関与した者のみが罰を受けるのかを」と』

 う~む……このわたしでさえ、ネロとシエロには簒奪を唆され、うっかり頷きそうになったのだ。領主はすぐにコロっと自供しそうだな?

 『ここで初めて、領主はネロ様が交渉相手だと気付いた模様。ネロ様とシエロ様は処刑や拷問。そして、無関係の者へのお咎め無しという飴と鞭をチラ付かせ、見事領主を陥落させた。領主は自身の関与を認め、素直に自供することを約束した。領主の自供については後日資料をお送り致します』

 やはり、あっさりと白状することになったか。さすがネロとシエロだな。

 『あの薄らハゲ犯罪者め。よりにもよって、慈悲深く麗しい我らの天使であるネロ様と、ネロ様が大事になさっているシエロ様のことを悪魔呼ばわりするとは赦すまじ。ネロ様がお止めしなければ、惨たらしく殺していたものを。しかし、ネロ様に止められてしまいましたので、罪が確定して刑期が終了するまでは手を下すまでの猶予だと思っておくことにします。ネロ様と侍女長に叱られてしまったではないですか。ネロ様に叱られるのも悪くありませんが、ネロ様から離れるのはつらいです。少々腹の虫が治まらないので、毎晩領主の就寝中に「一族郎党、お前のせいで処刑。子供も妻も拷問された後、絞首刑」と囁くことにします。夜毎よごと悪夢にうなされてもっとハゲ散らかればいいのです』

 まあ、敵に回ったネロとシエロの二人を悪魔呼ばわりする気持ちも多少は理解できなくもないが・・・実際、あの二人は頭が良過ぎるのだ。しかし、なにをしたのだ? これを書いた者は……

 やはり、ネロの使用人は交代させた方がいいな。後で、この伝令を書いた侍女を特定させよう。

 『領主の訊問が終了し、続いてクラウディオ陣営に囮として残され、我らが捕縛した男は「わたしはなにも話しません」と宣言するも、現在ネロ様が一族ごとの亡命をチラつかせて懐柔中。尚、件の捕縛した男は似顔絵の中に該当無し』

「ほう……懐柔か」

 ネロなら、さっさと懐柔できそうで……少々恐ろしい気もする。

 犯罪者でなければ、亡命も吝かではない。しかし、犯罪者であれば……

 『男の名前は、シュアン・ウェイバー。クラウディオ王太子の側近。ウェイバー伯爵家の嫡男だと判明』

 ほう……確か、ウェイバー伯爵は領地を持たぬ宮廷貴族。文官を多く輩出している家だった筈。これは、一家で亡命は本当にあり得るかもしれんな。

 そして最後に、ネロからの手紙。

 内容は――――わたしとライカの息災を問うことから始まり、今回逮捕する予定の人員の処分を自分に任せてくれないか? というもの。なにやら、ただ斬首するだけでは勿体ないとのこと。

 なにを言っているのだか? やはり、ネロは慈悲深い、と思うも……具体的な、囚人への待遇や構想などが書かれている。

 読み進めて行くうちに――――

「ふむ……これは、わたしには無い発想だな」

 これは殺さないことが慈悲深いのか、それともえげつないのか……判断に迷うところだな? 全く以て子供の考えるようなことではない。

 だが、確実に国へ利益となる、と。そう書かれている。

 それに、国家転覆罪を公にして断罪できないのであれば、密かに始末するよりも有効活用した方がいい、か……成る程な?

 そして、最終的は囚人本人へと自身の待遇を決めさせる、と。

「よし、このネロの構想を基にして、実現可能か精査しろ」

 ネロの手紙を文官に見せる。

「これはまた……」
「できそうか?」
「そうですね……いっその事、新しい医療施設を作った方がいいかもしれませんね。頭のおかしい連中なら、喜んで人体実験するでしょうし」

 ネロの手紙に書かれていた、囚人の待遇。『三食昼寝とおやつまで付いて、なにもせず、指定された薬をただ飲むだけで人類に貢献できるという簡単で素晴らしいお仕事があると聞き及びました。わたしの考えた構想に賛同しない囚人、そしてどうしても改心しない囚人へはそのお仕事をして頂こうと思います』、と。

 これは、明確に薬物を使用した人体実験のことだよな? 誰だ、七つの子供にそのような話をしたのは……と思うも、ネロは城の書庫で禁書指定の本を勝手に読むような子供だったと思い出す。

 むしろ、誰かに聞く前から知っていそうな気もする。それはそれでかなり問題なのだが……

「わたしが聞いているのは、そっちではないのだが?」
「確かに国益にはなると思いますが……そちらの方はそう上手く行くとは思えませんが」

 難色を示す文官。

「まあ、物は試しだ。今回の逮捕者で試してみるのも有りだろう」
「アストレイヤ様が仰るのであれば」
「貴人の幽閉に使用する離宮があっただろう。一時的にそこを使用させてみるか」
「手配致します」

 と、ネロの手紙を数枚持って文官が執務室を出て行った。

 そして――――

「あの、母上。お呼びでしょうか?」

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