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初めまして。妾腹で、なんの将来性も無い第二王子のシエロと申します。
しおりを挟む年端も行かぬ少女に蹴り潰されて痛い目見てろっ、あの恥晒しのクソ野郎がっ!!
ハッ! わたしとしたことが、クラウディオ殿下が痛い目を見ればいいなどと思ってしまった!
いや、でもあの野郎わたしのことあっさり切り捨てたよな? だから少しくらい、クラウディオ殿下を恨んでも……
どれくらいそうして考え事をしていただろうか。
訊問を開始すると騎士に言われた。
馬車の中は狭いからと、訊問の為に用意した……領主の屋敷の部屋で待たされて――――
部屋に入って来たのは、護衛や付き人を引き連れた子供だった。
銀糸のような髪に水色の瞳。少年のような服装をしているが、少年だとも断言できない。男装をしている少女だと言われても通じそうな麗しい容姿をした子供。
その後ろに控えているのは、先程クラウディオ殿下に粉を掛けられていた赤髪の少年。その隣には、これまた見事な美貌の黒髪の少年。
正面に座った少年の水色の透き通った視線がわたしを見据え、
「初めまして。妾腹で、なんの将来性も無い第二王子のシエロと申します」
挨拶の後に続けられた言葉に、絶句した。
第二王子の使いの者が訪れていた……ということは、第二王子が近くに来ていてもおかしくない。むしろ、今晩の宿を求める為に、この屋敷に来ていたとしたら?
もしかすると……いや、これはもう既に先程のクラウディオ様とそこの従者とのやり取りを詳細に報告されているということかっ!?
まずいっ、これは非常にまずいっ!!
いや、そもそも他国に破壊工作をしに訪れている時点でこちら側が悪いのだが。それは判っている。
しかしシエロ第二王子の自己紹介で、いきなり鳩尾にボディーブローを食らった気分だ。
クラウディオ様が悪口を言った後に、その第二王子ご本人の登場とは、非常に気まずい。
状況的に、色々と詰んでる……
終わった……という気分だ。そもそも、クラウディオ殿下に性犯罪者だと示され、囮として切り捨てられた時点でかなり終わっているのだが。
下手をすると、訊問や拷問などぶっ飛ばして不敬罪でこのまま斬首……なのかもしれない。屈強な騎士も側に控えているし。十二分にあり得る。
両親よ、先立つ不孝をお許しください……
不幸中の幸いなのは、こちらの国にはまだクラウディオ殿下の身分がバレていないということだろう。さすがに、クラウディオ殿下を王太子だと知っていて、あのように人身売買や性犯罪者として似顔絵で手配までするような真似はしないだろう。
知っていてやったとしたら、我が国を敵に回しての国際問題だ。
・・・我が国の方が、この国を怒らせ、敵に回すような行動を先に取っているのだが。
「あなたの名前は?」
と、わたしへ問い掛けるシエロ第二王子。
「……」
なにも答えられずに口を噤んでいると、
「だんまりですか」
溜め息と共に落ちるボーイソプラノ。
「その……彼が口にしたことについては、謝罪致します。大変申し訳ございませんでした」
居た堪れなくなり、頭を下げる。シエロ第二王子を侮辱したのはクラウディオ殿下だが、先程の……粗野なのか理知的なのか判断に困る威勢のいい少女が言っていたように、殿下を諫めなかったわたしにも連帯責任がある。
「そうですか。ところで、質問なのですが」
「そのことについても。申し訳ありませんが、わたしはなにも話すつもりはありません」
「撫で斬り、という言葉がどういう意味か知っていますか?」
話さないとの答えも気にした様子も無く、シエロ第二王子が淡々と続けた。
その言葉が意味することに、サッと血の気が引く。
「っ! そ、それは……」
「現在ここの領主には、隣国の間諜をしていたという疑いが掛かっているそうです。そして先程、『ならば屋敷内の者を拘束し、撫で斬りにしてしまえばいい』というのを聞いてしまったので。この屋敷の者達は、どうなってしまうのでしょうか?」
「無関係の人や女子供もいるのですよっ!?」
思わず声を荒げると、
「?」
シエロ第二王子はきょとんと首を傾げた。彼はまだ、『撫で斬り』の意味するところを知らないのだろうか?
「無関係の人や女性、子供がいたらなにか?」
「……な、撫で斬りというのは、皆殺しという意味です」
わたしの言葉に、シエロ第二王子は表情を動かさない。
「無関係な人達まで殺してしまうというのですかっ? あなたは第二王子殿下なのでしょう? あなたなら、そんな暴挙を止められる筈です!」
「……俺は、将来性も無い妾腹の王子ですからね。そんな権限を持っているとでも?」
そう言って、シエロ第二王子が黙り込む。
この国を貶める画策をし、実行していたクラウディオ殿下やわたし、それに加担した貴族達が露見して報いを受けるのは自業自得だ。そのこと自体は仕方ないことだと思う。
しかし、この屋敷に住んでいるのは、わたし達に加担した領主だけではない。夫人や子息達もいる。住み込みで働いている使用人達だっている。そして、その家族達がいる。いや、彼らのことを思うのなら、クラウディオ様に加担などするなとは思うが……
だが、一先ずそのことは棚上げだ。数十名から、下手をしたら三桁に上る程の無関係な女性や子供達が、わたし達のせいで……この屋敷の住人達が全員、殺されてしまう。
何度か出入りして、顔見知りになった人がいる。挨拶を交わした人がいる。屋敷内を走る子供の姿を見たことがある。
「っ……わかり、ました……領主と執事。そして、他数名だけです。それ以外の者達は、無関係な筈です。他の人達を罰するのは、どうかやめてください。お願いします」
頭を下げて、そう言った。
「・・・だとよ、どうする? ネロ」
「そうですね。こちらとしても、関係者が誰だか判るのは嬉しいことですね」
「……ネ、ロ?」
シエロ第二王子の問い掛けに応えた後ろの、黒髪の子供を凝視する。
その、名前は確か……
「ええ。わたしは、こちらのシエロ兄上の弟でネロと申します」
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