上 下
48 / 157

散々人の警戒心煽っといて遊ぶのかよっ!!

しおりを挟む



「ふむ……」
「どうかしたん?」

 町に繰り出し、ケーキ屋さんへ行ったり屋台を冷やかして、買い食いやら雑貨屋さんを巡ってお土産を購入し、あちこち楽しみながら見ていて――――

『ねぇ、気付いた?』

 小さく蒼に問い掛けると、

『あん? なににだよ?』

 胡乱げな返し。

『多分、誰か・・いる』
『は? 誰かってなんだよ?』
『誰かは知らないけど、多分どこぞのお偉いさんがこの町に来てると思う』
『……それ、まさに俺らじゃねーの?』
『ううん。違う。というか、こっちは視察目的だし。ぶっちゃけ、護衛は少数精鋭で少ないのよ。でも、町中に、あたし達の護衛とは違う……訓練を受けたような人達が点在している気がする』

 そう。服装は町人風だけど、お城に駐在している衛兵のような……人達が、ちらほら歩いている。

『マジで?』

 クソアマがいつ癇癪起こすかって、ピリピリしていた使用人達をずっと見て来たからかしら? 平静を装いながらも、どこか警戒している人を見分けるの、割と鼻が利くのよねー。

『うん。ちょっと聞いてみる』

 と、アストレイヤ様の付けてくれた手先である執事のおじさまにちょいちょいと手招きして屈んでもらう。

誰か・・、いますよね? この町」

 そう聞くと、微妙そうな顔で頷かれた。

「はい。おそらくは、護衛の必要などこかの組織の重鎮がお忍びで来ている可能性が高いと思われます」
「それが誰だか、知っていたりします?」
「いいえ。申し訳ありませんが、わたくし共も把握しておりません」

 という、返答。若干の警戒が含まれることから、多分本当に知らないのかもしれない。こちらが把握できていない人物の、予定に無いお忍び。

 ま、こっちも某要人のことは言えないけどね?

『なんだって?』
『どこの誰かは不明。でも、多分どこぞのお偉いさんがいることは確実みたい』
『マジかよ……』
『うん。そして、おそらくはあたし達の味方じゃない可能性の方が高い』
『ぁ~……だよなぁ。つか、元々味方のが少ないからしゃーねぇわな』
『まさにそれね。というワケで、警戒が必要よ』
『わかった。グレンには言うん?』
『ん~……どうしようかしら? 一応、あたし達側に付くという話ではあるけど。まだ子供だし。特になにかができるワケでもないもの。あたし的に、ストーカー予備軍ショタは利敵行為をしなければ、こっち側にいてもいいっていうスタンスなのよねー?』

 このストーカー予備軍ショタが、完全にあたし達側に身を置くという断言はできないし。家族のしがらみやらなにやらで、やっぱりクソ親父ことレーゲンの方を裏切れない……ということだってある。その場合、グレンを積極的に排除や始末! ということはしないとしても。段々とフェードアウトさせて、重要なことはなに一つ教えないつもりだ。

 なるべくなら子供に非道なことはしたくないので、せいぜいニセ情報をリークさせる為の要員として使うくらいしか、思い浮かばない。

『ねーちゃん、なにげに辛辣なのな』
『だって、子供ってすぐに意見がころころ変わるものでしょ? 親や周囲の環境だって、自分で決められるワケじゃないもの』

 それに、むしろBLを拒否っている蒼には、攻略対象であり、レーゲンの手先でもあるストーカー予備軍ショタは、仮想敵なことを判っているのかしら?

『そりゃそうだけど。でもさ、ねーちゃん』
『つか、アンタ判ってんの?』
『なにがだよ?』
『あたし達の情報をクソ親父側へ流す行為は無論アウト。スパイ行為禁止。シエロたんとクソ親父との仲を取り持とうとするのもアウト。ま、アンタがBL的な意味で仲良くしたいってなら、別だけどね?』
『誰が仲良くするかっ!』

 心底厭そうに吐き捨てる蒼。

『アンタを連れ去るのもアウト。無論。騙されてやった、子供だから、という言い訳は通らないわ』
『俺が、怪しい輩にほいほい付いてくワケねーだろ』

 ギロリと不機嫌に見返す水色の瞳。

『子供同士の体格差だって、甘く見ちゃいけないのよ? 小さいうちは、一つ二つの差でも大きいものよ。それに、顔見知りの場合は? アンタの乳母だってクソ親父サイドじゃない。寝てる間にどこぞに運ばれていた、っていう誘拐だってあるのよ? 気を許している相手に誘拐されるって、結構多いパターンなのよ? 子供の連れ去りで一番多いのは、事情があって離れて暮らしている側の親や、その親族だったってオチなんだから』
『うっ……そ、それは』
『ま、その辺りの外的要因は幾ら自分が気を付けていてもどうしようもないことだってあるから、追々対策を考えるとして。とりあえずのところは……』
『とりあえず、なんだよ?』
『ちょっと警戒しつつ、普通に満喫しましょう♪』
『は? や、散々人の警戒心煽っといて遊ぶのかよっ!!』
『あら、警戒心を忘れたまま遊んで、気付いたらヤバい状況に陥っててどうしよう大ピーンチっ!? ってのがよかったかしら?』
『そうじゃなくてさ!』
『いずれにしても、視察することは決定だし。下手にこっちが警戒心剥き出し状態で行動しようものなら、お忍びの意味が無いじゃない。適度な緊張感を持ちつつ、この領地の人や、ここに来ているであろうどこぞのお偉いさんに怪しまれないよう、あちこちを探るって感じかしら?』
『……わかった』
『わかれば宜しい』

 と、そんなことをひそひそ話していると、

「ご相談は終わりましたか?」

 おじさま執事の質問。

 どうやら、あたし達の方針が決まるのを待っていてくれたらしい。

「ええ。このまま予定通りにあちこち見て回りましょう。下手に警戒して、向こうの方に悟られるのも悪手だと思うので。では、まずは高級レストランにでも向かいましょうか」
「了解致しました」
「え? まだ食う気なん? しかも、高級なとこ?」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】腐ったお姉様。伏してお願い奉りやがるから、是非とも助けろくださいっ!?

月白ヤトヒコ
ファンタジー
腹違いだという妹の、 『あぁ・・・生シエロたん、しかも無垢なショタバージョン、マジ尊い♥』 その意味不明な筈の言葉を聞いた途端、『俺』は前世で姉貴から頼まれたBLゲームを買う道中で死んだことを思い出した。 しかも、生まれ変わった先は件のゲーム。ヤンデレ好きご用達レーベルの、最良でメリバしかない鬼畜BLゲームに転生していたっ!? 鬼畜、ヤンデレ、執着監禁親父、ストーカー、メンヘラ、拷問好きサイコパスという攻略対象達から命と貞操と尊厳を守るため…… 『腐ったお姉様。伏してお願い奉りやがるから、是非とも助けろくださいっ!?』 メリバ、バッドエンド、死亡フラグを回避して、俺は普通の恋愛がしたいんだっ!! ※BLゲームの世界に転生という設定ですが、BLを回避する目的の話なので男性同士の絡みはありません。あしからず。 会話メイン。設定はふわっと。

妹に出ていけと言われたので守護霊を全員引き連れて出ていきます

兎屋亀吉
恋愛
ヨナーク伯爵家の令嬢アリシアは幼い頃に顔に大怪我を負ってから、霊を視認し使役する能力を身に着けていた。顔の傷によって政略結婚の駒としては使えなくなってしまったアリシアは当然のように冷遇されたが、アリシアを守る守護霊の力によって生活はどんどん豊かになっていった。しかしそんなある日、アリシアの父アビゲイルが亡くなる。次に伯爵家当主となったのはアリシアの妹ミーシャのところに婿入りしていたケインという男。ミーシャとケインはアリシアのことを邪魔に思っており、アリシアは着の身着のままの状態で伯爵家から放り出されてしまう。そこからヨナーク伯爵家の没落が始まった。

よくある父親の再婚で意地悪な義母と義妹が来たけどヒロインが○○○だったら………

naturalsoft
恋愛
なろうの方で日間異世界恋愛ランキング1位!ありがとうございます! ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 最近よくある、父親が再婚して出来た義母と義妹が、前妻の娘であるヒロインをイジメて追い出してしまう話……… でも、【権力】って婿養子の父親より前妻の娘である私が持ってのは知ってます?家を継ぐのも、死んだお母様の直系の血筋である【私】なのですよ? まったく、どうして多くの小説ではバカ正直にイジメられるのかしら? 少女はパタンッと本を閉じる。 そして悪巧みしていそうな笑みを浮かべて── アタイはそんな無様な事にはならねぇけどな! くははははっ!!! 静かな部屋の中で、少女の笑い声がこだまするのだった。

婚約破棄はいいですが、あなた学院に届け出てる仕事と違いませんか?

来住野つかさ
恋愛
侯爵令嬢オリヴィア・マルティネスの現在の状況を端的に表すならば、絶体絶命と言える。何故なら今は王立学院卒業式の記念パーティの真っ最中。華々しいこの催しの中で、婚約者のシェルドン第三王子殿下に婚約破棄と断罪を言い渡されているからだ。 パン屋で働く苦学生・平民のミナを隣において、シェルドン殿下と側近候補達に断罪される段になって、オリヴィアは先手を打つ。「ミナさん、あなた学院に提出している『就業許可申請書』に書いた勤務内容に偽りがありますわよね?」―― よくある婚約破棄ものです。R15は保険です。あからさまな表現はないはずです。 ※この作品は『カクヨム』『小説家になろう』にも掲載しています。

私を処刑しようとしたくせにお前達なんか助けるわけないだろ!!

奏千歌
恋愛
[カミヒト] ※ヒロインがバッドエンドを迎えます。ご注意ください。多少は救いがあると思います。 ※不快な表現が多々あると思います。 ※ヒロイン以外で近親相姦に近い描写があります。 ※【R15】程度の残酷描写・性描写があります。 以上の点に留意してください。  妻であるあの女と、同級生である国王に対する劣等感から生まれるものが、全て私に負の捌け口として向けられていた。  小さくて、どうしようもない男だった。だから、妻であるあの女にも見向きもされない。私を虐げることでしか、己のプライドを保てないのだから。  今日もまた、裸にされてこの背中に鞭を打たれている。 「お前と、私の可愛いローザの血が半分でも繋がっているのが信じられん。この、卑しいお前の血とな!!」  唾を飛ばしながら、恍惚の表情で鞭を振るい続ける姿は滑稽だ。  お前となんか、この家の誰一人として血の繋がりがないだろう。  意識を失う寸前に、心の中でそう嘲笑っていた。  生まれた時から虐げられてきた私が、国を守る事など考えるわけがない。ギフトを持った私が国を離れて、この国が滅んだとしても、それは私には関係のない事だ。  私はただ、復讐するだけだ。あの男に。あの女に。そして、あの妹に。 *カクヨムの内容から若干書き足しています。大筋は変わりません

【完結】あなたの『番』は埋葬されました。

月白ヤトヒコ
恋愛
道を歩いていたら、いきなり見知らぬ男にぐいっと強く腕を掴まれました。 「ああ、漸く見付けた。愛しい俺の番」 なにやら、どこぞの物語のようなことをのたまっています。正気で言っているのでしょうか? 「はあ? 勘違いではありませんか? 気のせいとか」 そうでなければ―――― 「違うっ!? 俺が番を間違うワケがない! 君から漂って来るいい匂いがその証拠だっ!」 男は、わたしの言葉を強く否定します。 「匂い、ですか……それこそ、勘違いでは? ほら、誰かからの移り香という可能性もあります」 否定はしたのですが、男はわたしのことを『番』だと言って聞きません。 「番という素晴らしい存在を感知できない憐れな種族。しかし、俺の番となったからには、そのような憐れさとは無縁だ。これから、たっぷり愛し合おう」 「お断りします」 この男の愛など、わたしは必要としていません。 そう断っても、彼は聞いてくれません。 だから――――実験を、してみることにしました。 一月後。もう一度彼と会うと、彼はわたしのことを『番』だとは認識していないようでした。 「貴様っ、俺の番であることを偽っていたのかっ!?」 そう怒声を上げる彼へ、わたしは告げました。 「あなたの『番』は埋葬されました」、と。 設定はふわっと。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています

ぺきぺき
恋愛
初代国王と7人の偉大な魔法使いによって建国されたルクレツェン国。そこには世界に誇る有名なルクレツェン魔法学園があった。 非魔法族の親から生まれたノエルはワクワクしながら魔法学園に入学したが、そこは貴族と獣人がバチバチしながら平民を見下す古い風習や差別が今も消えない場所だった。 ヒロインのノエルがぷんすかしながら、いじめを解決しようとしたり、新しい流行を学園に取り入れようとしたり、自分の夢を追いかけたり、恋愛したりする話。 ーーーー 7章構成、最終話まで執筆済み 章ごとに異なる主人公がヒロインにたらされます ヒロイン視点は第7章にて 作者の別作品『わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました』の隣の国のお話です。

処理中です...