5 / 7
5
しおりを挟む♩*。♫.°♪*。♬꙳♩*。♫
第一王子殿下が王太子に内定したと思ったのだけど、なぜかその発表が先延ばしにされた。
不思議に思ったけれど、わたくしは王子妃教育が忙しく、婚約者である第一王子殿下と顔を合わせることが減っていることに、なにも疑問を抱かなかった。
多分わたくしは、第一王子殿下ご本人のことには、大して興味がなかったのでしょうね。いずれ結婚しなくてはいけない相手だとしか、思っていなかった。
だから――――
定期的に開かれる、公式なお茶会で第一王子殿下に、婚約を解消してほしいと言われても、その理由が『偶々出逢った平民のお嬢さんに恋をしたから』だと言われても、特になにも思わなかったのでしょう。
これから大変なことになる、という思考が真っ先に過りましたが。
それよりも……むしろ、これでやっと解放される! との思いの方が大きかった。
まぁ、わたくしの価値も見事に無くなってしまいましたが。
ああ、殿下の侍従がそっと席を外しました。きっと、陛下へ報告に行ったのでしょう。
とりあえず、この考え足らずの殿下へ忠告だけして、自分のこの先のことを考えましょうか。
それにしても殿下は、相変わらず察しが悪いですね。わたくしの言っていることを、額面通りに『愛玩動物』についての雑談だと思っているご様子。
これでは、殿下の恋したという平民のお嬢さんが不幸になるのは必至ではありませんか。
わたくしの、小鳥さん達みたいに……
本当に世話の焼ける方ですこと。
貴族社会という囲いの中は、柵が多いというのに。その中でも、お城という強固な檻に、なんの覚悟も知識も無い平民女性を入れて、囲ってしまわれるおつもりですか。
本当に、なにも考えていないのですね。
呆れますこと……あぁ、いえ。殿下は生まれたときより、その檻の中で雁字搦めにされて育って来た方なのですから、もしかしたらそれが当たり前過ぎて、その檻の強固さと、柵の多さにお気付きではないのかもしれませんね。
まぁ、殿下を縛っている、その雁字搦めの柵は……もうそろそろ緩むかもしれませんけれど。
そして王位継承権という柵が緩む代わりに、今度は別の・・・
けれど、もうわたくしが殿下を心配する必要はありませんね。
むしろ、わたくしは自分の身を案じるべきですわ。
「殿下の幸運をお祈りしておりますわ」
と、呆然とした様子の殿下の前から辞する。
城の中を速足で、けれど優雅に見えるように、表情を崩さないままで移動。
急いで馬車に乗り込み、屋敷まで走らせる。
さあ、これからは時間との勝負になるわ。
檻から出るには、足掻くのならば今しかない。
王族との婚約を解消されたわたくしは傷物。
それも、どこへも嫁ぐことのできない、両親にとっては価値が無くなってしまったただのお荷物。
修道院行きならば、まだマシな方でしょうね。
もし殿下ではない方へと嫁げたとしても、別の……問題のある方へ嫁がされてしまうか、最悪は『病気』にさせられて、この命さえも危ういかもしません。
そして、わたくしが不要になれば、わたくしの小鳥さん達もが不要となってしまう。
あの屋敷には、居られなくなってしまう。
殿下との婚姻が整ったら、小鳥さん達をわたくしから解放してあげるつもりだった。
こんな形で放り出すような真似なんて、絶対に駄目。そんなことはさせない。
ああ、早く家に着かないかしら。
急がせている筈の馬車の速度にももどかしく思い、けれどこれからのことを考える時間にしようと、思考を働かせます。
ガタガタと揺れていた馬車が止まったので、ドアを開けて飛び出し、屋敷の中へ、自室へと急ぎます。
「お嬢さま、どうしたですか?」
「王子サマとのお茶会は?」
小鳥さん達が驚いた顔で、部屋に飛び込んだわたくしを見詰めます。
「急いでいるので手短に話します。わたくしは、婚約解消されました」
「え?」
「はあっ!? なんだよそれっ!?」
「しっ、静かに」
声を上げる小鳥さん達に鋭く注意すると、二人は真剣な顔で頷いてくれました。
「殿下との婚約が解消されたわたくしには、もうこれまでの価値がありません」
「そんなことないっ!?」
「静かに、と言った筈です」
「っ・・・」
顔を歪めて口を閉じる小鳥さん。
「なので、わたくしは逃げることにしました」
「「っ!?」」
「直ぐにこの屋敷を出ます。付いて来て、もらえるかしら?」
__________
お嬢様が王子にした忠告がどんなものか知りたい方は、『お城で愛玩動物を飼う方法』を読んで頂ければわかります。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
変な転入生が現れましたので色々ご指摘さしあげたら、悪役令嬢呼ばわりされましたわ
奏音 美都
恋愛
上流階級の貴族子息や令嬢が通うロイヤル学院に、庶民階級からの特待生が転入してきましたの。
スチュワートやロナルド、アリアにジョセフィーンといった名前が並ぶ中……ハルコだなんて、おかしな
妻と夫と元妻と
キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では?
わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。
数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。
しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。
そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。
まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。
なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。
そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて………
相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。
不治の誤字脱字病患者の作品です。
作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。
性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。
小説家になろうさんでも投稿します。
【完結】「まずは……手前ぇよりも上位の存在に犯されて来い。話はそれからだ」
月白ヤトヒコ
ファンタジー
よその部署のヘルプという一仕事を終えて帰ろうとしたら、突然魔法陣が現れてどこぞの城へと『女神の化身』として召喚されたわたし。
すると、いきなり「お前が女神の化身か。まあまあの顔だな。お前をわたしの妻にしてやる。子を産ませてやることを光栄に思うがいい。今夜は初夜だ。この娘を磨き上げろ」とか傲慢な国王(顔は美形)に言われたので、城に火を付けて逃亡……したけど捕まった。
なにが不満だと聞かれたので、「まずは……手前ぇよりも上位の存在に犯されて来い。話はそれからだ」と言ってやりました。
誘拐召喚に怒ってないワケねぇだろっ!?
さあ、手前ぇが体験してみろ!
※タイトルがアレでBLタグは一応付けていますが、ギャグみたいなものです。
自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~
浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。
本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。
※2024.8.5 番外編を2話追加しました!
婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?
tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」
「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」
子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。
その断罪、三ヶ月後じゃダメですか?
荒瀬ヤヒロ
恋愛
ダメですか。
突然覚えのない罪をなすりつけられたアレクサンドルは兄と弟ともに深い溜め息を吐く。
「あと、三ヶ月だったのに…」
*「小説家になろう」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる