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ヴァンパイア編。

130.甘くて美味しい、僕の愛する血の味。

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 肩までかかる紫がかった漆黒のストレート。垂れ目気味な蘇芳すおうの瞳。その右目の下には泣き黒子ぼくろ。褐色の肌で長身の・・・バイコーン。


 その男が、ぐったりとした僕のモノ・・・・を腕に抱いて意味不明で馬鹿馬鹿しいことを喚いている。

「大体だなっ、角が生えてる連中にとって角は急所であると同時に、身内にも滅多に触れさせないとても神聖なものなんだぞっ!? その中でも特に、ユニコーンのクソ共はプライドが高くて…いや、アルゥラはユニコーンじゃないがっ! それでも、他者へひざまずくことをよしとはしない筈だっ! 額へ…その角へと触れてもいいのは、アルゥラが認めて・・・つがう相手だけの筈だっ!? それを、無理矢理愛を交わそうとするなど言語道断っ!? 鬼畜か手前ぇはっ!!!」

 アイヲカワス?

 なにを言っている?

 意味がわからない。

 ただ、アークの血を飲むことを、この馬鹿に邪魔されたのは事実だ。

 そしてそれは、僕のモノ・・・・だ。

 僕の血筋で・・・アークが血を与え・・・・・・・・、そして僕が血を与えた・・・・・・・モノ。僕が名前を付けた・・・・・・・・モノ。

 昔よりも色々と混ざっているけど、それでもルチルからは、アークの血の味がする。
 甘くて美味しい・・・・・・・僕の愛する・・・・・血の味。
 だから、アレ・・は僕のモノだ。

 幾らバイコーンが、大の女好きで常に盛っているような、淫蕩で頭の悪い馬鹿な種族だとしても、僕のモノを取ることはゆるさない。

 それに・・・

誘惑者アルゥラ、だと?巫山戯ふざけるな。それ・・は、僕のモノだって言っているだろうが」

 なんだか、凄く苛々して来た。
 なぜかこの馬鹿は、物凄くムカつく。

「あ? 魅惑的アルゥラな女を魅惑的アルゥラと呼んでなにが悪いっ! それに、好きな女を苛めるだなんて物凄くカッコ悪いぜっ! そんな幼稚な愛情表現は幼児の間に終わらせとけっ! ガキがっ!!!」

 意味が、わからない。

「っ・・・ルチル」

※※※※※※※※※※※※※※※

 呼ばれた。×××に・・・

 オレ、は・・・?
 ボクが・・・?
 わたしを・・・?

 誰が、呼んだ・・・?

 苛立たしげな、彼の声。

 痛む角、ぬるりと流れる熱い赤。

 あのとき…も、わたしは・・・?

 わたしは、彼に殺されるのだと・・・

 ああ、頭が痛い。

 彼って誰だ? なんで頭がこんなに痛む?

 脈動に合わせ、ガツンガツン神経を直接殴られているような激痛。

 痛い、苦しい・・・

 熱い血が、流れ・・・

 酷く、頭が痛む・・・

「ルチル。来い。君は、僕のモノだろう」

 ああ、×××が、呼んで・・・

 刺々しいのに、寂しそうな声が・・・

 わたし・・・を、呼ぶ。

 与えられた血が、呼ぶ・・・

 だから、行かなきゃ・・・

 常に、寂しいと全身で叫んでいるような・・・

 彼が求めるのは、わたしじゃないけど・・・

 でも、彼が呼ぶから・・・

「・・・×××・・・」

 呟いた瞬間、オレの意識は闇に飲まれ・・・

 ・・・・・・・・・
 ・・・・・・
 ・・・

※※※※※※※※※※※※※※※

 苦痛にうめいていたアルゥラが小さくなにかを呟いた瞬間、ふっとその身体が脱力した。どうやら意識を失ったようだ。

 さて、どうするか・・・

 アルゥラを抱えて逃げるにしても、あっちで床に座り込んで、こちらを悲痛な顔で見ている女の子もいる。あの子も抱えて、真祖から逃げる・・・

 まさに両手に花という状況っ! 美少女二人を抱えて颯爽と助ける格好いい俺っ!
 ではあるが・・・少々状況が厳しめだ。

 アルゥラと、あの彼女も怪我を負っているようだし、おまけにアルゥラは意識を失った。

 それでもおそらく、逃げ切ることは可能だ。

 多分、本気を出せば・・・振り切れる。

 しかし・・・この状態のアルゥラを、動かして大丈夫なのか? という問題がある。

 角は、まさしくユニコーンの急所だ。角を折られて生きていること自体が、まず奇跡と言える。

 その、角が折れている状態のアルゥラを動かすことへの不安だ。

 この真祖のガキから逃げるとなると、本気で走らなければいけないだろう。
 それも、獣型の俺の背中へ乗せての全速力、となる。果たして、この状態のアルゥラが、その負荷へ耐え切れるのか・・・?

 逃げることで、アルゥラへ更なるダメージを与えてしまうことは、なるべく避けたい。

 だから今は、下手に動けない。

 さあ? 動くか、動かざるべきか・・・

 そう逡巡していたら、

「っ、ぅ・・・」

 閉じた白いまぶたがゆっくりと開いた。

「!?」

 それは、常の翡翠ではなく、以前にアルゥラに異変が起こったときに見た・・・赤い・・色の瞳。

「アルゥラ?」
「・・・あぁ、頭痛い。本当に、最悪だ」

 掠れたアルト。蒼白な顔をしかめ、額を押さえる赤い瞳・・・のアルゥラ。その赤い瞳が、俺を見上げた。

「・・・降ろしてくれる?」
「大丈夫、なのか? それ・・・」
「まあ・・・あんまり大丈夫、ではないけどね。なんとかするさ」
「・・・無理は、しないでくれ」

 そう言ったアルゥラの意志を尊重して、そっとアルゥラを床へと降ろす。

「・・・やあ、イリヤ。久し振りだね。相変わらずの容赦ないクズっ振り。お陰でぼろぼろじゃないか」

 脱臼した肩をそのままに、アルゥラは黒髪金眼のガキへ、どこか親しげに語りかける。

「容赦も手加減もしている。優しくしているだろう? そうじゃなきゃ、君なんかとっくに殺してるよ」
「手加減してこれか・・・全く・・・まあ、君が隷属をいてないというのは収穫、かな?」
「? 君ってそんな喋り方だっけ? ルチル」

 首を傾げたガキへ、アルゥラが一歩踏み出す。

「アルゥラ!」

 思わず呼ぶと、振り向いたアルゥラの唇が、

・・・大丈夫・・・任せて

 音無く動いた。そして・・・

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 前回トールが、愛がどうこう言っていた理由ですね。そして、即行で逃げない理由。
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