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ヴァンパイア編。

122.あ、これ、マジのやつだわ・・・

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「なんなんだ、この船はっ!?!?」

 出会った彼女達二人と、三人でイイことをしようと空き部屋へ入ったのはいい。
 しかしっ、服を脱いだ途端、なぜか俺だけが部屋の外へといたっ!? ご丁寧なことに、脱いだ服まで一緒に廊下へと落ちているっ!

 廊下の真ん中なので服を着るが・・・

 とりあえず、意味がわからない。

 もう一度部屋の中に入ると、お嬢さん達二人がぽかんとした顔で俺を見た。

 お嬢さん達にも意味がわからないようだ。

「よし、ヤるぞっ!?」

 と、気を取り直して服を脱いだら、

「・・・は?」

 また俺は、廊下に立っていた。

「なんだこれはっ!?」

 またもやご丁寧に、足元へ落ちている脱いだ服を拾い、そのまま部屋へ入ろうとした。ら、

「なんっ、なんだ一体っ!?」

 今度はドア自体が開かなくなった。
 ガチャガチャとドアノブを回すが、ドアが開く気配がない。ノブは回るのに、ドア自体はガタガタとも揺れないで、全く動かない。

 意味がわからん。

 とりあえず、廊下の真ん中で半裸はマズい。仕方ないので服を着る。

 ドアは開かないが、お嬢さん達が中にいる。置いて行くワケにはいかないので、もう一度…

「開いたーっ!?」

 今度は呆気なく開いたドア。
 本気で意味がわからない。

 それを、五回程繰り返し・・・

「ハッ! 判ったぞっ!?」

 服を脱ぐと廊下に出される。
 そして、服を脱いだ状態だと部屋へ入れない!

「つまり、廊下でヤれということかっ!? なんて羞恥プレイを強要する船なんだっ!? 全くもってけしからんじゃないかっ!? 俺は全然、全く、これっぽっちも気にしないが、お嬢さん達はどうだ? お嬢さん達が構わなければ、俺も全く構わないぜっ!?」

 謎が解けたところで、質問した。
 すると、断られた!!! ので・・・泣く泣くお嬢さん達とは別れることにした。
 心底残念で残念で堪らないぜっ!?
 だが、俺は女に無理強いはしないと決めているっ!? そう、例え血の涙を飲もうともっ!? それは最低の行為で、女に恥を掻かせる奴はクズだからなっ!!!

 仕方ないので、船の中を物色することにした。なにか金目の物が有るといいが・・・

 それに、もしかしたら廊下で・・・という情熱的なお嬢さんがいるかもしれないからな!!! 無論、俺は全力で心から大歓迎するぜっ!!!

※※※※※※※※※※※※※※※

 どこぞの馬鹿が、何度も廊下へ放り出されているようですわ。全く、愚かしいことですわね?

 さっさと諦めれば宜しいというのに。

 というか、パーティー開始そうそう・・・とんでもない方々ですこと、全く。わたくしの船で、そのような不埒なことを許す筈がありませんわ。

 そのようなことをさせないよう、あらかじめ定めておきました。男女が同室した状態でその着衣をくつろげると、殿方の方を廊下へ追い出すというルールを作りました。
 また、着衣を寛げた状態では一人、もしくは同性同士ならばかく、男女同士では密室へは入れないようにしました。
 まあ、半裸になれば同性同士でも着衣面積の多い方の方を廊下へ出すようにしておりますが。

 そして、全裸になると密室へ一人で閉じ籠めることにしております。服を着るまで、絶対に部屋の外へは出しません。

 ちなみに、これは招待客へ課したルールです。

 さて、どう致しましょうか・・・少し悩みますが、今は放っておくことにしましょう。諦めたようで、ちゃんと服を着て移動しているようですし。

 そんなことよりもっ・・・

 フェンネル様はっ・・・いつまでアレク様を独り占めなさるおつもりなんですのっ!?

 いい加減、ダンスを終えてくださいませっ!?

※※※※※※※※※※※※※※※

 くるくるくるくるワルツを踊り続け、やっと満足したのか、ようやく兄さんが足を止めてくれた。

「ふぅ・・・」
「疲れましたか? すみません。貴女と踊れるのが嬉しくて、つい時間を忘れてしまいました。少し休憩しましょう。なにか飲みたいものはありますか?」

 溜息を吐いたオレを心配そうに、けれど少しだけ嬉しげに兄さんが覗き込む。

 そりゃあね、疲れるよ。

 ダンスにじゃなくて、この会場の雰囲気にさ。
 嘲笑、軽蔑、侮り、侮辱、嫉妬・・・
 様々な悪意をはらんだ視線とさざめき。

 本っ当、いやな気分だ。

「いえ、大丈夫です。ご心配、ありがとうございます。フェンネル様」

 まあ、あれだ。この厭な気分を、顔に出さないようにするのが一番疲れるかも。

 絶やさぬ微笑みってやつ? これで社交ができる兄さんとリリはホント凄い。尊敬するよ。

 とりあえず、これでオレの役目は終了。
 後はリリのところへ引っ込めばいい筈だ。

「では、わたくしはローズマリー様のところで休憩させて頂きますね?」
「・・・」

 兄さんから離れようとしたら、腕が掴まれて胸元へ引き寄せられた。背中に回る腕。もう、行っていい筈じゃないのか?

「? フェンネル様?」
「貴女が彼女と仲が良いのはわかっている・・・・・・のですが・・・そんなに嬉しそうな顔をされると、少し…いてしまいますよ?」
「っ…」

 ヒヤリとした低いテノールが耳元へ囁く。

 やっべ! 嬉しいのバレてる!兄さん怒ったっ!?

 おそるおそる見上げると、

「冗談です」

 にこりと微笑む兄さん。

 いや、明らかに本気だったよね? 今の。

「ですが、約束してくださいね?駄目ですよ。僕以外の男へ付いて行っては。嫉妬のあまり、思わず相手を消してしまうかもしれません」

 あ、これ、マジのやつだわ・・・

 笑顔で、殺気と威圧を周囲へ振り撒いている。

「では、愛しい方。また後で・・・・

 ふっと威圧と殺気とが消え、切なげな表情。

「…はい。フェンネル様」

 白い手が頬へ添えられ、反対側の頬へ兄さんの唇が落とされた。

吸血キス、させてくださいね?」

 熱のこもる小さな囁きと共に、アイマスクの奥のセピアが赤みを帯びてきらめく。首を見詰める瞳に灯るのは欲望の色。

 ゾクリと背筋が粟立った。

 そして、名残惜しげに兄さんの手が離されて周囲を見やると、純血の男達がドン引きしていた。

 さすが兄さん。これでみんな、兄さんの本気を察したことだろう。オレに手出しするのは命懸けだというアピールを。

 ウザい野郎共が絶対に寄って来ない筈だ!

 兄さんはめっちゃコワいからねっ!?

 さあ、リリのところへ行こう。

 そして、さっさと帰ろう!

 この状態の兄さんに吸血キスされるのは、本気でヤバイ。身の危険をひしひしと感じるからねっ!

※※※※※※※※※※※※※※※

「ハァっ…ハァ……あ、れ?」

 ここ…どこ、だっ…け?

 なん…で、ここに?

 ああ、そんなこと、今はどうでもいい・・・

 血が、足りない。

「な、誰だ貴、さっ・・・っ!?」

 全然足りない。くらくらする。

「た、助けっ・・・」

 身体が重い。

「ぎゃっ、ひぃっ!?」

 もっと、血が要る・・・

「っ…し、ん…、のっ・・・っ!?」

 こんなの、不味くてしょうがないけど・・・

 動けないと、困るから・・・

 なんでだっけ?

 確か・・・君を、探さなきゃいけないんだ。

 君、を・・・

 探さなきゃ。

 君を・・・君は、どこにいるんだっけ?

「ああ・・・そうだ。思い出した」

 君を、害そうとする奴らがいたんだ。

 だから君がいなくなって、だから僕は、殺さなきゃいけないんだ。君のことは僕が守らなきゃ。

 安全になったら、君はきっと出て来るよね?

 うん。そうだ。そうに決まってる。

 だから、殺さなきゃ。

 君に逢う為に・・・

※※※※※※※※※※※※※※※

 先程から、あちこち騒がしいことですわ。

 船内で純血の方々の反応が、数名程消えました。あら? また一人、消えましたか。

 純血の皆様は血の気が多いのでしょうか?

 そう焦らずとも宜しいのに。

 まあ、そんなことよりアレク様ですわ♥️

 フェンネル様から解放されてお疲れになっているアレク様を、リリが癒して差し上げます♥️

 さあ、リリと一緒に過ごしてくださいませ♥️
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