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ヴァンパイア編。

121.早くダンスを終えて頂けませんことっ!?

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「あの女嫌いの貴公子がっ…」「誰だあの女は……」「冷血の君は確か、妹御にしか……」「黒髪の……」「妹君の代わり……」「妹も混血だとか」「あの混ざりモノはブライトに」「ああ、だから……」「それで」「どうせたわむれに決まっている」「所詮は愛玩用」「やはりアダマスは変り者の……」「当主も他種族の女と……」

 わー、兄さん驚かれてるー…
 っていうか、愛玩とか、姉さんの代わり、ね…
 純血共、発想からして下衆げすなんだが?

 まあ一応、そういう風に思わせる為に姉さんに寄せた変装なんだけど、思ったよりも気分悪ぃな。

 そして、オレを見詰めてぼーっとしている兄さん。いい加減放してほしいと思う。

「…フェンネル様?」

 高い声作るのもなぁ。
 あと、この令嬢な喋り方、舌噛みそう。

「っ…はい、どうしましたか?」

 一拍遅れて反応する兄さん。なんだろ?

「フェンネル様こそ、どうされましたか?」
「愛しい貴女が、僕を呼んでくれることが嬉しくて。どうか、もっと僕の名前を呼んでください」

 にこりと微笑む兄さん。

 フェンネル、と呼ばれて喜んでいるらしい。まあ、普段は兄さんとしか呼ばないからな。

 というか、そんなことより、恥ずかしいんだよね。ここ、衆人環視なんだからさ?

「そんなことより、早くお放しください」
「放したく、ありません」

 いや、切なげに言われても困るんだけど?

 次の段取り的には、確かダンスだった筈。女側から誘うことはあまり宜しくないとされているんだが、仕方ないか。

 曲は開始の合図で始まっているけど、最初に主催側の要人が踊らないと、ダンスは始まらない。

 一応、仮面舞踏会マスカレイドも舞踏会だからね。

 男が苦手なリリに踊らせるワケには行かない。

 というワケで、ダンスを始めてしまおう。

 そしてオレは、さっさと引っ込んでリリを愛でつつ癒されたいと思う!

 ここは居心地が悪い。疲れる。
 兄さんが他の連中相手にしている間に・・・

「? ・・・!」

 というか、今思ったんだが、兄さんが招待客を相手にしてる間に、オレ帰れるんじゃね?

 よし決めた! さっさと引っ込もう!

「では、踊りませんか?」

 首を傾げて聞くと、

「っ、これは失礼を。貴女に見蕩みとれていたとはいえ、まだダンスを申し込んでいませんでしたね。では、レディ。僕と踊っては頂けませんか?」

 ハッとしたようにオレから離れ、にこりと微笑みながら手を差し出す兄さん。

「はい」

 兄さんの手に手を重ねて微笑む。

 兄さんに引き寄せられて、ホールド。
 あ、そうだ。今日は女役だった。危ない。
 危うく兄さんをリードするところだったぜ。
 リリや鈴蘭スズと踊るときは男役だからな。女役で踊るのは久々だ。大丈夫かな?

 一歩を踏み出し・・・

 最初は久々過ぎてちょっとぎこちなかったけど、兄さんがやたら張り切ってリードしてくれるから、段々と足運びを思い出して来た。

 ワルツのリズムに乗ってくるくると踊る。

 色々と外野は煩いが、オレ達が踊りを開始したからか、他の招待客の方もちらほらと踊り始めている。

「やはり、動いている方が気が紛れますか?」

 耳元に小さく囁くテノール。

「?」
「先程より、表情が柔らかくなったので」

 にこりと微笑む口元。

 一応、お互いアイマスク付けてんだけどね? まあ、機嫌くらいは普通に判るか。

 そりゃあね、そこそこ楽しくない。
 いろんな陰口や嘲笑、侮り、嘲り、そして好奇の視線なんかはかなり気分悪い。

 ホンっト…ぶっ飛ばしたくなるぜ…
 我慢するけどね! どうせ喧嘩売ったって、純血のヒト達には勝てないの判ってるからさ。

 馬鹿な若い純血と一対一ならかく、これだけの人数がいる中で喧嘩売ったら瞬殺確定だろう。無謀なことは、するものじゃない。

 そして、踊るヒトが増えると、オレを凝視して来るいやな視線減るし。

「やはり貴女は、ダンスがお上手ですね」
「それは・・・フェンネル様がわたしをリードしてくださるから、です…」

 兄さんに引っ張られなかったら、女役で動くのを忘れてたからね。危うく兄さんに恥を掻かせるところだったぜ。

「っ…貴女は全く…可愛いことを言ってくれますね? 愛していますよ」
「っ…」

 嬉しげに笑んだ唇が、頬を掠める。

「けれど、あまり僕を困らせないでください」
「?」

 いや、衆人環視でなにしてンのっ!? って言いたいのはオレの方なんだけどっ?

吸血キスを、したくなってしまいます」

 熱を帯びたテノールの囁き。仮面アイマスクの奥、セピアに灯る赤い燐光に、血の気が引く。

「…フェンネル、様?」
今は・・我慢しますよ? 今は、ですけど・・・後で、たっぷりと吸血キスをさせてくださいね?」

 にこりと微笑む口元に覗いた白い牙。

 やベェ・・・後が怖いっ!? 物凄くっ!?

 早く帰ろうっ!?

※※※※※※※※※※※※※※※

 ・・・アレク様とっ、フェンネル様が身を寄せ合ってダンスをっ!?

 ああっ、なんて妬ましいっ!?

 リリもアレク様と踊りたいというのにっ!?

 無論、アレク様は燕尾かタキシードで、リリを優しくリードしてくださいます♥️

 まあ、麗しいドレス姿でも構いませんが♥️

 ですがっ・・・今回は衆人環視のパーティーです。

 幾ら無礼講の仮面舞踏会マスカレイドとはいえ、他の参加者がいますからね。女性同士でパートナーを組むワケには行かないのです。

 ああっ、フェンネル様が憎いですわっ!?

 なんですのっ? あんなにアレク様へ密着してっ!? しかもっ、黙って見ていれば先程からっ・・・

 アレク様へ不要なキスばかりっ!?!?

 見せ付けてくれますわねっ!?!?
 わたくしへの嫌がらせですかっ!?
 当て付けなのですかっ!?
 全くっ、フェンネル様は本っ当におヒトが悪いのですからっ!?

 ・・・そして、二重の意味で不愉快です。

 わたくしが、フェンネル様を見ているのだと、リリがアレク様へ嫉妬をしているのだという、見当違いのさざめきが、酷く不愉快ですわ。

 全く、勘違いも甚だしいですこと。わたくしが好きなのは、フェンネル様ではありません。

 その誤解が非常に腹立たしいですわ。

 リリが愛しているのはアレク様ですのに!!!

 アレク様が、好きなのですっ!?

 フェンネル様など眼中にありませんわっ!?

 まあ、面倒なので主張は致しませんが。

 ダンスが終わればアレク様はリリのところへ来て頂くので、それまでの我慢ですっ!?

 わたくしをダンスに誘いたそうにしている殿方もおりますが、鬱陶うっとうしいので空間を操作して、殿方を一定距離以上には近付けておりません。

 この船は、わたくしの領域テリトリーですからね。

 アレク様がリリの下へ来られたら、この空間操作でお守り致しますわ♥️

 無粋な殿方など、一歩も近寄らせませんっ!

 ですからっ、フェンネル様!
 早くダンスを終えて頂けませんことっ!?

※※※※※※※※※※※※※※※

 血…の、匂い。が、する…

 君、の…?

 ああ、そんな…ところに、いたの?

 待って、て…

 今、行く。から、さ…

 ああ、でも…その、前に…

 血を、飲まないと・・・

 なんでも、いい…から。血、を…

「? なんだ? 汚ならしい蝙蝠だな」

 血、を・・・

「ヒッっ!? な、なにを・・・っ!?!?」

※※※※※※※※※※※※※※※

「?」

 気のせいでしょうか?
 今、悲鳴のようなものが聴こえたような…?

 まあ、純血の方々の集りですからね。

 仲の悪い方々も関係無く招待致しましたから、パーティー開始早々、仲の悪い方同士で殺し合いでも始めているのでしょう。

 血なまぐさいことですね。

 少し気にはなりますが・・・
 まあ、いいでしょう。

 そんなことより、アレク様ですわっ!?
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