125 / 179
ヴァンパイア編。
116.心の底から、リリアナイトが邪魔です。
しおりを挟む
温度を下げたセピアの瞳を眇め、眼鏡を押し上げるフェンネル様。
「…久々に逢えた兄妹の再会を邪魔するのは無粋ではありませんか? 通常、このような場合、他人は、遠慮するものでしょうに。厚かましいとは思わないのですか? リリアナイト」
どうやら、苛ついておいでのようです。
「あら? 他人などとはお寂しいことを。わたくしは椿お姉様に、妹のように可愛がって頂いていると思っていましたのに・・・フェンネル様は違っていたのですね? 悲しくなってしまいますわ」
「誰が、誰の妹ですって?」
「わたくしは、フェンネル様をお義兄様のように思っているのですよ?」
ええ。フェンネル様を義理のお兄様のように…口煩い、小舅のように思っております。
「ちょっと待ちなさい。今あなたが言った言葉は、兄の意味が違って聞こえたような気がします。どういう意味ですか? リリアナイト」
「そうでしたか? 追々そうなると思われるので、お気になさらず。それに、無粋だと仰るなら、女性同士のお喋りに無理矢理割り込む殿方はどうなのでしょうね? どなた、とは明言致しませんけれど。そのような無粋をして、意中の方に嫌われないといいですわね? フェンネル様」
にっこりとフェンネル様へ微笑みます。
「っ・・・あなたと、口論するつもりはありません。僕は、ロゼットを返してもらいに来たのです」
言い返すことをせず、相手をわたくしからアレク様へと変えるようです。
「返すとは、また異なことを仰いますのね? アレク様は、フェンネル様のモノではないと思われますが? アレク様に失礼かと存じますわ」
「…言葉の綾というやつです。一々細かいですね、リリアナイトは。そんなことより・・・」
そして、わたくしからアレク様へ視線を移したフェンネル様の表情が柔らかく蕩けました。
そのお顔は、普段の冷血の君と呼ばれるフェンネル様しか知らない方からは、全く想像できない…むしろ、偽物と呼ばれそうな程の蕩けっ振りです。
「さあ、ロゼット。長旅で疲れたでしょう? 僕のところでゆっくり休んでください。血液も用意します。ああ、いえ、今は然程喉が渇いていないのでしたね? お茶にしますか? 貴方の好きなお茶と、お菓子を用意しているのです。一緒に頂きませんか? 僕と、二人で」
白皙の頬が薄く色付いておいでです。
全く、相変わらず度し難いですわね?フェンネル様のご趣味は・・・
フェンネル様は、アレク様が、アレク様ご自身や椿お姉様へ似た女性へ吸血をする姿を眺めるのがお好きだとか・・・本当に、気色悪い。
アレク様へ食事の提供を…吸血して頂くのは、リリ一人で十分です。アレク様には、フェンネル様の侍女達に触れてほしくなどありません。
リリは、アレク様の偽物は嫌いです。
「長旅のロゼットを労るどころか、無理矢理呼び付けておきながら、お茶の一つ出さない気の利かない誰かといては疲れも取れないでしょう?」
にこりと、アレク様へ差し出される白い手。けれど、そうは参りませんことよ? フェンネル様。
「ええ。途中で入って来た気の利かない方のお陰で、アレク様へわたくしの血を提供しようとしていたのですが、それを邪魔されてしまいましたもの。とても残念に思いますわ」
ヒクリと、フェンネル様のお顔が引きつります。
「っ…ロゼットは、今は喉が渇いていないそうなので、お茶の方がいいと思いますが?」
「では、そうさせて頂きますわ」
パン! と手を打ち鳴らし、テーブルの上へティーセットを引き寄せます。
これで、お茶の準備は調いました。
「長旅でお疲れのアレク様を、他の部屋へ歩かせるなど、以ての他ですものね?」
アレク様を、フェンネル様のお部屋へなど行かせませんわ。
「っ…あなたは、本当に気の利かないヒトですね? お茶が足りないですよ。僕の分はどうしました?」
どうやらフェンネル様は作戦を変更なさるようです。このまま、三人でのお茶会に持って行くつもりですわね。
フェンネル様が、ソファーへ着きました。アレク様の正面の位置です。
「これはこれは失礼を。うっかりしていましたわ。お許しください、フェンネル様」
まあ、宜しいでしょう。
もう一度パン! と手を打ち鳴らし、一人分のティーセットを追加します。
※※※※※※※※※※※※※※※
クッ…相変わらず、ロゼットがいるときのリリアナイトは手強いですね。
ロゼットを呼ぶ為に手を組みましたが・・・ものすごく、心の底から、リリアナイトが邪魔です。
ロゼットが女性や子供に甘いことを利用して、あんな馴れ馴れしく密着してっ…
羨ましくも妬ましい!!!
あまつさえ、二人切りのお茶を邪魔されました。折角、ロゼットの為に用意していたお茶やお菓子を振る舞う機会でしたのにっ・・・
まあそれは、後の楽しみに取っておきましょう。後で存分に、ロゼットと・・・
それにしても、ロゼットは相変わらず美しいですね? 艶やかな月色の髪、白磁の肌、長い睫毛が彩る銀色の浮かぶ柔らかな色の美しい翡翠の瞳。
ああ・・・吸血したい。
その細く華奢な首筋に、牙を突き立て、甘やかに香る熱い血を飲みたい衝動に駆られます。と、同時に、貴女にも僕へ牙を突き立ててほしい。
貴女の血が欲しく、貴女を僕の血で満たしたい。
喉が、渇きます・・・
今は、我慢しますけど・・・
「・・・ところで、兄さん」
ロゼットと再会してから、漸くその声が聞けました。女性にしては少し低めの、硬質な響きのするアルトの声が僕を呼びます。
ロゼットに呼ばれるのは嬉しいですね。
「はい、なんでしょうか? ロゼット」
「パーティーって、なにするの?」
「仮面舞踏会を行ってみようと思い立ちまして」
「は? なんでいきなり仮面舞踏会?」
きょとんと首を傾げる仕草のロゼットも、相変わらず愛らしいですね。
「そのことについては、色々と複雑な事情があるのです。つきましては、是非ともロゼットへお願いしたいことがあるのです」
「お願い?」
「ええ。貴女にしか、できないことを。聞いて頂けますか? ロゼット」
「…久々に逢えた兄妹の再会を邪魔するのは無粋ではありませんか? 通常、このような場合、他人は、遠慮するものでしょうに。厚かましいとは思わないのですか? リリアナイト」
どうやら、苛ついておいでのようです。
「あら? 他人などとはお寂しいことを。わたくしは椿お姉様に、妹のように可愛がって頂いていると思っていましたのに・・・フェンネル様は違っていたのですね? 悲しくなってしまいますわ」
「誰が、誰の妹ですって?」
「わたくしは、フェンネル様をお義兄様のように思っているのですよ?」
ええ。フェンネル様を義理のお兄様のように…口煩い、小舅のように思っております。
「ちょっと待ちなさい。今あなたが言った言葉は、兄の意味が違って聞こえたような気がします。どういう意味ですか? リリアナイト」
「そうでしたか? 追々そうなると思われるので、お気になさらず。それに、無粋だと仰るなら、女性同士のお喋りに無理矢理割り込む殿方はどうなのでしょうね? どなた、とは明言致しませんけれど。そのような無粋をして、意中の方に嫌われないといいですわね? フェンネル様」
にっこりとフェンネル様へ微笑みます。
「っ・・・あなたと、口論するつもりはありません。僕は、ロゼットを返してもらいに来たのです」
言い返すことをせず、相手をわたくしからアレク様へと変えるようです。
「返すとは、また異なことを仰いますのね? アレク様は、フェンネル様のモノではないと思われますが? アレク様に失礼かと存じますわ」
「…言葉の綾というやつです。一々細かいですね、リリアナイトは。そんなことより・・・」
そして、わたくしからアレク様へ視線を移したフェンネル様の表情が柔らかく蕩けました。
そのお顔は、普段の冷血の君と呼ばれるフェンネル様しか知らない方からは、全く想像できない…むしろ、偽物と呼ばれそうな程の蕩けっ振りです。
「さあ、ロゼット。長旅で疲れたでしょう? 僕のところでゆっくり休んでください。血液も用意します。ああ、いえ、今は然程喉が渇いていないのでしたね? お茶にしますか? 貴方の好きなお茶と、お菓子を用意しているのです。一緒に頂きませんか? 僕と、二人で」
白皙の頬が薄く色付いておいでです。
全く、相変わらず度し難いですわね?フェンネル様のご趣味は・・・
フェンネル様は、アレク様が、アレク様ご自身や椿お姉様へ似た女性へ吸血をする姿を眺めるのがお好きだとか・・・本当に、気色悪い。
アレク様へ食事の提供を…吸血して頂くのは、リリ一人で十分です。アレク様には、フェンネル様の侍女達に触れてほしくなどありません。
リリは、アレク様の偽物は嫌いです。
「長旅のロゼットを労るどころか、無理矢理呼び付けておきながら、お茶の一つ出さない気の利かない誰かといては疲れも取れないでしょう?」
にこりと、アレク様へ差し出される白い手。けれど、そうは参りませんことよ? フェンネル様。
「ええ。途中で入って来た気の利かない方のお陰で、アレク様へわたくしの血を提供しようとしていたのですが、それを邪魔されてしまいましたもの。とても残念に思いますわ」
ヒクリと、フェンネル様のお顔が引きつります。
「っ…ロゼットは、今は喉が渇いていないそうなので、お茶の方がいいと思いますが?」
「では、そうさせて頂きますわ」
パン! と手を打ち鳴らし、テーブルの上へティーセットを引き寄せます。
これで、お茶の準備は調いました。
「長旅でお疲れのアレク様を、他の部屋へ歩かせるなど、以ての他ですものね?」
アレク様を、フェンネル様のお部屋へなど行かせませんわ。
「っ…あなたは、本当に気の利かないヒトですね? お茶が足りないですよ。僕の分はどうしました?」
どうやらフェンネル様は作戦を変更なさるようです。このまま、三人でのお茶会に持って行くつもりですわね。
フェンネル様が、ソファーへ着きました。アレク様の正面の位置です。
「これはこれは失礼を。うっかりしていましたわ。お許しください、フェンネル様」
まあ、宜しいでしょう。
もう一度パン! と手を打ち鳴らし、一人分のティーセットを追加します。
※※※※※※※※※※※※※※※
クッ…相変わらず、ロゼットがいるときのリリアナイトは手強いですね。
ロゼットを呼ぶ為に手を組みましたが・・・ものすごく、心の底から、リリアナイトが邪魔です。
ロゼットが女性や子供に甘いことを利用して、あんな馴れ馴れしく密着してっ…
羨ましくも妬ましい!!!
あまつさえ、二人切りのお茶を邪魔されました。折角、ロゼットの為に用意していたお茶やお菓子を振る舞う機会でしたのにっ・・・
まあそれは、後の楽しみに取っておきましょう。後で存分に、ロゼットと・・・
それにしても、ロゼットは相変わらず美しいですね? 艶やかな月色の髪、白磁の肌、長い睫毛が彩る銀色の浮かぶ柔らかな色の美しい翡翠の瞳。
ああ・・・吸血したい。
その細く華奢な首筋に、牙を突き立て、甘やかに香る熱い血を飲みたい衝動に駆られます。と、同時に、貴女にも僕へ牙を突き立ててほしい。
貴女の血が欲しく、貴女を僕の血で満たしたい。
喉が、渇きます・・・
今は、我慢しますけど・・・
「・・・ところで、兄さん」
ロゼットと再会してから、漸くその声が聞けました。女性にしては少し低めの、硬質な響きのするアルトの声が僕を呼びます。
ロゼットに呼ばれるのは嬉しいですね。
「はい、なんでしょうか? ロゼット」
「パーティーって、なにするの?」
「仮面舞踏会を行ってみようと思い立ちまして」
「は? なんでいきなり仮面舞踏会?」
きょとんと首を傾げる仕草のロゼットも、相変わらず愛らしいですね。
「そのことについては、色々と複雑な事情があるのです。つきましては、是非ともロゼットへお願いしたいことがあるのです」
「お願い?」
「ええ。貴女にしか、できないことを。聞いて頂けますか? ロゼット」
0
お気に入りに追加
212
あなたにおすすめの小説
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜
白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」
即位したばかりの国王が、宣言した。
真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。
だが、そこには大きな秘密があった。
王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。
この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。
そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。
第一部 貴族学園編
私の名前はレティシア。
政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。
だから、いとこの双子の姉ってことになってる。
この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。
私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。
第二部 魔法学校編
失ってしまったかけがえのない人。
復讐のために精霊王と契約する。
魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。
毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。
修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。
前半は、ほのぼのゆっくり進みます。
後半は、どろどろさくさくです。
小説家になろう様にも投稿してます。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
農民だからと冤罪をかけられパーティを追放されましたが、働かないと死ぬし自分は冒険者の仕事が好きなのでのんびり頑張りたいと思います。
一樹
ファンタジー
タイトル通りの内容です。
のんびり更新です。
小説家になろうでも投稿しています。
【完結】「父に毒殺され母の葬儀までタイムリープしたので、親戚の集まる前で父にやり返してやった」
まほりろ
恋愛
十八歳の私は異母妹に婚約者を奪われ、父と継母に毒殺された。
気がついたら十歳まで時間が巻き戻っていて、母の葬儀の最中だった。
私に毒を飲ませた父と継母が、虫の息の私の耳元で得意げに母を毒殺した経緯を話していたことを思い出した。
母の葬儀が終われば私は屋敷に幽閉され、外部との連絡手段を失ってしまう。
父を断罪できるチャンスは今しかない。
「お父様は悪くないの!
お父様は愛する人と一緒になりたかっただけなの!
だからお父様はお母様に毒をもったの!
お願いお父様を捕まえないで!」
私は声の限りに叫んでいた。
心の奥にほんの少し芽生えた父への殺意とともに。
※他サイトにも投稿しています。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
※「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※タイトル変更しました。
旧タイトル「父に殺されタイムリープしたので『お父様は悪くないの!お父様は愛する人と一緒になりたくてお母様の食事に毒をもっただけなの!』と叫んでみた」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる