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ヴァンパイア編。

116.心の底から、リリアナイトが邪魔です。

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 温度を下げたセピアの瞳をすがめ、眼鏡を押し上げるフェンネル様。

「…久々に逢えた兄妹の再会を邪魔するのは無粋ではありませんか? 通常、このような場合、他人・・は、遠慮するものでしょうに。厚かましいとは思わないのですか? リリアナイト」

 どうやら、苛ついておいでのようです。

「あら? 他人などとはお寂しいことを。わたくしは椿お姉様に、妹のように可愛がって頂いていると思っていましたのに・・・フェンネル様は違っていたのですね? 悲しくなってしまいますわ」
「誰が、誰の妹ですって?」
「わたくしは、フェンネル様をお義兄にい様のように思っているのですよ?」

 ええ。フェンネル様を義理のお兄様のように…口煩い、小舅こじゅうとのように思っております。

「ちょっと待ちなさい。今あなたが言った言葉は、兄の意味が違って聞こえたような気がします。どういう意味ですか? リリアナイト」
「そうでしたか? 追々そうなると思われるので、お気になさらず。それに、無粋だと仰るなら、女性同士のお喋りに無理矢理割り込む殿方はどうなのでしょうね? どなた、とは明言致しませんけれど。そのような無粋をして、意中の方に嫌われないといいですわね? フェンネル様」

 にっこりとフェンネル様へ微笑みます。

「っ・・・あなたと、口論するつもりはありません。僕は、ロゼットを返してもらいに来たのです」

 言い返すことをせず、相手をわたくしからアレク様へと変えるようです。

「返すとは、また異なことを仰いますのね? アレク様は、フェンネル様のモノではないと思われますが? アレク様に失礼かと存じますわ」
「…言葉の綾というやつです。一々細かいですね、リリアナイトは。そんなことより・・・」

 そして、わたくしからアレク様へ視線を移したフェンネル様の表情が柔らかくとろけました。

 そのお顔は、普段の冷血の君と呼ばれるフェンネル様しか知らない方からは、全く想像できない…むしろ、偽物と呼ばれそうな程の蕩けっ振りです。

「さあ、ロゼット。長旅で疲れたでしょう? 僕のところでゆっくり休んでください。血液しょくじも用意します。ああ、いえ、今は然程さほど喉が渇いていないのでしたね? お茶にしますか? 貴方の好きなお茶と、お菓子を用意しているのです。一緒に頂きませんか? 僕と、二人で」

 白皙はくせきの頬が薄く色付いておいでです。

 全く、相変わらず度し難いですわね?フェンネル様のご趣味・・・は・・・
 フェンネル様は、アレク様が、アレク様ご自身や椿お姉様へ似た女性へ吸血キスをする姿を眺めるのがお好きだとか・・・本当に、気色悪い。

 アレク様へ食事けつえきの提供を…吸血キスして頂くのは、リリ一人で十分です。アレク様には、フェンネル様の侍女達に触れてほしくなどありません。

 リリは、アレク様の偽物は嫌いです。

「長旅のロゼットを労るどころか、無理矢理呼び付けておきながら、お茶の一つ出さない気の利かない誰かといては疲れも取れないでしょう?」

 にこりと、アレク様へ差し出される白い手。けれど、そうは参りませんことよ? フェンネル様。

「ええ。途中で入って来た気の利かない方のお陰で、アレク様へわたくしの血を提供しようとしていたのですが、それを邪魔されてしまいましたもの。とても残念に思いますわ」

 ヒクリと、フェンネル様のお顔が引きつります。

「っ…ロゼットは、今は喉が渇いていないそうなので、お茶の方がいいと思いますが?」
「では、そうさせて頂きますわ」

 パン! と手を打ち鳴らし、テーブルの上へティーセットを引き寄せます。

 これで、お茶の準備は調いました。

「長旅でお疲れのアレク様を、他の部屋へ歩かせるなど、もっての他ですものね?」

 アレク様を、フェンネル様のお部屋へなど行かせませんわ。

「っ…あなたは、本当に気の利かないヒトですね? お茶が足りないですよ。僕の分はどうしました?」

 どうやらフェンネル様は作戦を変更なさるようです。このまま、三人でのお茶会に持って行くつもりですわね。

 フェンネル様が、ソファーへ着きました。アレク様の正面の位置です。

「これはこれは失礼を。うっかりしていましたわ。お許しください、フェンネル様」

 まあ、宜しいでしょう。

 もう一度パン! と手を打ち鳴らし、一人分のティーセットを追加します。

※※※※※※※※※※※※※※※

 クッ…相変わらず、ロゼットがいるときのリリアナイトは手強いですね。
 ロゼットを呼ぶ為に手を組みましたが・・・ものすごく、心の底から、リリアナイトが邪魔です。

 ロゼットが女性や子供に甘いことを利用して、あんな馴れ馴れしく密着してっ…

 うらやましくもねたましい!!!

 あまつさえ、二人切りのお茶を邪魔されました。折角せっかく、ロゼットの為に用意していたお茶やお菓子を振る舞う機会でしたのにっ・・・

 まあそれは、後の楽しみに取っておきましょう。後で存分に、ロゼットと・・・

 それにしても、ロゼットは相変わらず美しいですね? 艶やかな月色の髪、白磁はくじの肌、長い睫毛が彩る銀色の浮かぶ柔らかな色の美しい翡翠の瞳。

 ああ・・・吸血キスしたい。

 その細く華奢な首筋に、牙を突き立て、甘やかに香る熱い血を飲みたい衝動に駆られます。と、同時に、貴女にも僕へ牙を突き立ててほしい。

 貴女の血が欲しく、貴女を僕の血で満たしたい。

 喉が、渇きます・・・

 今は、我慢しますけど・・・

「・・・ところで、兄さん」

 ロゼットと再会してから、ようやくその声が聞けました。女性にしては少し低めの、硬質な響きのするアルトの声が僕を呼びます。

 ロゼットに呼ばれるのは嬉しいですね。

「はい、なんでしょうか? ロゼット」
「パーティーって、なにするの?」
仮面舞踏会マスカレイドを行ってみようと思い立ちまして」
「は? なんでいきなり仮面舞踏会マスカレイド?」

 きょとんと首を傾げる仕草のロゼットも、相変わらず愛らしいですね。

「そのことについては、色々と複雑な事情があるのです。つきましては、是非ともロゼットへお願いしたいことがあるのです」
「お願い?」
「ええ。貴女にしか、できないことを。聞いて頂けますか? ロゼット」
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