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ヴァンパイア編。
105.掃除・・・僕は、掃除自体は好きなんだよ?
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転がした海賊共を動けないよう拘束し、甲板にいた連中を全員船底の方にぶちこんだ後。
襲撃して落とした海賊船を、ジンと雪路に指示を出して動かし、数キロ先のアマラの船へと寄せて行く。普段はアマラに任せ切りだが、自分で操船するのも俺は割と好きだ。
追い付いたら船板を渡し、荷運びをする。
食料や酒、金品や貴重品、俺らが気に入った物を根こそぎ運び出す。
海賊に情なぞ不要だ。
今の時代、海賊行為を行った者は縛り首と相場が決まっている。積荷を奪うだけで、近くの国の海軍に通報するでもなく放置する俺らは、連中にとってはまだ良心的だろう。
まあ、人間に関わるのが面倒なだけだが・・・
そもそも、最初に襲って来る(今回はアルのお陰で先手を打てたが)のは、海賊共の方だ。
殴ったら殴り返される。暴力は暴力で返される。
他者を襲って荷や命を強奪するのなら、自分達も襲われて、奪われるという覚悟をすべきだ。
その覚悟が無い奴が、容易に他者を襲うべきではない。他者から奪うのなら、自分も奪われる覚悟を。奪った相手に恨まれ、憎まれて、自分も殺される覚悟をすべきだ。
そこに自分を含めず、自分だけは例外だと思っている奴は、真の愚か者だろう。得てして、略奪者にはそういう愚か者の割合は高いが・・・
とりあえず、今夜は酒盛りだっ!
※※※※※※※※※※※※※※※
ヒュー達が海賊の相手をするとき、僕は船内で待っていることが多い・・・というか、僕は戦闘がさっぱりなので、捕まって人質になったりなど、足手まといにならないよう隠れている。
ヒューやミクリヤさん。…あとついでに、あのヤブ医者も強いということはわかっている。
けど、それでも色々と心配だ。
怪我とかしてないといいな?とか、甲板が汚れてたり散らかっていると嫌だな…とか。
もちろん、ヒュー達が負ける心配は微塵もしていない。彼らが人間に負ける筈がないからだ。
ただ・・・海賊共が僕の家を汚したり散らかしたりするかと思うと、非常に腹立たしい。
以前、火矢や火炎瓶を使って襲撃して来た海賊共は・・・キレたアマラに拠って、沈められた。
文字どおり、船ごと水底へと。
この船は、基本的に厨房以外では火気厳禁だ。
アマラがすっごく嫌がる。
この船はアマラの物。拠って、アマラがルール。
言わば僕達は、アマラの船に居候させてもらっているんだから、家主の言うことは聞くべきだ。
まあ、なるべくは、ね?
船を綺麗に保っていたいというのは、住んでいる者にとっては当たり前のことだしさ。
海賊との戦闘が終わった後の甲板は、毎度のことながら・・・なかなか酷い有様になる。
不潔な海賊達が土足で踏み込んで来て大暴れして、ヒュー達に撃退される。
その過程で、甲板に置いてある荷物やらなにやらがぐちゃぐちゃにされて、踏み荒らされた甲板に靴跡とか、木板が削られたりする。そして、僕が一っ番厭! なのが、血反吐だ。やられた際に血が流れるのは、百歩…千歩くらい譲る。血は苦手だけど、まだ多少はマシだ。問題は、吐いたりした・・・吐瀉物を掃除することが、本気で厭なんだ!!!
掃除・・・僕は、掃除自体は好きなんだよ? 好きなんだけどさ? なにが悲しくて、勝手に襲って来て船を汚すような連中の汚物の後片づけを僕がしないといけないの?という気分になる。
無論、そんなのを一人で片付けるのは厭過ぎるから、掃除は全員で強制参加だ。どのみち、不快な物体は早々に片付けないといけないしさ?
アマラ以外の全員で。
それを考えると、憂鬱な気分になる。
そんなことを考えながらぼんやりと掃除してて、思った。アルはどこにいるんだろう? と。
アマラは基本的に夜行性? で、夕方以降じゃないと、呼んでも応えてくれないし。一人で心配して待っているより、アルと話でもして待っていた方が安心できそうと思い、アルを探す。
食堂と、アルの部屋に行ってみたけどいなかった。もしかして、寝てるのかな?
それとも、アマラの呼び出しかな?
最近、なんか二人でこそこそしてるんだよね。
アマラの呼び出しがあった後のアルは、どうも疲れ気味だ。なにしてんだろ?
アマラの頼みは、なかなか面倒なことが多い。
僕はまあ、綺麗な物やキラキラした物が好きだからアマラの趣味も・・・女装はちょっと理解できないけど、キラキラを愛でるのは大好きだ。
仕方ないので、一人で掃除を続行していたら…上の方でドアが開く音がした。まさかっ!
「アルっ!? 外にいたのっ!?」
慌てて駆け付けると、丁度船内へと入って来たアルがのんびり歩いていた。
「っていうか、なんでドアが開くワケっ!?」
海賊襲撃時には、船内へ見知らぬ輩が這入って来ることをアマラが嫌って、ヒューがオンオフできるよう、戸締りモードという結界が発動される。そして、海賊が撃退されるまで解除されない。ドアは開かないようになっている。
「? ああ、襲撃に備えてなんかしてた?」
アルは一瞬不思議そうな顔をして、すぐに納得したような顔で僕に言った。
「オレはアマラの移動制限、無視できるから」
「え? ええっ!? それホントっ!? なんでっ?」
「ん? オレがリリの加護持ってるから」
「リリ? ああ、あの強烈な人魚の」
「ふふっ…強烈って…」
クスクスと笑うアル。
「だって、あのヒト強烈だったじゃん」
「可愛いでしょ? リリ」
「可愛いって・・・」
いや、まあ、一般的には可愛い部類だろう。アマラやアル程の圧倒的な美貌の綺麗な顔をしているワケではないけど、可愛い顔だったとは思う。
けど、あの人魚の子は、可愛い以前に、色々と強烈な印象しか残ってない。
いきなり船から飛び降りて登場。そして、自己紹介? では、名前を呼ぶなと言ったり、アルが女の子だって判っていて、お嫁さんにしてほしいと言ったり、その後の爆弾発言・・・そしてアマラに喧嘩を売って、慌ただしく去って行った嵐のような人魚だった。
今のところ、人魚という種族は変り者しか見ていないような気がする。
・・・というか実は、あの強烈な人魚を可愛い、と言うアルの方も、相当な変り者だよね?
男装で、まるっ切り男の子みたいな性格と言動。
今更だけど・・・まあ、僕は個人の趣味嗜好をどうこう言うつもりは無いけどさ?
「あ、そうだ。海賊はもう撃退したよ」
「え? ウソ? だって、なんも音してないよ?」
普段なら響く怒号や、剣戟、ヒュー達が暴れ回るドッタンバッタンが一切してない。
「ああ、ここに乗船されて甲板汚されるの嫌だって言うから、あっちの船にみんな運んだんだ」
「え? ええっ!? どうやってっ?」
「飛んで」
「あ、成る程…って、ンなことできるのっ!?」
「うん。まずは偵察がてらに雪君と向こう見に行って、向こうが海賊だって確認したら・・・雪君の野郎、船内にいた海賊共を独り占めしやがった。オマケに、甲板にいた連中もヒューがほぼ片付けてさ? ジンを運び終わった頃には、起きてる海賊があんま残ってなくて、面白くなかったぜ。結局、オレがやったのはみんなの足と、残り物の拘束だけだし。雪君もヒューも、ホントヒドいぜ」
不満そうに零すアル。
「で、先に戻って来た」
「は? いや、ヒュー達は?」
「向こうの海賊船でこっち来るってさ。で、追い付いたら橋渡して積荷の運び出しするみたい」
「そう、なんだ・・・」
なんだろう? この、なんとも言えない気持ち。
甲板掃除をしなくて済む。
船が汚されなかった。
とてもいいことの筈、なのに・・・
なんか、モヤモヤする。
「どうかした? カイル」
「ううん。なんでもないよ」
「? そう? ならいいけど」
うん。なんでもない。
仲間外れにされてるようで・・・
少し、嫉妬しただなんて…言えるワケがない。
「掃除、まだ残ってるから」
「頑張って」
「…うん」
僕は、アルの前から逃げ出した。
襲撃して落とした海賊船を、ジンと雪路に指示を出して動かし、数キロ先のアマラの船へと寄せて行く。普段はアマラに任せ切りだが、自分で操船するのも俺は割と好きだ。
追い付いたら船板を渡し、荷運びをする。
食料や酒、金品や貴重品、俺らが気に入った物を根こそぎ運び出す。
海賊に情なぞ不要だ。
今の時代、海賊行為を行った者は縛り首と相場が決まっている。積荷を奪うだけで、近くの国の海軍に通報するでもなく放置する俺らは、連中にとってはまだ良心的だろう。
まあ、人間に関わるのが面倒なだけだが・・・
そもそも、最初に襲って来る(今回はアルのお陰で先手を打てたが)のは、海賊共の方だ。
殴ったら殴り返される。暴力は暴力で返される。
他者を襲って荷や命を強奪するのなら、自分達も襲われて、奪われるという覚悟をすべきだ。
その覚悟が無い奴が、容易に他者を襲うべきではない。他者から奪うのなら、自分も奪われる覚悟を。奪った相手に恨まれ、憎まれて、自分も殺される覚悟をすべきだ。
そこに自分を含めず、自分だけは例外だと思っている奴は、真の愚か者だろう。得てして、略奪者にはそういう愚か者の割合は高いが・・・
とりあえず、今夜は酒盛りだっ!
※※※※※※※※※※※※※※※
ヒュー達が海賊の相手をするとき、僕は船内で待っていることが多い・・・というか、僕は戦闘がさっぱりなので、捕まって人質になったりなど、足手まといにならないよう隠れている。
ヒューやミクリヤさん。…あとついでに、あのヤブ医者も強いということはわかっている。
けど、それでも色々と心配だ。
怪我とかしてないといいな?とか、甲板が汚れてたり散らかっていると嫌だな…とか。
もちろん、ヒュー達が負ける心配は微塵もしていない。彼らが人間に負ける筈がないからだ。
ただ・・・海賊共が僕の家を汚したり散らかしたりするかと思うと、非常に腹立たしい。
以前、火矢や火炎瓶を使って襲撃して来た海賊共は・・・キレたアマラに拠って、沈められた。
文字どおり、船ごと水底へと。
この船は、基本的に厨房以外では火気厳禁だ。
アマラがすっごく嫌がる。
この船はアマラの物。拠って、アマラがルール。
言わば僕達は、アマラの船に居候させてもらっているんだから、家主の言うことは聞くべきだ。
まあ、なるべくは、ね?
船を綺麗に保っていたいというのは、住んでいる者にとっては当たり前のことだしさ。
海賊との戦闘が終わった後の甲板は、毎度のことながら・・・なかなか酷い有様になる。
不潔な海賊達が土足で踏み込んで来て大暴れして、ヒュー達に撃退される。
その過程で、甲板に置いてある荷物やらなにやらがぐちゃぐちゃにされて、踏み荒らされた甲板に靴跡とか、木板が削られたりする。そして、僕が一っ番厭! なのが、血反吐だ。やられた際に血が流れるのは、百歩…千歩くらい譲る。血は苦手だけど、まだ多少はマシだ。問題は、吐いたりした・・・吐瀉物を掃除することが、本気で厭なんだ!!!
掃除・・・僕は、掃除自体は好きなんだよ? 好きなんだけどさ? なにが悲しくて、勝手に襲って来て船を汚すような連中の汚物の後片づけを僕がしないといけないの?という気分になる。
無論、そんなのを一人で片付けるのは厭過ぎるから、掃除は全員で強制参加だ。どのみち、不快な物体は早々に片付けないといけないしさ?
アマラ以外の全員で。
それを考えると、憂鬱な気分になる。
そんなことを考えながらぼんやりと掃除してて、思った。アルはどこにいるんだろう? と。
アマラは基本的に夜行性? で、夕方以降じゃないと、呼んでも応えてくれないし。一人で心配して待っているより、アルと話でもして待っていた方が安心できそうと思い、アルを探す。
食堂と、アルの部屋に行ってみたけどいなかった。もしかして、寝てるのかな?
それとも、アマラの呼び出しかな?
最近、なんか二人でこそこそしてるんだよね。
アマラの呼び出しがあった後のアルは、どうも疲れ気味だ。なにしてんだろ?
アマラの頼みは、なかなか面倒なことが多い。
僕はまあ、綺麗な物やキラキラした物が好きだからアマラの趣味も・・・女装はちょっと理解できないけど、キラキラを愛でるのは大好きだ。
仕方ないので、一人で掃除を続行していたら…上の方でドアが開く音がした。まさかっ!
「アルっ!? 外にいたのっ!?」
慌てて駆け付けると、丁度船内へと入って来たアルがのんびり歩いていた。
「っていうか、なんでドアが開くワケっ!?」
海賊襲撃時には、船内へ見知らぬ輩が這入って来ることをアマラが嫌って、ヒューがオンオフできるよう、戸締りモードという結界が発動される。そして、海賊が撃退されるまで解除されない。ドアは開かないようになっている。
「? ああ、襲撃に備えてなんかしてた?」
アルは一瞬不思議そうな顔をして、すぐに納得したような顔で僕に言った。
「オレはアマラの移動制限、無視できるから」
「え? ええっ!? それホントっ!? なんでっ?」
「ん? オレがリリの加護持ってるから」
「リリ? ああ、あの強烈な人魚の」
「ふふっ…強烈って…」
クスクスと笑うアル。
「だって、あのヒト強烈だったじゃん」
「可愛いでしょ? リリ」
「可愛いって・・・」
いや、まあ、一般的には可愛い部類だろう。アマラやアル程の圧倒的な美貌の綺麗な顔をしているワケではないけど、可愛い顔だったとは思う。
けど、あの人魚の子は、可愛い以前に、色々と強烈な印象しか残ってない。
いきなり船から飛び降りて登場。そして、自己紹介? では、名前を呼ぶなと言ったり、アルが女の子だって判っていて、お嫁さんにしてほしいと言ったり、その後の爆弾発言・・・そしてアマラに喧嘩を売って、慌ただしく去って行った嵐のような人魚だった。
今のところ、人魚という種族は変り者しか見ていないような気がする。
・・・というか実は、あの強烈な人魚を可愛い、と言うアルの方も、相当な変り者だよね?
男装で、まるっ切り男の子みたいな性格と言動。
今更だけど・・・まあ、僕は個人の趣味嗜好をどうこう言うつもりは無いけどさ?
「あ、そうだ。海賊はもう撃退したよ」
「え? ウソ? だって、なんも音してないよ?」
普段なら響く怒号や、剣戟、ヒュー達が暴れ回るドッタンバッタンが一切してない。
「ああ、ここに乗船されて甲板汚されるの嫌だって言うから、あっちの船にみんな運んだんだ」
「え? ええっ!? どうやってっ?」
「飛んで」
「あ、成る程…って、ンなことできるのっ!?」
「うん。まずは偵察がてらに雪君と向こう見に行って、向こうが海賊だって確認したら・・・雪君の野郎、船内にいた海賊共を独り占めしやがった。オマケに、甲板にいた連中もヒューがほぼ片付けてさ? ジンを運び終わった頃には、起きてる海賊があんま残ってなくて、面白くなかったぜ。結局、オレがやったのはみんなの足と、残り物の拘束だけだし。雪君もヒューも、ホントヒドいぜ」
不満そうに零すアル。
「で、先に戻って来た」
「は? いや、ヒュー達は?」
「向こうの海賊船でこっち来るってさ。で、追い付いたら橋渡して積荷の運び出しするみたい」
「そう、なんだ・・・」
なんだろう? この、なんとも言えない気持ち。
甲板掃除をしなくて済む。
船が汚されなかった。
とてもいいことの筈、なのに・・・
なんか、モヤモヤする。
「どうかした? カイル」
「ううん。なんでもないよ」
「? そう? ならいいけど」
うん。なんでもない。
仲間外れにされてるようで・・・
少し、嫉妬しただなんて…言えるワケがない。
「掃除、まだ残ってるから」
「頑張って」
「…うん」
僕は、アルの前から逃げ出した。
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