上 下
102 / 179
ヴァンパイア編。

94.やっぱり悪女だ・・・

しおりを挟む
 アマラが荷物を届けに来た男とアルちゃんを連れて行き、この大量の荷物を「荷物はアンタ達で運びなさい」とヒューに言ったらしい・・・

 そして、俺が呼ばれた。

 まあ、荷物自体はそう重くはない。
 しかし、これはアマラの荷物だ。

 俺にはわからない物が入っているのだろう。
 ぞんざいに扱えば、大層立腹される。
 それなら自分で扱えばいいと思う。しかし、そんな理屈はアマラには通じない。

 アマラは我が儘だ・・・男のクセに女王様気質…本人に言うと面倒だから言わないけど…

 船の中に入れさえすれば、後はアマラがどうにかする筈だ。分類やら、置く場所なんかは。

 適当に・・・ではなく、それなりに慎重に、手早く片付けよう。ヒューと二人、荷物を運ぶ。

 荷物の積み込みが終わり、ヒューに聞く。

「あのヒト誰?」
「アクセルって言ってたぞ?あと、ブライト」
「・・・アクセル…ブライト? ああ、だからアルちゃんと仲良さそうだったのか」

 納得した。

「知ってンのか?」
「知ってる…というよりかは、一部では有名だからね。ブライト家は」

 立場が微妙というか、難しい家ではある。

「そうなのか?」
「うん……混ざりモノの家だってさ。元々は純血のヴァンパイアの家だったのに、人間や獣人の血を取り入れた家として、有名なんだ。純血を至上とする風潮のあるヴァンパイアとしては、異端扱いされてるけど・・・混血のヒト達には優しいと定評がある」

 あそこの家は、不思議だ。

 一族で一番ヴァンパイアの血が濃いモノを当主にえ、一族で一番血が混ざっているモノを当主の相談役に置くらしい。かなり変わっている。

「まあ、商人の家だから、かなり打算的な部分も持っているんだけどね」
「打算的? どういう意味だ?」
「囲い込みとか? 割とえげつないらしいよ。役立つ人材は、掴まえて離さないとかさ」
「……えげつない?」
「商人には商人のやり方があるんだよ」

 返せないくらいの恩を売るのはマシな方。借金浸けにしたりとか、金銭的に追い込んだり・・・

 ある意味では、怖い家だと思う。

 まあこのブライトの情報は、俺が実家にいた頃の情報だけどね。今はどうだか?

 エレイスに入ってない上、海にいる俺は、ネットワークが結構前に切れてるからなぁ・・・

 アマラは、実はかなりの資産家だったりする。

 昔、倉庫に真珠が数百個ずつびん詰めされているのを見て驚いたことがある。宝石珊瑚もその近くに置かれていた。
 真珠や珊瑚は、場所に拠っては金以上に価値が高い物だ。そして、「一粒、一欠片でもったら、海に叩き落としてやるから」と言われた。
 ちなみに、ヒューとカイル、ミクリヤはアマラにそんなことを言われてないらしい。

 俺だけに言うとか…なんか俺の扱いがヒドくないか? 信用がないというか・・・

 まあ、そんな資産家のアマラだから、商人のブライト家が接触してもおかしくはない。

「それって、アルは…」

 ムッと顔をしかめるヒュー。

「ああ、アルちゃんは大丈夫でしょ。っていうか、ダイヤ商会に喧嘩売る馬鹿はそうそういないよ」

 ダイヤというよりはアダマスに、かな?

 アダマスの次期当主のヒトは、冷血の君だとか称されてて、敵対するモノには容赦しないらしい。
 現当主よりも苛烈な性格だと噂されている。

 そういえば、次期当主は混血を差別しない…非差別主義の変わり者だって聞いた覚えもあるな?

 なんでも、妹が混血だとか・・・

「そう言や、そうだな」
「むしろアルちゃんはダイヤの子なんだから、囲う側なんじゃない?」
「・・・」
「あ、今心揺れただろ?」
「っ! 武器見放題とか、思ってねぇぞっ!?」
「ははっ、でもヒューには向かないと思うよ」
「なにが向かねぇンだよ!」
「ダイヤは武器商だよ? 剣を売らなきゃ」
「ぅ・・・」

 刀剣マニアで、コレクションをしているヒューには、売る方は向かないと思う。

※※※※※※※※※※※※※※※

「さあ、お嬢さん。他に欲しい物はあるか? 遠慮せずになんでも言ってくれ!」

 ドン! と笑顔で胸を張る馬の子。

「そうねぇ…」

 人魚ちゃんへの宝石は買ったし、あたしの服やアクセサリーも、お菓子やアルへのお土産も、馬の子に買ってもらった。他に欲しい物…今は特に無い、かな?

 ・・・もう帰っちゃおうっと♪

「あのね、トール君♥️よく聞いて・・・」

 あたしの話を真剣に聞いた馬の子は、

「フッ、それくらいお安い御用さ!」

 風のように去って行った。

 さぁてと、帰ろっと♪

「ただいまー♪」

 船へ戻ると、狼の子と鬼の子が揃ってお出迎え。

「お帰り…で、いいのかな?」
「おい、あのバカ…トールはどうした?」
「っていうか、その荷物、もしかして全部…」

 あたしの両手一杯の荷物へ、引きつった顔で琥珀の視線を向ける狼の子。

「ふふっ、トール君に買って貰っちゃった♥️」
「悪女だ……」
「で、そのバカはどこに行った?」

 もう、馬の子の名前さえ呼ぶのをやめた鬼の子。

「アルプス山脈へ旅立ったわ…」

 と、遠くを見詰めてみる。

「「は? アルプス山脈?」」

「いや、ちょっと待て」
「なんだってそんなところに?」
「実は…病弱でよく寝込んでいる女の子がいて」
「は? なんだいきなり」

 目をぱちくりさせる鬼の子を無視して続ける。

「外に遊びに行けない女の子の唯一の楽しみは、絵本を読むことだったわ。それで、いつか身体が丈夫になったら、絵本に載っていたアルプス山脈に咲く、エーデルワイスを見てみたいと・・・けれど、女の子は今…高い熱を出して、エーデルワイスが見たいって譫言うわごとを言い続けているの。誰か、その女の子の為にアルプス山脈からエーデルワイスを持って来ることができれば・・・」※高山植物を勝手に摘むのはいけないことです。真似しちゃいけません。

 ぎゅっと、胸の前で両手を組み…

「って言ったら、ちょっくらエーデルワイスを摘んで来るぜ! って走って行っちゃった♥️」

 にっこりと微笑む。

「嘘かよ!」
「あら、失礼ね? 事実よ。ちゃんとこの街に住んでいる、病弱な女の子のことだもの」

 夢魔のあたしに届くくらいに、強い夢だ。まあ、昼に寝てる人間ひとは少ないんだけど・・・

 ちゃんと、馬の子に女の子の住所も教えたし、エーデルワイスを持って行ってくれるだろう。※高山植物を勝手に摘むのはいけないことです。真似しちゃいけません。

「つか、アルプス山脈に花咲いてンのか? 時期とか、どうなんだ?」
「さあ? あたしはそんなの知らないわ♪けど、きっとトール君が見付けてくれるって信じてるの♥️」
「やっぱり悪女だ・・・ていよく追い払った」
「ふふっ♪」

 一応、馬の子を遠くにはやった。けど、あの子はきっと数日で戻って来るだろう。

 あの子、色々と頭は残念なんだけど、骨のずい…いや、魂の底からの女好きだからねぇ?

 本来なら、魅了耐性が高い筈なのに、あたしの魅了にメロメロだったし。

 まあ、あたしというよりは…女という性別に対して、頭が常に花畑ピンクなんだろうけどね?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜

白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」  即位したばかりの国王が、宣言した。  真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。  だが、そこには大きな秘密があった。  王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。  この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。  そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。 第一部 貴族学園編  私の名前はレティシア。 政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。  だから、いとこの双子の姉ってことになってる。  この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。  私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。 第二部 魔法学校編  失ってしまったかけがえのない人。  復讐のために精霊王と契約する。  魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。  毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。  修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。 前半は、ほのぼのゆっくり進みます。 後半は、どろどろさくさくです。 小説家になろう様にも投稿してます。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

農民だからと冤罪をかけられパーティを追放されましたが、働かないと死ぬし自分は冒険者の仕事が好きなのでのんびり頑張りたいと思います。 

一樹
ファンタジー
タイトル通りの内容です。 のんびり更新です。 小説家になろうでも投稿しています。

【完結】「父に毒殺され母の葬儀までタイムリープしたので、親戚の集まる前で父にやり返してやった」

まほりろ
恋愛
十八歳の私は異母妹に婚約者を奪われ、父と継母に毒殺された。 気がついたら十歳まで時間が巻き戻っていて、母の葬儀の最中だった。 私に毒を飲ませた父と継母が、虫の息の私の耳元で得意げに母を毒殺した経緯を話していたことを思い出した。 母の葬儀が終われば私は屋敷に幽閉され、外部との連絡手段を失ってしまう。 父を断罪できるチャンスは今しかない。 「お父様は悪くないの!  お父様は愛する人と一緒になりたかっただけなの!  だからお父様はお母様に毒をもったの!  お願いお父様を捕まえないで!」 私は声の限りに叫んでいた。 心の奥にほんの少し芽生えた父への殺意とともに。 ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 ※「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※タイトル変更しました。 旧タイトル「父に殺されタイムリープしたので『お父様は悪くないの!お父様は愛する人と一緒になりたくてお母様の食事に毒をもっただけなの!』と叫んでみた」

処理中です...