87 / 179
ヴァンパイア編。
79.ねえ、アル。お腹…空いてない?
しおりを挟む
イリヤの強い魔力放出があった直後からこの船に向かったけど、俺は飛ぶのが遅い。
結局、辿り着くまでに二日もかかった。
一瞬、この身体を脱ぎ捨てようかとも思ったけど、身体はあった方が便利だ。一度棄てると、創り上げるのに時間が掛かる。
他の身体を乗っ取ることも・・・自我や所有権の問題で面倒だ。死体を使うことも考えたが、それも・・・使い勝手が悪い。死体にだって記憶は残る。他の別の記憶がアルに混ざることも避けたい。
そしてこの身体は、アルにも馴染み深い。
アルが俺を俺だと強く認識するのはこの身体だろう。やはり手放せないと思い、自作の身体で来た。時間はかかったけど・・・
アルは…案の定、イリヤの影響でマズい状態。
頭痛に苦しむアルを眠りのキスで寝かせる。
とりあえずの応急処置だ。
ああ、イリヤのことを思い出しかけている。
離れなければよかったと、思う。
馬の子は、もっと後回しにすればよかったっ!
まあ、あの子を見て思い付いたこともあるけど…
早く、忘れさせなきゃ・・・
「人魚ちゃん、悪いけど俺とアルを二人切りにしてくれないかな? 誰も邪魔できないよう、できれば雑音もシャットアウトしてほしい。今すぐに」
「は? クラウド君っ?」
「・・・わかったわ」
「アマラっ?」
慌てる狼の子を無視。
人魚ちゃんがパチンと指を鳴らしたら、俺とアル。人魚ちゃんの三人が、空き部屋へと移動していた。それも、ベッドごと。
「ここは空き部屋よ」
それは、判る。持ち主の気配が全く無いから。長い間、誰にも使われてはいなさそうだ。
その割には埃っぽくなく、掃除が行き届いているのは、あの妖精の子のお陰だろう。いい子だ。
「・・・どのくらい掛かるの?」
人魚ちゃんが訊いた。
「・・・アルに、俺の血を飲ませた?」
「ええ」
「そう・・・」
なら、前よりもアルに潜り易くなっている筈だ。本当は俺の血はあんまり飲ませたくはないけど・・・少し、どうするか迷う。
「とりあえず、三日…かな?」
「わかったわ。その間は、誰にも邪魔させない。なにかあったら、アタシを呼んで」
「ありがとう、人魚ちゃん」
「三日を過ぎたら、様子を見に来るわ」
「わかった」
「・・・大丈夫よね? アルは」
アルを心配する人魚ちゃんに、嬉しくなる。
「任せて」
「頼んだわ」
そう言って、人魚ちゃんが部屋から去る。
「ごめんね、アル…」
君が、記憶の虫食いを気にしていると知っていて・・・
俺は、君が思い出したことを、沈める。
思い出せないように・・・
「お願いだから、忘れてて?」
※※※※※※※※※※※※※※※
柔らかくて、温かい。
すべすべでふわふわ、むにむにとした感触。
「んっ…アル」
艶やかな声が、耳元でオレを呼ぶ。
「?」
「ああ、目が覚めた?」
ぼんやりと開いた目の前には濃い蜜色。
手の平にはむにむにと柔らかい感触。
「ぁんっ…アルってば、大胆なのね?」
「え~と?」
「昨夜のアル、すっごく激しかった♥️」
顔を上げると、金色の混ざる紫が妖しく微笑んだ。濃い蜜色は、ルーの肌のようだ。しかも・・・
「なんで裸なの?」
熱い体温の肌に抱き締められている。身動きが取れない。ルーの方が力が強いらしい。
・・・なんだかなぁ…
「…愛し合ったから♥️」
「オレ、服着てるよね?」
多分、ガッツリはだけてるけど。
「もうっ、アルったら冷静過ぎ。つまんないわっ。もう少し慌ててくれてもいいんじゃない?」
厚い唇がつんと尖る。
「や…夏によくあるから。朝起きたら養母さんが、真っ裸でオレのベッドに入ってるとか」
狼の姿でベッドに入って来て、暑くなって人型になるらしい。しかも、起きたときには密着されている率が高い。暑いなら、なんでオレにくっ付くんだ? と聞くと「アルの肌はひんやり。気持ちいい」という答え。せめて下着は着てほしい。
幾ら女同士とはいえ、目のやり場に困る。
オレはそこまでオープンではない。そう言うといつも、狼になって誤魔化すのだ。養母さんは・・・
「自由なのね、狼のお母さん」
「まあねー」
昔……お願いだから、人型の真っ裸でシーフに抱き付くのはやめてくれと、レオと二人で説得した。
シーフは基本、触れている相手よりも低い体温を維持しているから、夏にくっ付いてると涼しい。
そして、シーフも養母さんも、真っ裸など全く気にしない。シーフの母親のビアンカさんも自由なヒトだし・・・むしろ気にしてくれ! と、二人で言ったところ、やれやれと呆れたような溜息を吐かれ、レオが吹っ飛ばされた。理不尽だ。
養母さんは、暑いのが大嫌いだ。それを我慢することも・・・そして、「頼むから人型で真っ裸になるのはアルの部屋だけにしてくれ」とレオが説得し続け、漸く養母さんがOKした。
オレも暑いのは嫌いなんだが…というのは黙殺された。力尽くでは養母さんに敵う筈が無い。
養母さんもオレも、寒さには強いが暑さには弱い。仕方ないので、夏は氷をベッドの周りに造って取り囲んで気温を下げている。
一応、養母さんがある意味裸族なので耐性はある。しかし、この状況への説明が欲しい。
「で、なんで裸? 服着なよ」
「あたし…寝るときは服を着ないタイプなの♥️」
「うん。説明になってないかな?」
まあ、起きたときにルーがいるのはこれで二回目。一応察しは付いているが、聞いておきたい。
「・・・頭痛」
溜息混じりにぽつんと呟かれた言葉。
「あ、やっぱり・・・っていうか、なんで貴方がここにいる? どうやって知った?」
前回といい、そう都合良く、オレの頭痛に居合わせる筈が無い。なにを知っているんだ?
「オレにもわからない頭痛のタイミングが、貴方には判っているとでも言うのか?」
「愛の力で?」
「ルー……それなら、貴方がオレになにかを仕込んだとかの方が、まだ納得が行く」
「本当なのに・・・ヒドい、アルっ…」
潤っと涙が目尻に溜まる。けれど、金色の混ざる紫の瞳は、イタズラっぽく煌めいてる。
嘘泣きというか……遊んでる?
「で、実のところは?」
「愛の力は本当だよ。俺は君を愛してるからね。アル。好きだよ」
チュッとこめかみに落とされる唇。
「わっ」
そして、オレを抱えたままごろんと転がるルー。横抱きだった体勢から、ルーが上になった。
「ふふっ♥️」
クスリと笑った唇が、唇を啄む。
「ねえ、アル。お腹…空いてない? …ん…」
「…ん…ルー…」
ふにふにと唇が柔らかく食まれ、とろりと甘くて濃厚な精気がゆっくりと流れて来る。
「んっ…ふ、ぁ・・・」
ゆるりと長く、深くなる口付け。
絡め取られて行く舌。
少し息苦しくて、苦しくなって来ると息継ぎ。
「んっ、はぁ…可愛い♥️」
くちゅりと唾液が糸を引き、離れる唇。熱い舌が唇を舐め上げ、吐息が擽る。
「は、ぁ…はぁ・・・んむっ、…」
そして、息が整う前にまた塞がれる唇。長く、深い口付けと息継ぎとが何度も繰り返され・・・
「はぁ、ハァ…はっ、ぁ…んっ・・・」
くらくらして来る。
苦しいのに、気持ち悦い。
「・・・ヒトが、心配して見に来てみれば・・・盛ってる暇あンなら、とっとと出て来いやこの馬鹿女共がっ!!!」
低いハスキーの怒号が轟いた。
「ん、ふっ…やあ、人魚ちゃん♥️」
ぺろりと唇が舐められ、チュッと最後にキス。はだけたオレの服を軽く併せて起き上がったルーが、クラウドに変わってくるりと振り向いた。
「…なによそれ…」
低い不機嫌なハスキー。
「ヒドいな? 人魚ちゃんに配慮して俺になったのに。なぁに? 実は見たかったの? あたしの、は・だ・か♥️」
裸の胸を腕で隠し、しなを作るクラウド。声だけが少し高くなり、ルーになる。芸が細かい。
今のうち、ボタン閉めとこ。
「ンなワケないでしょっ!? アタシに流し目寄越すなって言ってンのよっ! つか、服着なさいっ!」
「パンツは履いてるよ? ほら」
ベッドから立ち上がるクラウド。
「服着ろっつってんのっ!!!」
「仕方ないなぁ」
アマラに言われ、ベッドの周りに脱ぎ捨てられた服を拾って身に付けるクラウド。
「で、大丈夫なの? 小娘は」
「ついさっき起きたばかりだよ。別に盛ってたワケでもない。アルにご飯あげてただけ。ね?」
伸ばされる蜜色の手。掴むと、ひょいと起こされる。毛布を抱き締めたまま、座る。
「ご飯って・・・血じゃないの?」
「…アルは、血よりも精気の方が好きだからね」
「なんで小娘は黙ってンのよ?」
「ああ、呂律が回らないんじゃない? キス、割と濃い目のしたから♥️」
顔を押さえて頷く。まだ舌が痺れている。
「…ったく、小娘。なにがあったか覚えてる?」
「?」
良く覚えていない。
「覚えてないみたい」
クラウドが答える。
「アンタの頭痛があんなに酷いだなんて思わなかったわ。びっくりしたんだから」
「・・・迷惑かけて…ごめんなさい…」
アマラに頭を下げる。覚えてないけど・・・
「…つか、今回は…記憶が無いんだよね。いつもは、頭割れそうなくらいまでは我慢してから、その後で意識が飛ぶんだけど…いきなり記憶が繋がらないってことは、初めてかも・・・」
意識が飛ぶのはよくあること。慣れている。全く自慢にならないが・・・
けど、今回は、断片的な記憶さえも無い。
起きたら、ルーに抱き締められていた。
「そう・・・体調は?」
「・・・ふらふらする」
頭は痛くないけど、身体が重い気がする。
「ご飯、もっと要る?」
クラウドが、屈んで口付けを落とす。触れるだけのキスで、精気を軽く流し込む。
さっきとは柔らかさの違う唇。
女のルーより、ほんの少し硬い柔らかさ。
覗き込むアメトリンに、目を閉じる。
「ああもうっ、好きにやってなさいっ! だけど、その食事が済んだら、ちゃんと出て来なさいよっ!?」
ふっとアマラの気配が消えた。
「・・・喉、渇いた」
目を開くと、困ったようなクラウドの顔。
「あんまり、俺の血はあげたくないんだけどな?」
蜜色の首筋をじっと見詰める。
「ダメ?」
「首はダメ。代わりに・・・」
唇が、塞がれる。そして広がる甘い血の味。
ああ、美味しい・・・
流れ込んで来る濃厚な甘い血と、精気に・・・
強い魔力に、酔いそうだ…
結局、辿り着くまでに二日もかかった。
一瞬、この身体を脱ぎ捨てようかとも思ったけど、身体はあった方が便利だ。一度棄てると、創り上げるのに時間が掛かる。
他の身体を乗っ取ることも・・・自我や所有権の問題で面倒だ。死体を使うことも考えたが、それも・・・使い勝手が悪い。死体にだって記憶は残る。他の別の記憶がアルに混ざることも避けたい。
そしてこの身体は、アルにも馴染み深い。
アルが俺を俺だと強く認識するのはこの身体だろう。やはり手放せないと思い、自作の身体で来た。時間はかかったけど・・・
アルは…案の定、イリヤの影響でマズい状態。
頭痛に苦しむアルを眠りのキスで寝かせる。
とりあえずの応急処置だ。
ああ、イリヤのことを思い出しかけている。
離れなければよかったと、思う。
馬の子は、もっと後回しにすればよかったっ!
まあ、あの子を見て思い付いたこともあるけど…
早く、忘れさせなきゃ・・・
「人魚ちゃん、悪いけど俺とアルを二人切りにしてくれないかな? 誰も邪魔できないよう、できれば雑音もシャットアウトしてほしい。今すぐに」
「は? クラウド君っ?」
「・・・わかったわ」
「アマラっ?」
慌てる狼の子を無視。
人魚ちゃんがパチンと指を鳴らしたら、俺とアル。人魚ちゃんの三人が、空き部屋へと移動していた。それも、ベッドごと。
「ここは空き部屋よ」
それは、判る。持ち主の気配が全く無いから。長い間、誰にも使われてはいなさそうだ。
その割には埃っぽくなく、掃除が行き届いているのは、あの妖精の子のお陰だろう。いい子だ。
「・・・どのくらい掛かるの?」
人魚ちゃんが訊いた。
「・・・アルに、俺の血を飲ませた?」
「ええ」
「そう・・・」
なら、前よりもアルに潜り易くなっている筈だ。本当は俺の血はあんまり飲ませたくはないけど・・・少し、どうするか迷う。
「とりあえず、三日…かな?」
「わかったわ。その間は、誰にも邪魔させない。なにかあったら、アタシを呼んで」
「ありがとう、人魚ちゃん」
「三日を過ぎたら、様子を見に来るわ」
「わかった」
「・・・大丈夫よね? アルは」
アルを心配する人魚ちゃんに、嬉しくなる。
「任せて」
「頼んだわ」
そう言って、人魚ちゃんが部屋から去る。
「ごめんね、アル…」
君が、記憶の虫食いを気にしていると知っていて・・・
俺は、君が思い出したことを、沈める。
思い出せないように・・・
「お願いだから、忘れてて?」
※※※※※※※※※※※※※※※
柔らかくて、温かい。
すべすべでふわふわ、むにむにとした感触。
「んっ…アル」
艶やかな声が、耳元でオレを呼ぶ。
「?」
「ああ、目が覚めた?」
ぼんやりと開いた目の前には濃い蜜色。
手の平にはむにむにと柔らかい感触。
「ぁんっ…アルってば、大胆なのね?」
「え~と?」
「昨夜のアル、すっごく激しかった♥️」
顔を上げると、金色の混ざる紫が妖しく微笑んだ。濃い蜜色は、ルーの肌のようだ。しかも・・・
「なんで裸なの?」
熱い体温の肌に抱き締められている。身動きが取れない。ルーの方が力が強いらしい。
・・・なんだかなぁ…
「…愛し合ったから♥️」
「オレ、服着てるよね?」
多分、ガッツリはだけてるけど。
「もうっ、アルったら冷静過ぎ。つまんないわっ。もう少し慌ててくれてもいいんじゃない?」
厚い唇がつんと尖る。
「や…夏によくあるから。朝起きたら養母さんが、真っ裸でオレのベッドに入ってるとか」
狼の姿でベッドに入って来て、暑くなって人型になるらしい。しかも、起きたときには密着されている率が高い。暑いなら、なんでオレにくっ付くんだ? と聞くと「アルの肌はひんやり。気持ちいい」という答え。せめて下着は着てほしい。
幾ら女同士とはいえ、目のやり場に困る。
オレはそこまでオープンではない。そう言うといつも、狼になって誤魔化すのだ。養母さんは・・・
「自由なのね、狼のお母さん」
「まあねー」
昔……お願いだから、人型の真っ裸でシーフに抱き付くのはやめてくれと、レオと二人で説得した。
シーフは基本、触れている相手よりも低い体温を維持しているから、夏にくっ付いてると涼しい。
そして、シーフも養母さんも、真っ裸など全く気にしない。シーフの母親のビアンカさんも自由なヒトだし・・・むしろ気にしてくれ! と、二人で言ったところ、やれやれと呆れたような溜息を吐かれ、レオが吹っ飛ばされた。理不尽だ。
養母さんは、暑いのが大嫌いだ。それを我慢することも・・・そして、「頼むから人型で真っ裸になるのはアルの部屋だけにしてくれ」とレオが説得し続け、漸く養母さんがOKした。
オレも暑いのは嫌いなんだが…というのは黙殺された。力尽くでは養母さんに敵う筈が無い。
養母さんもオレも、寒さには強いが暑さには弱い。仕方ないので、夏は氷をベッドの周りに造って取り囲んで気温を下げている。
一応、養母さんがある意味裸族なので耐性はある。しかし、この状況への説明が欲しい。
「で、なんで裸? 服着なよ」
「あたし…寝るときは服を着ないタイプなの♥️」
「うん。説明になってないかな?」
まあ、起きたときにルーがいるのはこれで二回目。一応察しは付いているが、聞いておきたい。
「・・・頭痛」
溜息混じりにぽつんと呟かれた言葉。
「あ、やっぱり・・・っていうか、なんで貴方がここにいる? どうやって知った?」
前回といい、そう都合良く、オレの頭痛に居合わせる筈が無い。なにを知っているんだ?
「オレにもわからない頭痛のタイミングが、貴方には判っているとでも言うのか?」
「愛の力で?」
「ルー……それなら、貴方がオレになにかを仕込んだとかの方が、まだ納得が行く」
「本当なのに・・・ヒドい、アルっ…」
潤っと涙が目尻に溜まる。けれど、金色の混ざる紫の瞳は、イタズラっぽく煌めいてる。
嘘泣きというか……遊んでる?
「で、実のところは?」
「愛の力は本当だよ。俺は君を愛してるからね。アル。好きだよ」
チュッとこめかみに落とされる唇。
「わっ」
そして、オレを抱えたままごろんと転がるルー。横抱きだった体勢から、ルーが上になった。
「ふふっ♥️」
クスリと笑った唇が、唇を啄む。
「ねえ、アル。お腹…空いてない? …ん…」
「…ん…ルー…」
ふにふにと唇が柔らかく食まれ、とろりと甘くて濃厚な精気がゆっくりと流れて来る。
「んっ…ふ、ぁ・・・」
ゆるりと長く、深くなる口付け。
絡め取られて行く舌。
少し息苦しくて、苦しくなって来ると息継ぎ。
「んっ、はぁ…可愛い♥️」
くちゅりと唾液が糸を引き、離れる唇。熱い舌が唇を舐め上げ、吐息が擽る。
「は、ぁ…はぁ・・・んむっ、…」
そして、息が整う前にまた塞がれる唇。長く、深い口付けと息継ぎとが何度も繰り返され・・・
「はぁ、ハァ…はっ、ぁ…んっ・・・」
くらくらして来る。
苦しいのに、気持ち悦い。
「・・・ヒトが、心配して見に来てみれば・・・盛ってる暇あンなら、とっとと出て来いやこの馬鹿女共がっ!!!」
低いハスキーの怒号が轟いた。
「ん、ふっ…やあ、人魚ちゃん♥️」
ぺろりと唇が舐められ、チュッと最後にキス。はだけたオレの服を軽く併せて起き上がったルーが、クラウドに変わってくるりと振り向いた。
「…なによそれ…」
低い不機嫌なハスキー。
「ヒドいな? 人魚ちゃんに配慮して俺になったのに。なぁに? 実は見たかったの? あたしの、は・だ・か♥️」
裸の胸を腕で隠し、しなを作るクラウド。声だけが少し高くなり、ルーになる。芸が細かい。
今のうち、ボタン閉めとこ。
「ンなワケないでしょっ!? アタシに流し目寄越すなって言ってンのよっ! つか、服着なさいっ!」
「パンツは履いてるよ? ほら」
ベッドから立ち上がるクラウド。
「服着ろっつってんのっ!!!」
「仕方ないなぁ」
アマラに言われ、ベッドの周りに脱ぎ捨てられた服を拾って身に付けるクラウド。
「で、大丈夫なの? 小娘は」
「ついさっき起きたばかりだよ。別に盛ってたワケでもない。アルにご飯あげてただけ。ね?」
伸ばされる蜜色の手。掴むと、ひょいと起こされる。毛布を抱き締めたまま、座る。
「ご飯って・・・血じゃないの?」
「…アルは、血よりも精気の方が好きだからね」
「なんで小娘は黙ってンのよ?」
「ああ、呂律が回らないんじゃない? キス、割と濃い目のしたから♥️」
顔を押さえて頷く。まだ舌が痺れている。
「…ったく、小娘。なにがあったか覚えてる?」
「?」
良く覚えていない。
「覚えてないみたい」
クラウドが答える。
「アンタの頭痛があんなに酷いだなんて思わなかったわ。びっくりしたんだから」
「・・・迷惑かけて…ごめんなさい…」
アマラに頭を下げる。覚えてないけど・・・
「…つか、今回は…記憶が無いんだよね。いつもは、頭割れそうなくらいまでは我慢してから、その後で意識が飛ぶんだけど…いきなり記憶が繋がらないってことは、初めてかも・・・」
意識が飛ぶのはよくあること。慣れている。全く自慢にならないが・・・
けど、今回は、断片的な記憶さえも無い。
起きたら、ルーに抱き締められていた。
「そう・・・体調は?」
「・・・ふらふらする」
頭は痛くないけど、身体が重い気がする。
「ご飯、もっと要る?」
クラウドが、屈んで口付けを落とす。触れるだけのキスで、精気を軽く流し込む。
さっきとは柔らかさの違う唇。
女のルーより、ほんの少し硬い柔らかさ。
覗き込むアメトリンに、目を閉じる。
「ああもうっ、好きにやってなさいっ! だけど、その食事が済んだら、ちゃんと出て来なさいよっ!?」
ふっとアマラの気配が消えた。
「・・・喉、渇いた」
目を開くと、困ったようなクラウドの顔。
「あんまり、俺の血はあげたくないんだけどな?」
蜜色の首筋をじっと見詰める。
「ダメ?」
「首はダメ。代わりに・・・」
唇が、塞がれる。そして広がる甘い血の味。
ああ、美味しい・・・
流れ込んで来る濃厚な甘い血と、精気に・・・
強い魔力に、酔いそうだ…
0
お気に入りに追加
212
あなたにおすすめの小説
聖女の妹は無能ですが、幸せなので今更代われと言われても困ります!
ユウ
ファンタジー
侯爵令嬢のサーシャは平凡な令嬢だった。
姉は国一番の美女で、才色兼備で聖女と謡われる存在。
対する妹のサーシャは姉とは月スッポンだった。
能力も乏しく、学問の才能もない無能。
侯爵家の出来損ないで社交界でも馬鹿にされ憐れみの視線を向けられ完璧を望む姉にも叱られる日々だった。
人は皆何の才能もない哀れな令嬢と言われるのだが、領地で自由に育ち優しい婚約者とも仲睦まじく過ごしていた。
姉や他人が勝手に憐れんでいるだけでサーシャは実に自由だった。
そんな折姉のジャネットがサーシャを妬むようになり、聖女を変われと言い出すのだが――。
異世界でゆるゆる生活を満喫す
葉月ゆな
ファンタジー
辺境伯家の三男坊。数か月前の高熱で前世は日本人だったこと、社会人でブラック企業に勤めていたことを思い出す。どうして亡くなったのかは記憶にない。ただもう前世のように働いて働いて夢も希望もなかった日々は送らない。
もふもふと魔法の世界で楽しく生きる、この生活を絶対死守するのだと誓っている。
家族に助けられ、面倒ごとは優秀な他人に任せる主人公。でも頼られるといやとはいえない。
ざまぁや成り上がりはなく、思いつくままに好きに行動する日常生活ゆるゆるファンタジーライフのご都合主義です。
司書ですが、何か?
みつまめ つぼみ
ファンタジー
16歳の小さな司書ヴィルマが、王侯貴族が通う王立魔導学院付属図書館で仲間と一緒に仕事を頑張るお話です。
ほのぼの日常系と思わせつつ、ちょこちょこドラマティックなことも起こります。ロマンスはふんわり。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
吸血少女ののんびり気ままなゲームライフ
月輪林檎
SF
VRMMORPG『One and only world』。通称ワンオン。唯一無二の世界と称されたこのゲームは、ステータスが隠れた完全スキル制となっている。発表当時から期待が寄せられ、βテストを経て、さらに熱が高まっていた。
βテストの応募に落ち、販売当日にも買えず、お預けを食らっていた結城白(ゆうきしろ)は、姉の結城火蓮(ゆうきかれん)からソフトを貰い、一ヶ月遅れでログインした。ハクと名付けたアバターを設定し、初期武器を剣にして、ランダムで一つ貰えるスキルを楽しみにしていた。
そんなハクが手に入れたのは、不人気スキルの【吸血】だった。有用な一面もあるが、通常のプレイヤーには我慢出来なかったデメリットがあった。だが、ハクは、そのデメリットを受け止めた上で、このスキルを使う事を選ぶ。
吸血少女が織りなすのんびり気ままなVRMMOライフ。
大嫌いな聖女候補があまりにも無能なせいで、闇属性の私が聖女と呼ばれるようになりました。
井藤 美樹
ファンタジー
たぶん、私は異世界転生をしたんだと思う。
うっすらと覚えているのは、魔法の代わりに科学が支配する平和な世界で生きていたこと。あとは、オタクじゃないけど陰キャで、性別は女だったことぐらいかな。確か……アキって呼ばれていたのも覚えている。特に役立ちそうなことは覚えてないわね。
そんな私が転生したのは、科学の代わりに魔法が主流の世界。魔力の有無と量で一生が決まる無慈悲な世界だった。
そして、魔物や野盗、人攫いや奴隷が普通にいる世界だったの。この世界は、常に危険に満ちている。死と隣り合わせの世界なのだから。
そんな世界に、私は生まれたの。
ゲンジュール聖王国、ゲンジュ公爵家の長女アルキアとしてね。
ただ……私は公爵令嬢としては生きていない。
魔族と同じ赤い瞳をしているからと、生まれた瞬間両親にポイッと捨てられたから。でも、全然平気。私には親代わりの乳母と兄代わりの息子が一緒だから。
この理不尽な世界、生き抜いてみせる。
そう決意した瞬間、捨てられた少女の下剋上が始まった!!
それはやがて、ゲンジュール聖王国を大きく巻き込んでいくことになる――
転生したら捨てられたが、拾われて楽しく生きています。
トロ猫
ファンタジー
2024.7月下旬5巻刊行予定
2024.6月下旬コミックス1巻刊行
2024.1月下旬4巻刊行
2023.12.19 コミカライズ連載スタート
2023.9月下旬三巻刊行
2023.3月30日二巻刊行
2022.11月30日一巻刊行
寺崎美里亜は転生するが、5ヶ月で教会の前に捨てられる。
しかも誰も通らないところに。
あー詰んだ
と思っていたら後に宿屋を営む夫婦に拾われ大好きなお菓子や食べ物のために奮闘する話。
コメント欄を解放しました。
誤字脱字のコメントも受け付けておりますが、必要箇所の修正後コメントは非表示とさせていただきます。また、ストーリーや今後の展開に迫る質問等は返信を控えさせていただきます。
書籍の誤字脱字につきましては近況ボードの『書籍の誤字脱字はここに』にてお願いいたします。
出版社との規約に触れる質問等も基本お答えできない内容が多いですので、ノーコメントまたは非表示にさせていただきます。
よろしくお願いいたします。
うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?
プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。
小説家になろうでも公開している短編集です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる