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ヴァンパイア編。
38.お伽噺か? ありきたりだな。
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よくわからないが、起きたらシーフがいなくなっていた。ジンが言うには、アルの兄の狼がシーフを連れて帰り、そのついでにアルに怪我をさせたことへの落し前としてぶん殴られたそうだ。
綺麗に拳が顎に極まり、どうやら俺は、脳震盪を起こしたらしい。
顎が痛くて、記憶が少し飛んでいる。余程の攻撃でないと、俺は怪我をしないんだがな?
殴った奴が上手かったせいか、他に怪我は無い。少し背中に違和感がある程度だ。一瞬で意識を刈られたようで、受け身を取り損ねたらしい。
まあ、これもすぐに治るが。
そして、アルに謝られた。
アルを怪我させたことへの落し前だというのなら、アルに謝られるのは違うと思うが・・・
「漸くイフリートのガキがいなくなってせいせいしたわ! さあ、戻って来ないうちに移動よ!」
と、その日のうちにアマラが張り切って移動を開始した。シーフのことが、相当嫌だったらしい。
「熱と乾燥は人魚の天敵よ!」
そう言って、結局シーフとは全く顔を合わせてもいない。カイルに拠れば、シーフの船内での移動制限までしていたらしい。
だから、シーフは変な場所で寝ていたようだ。
とても申し訳ない気分になった。
シーフ本人とアルが気にしていなかったのが幸いというか、気にしろと言うべきだったのか・・・
それから数日。次の港へ到着した。
※※※※※※※※※※※※※※※
「あ、僕ここ知ってる。あれでしょ? 確か昔、聖女がいたっていう聖女信仰の街」
「へぇ、よく知ってるね?カイル」
「そうなのか?」
「うん。大体、三百年くらい前かな? 怪我や病気を治してくれる女の子がいたみたいだね。すごく綺麗な美少女だったって聞いたけど」
「ほう……それで?」
「確か、聖女様を守る人間の騎士団がいたけど、聖女様は悪魔に拐われちゃうんだよね」
「悪魔? それで?」
「えっと、確か・・・騎士が悪魔を倒して、聖女様は王子様と結婚して、めでたしめでたしだよ」
「なんだ? お伽噺か? ありきたりだな」
「そんな絵本があったねぇ…昔に」
「史実を元にした話だって書いてたよ?」
「けど、実際は、聖女は悪魔に拐われたまま、戻って来なかったって落ちなんだけどね」
「えっ! ウソっ?」
「残念ながら、ホントだよ。まあ、俺はその頃子供だったけど、すごく有名な話だったからね? 覚えてるよ。聖女が戻らない理由を、遠方の貴族と結婚したからってことにしたみたい。そう言われた民衆には、確認する術は無いからね。鵜呑みにして、それが絵本の元になったんだよ。まさか、騎士団が負けて、悪魔から聖女を取り戻せませんでした…なぁんて、言えるワケないでしょ。絶対にね。当時は聖女を担ぎ上げて、相当な利益を貪ってたみたいだし。この街はさ」
「なんか、一気に生臭い話になったな?」
「今でも、それを観光資源にしてるからね。聖女の絵画だとか、彫像なんかが美術館にあるらしいよ」
「あ、僕行ってみたい」
「あと、ミスコンとか? 聖女に一番似ている女の子を、街の親善大使にするんだって。で、数年後にその美少女を権力者が娶る、と」
「ぅっわ…いいの? それ…」
「俺に言われてもね?」
「っていうかさ、なんでそんなことアンタが知ってるワケ? しかも、全然有名じゃない話をアンタが」
「狼は事情通が多いんだよ。狼の間で有名だったってこと。あの頃は俺も実家にいたからね」
「・・・・・・・・・」
カイル達の話に、アルが渋い顔をしていた。
「アル君どうかしたー?」
「いや、別に」
素っ気ない返事。だが、別にという顔じゃない。嫌そうなのを、隠している感じ…だろうか?
ヒュー達なら誤魔化されるかもしれんが、一応は幼馴染である自分は誤魔化されない。
まあ、無理に訊く気もないが。
「・・・」
※※※※※※※※※※※※※※※
目を覚ますと、地面が走っていた。
どうやら、運ばれているようだ。
顔を上げると、見知った顔があった。
「・・・レオ兄。が、いる・・・夢?」
「ああ。漸く起きたか。とりあえず、夢じゃねぇからな? 寝てていいぞ。シーフ」
腹を抱えられ、荷物のように運ばれている。別に苦しくはない。寝るのに支障は無い。けど…
「・・・アル、は?」
「置いて来た」
閑かな声が言う。
このヒトは、アルを非常に可愛がっている。それが、どんな想いなのかはおれにはわからない…が、深い愛情なのは間違いない。
このヒトはアルを育て、守って来たヒトだ。
なのに、なんで?
閑かな声なのは、感情を抑えているからだ。
なんで、感情を抑えないといけないのか・・・
謎。
「…レオ兄、は・・・アルの、味方?」
「敵になんか、なる筈ねぇだろ。お前らの」
「・・・なら、なんで…?」
「・・・近々、親父と大物を狙う予定でな。生きて戻れるかは、まだわからん」
「・・・ん。わかった」
なら、養父とレオ兄が戻って来れるよう、装備を整えるのがおれの仕事だ。
納得はしていないが、理解はした。
文句や不満は、後で聞かせてやる。
帰って来てから、たっぷりと。
さあ、仕事を再開しなくては。
帰ってから。
それまでは、寝よう。
「・・・じゃあ、寝る…」
「ああ、着いたら起こす」
「ん。お休み、レオ兄・・・」
綺麗に拳が顎に極まり、どうやら俺は、脳震盪を起こしたらしい。
顎が痛くて、記憶が少し飛んでいる。余程の攻撃でないと、俺は怪我をしないんだがな?
殴った奴が上手かったせいか、他に怪我は無い。少し背中に違和感がある程度だ。一瞬で意識を刈られたようで、受け身を取り損ねたらしい。
まあ、これもすぐに治るが。
そして、アルに謝られた。
アルを怪我させたことへの落し前だというのなら、アルに謝られるのは違うと思うが・・・
「漸くイフリートのガキがいなくなってせいせいしたわ! さあ、戻って来ないうちに移動よ!」
と、その日のうちにアマラが張り切って移動を開始した。シーフのことが、相当嫌だったらしい。
「熱と乾燥は人魚の天敵よ!」
そう言って、結局シーフとは全く顔を合わせてもいない。カイルに拠れば、シーフの船内での移動制限までしていたらしい。
だから、シーフは変な場所で寝ていたようだ。
とても申し訳ない気分になった。
シーフ本人とアルが気にしていなかったのが幸いというか、気にしろと言うべきだったのか・・・
それから数日。次の港へ到着した。
※※※※※※※※※※※※※※※
「あ、僕ここ知ってる。あれでしょ? 確か昔、聖女がいたっていう聖女信仰の街」
「へぇ、よく知ってるね?カイル」
「そうなのか?」
「うん。大体、三百年くらい前かな? 怪我や病気を治してくれる女の子がいたみたいだね。すごく綺麗な美少女だったって聞いたけど」
「ほう……それで?」
「確か、聖女様を守る人間の騎士団がいたけど、聖女様は悪魔に拐われちゃうんだよね」
「悪魔? それで?」
「えっと、確か・・・騎士が悪魔を倒して、聖女様は王子様と結婚して、めでたしめでたしだよ」
「なんだ? お伽噺か? ありきたりだな」
「そんな絵本があったねぇ…昔に」
「史実を元にした話だって書いてたよ?」
「けど、実際は、聖女は悪魔に拐われたまま、戻って来なかったって落ちなんだけどね」
「えっ! ウソっ?」
「残念ながら、ホントだよ。まあ、俺はその頃子供だったけど、すごく有名な話だったからね? 覚えてるよ。聖女が戻らない理由を、遠方の貴族と結婚したからってことにしたみたい。そう言われた民衆には、確認する術は無いからね。鵜呑みにして、それが絵本の元になったんだよ。まさか、騎士団が負けて、悪魔から聖女を取り戻せませんでした…なぁんて、言えるワケないでしょ。絶対にね。当時は聖女を担ぎ上げて、相当な利益を貪ってたみたいだし。この街はさ」
「なんか、一気に生臭い話になったな?」
「今でも、それを観光資源にしてるからね。聖女の絵画だとか、彫像なんかが美術館にあるらしいよ」
「あ、僕行ってみたい」
「あと、ミスコンとか? 聖女に一番似ている女の子を、街の親善大使にするんだって。で、数年後にその美少女を権力者が娶る、と」
「ぅっわ…いいの? それ…」
「俺に言われてもね?」
「っていうかさ、なんでそんなことアンタが知ってるワケ? しかも、全然有名じゃない話をアンタが」
「狼は事情通が多いんだよ。狼の間で有名だったってこと。あの頃は俺も実家にいたからね」
「・・・・・・・・・」
カイル達の話に、アルが渋い顔をしていた。
「アル君どうかしたー?」
「いや、別に」
素っ気ない返事。だが、別にという顔じゃない。嫌そうなのを、隠している感じ…だろうか?
ヒュー達なら誤魔化されるかもしれんが、一応は幼馴染である自分は誤魔化されない。
まあ、無理に訊く気もないが。
「・・・」
※※※※※※※※※※※※※※※
目を覚ますと、地面が走っていた。
どうやら、運ばれているようだ。
顔を上げると、見知った顔があった。
「・・・レオ兄。が、いる・・・夢?」
「ああ。漸く起きたか。とりあえず、夢じゃねぇからな? 寝てていいぞ。シーフ」
腹を抱えられ、荷物のように運ばれている。別に苦しくはない。寝るのに支障は無い。けど…
「・・・アル、は?」
「置いて来た」
閑かな声が言う。
このヒトは、アルを非常に可愛がっている。それが、どんな想いなのかはおれにはわからない…が、深い愛情なのは間違いない。
このヒトはアルを育て、守って来たヒトだ。
なのに、なんで?
閑かな声なのは、感情を抑えているからだ。
なんで、感情を抑えないといけないのか・・・
謎。
「…レオ兄、は・・・アルの、味方?」
「敵になんか、なる筈ねぇだろ。お前らの」
「・・・なら、なんで…?」
「・・・近々、親父と大物を狙う予定でな。生きて戻れるかは、まだわからん」
「・・・ん。わかった」
なら、養父とレオ兄が戻って来れるよう、装備を整えるのがおれの仕事だ。
納得はしていないが、理解はした。
文句や不満は、後で聞かせてやる。
帰って来てから、たっぷりと。
さあ、仕事を再開しなくては。
帰ってから。
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