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ヴァンパイア編。
36.…必要、だろ?
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「で、いつまでいるつもりだ? お前は」
シーフを部屋に連れ込んで切り出す。
「・・・ずっと?」
「ンなワケ行くか」
「・・・父達が、アルを…追い出した…」
平坦だが、少しムッとしたような声。全く。普段はいろんなことに頓着しないクセに・・・
「……半分は、自分で出て来たんだよ」
「・・・なんで?」
鮮やかなエメラルドが真っ直ぐ見詰める。
「手前ぇらと結婚して堪るか」
「・・・養父とか、レオ兄なら、そう…変わらない。筈…おれ、とも…」
「嫌だっての。それに、変わる。そうしたら多分、父上はオレのことを公にするつもりだよ」
「・・・今更?」
「そ。今更」
「・・・なんで…?」
不審げなシーフ。
「それこそオレが知りたいぜ。父上か兄さんなら、アダマスの現当主か、次期当主の結婚相手。ンで、養父さんかレオを選べば、エレイスの現頭首、次期頭首の相手として、公表するつもりらしい。迷惑なことにな?」
「…おれ、は?」
「知らん。多分、あんまり変わらんだろ。今と」
「なら、おれと」
皆まで言わすか。
「断る」
「…むぅ・・・なら、もう一人…は?」
「ああ、あのヒトなぁ。よくわからん」
「・・・知らない、ヒト?」
名前と種族だけは知ってる。あと性格。
一応、友達…になる、か? 雪君と知り合ったときに、出逢ったヒトだ。
少し、シーフと顔が似てんだよなぁ…あのヒト。
まあ、性格と雰囲気の方は全く違うが。
男女関係無く、可愛い子が好きだという趣味がオレと合うあのヒトは、友達ならいいが、結婚相手には向かない・・・な。うん。
けど問題は、なんであのヒトの名前が上がっているのか? ってことだ。
あのヒトは、父上の知り合い…ってことになるよな? ・・・だから、か? オレに、やたらよくして…くれたんだ。で、「大きくなったら、俺と…もっといいことしようね? アル」だとか言わ、れ・・・て、キス…さ、れ・・・?
・・・あ、れ? この台詞前に、も・・・
「…っ!」
ズキンと額に鋭い痛みが走った。
「…アル? どうか、した?」
「いや、ちょっと頭痛くなっただけ…」
「・・・大丈夫?」
「ああ、我慢できない程じゃない」
一瞬だけの強い痛み。なんだったんだ?
「無理は、よくない…」
「大丈夫だって。もう治まった」
「・・・寝る? 添い寝、する…」
腕を広げて近寄るシーフを押し退ける。
「要らん」
「残念…。寝る?」
「まだ寝ない。で、言うことあんだろ?オレに」
「…体調、悪い。なら…今度で、いい」
「シーフ? 言え」
「・・・アルの、血…欲しい。そろそろ、切れる…」
やっぱりか・・・
「どれくらい?」
「・・・できるだけ、多く…」
オレは、薬や毒が全く効かない体質だ。そんなオレの血は、解毒や抗毒作用が高い。解毒剤として使うなら、即死していなければ、大抵の毒に効くだろう。まあ、全ての毒を完全に解毒ができるワケじゃないから、劣化型の万能薬と言ったところだろうか? 使い道は幾らでもある。
ちなみに、病気には然程効かない。症状の一時的緩和と免疫の向上は認められるが、完治までは行かない。だから、万能薬の劣化型となる。
「でも、無理は…禁物。絶対」
「わかってるよ」
「…代わりに、おれの血。あげる…」
「ん。貰っとく。けど、な?」
と、シーフへ手を差し出す。
「・・・」
「ほら、出せ?」
「・・・むぅ…」
不満げな顔をしたシーフが、血晶を取り出す。
「・・・リリアン。から…」
「知ってる」
「・・・アルの、非常食は…おれ」
「はいはい」
「・・・アルの、いけず…」
不満そうなシーフからリリの血晶を幾つか受け取り、その内の一つを口に入れて転がす。
とろりと溶け出すリリの甘い血の匂いと味。
…美味しい。けど、この味って・・・
「・・・あのさ、シーフ」
「・・・」
「これ、もしかして心臓の血だったりする?」
「・・・リリアンに、聞けば…いい…」
ぷいとそっぽを向くシーフ。不機嫌だな。
ま、いいけど。
リリ…あんまり無茶はしないでほしいんだがな。
「さて、やるか・・・」
と言うと、
「…手首…切る、の?」
蜜色の手がオレの左手を取り、 袖を捲る。血管を探るように手首の内側が撫でられる。
「や、肘の内側」
更に袖を捲り、腕を露出させる。
「…切る?」
「自分でやるぞ?」
「アルは…深く、切り過ぎる。から…おれが…」
シーフが取り出したのは、医療用のメス。そして、そのメスがバッと炎に包まれる。
「…滅菌」
「滅菌はいいが、大丈夫なのか?」
一応、聞いておく。完成している刃物に、高温の熱を入れると、金属が劣化することがある。まあ、鍛冶師に言うのも野暮だとは思うが。
「ん。平気…」
蜜色の指先が腕を這い、さわさわと血液を探る。
「…切る、よ?」
「ああ、やれ」
そして、スパッと肘の内側が切られる。切れ味が良いせいか、あまり痛くない。次いで、どばっと流れる血を操作。ふよふよと空中に留める。
「…痛…かった?」
「いや、あんまり。切れ味良いな? これ」
「ん。よかった…これ、アルの…血。使ったやつ。切った場所…早く、よくなる。あげる…」
「ん。貰っとく」
オレの腕を切ったメスが手渡される。キラリと鋭い煌めきを放つ刃。切れ味がよさそうだ。
ドクドクと流れ出る血液をぼーっと眺めていたら、ぐいっと蜜色の腕に抱き込まれる。
「なんだ? シーフ」
「・・・おれも、欲しい。アルの、血。駄目?」
熱を帯びたテノールが囁き、艶めくエメラルドが仄かに赤い燐光を帯びる。
「吸血、させて?」
「ヤだ。減る」
「・・・ちょっと、くらい…」
「ちょっとで済むのか?」
「・・・なら、少し…?」
「増えてんぞ?」
「…じゃあ、味見。駄目?」
「っ…」
かぷりと、耳たぶが甘噛みされる。
「…頂き、ます?」
「ちょっ、やめ」
がりっと耳たぶが噛まれ、走る痛み。
「んっ!」
次いで、ぬらりと熱い舌が噛み跡を舐め上げる。
「…っ、おい、シーフ」
「…ん。美味し…」
はむはむと耳たぶが食まれる。
「…あんま調子コイてンじゃねぇぞ? シーフ」
低く言い、シーフの喉に爪を立て、指先でグッと力を籠めて握る。※危険です。と、
「っ! ・・・クッ…ぅ…」
コクンと頷いたシーフが、腕を解く。
「よし」
「…ケホっ・・・アル、ヒドい…」
「ウルサい。お前が調子に乗るからだ」
「・・・アルの、いけず…生殺し…ヒドい…」
「黙れ。お前にまで分ける余裕は無い。つか、お前自分で言ったよな? 無理は禁物って」
「・・・言った…」
それから、くらくらするまで血を採って・・・
※※※※※※※※※※※※※※※
「…アル?」
「・・・」
くらくらして来たからと寝転がっていたアルの瞼が、とろりと落ちる。蒼白な顔色。そろそろ、まずそう。
浮かんでいたアルの血液を凝縮し、血晶化させる。傷口も同様に血晶で塞ぐ。これでいい。
「・・・」
「…アル? 大丈…夫?」
「・・・あぁ…眠い…けど、な…」
瞳を閉じたままの気怠げな低いアルト。
「…採り過ぎ…た?」
「…必要、だろ?」
「ん。ごめん…」
「…別にいい…どうせ、これくらいでしか返せない」
気怠げなアルトが続ける。
「…オレでも役に立つなら、いい…」
アルは、弱い。父達に、大事に大事に庇護されなければ生きては来れなかった。
そのことは、アルのコンプレックスとも言える。
だからアルは、そんな自分の血液が父達や家族の役に立てることが嬉しいのだと言う。
そんなアルを見ていると・・・
おれの血でアルを満たしたくなる。アルをおれの血に溺れさせて、アルにおれを求めさせたくなる。
・・・我慢、するけど…
「…血、分ける。飲んで…」
アルに口付ける。舌を噛み切り、血を流し込む。
「ん…」
「・・・・・・は、ぁ…」
素直におれへ吸血をするアルは可愛い。
おれは、弱ったアルが好きだ。
いつものアルも、無論好きだが・・・
おれを必要として、おれを拒まない程に弱ったアルの姿が、一番好き。
弱くて、おれの血を必要とするアルが愛おしい。
「ん…アル、愛してる…」
もっと、おれを求めて?アル・・・
シーフを部屋に連れ込んで切り出す。
「・・・ずっと?」
「ンなワケ行くか」
「・・・父達が、アルを…追い出した…」
平坦だが、少しムッとしたような声。全く。普段はいろんなことに頓着しないクセに・・・
「……半分は、自分で出て来たんだよ」
「・・・なんで?」
鮮やかなエメラルドが真っ直ぐ見詰める。
「手前ぇらと結婚して堪るか」
「・・・養父とか、レオ兄なら、そう…変わらない。筈…おれ、とも…」
「嫌だっての。それに、変わる。そうしたら多分、父上はオレのことを公にするつもりだよ」
「・・・今更?」
「そ。今更」
「・・・なんで…?」
不審げなシーフ。
「それこそオレが知りたいぜ。父上か兄さんなら、アダマスの現当主か、次期当主の結婚相手。ンで、養父さんかレオを選べば、エレイスの現頭首、次期頭首の相手として、公表するつもりらしい。迷惑なことにな?」
「…おれ、は?」
「知らん。多分、あんまり変わらんだろ。今と」
「なら、おれと」
皆まで言わすか。
「断る」
「…むぅ・・・なら、もう一人…は?」
「ああ、あのヒトなぁ。よくわからん」
「・・・知らない、ヒト?」
名前と種族だけは知ってる。あと性格。
一応、友達…になる、か? 雪君と知り合ったときに、出逢ったヒトだ。
少し、シーフと顔が似てんだよなぁ…あのヒト。
まあ、性格と雰囲気の方は全く違うが。
男女関係無く、可愛い子が好きだという趣味がオレと合うあのヒトは、友達ならいいが、結婚相手には向かない・・・な。うん。
けど問題は、なんであのヒトの名前が上がっているのか? ってことだ。
あのヒトは、父上の知り合い…ってことになるよな? ・・・だから、か? オレに、やたらよくして…くれたんだ。で、「大きくなったら、俺と…もっといいことしようね? アル」だとか言わ、れ・・・て、キス…さ、れ・・・?
・・・あ、れ? この台詞前に、も・・・
「…っ!」
ズキンと額に鋭い痛みが走った。
「…アル? どうか、した?」
「いや、ちょっと頭痛くなっただけ…」
「・・・大丈夫?」
「ああ、我慢できない程じゃない」
一瞬だけの強い痛み。なんだったんだ?
「無理は、よくない…」
「大丈夫だって。もう治まった」
「・・・寝る? 添い寝、する…」
腕を広げて近寄るシーフを押し退ける。
「要らん」
「残念…。寝る?」
「まだ寝ない。で、言うことあんだろ?オレに」
「…体調、悪い。なら…今度で、いい」
「シーフ? 言え」
「・・・アルの、血…欲しい。そろそろ、切れる…」
やっぱりか・・・
「どれくらい?」
「・・・できるだけ、多く…」
オレは、薬や毒が全く効かない体質だ。そんなオレの血は、解毒や抗毒作用が高い。解毒剤として使うなら、即死していなければ、大抵の毒に効くだろう。まあ、全ての毒を完全に解毒ができるワケじゃないから、劣化型の万能薬と言ったところだろうか? 使い道は幾らでもある。
ちなみに、病気には然程効かない。症状の一時的緩和と免疫の向上は認められるが、完治までは行かない。だから、万能薬の劣化型となる。
「でも、無理は…禁物。絶対」
「わかってるよ」
「…代わりに、おれの血。あげる…」
「ん。貰っとく。けど、な?」
と、シーフへ手を差し出す。
「・・・」
「ほら、出せ?」
「・・・むぅ…」
不満げな顔をしたシーフが、血晶を取り出す。
「・・・リリアン。から…」
「知ってる」
「・・・アルの、非常食は…おれ」
「はいはい」
「・・・アルの、いけず…」
不満そうなシーフからリリの血晶を幾つか受け取り、その内の一つを口に入れて転がす。
とろりと溶け出すリリの甘い血の匂いと味。
…美味しい。けど、この味って・・・
「・・・あのさ、シーフ」
「・・・」
「これ、もしかして心臓の血だったりする?」
「・・・リリアンに、聞けば…いい…」
ぷいとそっぽを向くシーフ。不機嫌だな。
ま、いいけど。
リリ…あんまり無茶はしないでほしいんだがな。
「さて、やるか・・・」
と言うと、
「…手首…切る、の?」
蜜色の手がオレの左手を取り、 袖を捲る。血管を探るように手首の内側が撫でられる。
「や、肘の内側」
更に袖を捲り、腕を露出させる。
「…切る?」
「自分でやるぞ?」
「アルは…深く、切り過ぎる。から…おれが…」
シーフが取り出したのは、医療用のメス。そして、そのメスがバッと炎に包まれる。
「…滅菌」
「滅菌はいいが、大丈夫なのか?」
一応、聞いておく。完成している刃物に、高温の熱を入れると、金属が劣化することがある。まあ、鍛冶師に言うのも野暮だとは思うが。
「ん。平気…」
蜜色の指先が腕を這い、さわさわと血液を探る。
「…切る、よ?」
「ああ、やれ」
そして、スパッと肘の内側が切られる。切れ味が良いせいか、あまり痛くない。次いで、どばっと流れる血を操作。ふよふよと空中に留める。
「…痛…かった?」
「いや、あんまり。切れ味良いな? これ」
「ん。よかった…これ、アルの…血。使ったやつ。切った場所…早く、よくなる。あげる…」
「ん。貰っとく」
オレの腕を切ったメスが手渡される。キラリと鋭い煌めきを放つ刃。切れ味がよさそうだ。
ドクドクと流れ出る血液をぼーっと眺めていたら、ぐいっと蜜色の腕に抱き込まれる。
「なんだ? シーフ」
「・・・おれも、欲しい。アルの、血。駄目?」
熱を帯びたテノールが囁き、艶めくエメラルドが仄かに赤い燐光を帯びる。
「吸血、させて?」
「ヤだ。減る」
「・・・ちょっと、くらい…」
「ちょっとで済むのか?」
「・・・なら、少し…?」
「増えてんぞ?」
「…じゃあ、味見。駄目?」
「っ…」
かぷりと、耳たぶが甘噛みされる。
「…頂き、ます?」
「ちょっ、やめ」
がりっと耳たぶが噛まれ、走る痛み。
「んっ!」
次いで、ぬらりと熱い舌が噛み跡を舐め上げる。
「…っ、おい、シーフ」
「…ん。美味し…」
はむはむと耳たぶが食まれる。
「…あんま調子コイてンじゃねぇぞ? シーフ」
低く言い、シーフの喉に爪を立て、指先でグッと力を籠めて握る。※危険です。と、
「っ! ・・・クッ…ぅ…」
コクンと頷いたシーフが、腕を解く。
「よし」
「…ケホっ・・・アル、ヒドい…」
「ウルサい。お前が調子に乗るからだ」
「・・・アルの、いけず…生殺し…ヒドい…」
「黙れ。お前にまで分ける余裕は無い。つか、お前自分で言ったよな? 無理は禁物って」
「・・・言った…」
それから、くらくらするまで血を採って・・・
※※※※※※※※※※※※※※※
「…アル?」
「・・・」
くらくらして来たからと寝転がっていたアルの瞼が、とろりと落ちる。蒼白な顔色。そろそろ、まずそう。
浮かんでいたアルの血液を凝縮し、血晶化させる。傷口も同様に血晶で塞ぐ。これでいい。
「・・・」
「…アル? 大丈…夫?」
「・・・あぁ…眠い…けど、な…」
瞳を閉じたままの気怠げな低いアルト。
「…採り過ぎ…た?」
「…必要、だろ?」
「ん。ごめん…」
「…別にいい…どうせ、これくらいでしか返せない」
気怠げなアルトが続ける。
「…オレでも役に立つなら、いい…」
アルは、弱い。父達に、大事に大事に庇護されなければ生きては来れなかった。
そのことは、アルのコンプレックスとも言える。
だからアルは、そんな自分の血液が父達や家族の役に立てることが嬉しいのだと言う。
そんなアルを見ていると・・・
おれの血でアルを満たしたくなる。アルをおれの血に溺れさせて、アルにおれを求めさせたくなる。
・・・我慢、するけど…
「…血、分ける。飲んで…」
アルに口付ける。舌を噛み切り、血を流し込む。
「ん…」
「・・・・・・は、ぁ…」
素直におれへ吸血をするアルは可愛い。
おれは、弱ったアルが好きだ。
いつものアルも、無論好きだが・・・
おれを必要として、おれを拒まない程に弱ったアルの姿が、一番好き。
弱くて、おれの血を必要とするアルが愛おしい。
「ん…アル、愛してる…」
もっと、おれを求めて?アル・・・
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