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ヴァンパイア編。

7.OK、ひゆう。悪ぃな?

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「・・・」
「ん? どうかしたか?」
「・・・いえ、そろそろ出ませんか?」
「? そうだな」
「じゃあ、先に出ていてください」
「アル君は?」
「ちょっとやることがあるからね」
「やること? 手伝おうか?」
「いや、いいよ。あれ集めるだけだから」
「あれって、あの灰?」
「そ。討伐証明に必要だからね。ンで、復活…は、多分できないと思うけど、念の為にある程度の処理はしとかないといけないから」
「復活すんのか? あれが?」

 怪訝な顔をするヒュー。

「一応、ヴァンパイアの特性はその不死性ですからね。雑魚でも、死体の一部が多少なりとも残っていて、尚且なおかつ高位のヴァンパイアが復活を望めば、できなくはないですし」

 あまり知られてはいないが、人格が更にぶっ壊れていてもいいなら、主人でないヴァンパイアでも復活させることができる。できるヒト自体が非常に少ないが。

「へぇ…」
「ま、そんな物好きはなかなかいないでしょうけど」
「そうなのか?」
「ええ。ヴァンパイアは自身の血族や、気に入ったモノ以外には、基本的に無関心ですからね。偏向的、偏愛気質のモノが多く、享楽的」
「お前、ヴァンパイアの生態に詳しいな」

 そりゃあ。ハーフとはいえ、一応オレもヴァンパイアだ。むしろ、知らない方が問題だろう。まあ、吸血鬼はメジャーな割に、本物のヴァンパイアの生態は驚く程に知られていないが…

 太陽光や十字架、白木の杭、聖句、聖水、ニンニク、流水などは、アンデッド系の吸血鬼の弱点として有名だが、真祖しんそやその血筋に近い、生きているヴァンパイアの弱点ではない。というか…真祖には明確な弱点があまり無いというのが近いか。まあ、真祖系統のヴァンパイアの絶対数が少ないから…というか、アンデッド系のヴァンパイアがメジャーになる程に創り出されていることの方が問題だな。

 ヴァンパイアって、割とクズとか性格破綻者が多いというか・・・それでいて無駄に能力が高いから始末に終えない。ホント、そんな愚か者のクズ共は滅びればいいのにと思う。心から…

「はぁ・・・」
「どうした?」
「いえ。お気になさらず」

 腕が痛いだけだ。早く行ってくれないかな?段々と痛くなって来たし。早く応急処置がしたい。というか、これ多分…尺骨しゃっこつにヒビくらい入ってるかも。筋も傷めたし…

 オレ、怪我の治り遅いんだよなぁ…ヒビなら治るまでに一週間から十日くらいかかるし。治癒速度はせいぜい人間の二、三倍くらいの早さ。純血のヒト達みたく、パパッとは治らない。しばらく右腕は使い物にならないだろうな。

 ま、橈骨とうこつじゃないのが幸いか。橈骨ヤったら、腕を動かすのもかなり大変だし。

 吐き気がする程の痛みではないし、いつものヤバい頭痛程に酷くはない。このくらいの痛みなら、まだ我慢できる。

「・・・アル君、アル君」
「ん?…っ!?!?」

 ちょんと軽く突つかれた右腕に走る激痛。息が詰まる。

「ああ、やっぱりな。すっげぇ、一気に真っ青ンなった。アル、お前痩せ我慢し過ぎ。おい、ひゆう。アルの腕、最悪折れてンぞ?」
「っっ・・・」
「この馬鹿がっ! 怪我してンならちゃんと言えっ!?」
「それ、お前が言うか?怪我させた張本人が」

 怒鳴るヒューを、醒めた目で見て呆れた口調の雪君。

「それ、は・・・」
「つかよ、ひゆう。手前ぇ多分、敵認定されてンだよ」
「敵・・・」
「当たり前ぇだろ。にこやかに話してても、腹のうちまでそうだとは限らねぇ。特にコイツ…アルは、一見そうでもないが、実は警戒心が強い」
「…ヒトが、痛みに悶えているときに、べらべらと…勝手なことを言わないでもらいたいんだが?」

 じっとりと雪君を睨み付ける。

「勝手、か? 本当のことだろ」
「…折れてない。せいぜいヒビだ」

 仕方無いので、応急処置をすることにする。大気中の水蒸気を集め、服の上から右腕に纏《まと》わせて凝固。凍り付かせて冷やす。氷のギプスと言ったところか。

「はぁ・・・」

 とりあえずは、これで感覚がにぶるまで我慢すればいい。

「って、自分で応急処置ができるならなんでさっさとやらなかったっ!?」

 またもや怒鳴るヒュー。

「・・・見ず知らずの、それも、いきなり攻撃して来るようなヒトに、手の内を晒すのが嫌だっただけですよ。なにか文句がお有りで?」

 ぐっとヒューが黙る。

「ま、油断してたオレも悪いけど…」

 と、彼女だった灰を左の手のひらの中へ寄せる。そして、ぐっと圧縮。灰を石のように固める。これが討伐証明になる。後はこれをエレイスの出張所へ提出して、償金を受け取るだけ。彼女がどの血族の系統か調べるのは、エレイスに任せよう。

「ではこれで、失礼します」

 部屋から出ようとしたとき…

「・・・雪路。捕まえろ」

 低い、不機嫌な声が言った。そして、

「OK、ひゆう。悪ぃな? アル」

 ふっと首筋に温かい手が触れ、意識が・・・
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