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音楽家セスの場合。
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このアホらしい状況をどうすればいいのかとショーンが頭を痛めていると、
「ぷっ、くくっ……これはまたっ、随分と……ははっ、面白いことになってるね? ぷはっ……」
笑いを堪え切れていない愉しげな声が言った。
「ミカエル様!」
「アハハハハハっ……ああっ、おっかしいっ!? はぁ・・・やあ、ショーン。とりあえず、僕がこの場を収めるから、君には彼をお願いしようかな?」
「わかりました」
笑い上戸な彼へショーンが頷くと、
「はーい、みんな解散!」
すっとその笑いを抑え、パンパンと手を叩いて大きな声が野次馬の生徒達へと呼び掛ける。
「そろそろ授業始まるし、先生達も騒ぎを聞き付けてやって来るよー! どうせ決闘も有耶無耶 だ。ここに残ってても、もう面白いことはなにも無いよ? ほらほら、行った行った」
解散を促されて見物人の生徒が散って行く中、
「なっ、勝手に決めるなっ!?」
セスへ決闘を申し込んだものの相手にされてない騎士科の生徒が、ミカエルへと突っ掛かった。
「うん? じゃあ、いいのかな? 騎士科の君が申し込んだ決闘が、掃除婦の女性に受けられても」
「そ、れはっ・・・」
自分が投げた手袋を拾った掃除婦に視線をやり、言葉に詰まる騎士科男子。
「それにね、そもそも学園内での決闘は厳粛な規定が定められてるんだよ。最低でも一週間前には学園側への事前申請が必須。そして申請しても、学園側と決闘相手の許可が降りてから、漸く衆目の前で手袋が投げられる。事前に相手側が応じなければ、申請は無効。実はかなり面倒だったりするんだよね。まあ、実際の決闘も国に申請通してから、法律関係の書類作成に、誓約書の提出。あと、関係各所に根回しも色々としないといけないしで、更に厄介だったりするしさ? 決闘の申請通すのに数ヶ月掛かるのはざら。現実は、物語のようにあんな簡単にポンポン決闘なんてできないんだよ。時代も変わってるからね。っていうか、よくよく考えると最近の物語なんかでしているような決闘って、実は単なる私闘が多いんだよねぇ? 本来の決闘っていうのは実力を誇示する為に行うものじゃなくて、どちらが正しいのかと天意を量る為の、儀式的な行為だし? だから、本気で決闘を申し込むのは余程信心深い堅物か、酷く物知らずの馬鹿かと相場が決まってる。無論、決闘を受ける方も度を越した酔狂な人なんだけどね?」
クスクスと笑みを含んだ声で、騎士科生徒へと決闘のなんたるかを話しながら、
「オマケに、騎士科の生徒が同じ騎士科生徒になら兎も角、正規手続き無しで余所の学科の生徒へ決闘を申し込むのは校則違反。一番軽くて厳重注意。下手すれば、停学処分。更に問題を起こせば、退学になるかな? ……ま、本当の一番最悪は投獄や死亡事故、なんだろうけどね……」
ミカエルはにこやかに諭す。後半を、聞き取れない程の小さな声でぼそりと呟いて。
「え?」
「まさか、知らないで申し込んだの? ちなみに、そういう物知ら…いや、馬鹿? への救済措置が、学園関係者に拠る乱入。君のやらかしをわざわざ潰してくれたんだから、感謝しなきゃね?」
ミカエルは退学という言葉に顔を青くさせた騎士科生徒へ若干の侮蔑を交えながら、掃除婦へ感謝をするように促す。
「へ?」
「ほら、呆けてないで感謝」
「い、や……」
「それとも、保護者に連絡で停学処分がよかったりする? まあ、僕はどっちでもいいんだけど」
「っ・・・そもそもっ、誰なんだお前はっ!? なんで仕切っている!」
「ああ、そこから説明しなきゃいけないの?」
ふっ、と軽い溜め息。
__________
ちなみに、ミカエルが長々と話してますが、『本来の決闘』とは『勝った者が正しい』のではなく、『正しい者が勝つ』のだと信じられていました。
これは言葉遊びではなく、主義主張の違う者同士の対立で、どちらが『本当に正しい』のかを、『天』や『神』的なモノに判断してもらう為の神聖な儀式に近い行為だったようです。
例えば、冤罪を証明する方法として実際に昔の裁判では決闘が行われたりなどしていたそうです。ちなみに、罪人本人か、その代理人が勝てば、めでたく無罪となったようです。『天の采配』で『正しい者が勝つ』と信じられていたので、冤罪が本当に事実でも負ければ有罪となりましたが。
だから神聖な『決闘』では、『卑怯な真似は絶対にしない』、そして『勝っても負けても恨みっこ無し』だったのですが……
それが時代を経て変遷し、やがては『勝った方が正しい』から『強い方が勝つ』。更には、『強い方が正しい』へとシフトして行った辺りから、決闘が野蛮だと言われ始めて段々廃れて行ったのかと思われます。
以上、決闘の補足情報でした。
「ぷっ、くくっ……これはまたっ、随分と……ははっ、面白いことになってるね? ぷはっ……」
笑いを堪え切れていない愉しげな声が言った。
「ミカエル様!」
「アハハハハハっ……ああっ、おっかしいっ!? はぁ・・・やあ、ショーン。とりあえず、僕がこの場を収めるから、君には彼をお願いしようかな?」
「わかりました」
笑い上戸な彼へショーンが頷くと、
「はーい、みんな解散!」
すっとその笑いを抑え、パンパンと手を叩いて大きな声が野次馬の生徒達へと呼び掛ける。
「そろそろ授業始まるし、先生達も騒ぎを聞き付けてやって来るよー! どうせ決闘も有耶無耶 だ。ここに残ってても、もう面白いことはなにも無いよ? ほらほら、行った行った」
解散を促されて見物人の生徒が散って行く中、
「なっ、勝手に決めるなっ!?」
セスへ決闘を申し込んだものの相手にされてない騎士科の生徒が、ミカエルへと突っ掛かった。
「うん? じゃあ、いいのかな? 騎士科の君が申し込んだ決闘が、掃除婦の女性に受けられても」
「そ、れはっ・・・」
自分が投げた手袋を拾った掃除婦に視線をやり、言葉に詰まる騎士科男子。
「それにね、そもそも学園内での決闘は厳粛な規定が定められてるんだよ。最低でも一週間前には学園側への事前申請が必須。そして申請しても、学園側と決闘相手の許可が降りてから、漸く衆目の前で手袋が投げられる。事前に相手側が応じなければ、申請は無効。実はかなり面倒だったりするんだよね。まあ、実際の決闘も国に申請通してから、法律関係の書類作成に、誓約書の提出。あと、関係各所に根回しも色々としないといけないしで、更に厄介だったりするしさ? 決闘の申請通すのに数ヶ月掛かるのはざら。現実は、物語のようにあんな簡単にポンポン決闘なんてできないんだよ。時代も変わってるからね。っていうか、よくよく考えると最近の物語なんかでしているような決闘って、実は単なる私闘が多いんだよねぇ? 本来の決闘っていうのは実力を誇示する為に行うものじゃなくて、どちらが正しいのかと天意を量る為の、儀式的な行為だし? だから、本気で決闘を申し込むのは余程信心深い堅物か、酷く物知らずの馬鹿かと相場が決まってる。無論、決闘を受ける方も度を越した酔狂な人なんだけどね?」
クスクスと笑みを含んだ声で、騎士科生徒へと決闘のなんたるかを話しながら、
「オマケに、騎士科の生徒が同じ騎士科生徒になら兎も角、正規手続き無しで余所の学科の生徒へ決闘を申し込むのは校則違反。一番軽くて厳重注意。下手すれば、停学処分。更に問題を起こせば、退学になるかな? ……ま、本当の一番最悪は投獄や死亡事故、なんだろうけどね……」
ミカエルはにこやかに諭す。後半を、聞き取れない程の小さな声でぼそりと呟いて。
「え?」
「まさか、知らないで申し込んだの? ちなみに、そういう物知ら…いや、馬鹿? への救済措置が、学園関係者に拠る乱入。君のやらかしをわざわざ潰してくれたんだから、感謝しなきゃね?」
ミカエルは退学という言葉に顔を青くさせた騎士科生徒へ若干の侮蔑を交えながら、掃除婦へ感謝をするように促す。
「へ?」
「ほら、呆けてないで感謝」
「い、や……」
「それとも、保護者に連絡で停学処分がよかったりする? まあ、僕はどっちでもいいんだけど」
「っ・・・そもそもっ、誰なんだお前はっ!? なんで仕切っている!」
「ああ、そこから説明しなきゃいけないの?」
ふっ、と軽い溜め息。
__________
ちなみに、ミカエルが長々と話してますが、『本来の決闘』とは『勝った者が正しい』のではなく、『正しい者が勝つ』のだと信じられていました。
これは言葉遊びではなく、主義主張の違う者同士の対立で、どちらが『本当に正しい』のかを、『天』や『神』的なモノに判断してもらう為の神聖な儀式に近い行為だったようです。
例えば、冤罪を証明する方法として実際に昔の裁判では決闘が行われたりなどしていたそうです。ちなみに、罪人本人か、その代理人が勝てば、めでたく無罪となったようです。『天の采配』で『正しい者が勝つ』と信じられていたので、冤罪が本当に事実でも負ければ有罪となりましたが。
だから神聖な『決闘』では、『卑怯な真似は絶対にしない』、そして『勝っても負けても恨みっこ無し』だったのですが……
それが時代を経て変遷し、やがては『勝った方が正しい』から『強い方が勝つ』。更には、『強い方が正しい』へとシフトして行った辺りから、決闘が野蛮だと言われ始めて段々廃れて行ったのかと思われます。
以上、決闘の補足情報でした。
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