上 下
86 / 161
ドクター・エスの場合。

しおりを挟む
 ダリア・コレントは自身に降りかかった理不尽に対し、酷く憤慨していた。

 一週間前に突然、父が旅行をしようと言い出し、ダリアとお供の侍女をこの辺境地に先行させた。そして、馬車で移動。グラジオラス辺境伯領へ到着すると、馬車は両親を迎えにとんぼ返り。

 それから三日後。ダリアと侍女が予約してあった宿に滞在して家族を待っているときだった。

 宿代が三日分しか支払われていないという手違いが発覚。すぐに実家に手紙を送ったはいいが、手紙の往復には数日を要する。その間の宿代は後で支払うと言っているのに、従業員がわからず屋で、後払いは絶対に認めないと言い張った。

 結果、ダリアは警邏隊に保護・・されることとなった。そして、更に屈辱だったのは・・・

 警邏隊の猿みたいな平民が、ダリアのような貴族令嬢を一堂に集め、言ったこと。

 ダリア達が捨てられたなど、意味がわからないことを言っている。

 確かに、他の令嬢はそうなのかもしれないが、ダリアだけは違う。ダリアがこんなところへいるのはなにかの間違いに決まっているというのに、生意気な平民が、道を選べなどと言って、言語道断なことを強要しようとしている。

 ダリアには婚約者が決まっていて、一年半後には結婚式を挙げる予定だ。

 結婚してしまえば、家族水入らずでの旅行などできないと言われ、その通りだとダリアも思った。だから、こんな辺境にまで来てあげたというのに、出だしから散々な旅行だ。

 両親も来ないし、もう早く帰りたいと思い手紙を出してから、既に数日が経った。だというのに、なぜか実家に連絡が付かない。

 両親はなにをしているのか・・・

 このまま実家の方へ連絡が付かなければ、少々気まずい思いをすることになるが、婚約者に連絡して迎えに来てもらった方がいいかもしれない。

 こうしてダリアは、恥を忍んで婚約者へ連絡を取ったのだが・・・

 返って来たのは、意味不明な返事。

 ダリアとの婚約は既に破棄されており、彼の家はダリアとは…コレント家とは、無関係。という、信じられない内容だった。

 だって、婚約は向こうから打診して来た話で、家格もコレント家の方が格上だ。

 なのに・・・

 意味がわからない。

 そして、警邏隊の平民達が、早く道を決めろとダリアを急かして来る。

 付いていた侍女は、婚約者からの手紙が来て後にダリアの下を去った。

 警邏隊の平民に、自分のことは自分でしろと言われた。意味がわからない。

 ダリアは貴族の…伯爵家の令嬢だ。そんなことができるワケがない。

 意味がわからない。警邏隊の者は平民のクセに、貴族のダリアに無礼なことばかりを強要する。

 悲観して泣くなど、ダリアはそんなみっともない真似は絶対にしたくない。

 そして、このままではダリアは、修道院送りになるらしい。警邏隊の平民が言っていた。

 そんなの、冗談じゃない。絶対に嫌だ。

 なんとかしなくてはいけない。

 けれど、どうすればいいのかわからない。

 焦って、苛々する。

 平民の暮らしや、修道院など真っ平だ。

 と、考えて・・・ダリアは、猿のような平民が言っていたことを、思い出した。

 貴族の暮らしがしたいなら、貴族へ嫁げばいい。それは道理だ。そして、警邏隊や騎士団にも貴族出身の者がいると言っていた。警邏隊の、誰が一番身分が高いと言っていたか・・・ちゃんと聞いていなかった自分が恨めしい。

 だからダリアは、貴族出身の者を呼びなさいと命令した。そして、「保護された迷子に付き合っている程暇ではない」と一蹴された。
 そんな巫山戯ふざけたことを言ったのは、男爵だか子爵辺りの身分の低い男だという。

 憤慨して警邏隊の詰所に乗り込めば、邪魔だと追い返された。伯爵令嬢のダリアに、なんて酷い扱いをするのだと抗議をすれば、「コレント伯爵令嬢だろう。今のお嬢さんは、単なる孤児だ。警邏隊の職務の邪魔をするというのであれば、保護どころか、公務執行妨害で引っ張ってもいい。刑務所に行くか? お嬢様」と、脅された。

 警邏隊という職業を笠に着た、なんたる横暴。きっと、伯爵家のダリアに嫉妬しているのだろう。
 このグラジオラス辺境伯領の警邏隊は、酷く野蛮だ。こんな連中は、ダリアに相応しくない。

 もっと身分が高くて、ダリアのことを公正に・・・見てくれる人を早く探さなければ・・・

 ということでダリアは、この辺りで一番身分が高くて、けれど今の・・ダリアでも会えそうな人物の下へ向かうことにした。

 彼は変人だからお勧めできない。と、平民は言っていたが、それを決めるのはダリアなのだから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~

一条おかゆ
ファンタジー
貴族の青年、イオは冒険者パーティーの中衛。 彼はレベルの低さゆえにパーティーを追放され、さらに婚約者を寝取られ、家からも追放されてしまう。 全てを失って悲しみに打ちひしがれるイオだったが、騎士学校時代の同級生、ベガに拾われる。 「──イオを勧誘しにきたんだ」 ベガと二人で新たなパーティーを組んだイオ。 ダンジョンへと向かい、そこで自身の本当の才能──『対人能力』に気が付いた。 そして心機一転。 「前よりも強いパーティーを作って、前よりも良い婚約者を貰って、前よりも格の高い家の者となる」 今までの全てを見返すことを目標に、彼は成り上がることを決意する。 これは、そんな英雄譚。

使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。気長に待っててください。月2くらいで更新したいとは思ってます。

腐ったお姉ちゃん、【ヤンデレBLゲームの世界】で本気を出すことにした!

月白ヤトヒコ
ファンタジー
ある日、不遇な異母兄が虐げられる理由を考えていたら―――― この世界が鬼畜ヤンデレスキーな腐女子ご用達の、ほぼほぼハッピーエンドの無い、メリバ、バッドエンド、デッドエンドの散りばめられているBLゲーム【愛シエ】の世界だと気が付いた! そして自分が、ゲームの攻略対象のメンヘラリバース男の娘こと第三王子のネロに生まれ変わっていることを知った前世腐女子の茜は、最推しだったゲーム主人公(総受け)のバッドエンド&死亡フラグをへし折ることを決めた。 まずは異母兄弟であることを利用し、ゲーム主人公のシエロたんに会うと―――― なんとびっくり、シエロたんの中身は前世の弟、蒼だったっ!? BLは嫌だと『腐ったお姉様。伏してお願い奉りやがるから、是非とも助けろくださいっ!?』と、半泣きで縋られたので、蒼のお姉ちゃんである茜は、弟の生命と貞操と尊厳を守るため、運命に立ち向かうことにした。 「生でBLを見られる♪」というワクテカな誘惑を、泣く泣く断ち切って・・・ どうにかして、破滅、死亡フラグを折って生き残ってやろうじゃないのっ!!!! 掛かって来いや運命っ! 設定はふわっと。 多分、コメディー。 ※BLゲームに転生ですが、BLを回避する目的なのでBLな展開にはなりません。 ※『腐ったお姉様。伏してお願い奉りやがるから、是非とも助けろくださいっ!?』の、腐ったお姉ちゃんが主役の話。 『腐ったお姉様~』の方を読んでなくても大丈夫です。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

女の子にされちゃう!?「……男の子やめる?」彼女は優しく撫でた。

広田こお
恋愛
少子解消のため日本は一夫多妻制に。が、若い女性が足りない……。独身男は女性化だ! 待て?僕、結婚相手いないけど、女の子にさせられてしまうの? 「安心して、いい夫なら離婚しないで、あ・げ・る。女の子になるのはイヤでしょ?」 国の決めた結婚相手となんとか結婚して女性化はなんとか免れた。どうなる僕の結婚生活。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

リエラの素材回収所

霧ちゃん→霧聖羅
ファンタジー
リエラ、12歳。孤児院出身。 学校での適正職診断の結果は「錬金術師」。 なんだか沢山稼げそうなお仕事に適性があるなんて…! 沢山稼いで、孤児院に仕送り出来るように、リエラはなる♪ そんなこんなで、弟子入りした先は『迷宮都市』として有名な町で……

処理中です...