都市の便利屋

ダンテ

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幕間 都市の日常

L-05 愚者の楽園

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 ―非正規楽園都市にて

 「ノルマは1日48時間労働!」

 「労働とは大変尊いもの!君たちのやっている遊びが労働と認められるまで頑張ろう!」

 「権利は捨てても義務は捨てるな!」

 「休みなどという醜悪なものは極力切り捨てよう!」

 工業プラント内部にはその様な文句の書かれたポスターがいたる所に貼られている。そんな中、大勢の中層市民以下の労働者が働いていた。

 皆一様にただ機械的に不眠不休で動いている。完全食を飲むことで睡眠も休息も必要ないのだ。

 「楽園番号85960番さんは今週どれだけ働きましたか?」

 「私ですか?私はノルマを達成するほどには動きましたが、まだ真の労働とは言えません。上級選民の皆様に認められるようさらに頑張らなければ」

 「ええ、そうですね。上級選民の皆様は私たち以上に皆の為に動いていらっしゃるのですから、私も1日60時間を働けるよう努力しなければなりません」

 工業プラント内で作業場の隣合った二人は、目の前の業務をこなしつつそのような会話をしていた。

 ―別の場所では

 「楽園番号75964番さん。貴方は幸福ですか?」

 「ええ、幸福ですよ。この楽園で暮らせることが幸福でないだなんて、どうして言えるのでしょう」

 「幸福ならば良いのです。外の世界など、楽園に住む私たちからすれば存在しないも同義。何しろ、この楽園で暮らせるのは至極の幸福なのですから」

 ―外に世界があること、より良い世界があることを知ろうとしない愚か者の楽園。

 

 「……え~では、大学の学費は値上げの方向でいきましょうか」

 「ええ、そうしましょう。あと、義務教育の初等学校も、教育の質を上げるために値上げするべきです」

 「学費は我ら上級選民が払える範囲にしましょう。中層市民以下は考えなくてもいいですな。彼らは奨学金が使えますゆえ」

 ―その奨学金も、結局は“学校”を餌にして、中層市民以下の人たちに、一日に十割の利子がつく借金を押し付けているにすぎないのにね。

 「教育の受益者にこそ、金を払ってもらわねければ……」

 ―教育とは最も還元率の高い投資だね。そして、投資というのはその投資が成功すれば、投資者が受益者になるわけだ。この場合、彼ら支配者側が投資者……つまりは受益者になるわけだけど、彼らは教育を受ける本人たちに払ってもらうつもりみたいだね。


 「……それと、今月の税収ですが……」

 ―この楽園であっても税金はあるみたいだね。
「国民税」「労働階級税」「上層選民養育税」「生存税」「消費税」「労働税」学校にいけない人に対して課される「無教育税」学校にいった中層市民以下の人に対して課される「教育受益税」「都市維持税」「所得税」「被支配税」「非幸福税」これだけでも、彼らの私腹を肥やすには十分だろうね。……一般的な労働者の年収は2300万クレジット。その年収で払い切れるのか少し疑問だけど

 「……ふむ、予算には少し足りませんね。ですが、我ら上級選民が支払う義務はありません。中層市民以下の者共からさらに搾り取ればいいでしょう」

 「しかし、あまり重税を課すと、進学率にも影響があるのでは……」

 「別にいいだろう。衆愚が愚かであっても、知識人たる我らさえよければそれでいい」

 「それもそうですな」

 ―教育が還元率の高い投資だということ、教育を受けた者が後の社会を担うということ、そんな簡単なこも理解できない愚か者の楽園。

 ―非正規都市は全て、何かしらの理由で中央大都市から見放された都市なんだ。かつて楽園都市は11番目の都市だった。楽園を追求するという使命を負ってね。けれどいつしか、その楽園は愚か者にとってのものとなった。この都市は“衰退”しかしない、人類文明の汚点だったから。だから彼らは人類文明の枠から追放されたんだ。
 
 ―君たちの住んでいる国はどうなのかな?教育にやたらと高い金額が設定されていない?……例えば、大学とか。
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