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ルーシェ

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先程までは夕日に照らされ朱色に染っていた街は、既に日が落ちている。
だが、露天や民家などから漏れる光によって、未だ街は明かりを灯している。

ギルド 夕焼けの陽 ギルドマスター ソニー・ラングラ

この男の言動に不快感を覚えたゼロは、先程、少々の粛清を下しギルドを飛び出した。
後ろからは、顔面蒼白という言葉がピッタリの顔をした男が数歩分間を開けてついてきている。


ギルドを出て歩きだしてから凡そ5分程。
2人は口を開くことなく、賑わいを見せる市場を人混みを器用に躱しながら進んでいる。

とくに目的がある訳でもないが、この街を知らずに勢いだけで飛び出してきたゼロは、闇雲に進むしか無い状況であった。

だが、突如として2人の沈黙は破られる。

「ちょ、ゼ……ゼロ! 」

後ろを歩いていたルーシェに呼び止められた彼は、その場に立ち止まって振り返る。

「なんだ? 」

「お前、うちのギルド敵に回して……なんしてんだ! 」

それは、自身のギルドのボスを攻撃した相手への怒りの感情は篭もっていない。
どちらかと言うと、大ギルドを敵に回す状況になったことへの心配の感情の方が大きい。


「お前がやり返さぬが故、我が手を降したまでだ」


それに……、とゼロはつづける。


「我の初めての友があの様な事をされていたのだ……

たかがあの程度の相手なんぞ、敵に回すくらい安いものだ」


ゼロはニヤリと笑うように、楽しげに笑みを浮かべていた。
先程までは知人だったはずが、どういう訳だかゼロはルーシェを友に格上げしていたようだ。


その光景に、そのゼロからの言葉に、ルーシェは少しだけ希望を見たのだ。

彼ならば、救ってくれるかもしれないと。


「それでルーシェ、お前はわけアリのようだが……

話なら何時でもきくぞ? 」


「そっか……なら頼んますわ」


2人は、賑わいを見せている市場から少し離れ、人通りはあるものの比較的裕福層が使用する個室のあるレストランまで足を運んだ。

ゼロは酒屋でと言ったのだが、ルーシェはそれを拒んだ。

恐らく、他人に聞かれたくはない話なのだろう。
わざわざ高価なレストランで、個室を用意するということはそういう事だ。


壁は淡い藍色で統一され、机、椅子は白で統一されているその個室に案内された。


「いらっしゃいませ、当店のメニューは完全お任せ制となっておりますので、御料理ができ次第、お運び致します」


そう告げた店員は軽く一礼すると、静かに部屋を退室した。


それから、僅かに沈黙が続いた。
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