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幕末妖怪の章
招かれざる客
しおりを挟むある日、屯所の門前がざわついていた。
その騒ぎは雛妃や知世にも伝わっていた。
「雛姫に客だってよ。心当たりある?」
沖田に聞かれた雛妃はうーんと考えた。相変わらず斎藤は雛妃にベッタリだった。
雛妃の知り合いと言えば奈緒や酒屋の若様位なものだ。
「雛妃ーーー!!」
そこへ平助が血相を変えて走って来た。
「どうしたのへーちゃん、そんなに慌てて。」
驚く雛妃に平助は一瞬斎藤を見ると何か言うのを躊躇していた。
「消すか?」
スっと立ち上がった斎藤が平助に言うと真っ青になり止めに入った。
「待って斎藤さん!!雛妃あいつが来た!!」
雛妃には斎藤が物騒な事を言うのも平助が慌てているのも何の事やら分からなかった。
「あいつって誰よ?」
「あの鴉天狗だよ!!」
「えっ?!樟葉が来てるの?!」
雛妃は斎藤の制止を振り切り走り出した。
「雛妃、樟葉って誰ですの?」
いつの間にか知世が雛妃に並走していた。
「私が家出した時に助けてくれた人だよ。」
「そうでしたの。」
門に行くと私に気付いた樟葉が笑顔と共にてを振ってきた。
「雛妃ーーーー!!」
「まぁまたイケメンですわね?」
「ははは…」
笑うしか無かった。
すると後から抱き締められた、斎藤さんだ。
すると樟葉から直ぐに笑顔が消えた。
まさに一色触発、斎藤さんと樟葉の間に火花が見えた。
「雛妃の取り合いですわね?雛妃そろそろ決めた方が良いと思いますわ。色々と被害が出てしまうと思います。」
知世ちゃん…それが出来たらとっくにしてるよ。
「樟葉殿、雛姫の客人と聞いた。此処では何だ、広間にどうぞ。」
これぞ助け舟、近藤さんが樟葉を広間に招いた。
広間には全員集まり、樟葉は余裕気にお茶を啜っている。
「雛妃、今日は雛姫に渡す物があって来たんだ。これを雛妃に持っていて欲しい。」
「羽?」
それは真っ黒なはねだった。
「ありが…って!!はぁちゃん!!」
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「邪魔しないでくれるかな?」
「邪魔などしていない、手が滑った。」
しれっと言う斎藤さん、絶対態とだわ。
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「雛妃、受け取っちゃ駄目だ!」
「へーちゃんまで…」
「雛妃、鴉天狗から羽を受け取るのは求愛を受け入れた事になるんだ。」
分かりやすく原田さんが説明してくれた。
危な…私知らないうちに樟葉のお嫁さんにされちゃう所だったの?
「樟葉、受け取れないよ。私は誰の物にもならないよ。」
樟葉は斎藤を見た。
「ならその雪男は?さっきから雛妃から離れないけど何なの?」
「えーと、それは…雪男の習性?かな?」
樟葉はふ~んと言うといきなり爆弾発言をした。
「あの時、雛姫に入れちゃえば良かった。」
ふんっとお茶を啜る樟葉、私は恐る恐る斎藤さんを見上げた。
うん、見た事を後悔した。
斎藤さんの表情は無だった、表情筋どっか行っちゃったの?
「はぁちゃ…ひゃっ!!」
雛妃の目の前を大きな氷の槍が横切った。
それをヒラリと交わす樟葉、樟葉も負けじと攻撃を繰り出す。
大広間は洗浄と化した。
へーちゃんとすぅちゃんがいち早く私と知世ちゃんを避難させた。
「ちょっとへーちゃん、すぅちゃん大丈夫なの?!」
「兎に角雛妃と知世は避難だ!!」
「あぁ、その方が良いね。怪我でもしたら大変だからね。」
二人はまた大広間に戻って行った。
大広間から聞こえてくる轟音と破壊音、中々鳴り止まない。
「雛妃、大丈夫でしょうか?このままでは大広間が無くなってしまいますわ。」
「確かに…大体何で当事者の私が締め出されるのよ?!おかしくない?」
「きっと私と雛妃を気遣ってくれたんですわ。」
「納得行かない、私行ってくる!!」
「えっ?ちょっと雛妃!!」
私は大広間へ向かった。
大広間は正に戦場、斎藤さんと樟葉が戦っていた。
「ここは皆が揃ってご飯を食べる大切な場所なのよ?もう頭来た!!」
雛妃は腕まくりをすると二人の間に入った。
雛妃に気付いた斎藤と樟葉は攻撃の手を止めた。
「「雛妃!!」」
雛妃はツカツカと樟葉に向かって行った。
「樟葉?ここは皆でご飯を食べる大切な場所なのよ?どうしてくれんの!!」
「ぐはっ!!」
雛妃は樟葉に回し蹴りをお見舞した。
次は斎藤だ、クルっと斎藤の方を見ると雛妃は斎藤に拳骨をお見舞した。
「うっ!!」
「二人共いい加減にしなさい!!樟葉ももう此処には来ないで!はぁちゃんも今後一月私への接近は禁止します!!」
呆然とする二人に更に雛妃は怒鳴る。
「何をボーッとしてるの?!サッサと大広間を直すのよ!!早く!!」
斎藤と樟葉はいそいそと動き出した。
「皆もボーッとしない!!妖怪がこれどけ揃ってて何で止められないのよ!!ほら!へーちゃんもひぃちゃんも皆サッサと動く!!」
雛妃の活躍で大広間はその日のうちに修繕された。
樟葉はシュンっとしながら帰って行った。
斎藤は一月の接近禁止命令を受けてしまった為、呆然としていた。
他の面々は雛妃の回し蹴りを食らっても平気で動いていた樟葉は只者では無いと思い、同時に雛妃の全力の拳骨を食らってもピンピンしている斎藤に尊敬の念すら覚えたのだった。
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