11 / 40
第三章 舞姫の追放
第十一話
しおりを挟む
今日は特別な宴……舞姫が主役の宴が開催される日だ。
いつものただ踊るだけの舞とは違って、舞姫が主人公になりきって物語調に舞を披露する演舞になっている。
私から陛下に提案してみたところ、面白そうだということですぐに開催されることになった。
舞台上にはいつもと違って、階段で登る高めのお立ち台・寝台・長椅子などが置かれている。
今日ばかりは他の上級妃を退け、たった一人で陛下にしなだれかかるようにしている舞姫は、よほど嬉しいのか頬を赤く染め、喜びと自信に満ち溢れた表情をしている。
他の上級妃たちはそれを苦々しい顔で見つめている。
まぁ……陛下に舞姫は今日の主役なのだから、余の一番近くになんて言われてしまっては、他の上級妃としては面白くないだろう。
私はそんな彼女たちの表情を見て笑ってしまいそうになりながらも、口元を袖で隠して平静を装う。
……そう、今日は舞姫のための舞台。
陛下にも舞姫にも、ぜひとも楽しんでいただきたいですわね。
あまりにも楽しみで耐えきれずに小さな声でフフッと笑ってしまったが、騒がしい宴の場では誰も私の声に気付いていないようだった。
「では陛下。私、舞台に上がりますわね」
いつもの涼し気な顔立ちからは想像もつかないほど乙女の顔をしている舞姫が、陛下を見つめながらそう言った。
「うむ。存分に余を楽しませるが良い」
酒を手に笑いながらそう答える陛下に、はいと照れながら答えて舞姫は舞台袖へと入っていった。
端から見ていると恋人同士のような空気感を漂わせていたが、舞姫が去ると陛下はすぐに上級妃たちを自分の周りに呼び寄せていて、全てを台無しにしていた。
今日くらいは控えないのか……と呆れたが、陛下らしい行動だなと納得した。
陛下は遊姫もこちらに来いと笑って言っていたが、他の上級妃がこちらを睨んでいたので、袖で口元を隠しながら私はこちらで……と照れた風に言って、その場を乗り切った。
断られようとも全く気にした様子のない陛下は、上級妃の太ももを撫でて胸を揉みしだいて、酒を飲ませてもらいながらガハハッと笑って、舞台そっちのけで楽しそうにしている。
まったく……呆れた男だ。
そうこうしている内に、舞姫が舞台上に現れた。
いつも以上に美しい装いをしている彼女は、舞台上で主人公になりきって舞い踊り、キラキラと光り輝いていた。
時に長椅子に座り、時に寝台に倒れ込んで物語をどんどん進めていく舞姫。
物語調の演舞を提案するにあたって、私の好きな物語を提案していたので……語りのない演舞でも話の進み具合をだいたい把握できた。
そして、いよいよクライマックス。
主人公が階段を駆け上がり、未来への決意を固める場面……舞姫は階段を駆け上がり、舞台の一番高い位置まで来た時に、ミシッ……という音がした。
何事かと舞姫が自分の足元を見たかと思うと、次の瞬間に舞姫はそこから消えていた。
宴に参加していた全ての人間が状況を理解できずに、シーン……っと静かな時間が流れた。
かと思うと、突然空気を切り裂くような悲鳴が響き渡った。
「足が……足が……ッ!」
次に聞こえてきたのは、舞台の底に落ちていった舞姫の苦痛に悶える声。
舞台袖に控えていた舞姫の侍女たちが舞台上に上がって、置かれていた階段をどかして舞台の下を覗いて悲鳴を上げている。
私は何が起こっているのか分からないと困惑した風に見せるために、口元を袖で隠しながら成り行きを見守る。
侍女たちは舞台下まで落ちた舞姫を引っ張り上げるのは難しいと考えたらしく、宦官を呼び出して舞台の横から板を剥がして人が入れる空間を作ってもらって、舞姫を舞台下から引っ張り出していた。
自力で立つことすらできず、侍女たちに肩を貸してもらいながら引っ張り出された舞姫は、顔の血の気が引いてぐったりとした様子で、顔色とは正反対に足元は血で真っ赤に染まっていた。
侍女が急いで牛車を手配して、その間、舞姫は舞台下でぐったりと座り込んでいた。
真っ青になっている顔と、真っ赤な足元の色彩……とっても素敵ですわよ、舞姫様。
涼し気なお顔立ちに青みがかった肌は、儚げで今にも壊れてしまいそう。
今まで美しく舞い踊っていた足が真っ赤に染まっている様は、まるで花が咲き乱れているよう。
あぁ……美しいですわ。
舞姫はずっと足が……私の足が……と呆然としながらブツブツと呟いている。
呆然とした青い顔は、やはり歌姫とよく似ている。
私はそんな舞姫をうっとりと見つめながらも、周りにバレないように口元をしっかりと袖で隠していた。
ただ陛下の方は……好奇心を隠すこともなく、身を乗り出すようにしてキラキラと輝く瞳でボロボロの舞姫を見つめている。
まるで虫の羽をむしって楽しんでいる子供のようだ。
周りが騒然としているから、そんな陛下のご様子を誰も気に留めていないけど……少しは隠す努力をなさった方が良いだろうと思ったが、こんな素敵な演舞を見ては興奮を抑えられないのも無理はないだろう。
舞姫が主役の宴は、彼女が牛車で退場した後にすぐにお開きとなったが、私と陛下は大満足だった。
いつものただ踊るだけの舞とは違って、舞姫が主人公になりきって物語調に舞を披露する演舞になっている。
私から陛下に提案してみたところ、面白そうだということですぐに開催されることになった。
舞台上にはいつもと違って、階段で登る高めのお立ち台・寝台・長椅子などが置かれている。
今日ばかりは他の上級妃を退け、たった一人で陛下にしなだれかかるようにしている舞姫は、よほど嬉しいのか頬を赤く染め、喜びと自信に満ち溢れた表情をしている。
他の上級妃たちはそれを苦々しい顔で見つめている。
まぁ……陛下に舞姫は今日の主役なのだから、余の一番近くになんて言われてしまっては、他の上級妃としては面白くないだろう。
私はそんな彼女たちの表情を見て笑ってしまいそうになりながらも、口元を袖で隠して平静を装う。
……そう、今日は舞姫のための舞台。
陛下にも舞姫にも、ぜひとも楽しんでいただきたいですわね。
あまりにも楽しみで耐えきれずに小さな声でフフッと笑ってしまったが、騒がしい宴の場では誰も私の声に気付いていないようだった。
「では陛下。私、舞台に上がりますわね」
いつもの涼し気な顔立ちからは想像もつかないほど乙女の顔をしている舞姫が、陛下を見つめながらそう言った。
「うむ。存分に余を楽しませるが良い」
酒を手に笑いながらそう答える陛下に、はいと照れながら答えて舞姫は舞台袖へと入っていった。
端から見ていると恋人同士のような空気感を漂わせていたが、舞姫が去ると陛下はすぐに上級妃たちを自分の周りに呼び寄せていて、全てを台無しにしていた。
今日くらいは控えないのか……と呆れたが、陛下らしい行動だなと納得した。
陛下は遊姫もこちらに来いと笑って言っていたが、他の上級妃がこちらを睨んでいたので、袖で口元を隠しながら私はこちらで……と照れた風に言って、その場を乗り切った。
断られようとも全く気にした様子のない陛下は、上級妃の太ももを撫でて胸を揉みしだいて、酒を飲ませてもらいながらガハハッと笑って、舞台そっちのけで楽しそうにしている。
まったく……呆れた男だ。
そうこうしている内に、舞姫が舞台上に現れた。
いつも以上に美しい装いをしている彼女は、舞台上で主人公になりきって舞い踊り、キラキラと光り輝いていた。
時に長椅子に座り、時に寝台に倒れ込んで物語をどんどん進めていく舞姫。
物語調の演舞を提案するにあたって、私の好きな物語を提案していたので……語りのない演舞でも話の進み具合をだいたい把握できた。
そして、いよいよクライマックス。
主人公が階段を駆け上がり、未来への決意を固める場面……舞姫は階段を駆け上がり、舞台の一番高い位置まで来た時に、ミシッ……という音がした。
何事かと舞姫が自分の足元を見たかと思うと、次の瞬間に舞姫はそこから消えていた。
宴に参加していた全ての人間が状況を理解できずに、シーン……っと静かな時間が流れた。
かと思うと、突然空気を切り裂くような悲鳴が響き渡った。
「足が……足が……ッ!」
次に聞こえてきたのは、舞台の底に落ちていった舞姫の苦痛に悶える声。
舞台袖に控えていた舞姫の侍女たちが舞台上に上がって、置かれていた階段をどかして舞台の下を覗いて悲鳴を上げている。
私は何が起こっているのか分からないと困惑した風に見せるために、口元を袖で隠しながら成り行きを見守る。
侍女たちは舞台下まで落ちた舞姫を引っ張り上げるのは難しいと考えたらしく、宦官を呼び出して舞台の横から板を剥がして人が入れる空間を作ってもらって、舞姫を舞台下から引っ張り出していた。
自力で立つことすらできず、侍女たちに肩を貸してもらいながら引っ張り出された舞姫は、顔の血の気が引いてぐったりとした様子で、顔色とは正反対に足元は血で真っ赤に染まっていた。
侍女が急いで牛車を手配して、その間、舞姫は舞台下でぐったりと座り込んでいた。
真っ青になっている顔と、真っ赤な足元の色彩……とっても素敵ですわよ、舞姫様。
涼し気なお顔立ちに青みがかった肌は、儚げで今にも壊れてしまいそう。
今まで美しく舞い踊っていた足が真っ赤に染まっている様は、まるで花が咲き乱れているよう。
あぁ……美しいですわ。
舞姫はずっと足が……私の足が……と呆然としながらブツブツと呟いている。
呆然とした青い顔は、やはり歌姫とよく似ている。
私はそんな舞姫をうっとりと見つめながらも、周りにバレないように口元をしっかりと袖で隠していた。
ただ陛下の方は……好奇心を隠すこともなく、身を乗り出すようにしてキラキラと輝く瞳でボロボロの舞姫を見つめている。
まるで虫の羽をむしって楽しんでいる子供のようだ。
周りが騒然としているから、そんな陛下のご様子を誰も気に留めていないけど……少しは隠す努力をなさった方が良いだろうと思ったが、こんな素敵な演舞を見ては興奮を抑えられないのも無理はないだろう。
舞姫が主役の宴は、彼女が牛車で退場した後にすぐにお開きとなったが、私と陛下は大満足だった。
18
お気に入りに追加
675
あなたにおすすめの小説
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
君は私のことをよくわかっているね
鈴宮(すずみや)
恋愛
後宮の管理人である桜華は、皇帝・龍晴に叶わぬ恋をしていた。龍晴にあてがう妃を選びながら「自分ではダメなのだろうか?」と思い悩む日々。けれど龍晴は「桜華を愛している」と言いながら、決して彼女を妃にすることはなかった。
「桜華は私のことをよくわかっているね」
龍晴にそう言われるたび、桜華の心はひどく傷ついていく。
(わたくしには龍晴様のことがわからない。龍晴様も、わたくしのことをわかっていない)
妃たちへの嫉妬心にズタズタの自尊心。
思い詰めた彼女はある日、深夜、宮殿を抜け出した先で天龍という美しい男性と出会う。
「ようやく君を迎えに来れた」
天龍は桜華を抱きしめ愛をささやく。なんでも、彼と桜華は前世で夫婦だったというのだ。
戸惑いつつも、龍晴からは決して得られなかった類の愛情に、桜華の心は満たされていく。
そんななか、龍晴の態度がこれまでと変わりはじめ――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる