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第二章 歌姫の追放
第七話
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今日も宴だがいつもの宴とは違って、後宮に勤める宦官への労いを込めて宴には陛下・上級妃・下級妃・楽団や芸者たちの他に、多くの宦官が招かれている。
宦官とは唯一後宮に入ることを許されている男性の従者たち、後宮で仕えるために男性の象徴を切り落とした者たちのことだ。
下級妃も含めて側妃たちはあくまでも陛下の所有物なので、宦官と直接のやり取りをすることはないが護衛・後宮の管理などを担っているらしい。
私の周りは専属の従者に守らせているので無関係だけど。
今日はその労いということで、宦官たちに普段は舞台上で舞い踊っている芸者たちがお酌をしたり、話し相手になったりしている。
陛下は相変わらず上級妃を侍らせて楽しそうだし、上級妃たちも寵愛を得ようと必死なご様子。
私は、変わらずその隣で微笑みを顔に貼り付けていた。
しかし今日はいつもと違い、舞台上の演目が事前に決められていた。
宦官への労いということで歌姫の歌の披露、舞姫の舞の披露、私の琵琶演奏が行われる予定だ。
なぜ私まで……と思ったが、舞台上で演目となる特技を持っているのが私達だけだからということらしい。
面倒ではあるが、今日の私は気分が良いからそんな些細なことは気にならない。
上がりそうになる口角を袖口で隠して、その時をじっと待っていると陛下が口を開いた。
「余の花たちよ。我らが家臣を楽しませてやれ」
「仰せのままに、陛下」
返事をして私・歌姫・舞姫が舞台袖へと向かう。
舞台袖までやってくると、歌姫がいつものように水を飲む。
今日は私がいるためか二人が楽しげに話すことはなく、舞姫は舞姫で離れた場所で身体の柔軟をしている。
私は琵琶を抱えながら、ただ成り行きを見守っていた。
そして一番手の歌姫が舞台に上がるときがやってきた。
少しばかり緊張している様子の歌姫は深呼吸してから、美しい微笑みを浮かべて舞台袖から舞台へと歩を進めた。
そして楽団の演奏に合わせ、美しい歌声を会場中に響かせていたのだが……みるみる内に表情が曇り、だんだん苦しそうな顔に変わる。
美しかった声はガサつき、歌の合間に時折始め咳き込み、それでも声を出そうとしたところ……ぐっ、ごげーッ! と、それはそれは醜い大きな声を上げた。
何事かと楽団の演奏が止み、会場はしーんと静まり返る。
歌姫は事態が飲み込めていないのか、俯きながらプルプルと震えているようだ。
そんないつまで続くのか分からない沈黙を破ったのは、皇帝陛下だった。
「ぷっ……ガッハッハッハ! 余の小鳥が鶏になりおった!」
彼女の醜い声がお気に召したのか、実に面白そうに手をたたきながらゲラゲラと笑っている。
招かれた宦官や側妃たちは気まずそうにしていたが、陛下が笑っているのであれば共に笑うしかない……面白い余興を見たように、一緒になって笑い始めて拍手する。
歌を披露するはずだったのに一気に見世物になった歌姫は、顔を青くして呆然と舞台下で自分のことを笑う人たちのことを眺めていた。
……かと思うと、彼女は急に白目を向いてバタリッと倒れた。
さすがにまずいと思ったのか歌姫専属の侍女たちが舞台上で倒れている彼女に駆け寄り、ひとまず呼吸があることを確認してから、すぐに彼女を舞台袖まで数人がかりで担ぐように連れてくる。
自分の足で立つことすら出来ず、完全に意識を失っている歌姫。
そんな彼女を心配そうに見つめるふりをする私。
――最高でしたわぁ、歌姫様ぁ。
彼女の姿を見て、私は心底嬉しかったが……いつものように口元を袖で隠して、そんな本心を周囲に悟らせないように、心配でおののいているように見せた。
あの倒れるときの顔……なんて無様な。
プライドの高い彼女がおおよそ面に出すことがないであろう顔、陛下すらあんな顔はご覧になったことがないであろう。
さいっっっこう!
歌姫ではなく、芸者としてあのお顔で舞台に立てば、きっと歌わずとも客を夢中にできますわ。
気を失っている歌姫の周りでは、侍女たちがすぐに牛車を手配してと指示を出し、陛下の宮から自分たちの宮まで戻れるように慌ただしく動き回っている。
「――ざまぁみろ……」
そんなとき、隣からぼそっとそんな声が聞こえた。
声のした方をチラリと横目で見てみると、気絶する歌姫を舞姫がニヤニヤと眺めながら本音を堪えられず、こぼしていたようだった。
……舞姫の方も、歌姫のことは嫌っていたようですね。
せっかくの楽しい気分が害されたような気持ちであったが、そこは舞姫と違って口元を袖で隠しながら本心も内側に隠す。
「……はぁ、良い余興であった。おい、次の演目を早くせい」
そして舞姫の次は、陛下がそう言って楽しい気分を害してくる。
あなたの番だろうと舞姫の方をチラリと見ると、陛下の声が聞こえないほど気絶している歌姫に夢中になっているご様子で、まだニヤニヤとしている。
しょうがない……代わりに満面の笑みを浮かべる私が、舞台上に立って琵琶を披露してみせた。
宦官とは唯一後宮に入ることを許されている男性の従者たち、後宮で仕えるために男性の象徴を切り落とした者たちのことだ。
下級妃も含めて側妃たちはあくまでも陛下の所有物なので、宦官と直接のやり取りをすることはないが護衛・後宮の管理などを担っているらしい。
私の周りは専属の従者に守らせているので無関係だけど。
今日はその労いということで、宦官たちに普段は舞台上で舞い踊っている芸者たちがお酌をしたり、話し相手になったりしている。
陛下は相変わらず上級妃を侍らせて楽しそうだし、上級妃たちも寵愛を得ようと必死なご様子。
私は、変わらずその隣で微笑みを顔に貼り付けていた。
しかし今日はいつもと違い、舞台上の演目が事前に決められていた。
宦官への労いということで歌姫の歌の披露、舞姫の舞の披露、私の琵琶演奏が行われる予定だ。
なぜ私まで……と思ったが、舞台上で演目となる特技を持っているのが私達だけだからということらしい。
面倒ではあるが、今日の私は気分が良いからそんな些細なことは気にならない。
上がりそうになる口角を袖口で隠して、その時をじっと待っていると陛下が口を開いた。
「余の花たちよ。我らが家臣を楽しませてやれ」
「仰せのままに、陛下」
返事をして私・歌姫・舞姫が舞台袖へと向かう。
舞台袖までやってくると、歌姫がいつものように水を飲む。
今日は私がいるためか二人が楽しげに話すことはなく、舞姫は舞姫で離れた場所で身体の柔軟をしている。
私は琵琶を抱えながら、ただ成り行きを見守っていた。
そして一番手の歌姫が舞台に上がるときがやってきた。
少しばかり緊張している様子の歌姫は深呼吸してから、美しい微笑みを浮かべて舞台袖から舞台へと歩を進めた。
そして楽団の演奏に合わせ、美しい歌声を会場中に響かせていたのだが……みるみる内に表情が曇り、だんだん苦しそうな顔に変わる。
美しかった声はガサつき、歌の合間に時折始め咳き込み、それでも声を出そうとしたところ……ぐっ、ごげーッ! と、それはそれは醜い大きな声を上げた。
何事かと楽団の演奏が止み、会場はしーんと静まり返る。
歌姫は事態が飲み込めていないのか、俯きながらプルプルと震えているようだ。
そんないつまで続くのか分からない沈黙を破ったのは、皇帝陛下だった。
「ぷっ……ガッハッハッハ! 余の小鳥が鶏になりおった!」
彼女の醜い声がお気に召したのか、実に面白そうに手をたたきながらゲラゲラと笑っている。
招かれた宦官や側妃たちは気まずそうにしていたが、陛下が笑っているのであれば共に笑うしかない……面白い余興を見たように、一緒になって笑い始めて拍手する。
歌を披露するはずだったのに一気に見世物になった歌姫は、顔を青くして呆然と舞台下で自分のことを笑う人たちのことを眺めていた。
……かと思うと、彼女は急に白目を向いてバタリッと倒れた。
さすがにまずいと思ったのか歌姫専属の侍女たちが舞台上で倒れている彼女に駆け寄り、ひとまず呼吸があることを確認してから、すぐに彼女を舞台袖まで数人がかりで担ぐように連れてくる。
自分の足で立つことすら出来ず、完全に意識を失っている歌姫。
そんな彼女を心配そうに見つめるふりをする私。
――最高でしたわぁ、歌姫様ぁ。
彼女の姿を見て、私は心底嬉しかったが……いつものように口元を袖で隠して、そんな本心を周囲に悟らせないように、心配でおののいているように見せた。
あの倒れるときの顔……なんて無様な。
プライドの高い彼女がおおよそ面に出すことがないであろう顔、陛下すらあんな顔はご覧になったことがないであろう。
さいっっっこう!
歌姫ではなく、芸者としてあのお顔で舞台に立てば、きっと歌わずとも客を夢中にできますわ。
気を失っている歌姫の周りでは、侍女たちがすぐに牛車を手配してと指示を出し、陛下の宮から自分たちの宮まで戻れるように慌ただしく動き回っている。
「――ざまぁみろ……」
そんなとき、隣からぼそっとそんな声が聞こえた。
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……舞姫の方も、歌姫のことは嫌っていたようですね。
せっかくの楽しい気分が害されたような気持ちであったが、そこは舞姫と違って口元を袖で隠しながら本心も内側に隠す。
「……はぁ、良い余興であった。おい、次の演目を早くせい」
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