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第二章 歌姫の追放
第六話
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「――よし。これを今夜、父に」
必要な物を記載した手紙を書き終えた私は、従者にその手紙を渡した。
普通に手紙を出そうとすると後宮から出す時、王宮から出す時に検閲を受けて時間がかかるし内容を見られてしまうので、私は従者に直接父のもとまで手紙を持っていかせている。
ただ上級妃の従者と言えども、後宮を出るのは簡単ではないから……ひと目の少ない夜の内に、こっそりと塀を登らせて父の元まで行かせ、夜の内に戻ってこさせている。
そうして後日、再び夜に従者を父のもとまで行かせて必要な物を受け取り帰ってこさせて、手紙や物品のやり取りをしている。
私の従者は私の手足として自由に動くように訓練を受けさせているから、夜の内に塀を登るのも父の元まで行き来させるのも別に難しいことではない。
父にもこのやり方でやり取りをすることを後宮に来る前に告げておいていたし、手紙に記載された物品は速やかに準備するように言い含めておいたから……円滑なやり取りができている。
ふぅ……と一息ついて、机を離れて長椅子に腰を下ろす。
私が現状できることはこれで終わりかな……あとは父の返事待ちね。
……あぁ、あとは今夜の宴も頑張らなくてはね。
私は連日の宴にげんなりとしながら、静かに夜を待った。
――夜になり、宴が開催される。
いつもどおり陛下は上級妃たちを侍らせて大喜びで酒を浴びるように飲んで、上級妃たちは陛下にしなだれかかりながらお酌をしたり身体を撫でたりしている。
私はその隣で、微笑みの仮面を顔に貼り付ける。
悪夢のような時間だ。
早く終われと願いながら過ごしていると、ふいに陛下がおっ、そうだと声を上げた。
「遊姫。今宵は歌姫の歌に合わせ、そちの琵琶を弾け」
陛下には歌姫を最初に排除しようとしていることは告げていないので、完全にただの思いつきであろう。
チラリと歌姫の方を見ると少し不服そうな顔をしていたが、すぐににっこりと笑顔に切り替えていた。
「まぁ、それは良いですわね。遊姫様、よろしくお願いいたしますわね」
面倒だなと思いながらも、私こそよろしくお願いいたしますと微笑みを返して、前回同様に楽団から琵琶を借りてくるように従者に告げた。
部屋から琵琶を持ってきても良いのだが、陛下は『今すぐにやれ』という顔をしていたので楽団から借りることに。
歌姫と私が、では……と舞台袖に向かう時にチラリと覗くと、陛下の後ろで明らかに不機嫌そうにこちらを睨んでくる舞姫がいた。
私を睨むのはお門違いだ。
恨むならあなたの目の前にいる男にしなさいと思いながらも、面白かったのでそちらにもにっこりと微笑みを返してやった。
すぐに舞台袖に向かったので私の微笑みに対してどんな顔をしていたのかは見られなかったが、きっと悔しさを滲ませていたことだろう……愉快だ。
舞台袖に来ると、舞姫が女官に水を持ってくるように指示していた。
従者の報告どおりだなとその様子を見ていると、歌姫がこちらを睨んできた。
「勘違いしないでね。陛下がご所望なのは私の歌なんだから」
顔を不機嫌そうに歪ませ、見下すようにそう言ってくる歌姫。
まぁ、せっかくの可愛らしいお顔が性格のせいで台無しですわと笑ってしまいそうになるのを、口元を袖で隠しながらごまかして、もちろんですと返事をした。
するとふんっと歌姫はまだ不服そうではあるものの、とりあえず苛立ちが落ち着いたのか従者が持ってきた水を飲み始めた。
「まぁ、引き立て役が琵琶弾き女だろうと、踊りしか能のない女であろうと私には関係ないわ」
歌しか能のないあなたがそれを言うのか……とも思ったが、全ては袖で隠した。
「歌姫様と舞姫様は、仲がよろしいと思っていたのですが……」
微笑みながらそう言うと、私と舞姫が? と歌姫は鼻で笑っていた。
「仲良いとかやめてよね。陛下の寵愛を一番に受けているのは私、宴では必ず私の歌をご所望になるもの。同じ上級妃だからといって、同列に扱わないでほしいわ」
よほど不快だったのか、先程よりも醜く顔を歪ませながら勝ち誇った笑みを浮かべている歌姫は、聞いてもいないことまで饒舌に語る。
仲良く見えても、実際は陛下の寵愛を欲する者同士は敵……ということか。
「これは失礼いたしました。お水も飲み終わったようですし、舞台に行きましょうか」
歌姫は私が悔しそうにしている顔を見たかったのだろうか……でも私は陛下の寵愛なんて望んでいないし、上級妃同士の敵意識なんてどうでも良い。
微笑みながら舞台へ促すと、歌姫は不満そうにしながらも舞台へと向かう。
――舞台に立った私達は、上級妃として美しい微笑みを浮かべていたと思う。
必要な物を記載した手紙を書き終えた私は、従者にその手紙を渡した。
普通に手紙を出そうとすると後宮から出す時、王宮から出す時に検閲を受けて時間がかかるし内容を見られてしまうので、私は従者に直接父のもとまで手紙を持っていかせている。
ただ上級妃の従者と言えども、後宮を出るのは簡単ではないから……ひと目の少ない夜の内に、こっそりと塀を登らせて父の元まで行かせ、夜の内に戻ってこさせている。
そうして後日、再び夜に従者を父のもとまで行かせて必要な物を受け取り帰ってこさせて、手紙や物品のやり取りをしている。
私の従者は私の手足として自由に動くように訓練を受けさせているから、夜の内に塀を登るのも父の元まで行き来させるのも別に難しいことではない。
父にもこのやり方でやり取りをすることを後宮に来る前に告げておいていたし、手紙に記載された物品は速やかに準備するように言い含めておいたから……円滑なやり取りができている。
ふぅ……と一息ついて、机を離れて長椅子に腰を下ろす。
私が現状できることはこれで終わりかな……あとは父の返事待ちね。
……あぁ、あとは今夜の宴も頑張らなくてはね。
私は連日の宴にげんなりとしながら、静かに夜を待った。
――夜になり、宴が開催される。
いつもどおり陛下は上級妃たちを侍らせて大喜びで酒を浴びるように飲んで、上級妃たちは陛下にしなだれかかりながらお酌をしたり身体を撫でたりしている。
私はその隣で、微笑みの仮面を顔に貼り付ける。
悪夢のような時間だ。
早く終われと願いながら過ごしていると、ふいに陛下がおっ、そうだと声を上げた。
「遊姫。今宵は歌姫の歌に合わせ、そちの琵琶を弾け」
陛下には歌姫を最初に排除しようとしていることは告げていないので、完全にただの思いつきであろう。
チラリと歌姫の方を見ると少し不服そうな顔をしていたが、すぐににっこりと笑顔に切り替えていた。
「まぁ、それは良いですわね。遊姫様、よろしくお願いいたしますわね」
面倒だなと思いながらも、私こそよろしくお願いいたしますと微笑みを返して、前回同様に楽団から琵琶を借りてくるように従者に告げた。
部屋から琵琶を持ってきても良いのだが、陛下は『今すぐにやれ』という顔をしていたので楽団から借りることに。
歌姫と私が、では……と舞台袖に向かう時にチラリと覗くと、陛下の後ろで明らかに不機嫌そうにこちらを睨んでくる舞姫がいた。
私を睨むのはお門違いだ。
恨むならあなたの目の前にいる男にしなさいと思いながらも、面白かったのでそちらにもにっこりと微笑みを返してやった。
すぐに舞台袖に向かったので私の微笑みに対してどんな顔をしていたのかは見られなかったが、きっと悔しさを滲ませていたことだろう……愉快だ。
舞台袖に来ると、舞姫が女官に水を持ってくるように指示していた。
従者の報告どおりだなとその様子を見ていると、歌姫がこちらを睨んできた。
「勘違いしないでね。陛下がご所望なのは私の歌なんだから」
顔を不機嫌そうに歪ませ、見下すようにそう言ってくる歌姫。
まぁ、せっかくの可愛らしいお顔が性格のせいで台無しですわと笑ってしまいそうになるのを、口元を袖で隠しながらごまかして、もちろんですと返事をした。
するとふんっと歌姫はまだ不服そうではあるものの、とりあえず苛立ちが落ち着いたのか従者が持ってきた水を飲み始めた。
「まぁ、引き立て役が琵琶弾き女だろうと、踊りしか能のない女であろうと私には関係ないわ」
歌しか能のないあなたがそれを言うのか……とも思ったが、全ては袖で隠した。
「歌姫様と舞姫様は、仲がよろしいと思っていたのですが……」
微笑みながらそう言うと、私と舞姫が? と歌姫は鼻で笑っていた。
「仲良いとかやめてよね。陛下の寵愛を一番に受けているのは私、宴では必ず私の歌をご所望になるもの。同じ上級妃だからといって、同列に扱わないでほしいわ」
よほど不快だったのか、先程よりも醜く顔を歪ませながら勝ち誇った笑みを浮かべている歌姫は、聞いてもいないことまで饒舌に語る。
仲良く見えても、実際は陛下の寵愛を欲する者同士は敵……ということか。
「これは失礼いたしました。お水も飲み終わったようですし、舞台に行きましょうか」
歌姫は私が悔しそうにしている顔を見たかったのだろうか……でも私は陛下の寵愛なんて望んでいないし、上級妃同士の敵意識なんてどうでも良い。
微笑みながら舞台へ促すと、歌姫は不満そうにしながらも舞台へと向かう。
――舞台に立った私達は、上級妃として美しい微笑みを浮かべていたと思う。
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