上 下
37 / 40
第十章 幸せを知った令嬢と、神様の終わらない溺愛

第三十七話

しおりを挟む
 二人だけの結婚式をして、改めて夫婦になってから一週間が経った。

 私達は各所に、改めて結婚の挨拶をしようと決めた。

 けれど私のワガママではあるけれど、最初に報告するのは最後までお世話になったカーフィンが良いと言って……カーフィンが教会に来る一週間後まで待ってもらっていた。

 ――カーフィンが教会に手伝いに来る日、二人で教会に来ると彼は困ったような嬉しそうな笑顔を浮かべて出迎えてくれた。

「……上手くいったみたいだね」

 そう言われてこくんっと頷くとカーフィンは、破局したら今度こそアルサを妻に迎えようと思ったのに~なんて軽口を叩いていたけれど、彼の本心でないことはすぐに分かった。

「……本当に、ありがとう。カーフィン」

 私が改めて……今までの全てを含めて感謝を伝えると、カーフィンは照れくさそうに頭をかいてから、幸せになってよと笑ってくれた。

「ちゃんと幸せにしてくださいね」

 そしてイラホン様の方にも初めて笑顔を向けて、そう伝えていた。

 イラホン様はどんな反応をするのかと思ってみてみると、彼もまた穏やかな笑顔を浮かべていた。

「もちろんだ」

 最初は険悪な感じだった二人も、今ではこうして笑顔を交わす仲になったのかと思うと……純粋に嬉しかった。

 ――次に私たちは、カティ様とバハロン様にご挨拶に行こうと思ったのだけれど……彼らの方が先に屋敷にやってきて驚いた。

 二人で出迎えると、カティ様は私の方をキッと睨んでくる。

「……イラホンを不幸にしたら許さないから」

 開口一番にそう言われて、少しだけ面食らったが……私は真剣に、けれど笑顔で答えた。

「はい。必ず幸せにします」

 私達がそんなやりとりをしていると、突然イラホン様が頭を下げ始めた。

 何事かと向こうも私も驚いたけれど、イラホン様は気にせず語り始めた。

「カティ。俺はアルサ以外を妻にすることは考えられないから、お前と結婚することは出来ない。今までちゃんと返事をしていなくて、すまなかった」

 そう言って謝罪するイラホン様を、バハロン様は信じられないといった驚愕の表情で見ていた。

 けれど、カティ様は真剣にイラホン様の言葉を聞いて……スムーズな動作でスカートの裾を掴んで腰を落とし、流れるようなお辞儀をしていた。

「……はい、分かりました。お返事をどうもありがとう」

 穏やかに微笑むカティ様は、大人びた美しさを纏っていた。

 私もなんだか嬉しくなって……その光景を黙って見ていた。

「いや~丸くおさまったね~。カティはちゃんと振られたし、アルサちゃんっていう女友達もできて良かったじゃん~」

 バハロン様はあえてだろうか、いつもどおりの明るい調子でそう言っていた。

 カティ様は突然の事に顔を真っ赤にして怒り狂っていたけれど、私がぜひよろしくお願いいたしますと手を差し出すと、おずおずとではあるけどちゃんと握手を返してくれた。

「……アルサのくせに、生意気よ……」

 そう呟いていたのを、私は聞き逃さなかった。

 それを嬉しそうに眺めていたバハロン様とも、もちろんその後、握手をさせていただいた。

 ――最後はイラホン様のお父様。

 瞬間移動でやってくると、前回と同じように使用人に玉座の間まで案内されて……お父様はやっぱり無関心な表情をしてステンドグラスの前に立っていた。

 イラホン様が結婚の報告をすると、お父様はそうか……と呟くようにこぼしていた。

 前回はただ許しを得ようと頭を下げて頼み込むだけだったけれど、私は勇気を振り絞ってお父様に声をかけた。

「……イラホン様は、私が幸せにいたします」

 私がそう言うと、イラホン様はもちろんのことお父様もそっくりな顔で目を見開いていた。

 自分にできることなんて大したことはない。

 けれど、それでもイラホン様が幸せだと言ってくれるのなら……私は全力で彼を幸せにする。

 決意を込めてお父様を見つめていると、ゆっくりとお父様の表情がもとの無表情に戻っていく。

「……後悔はしないか?」

「「しません」」

 私とイラホン様は口を揃えて即答していた。

 お父様は空をつくったこと、人間をつくったことを後悔していると仰っていたけれど……私は感謝している。

 お父様がこの世界をつくってくださったことで、私はイラホン様と出会うことが出来た……こうして幸せになることができたのだから。

 これから色々なことがあるかもしれない。

 もしかしたら、別れを選択する道が出てくることもあるかもしれない。

 でも、この選択を後悔することはない……そう思える。

 私達の答えを聞くとお父様は、そうかとまたこぼすように仰っていた。

 変わらず無表情だったけど……口元が少しだけ微笑んでいるように見えたのは、私だけだろうか。

 ――これで報告したい人への報告は全部終わり。

 私達は顔を見合わせながら微笑んで、二人で屋敷に戻った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

やんちゃな公爵令嬢の駆け引き~不倫現場を目撃して~

岡暁舟
恋愛
 名門公爵家の出身トスカーナと婚約することになった令嬢のエリザベート・キンダリーは、ある日トスカーナの不倫現場を目撃してしまう。怒り狂ったキンダリーはトスカーナに復讐をする?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

王子、侍女となって妃を選ぶ

夏笆(なつは)
恋愛
ジャンル変更しました。 ラングゥエ王国唯一の王子であるシリルは、働くことが大嫌いで、王子として課される仕事は側近任せ、やがて迎える妃も働けと言わない女がいいと思っている体たらくぶり。 そんなシリルに、ある日母である王妃は、候補のなかから自分自身で妃を選んでいい、という信じられない提案をしてくる。 一生怠けていたい王子は、自分と同じ意識を持つ伯爵令嬢アリス ハッカーを選ぼうとするも、母王妃に条件を出される。 それは、母王妃の魔法によって侍女と化し、それぞれの妃候補の元へ行き、彼女らの本質を見極める、というものだった。 問答無用で美少女化させられる王子シリル。 更に、母王妃は、彼女らがシリルを騙している、と言うのだが、その真相とは一体。 本編完結済。 小説家になろうにも掲載しています。

高校球児、公爵令嬢になる。

つづれ しういち
恋愛
 目が覚めたら、おデブでブサイクな公爵令嬢だった──。  いや、嘘だろ? 俺は甲子園を目指しているふつうの高校球児だったのに!  でもこの醜い令嬢の身分と財産を目当てに言い寄ってくる男爵の男やら、変ないじりをしてくる妹が気にいらないので、俺はこのさい、好き勝手にさせていただきます!  ってか俺の甲子園かえせー!  と思っていたら、運動して痩せてきた俺にイケメンが寄ってくるんですけど?  いや待って。俺、そっちの趣味だけはねえから! 助けてえ! ※R15は保険です。 ※基本、ハッピーエンドを目指します。 ※ボーイズラブっぽい表現が各所にあります。 ※基本、なんでも許せる方向け。 ※基本的にアホなコメディだと思ってください。でも愛はある、きっとある! ※小説家になろう、カクヨムにても同時更新。

【完結】婚約破棄されたらループするので、こちらから破棄させていただきます!~薄幸令嬢はイケメン(ストーカー)魔術師に捕まりました~

雨宮羽那
恋愛
 公爵令嬢フェリシア・ウィングフィールドは、義妹に婚約者を奪われ婚約破棄を告げられる。  そうしてその瞬間、ループしてしまうのだ。1年前の、婚約が決まった瞬間へと。  初めは婚約者のことが好きだったし、義妹に奪われたことが悲しかった。  だからこそ、やり直す機会を与えられて喜びもした。  しかし、婚約者に前以上にアプローチするも上手くいかず。2人が仲良くなるのを徹底的に邪魔してみても意味がなく。いっそ義妹と仲良くなろうとしてもダメ。義妹と距離をとってもダメ。  ループを4回ほど繰り返したフェリシアは思った。  ――もういいや、と。  5回目のやり直しでフェリシアは、「その婚約、破棄させていただきますね」と告げて、屋敷を飛び出した。  ……のはいいものの、速攻賊に襲われる。そんなフェリシアを助けてくれたのは、銀の長髪が美しい魔術師・ユーリーだった。  ――あれ、私どこかでこの魔術師と会ったことある?  これは、見覚えがあるけど思い出せない魔術師・ユーリーと、幸薄め公爵令嬢フェリシアのラブストーリー。 ※「小説家になろう」様にも掲載しております。 ※別名義の作品のストーリーを大幅に改変したものになります。 ※表紙はAIイラストです。(5/23追加しました)

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...