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第五章 嵐のような友神たち

第十八話

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 応接室に置かれたソファの片側にバハロン様とカティ様、対面のソファに私とイラホン様が腰を下ろしているが、私は話に混ざることはできずにいる。

 悔しそうに顔を赤くしながら叫ぶカティ様、うんざりしながら反論しているイラホン様、そしてそれを仲裁しているように見せかけて眺めて笑っているバハロン様。

 イラホン様から昔なじみの幼馴染のようなご友神と聞いていたけど、やはり三人の中でもう世界ができあがっているようで……私の入る隙などないようだ。

 そしてイラホン様はすきあらば私との馴れ初め・いかに愛しているか・どんなにかわいいかを熱く語るので、私はもう消えてしまいたいくらい恥ずかしくてしょうがない。

 バハロン様はさらに話すように促しているけど、カティ様は怒ってドン引きして悔しそうにしての百面相。

 かなりカオスな状態になっている。

 挨拶が済んだし、お邪魔になるだろうからと席を立とうかとも思ったのだけれど、それはイラホン様に腰を抱き寄せられて阻止されてしまった。

 それを見てカティ様はさらに怒り狂い、バハロン様が彼女を抑えつつも笑う……という繰り返し。

「あ~……面白かったぁ」

 ひとしきりイラホン様の私自慢が終わったところで、笑いによって出た涙を拭いながらバハロン様が満足そうにそう仰った。

 私はやっと終わったか……と、もはや疲れ切っていた。

 カティ様もかなり感情を表に出して叫んでらしたのでお疲れの様子だが、私が様子を窺うように視線を向けるとふいっと不機嫌そうに顔を背けられてしまった。

 イラホン様は存分に語り尽くしたせいか、心なしか肌ツヤがよくなっているように感じる。

「さて、ひとしきり笑ったわけだけど……この結婚、なしにしない?」

 そんな中、バハロン様が先程までと全く変わらない様子で、そんな言葉を私たちに放り投げるように伝えてきた。

 カティ様が仰るのならばまだ分かるが、バハロン様からその言葉が出てくるとは思わず……私は驚きのあまり、何も言えなかった。

「……つまらない冗談だな、バハロン」

 イラホン様は先程までと打って変わって、険しい表情をしながらバハロン様を睨んでいる。

 纏う空気も、ピリピリとしたものに変化する。

「いや~、別に人間と神の婚姻自体は珍しいものじゃないから良いんだけどさ……さすがに陸海空の三大神が人間と結婚するのは、ちょ~っと問題があるらしいんだよね」

 いつもだったら関係ないとすぐに言い返しそうなイラホン様が、今回はバハロン様の言葉に反論できずにいるようだった。

 陸海空の……三大神? 問題?

 イラホン様の様子にも話についていけず戸惑っていると、それに気付いた様子のバハロン様が声を掛けてくださった。

「あれ、アルサちゃんは世界を作った三大神のこと知らないの? 人間界でも伝わっている神話のはずなんだけど」

 バハロン様はすごく驚いた様子だった。

「あ、あの……お恥ずかしい話、教養がなくて存じ上げません」

 生きるのに必要な簡単な読み書き・計算・言葉遣いは使用人がこっそり教えてくれたが、学校も行っていないし家庭教師もつけてもらえなかった私は……この世界のことをほとんど知らない。

「ハッ、何と無知な……」

 カティ様は鼻で笑って、私に軽蔑の視線を向ける。

 バハロン様にも見限られるかと思ったが、彼はそっかと気にした様子はなく、笑顔で説明してくれた。

 私の住んでいたハクイカタン国では、大空・大海・大地を司る三人の神様がこの世界をつくったという神話が存在していて、王都の方には三人の神を祀る大きな教会が三つあること。

 バハロン様は海を司る神の息子、カティ様は大地を司る神の娘で、王都にある大きな教会で父親と共に働いていると……そしてイラホン様は、空を司る神の息子なのだと教えてくださった。

 けれどイラホン様は父親とケンカして、王都から遠く離れた小さなムシバ領の小さな教会に住み着いているのだと。

「……」

 あまりにも色々な情報が頭に一気に舞い込んできて、情報を整理しきれずにまだ困惑する。

 この方々は世界を作った創造神のご子息・ご息女で、イラホン様もそんな偉大な神様だったなんて……私は本当にこの方のことを何も知らず、妻になったのだなと実感する。

 イラホン様の方を見やると、悲しそうな申し訳無さそうな表情でこちらを見つめていた。

「……俺は家からは離れているし、アルサに余計なものを背負い込ませたくなくて黙っていたんだけど……ごめんね」

 そう謝られて、とりあえず大丈夫ですとしか答えることが出来なかった。

 でも心の内側では、私には分不相応・住む世界が違いすぎると現実的な言葉が自分を責め立てていた。

「ほら、そんな状態ならまだ間に合うよ。結婚……やめにしない?」

 バハロン様が改めてそう仰る。

 今度は私も、言われた通りにするべきなのかと思ってしまって……何も言えなくなってしまった。
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