幸せを知らない令嬢は、やたらと甘い神様に溺愛される

ちゃっぷ

文字の大きさ
上 下
11 / 40
第三章 神様の仕事

第十一話

しおりを挟む
 困惑しながらひたすら涙を流す私を、イラホン様は優しく微笑みながら頭を撫でてくれていた。

「す、すみませ……人の役に立ったの……は、初めてで……」

 なんとか涙を止めようと拭いながらも、泣いている理由をイラホン様に説明している間にさらに涙がポロポロと出てきてしまう。

 どうすることもできない私に、イラホン様が優しく語りだした。

「……初めてじゃないよ。アルサはもう俺のことを救ってくれているんだ」

 イラホン様が何を言っているのか分からず、かと言って泣きすぎてどういうことか尋ねることもできずにいる私に、イラホン様はニコッと微笑みながら話を続けた。

「昔の俺はさ、自分勝手に祈りやら懺悔してくる人間がキライだったんだ。仕事だからパワーは与えていたけど、人間の言葉には全く耳を貸していなかったんだよね」

 先程のイラホン様からは想像もできない言葉に驚いていると、彼は気恥ずかしそうに笑っていた。

「ほんと、神として未熟も未熟。だから参拝者も少なくて……でも俺は静かで、その方が良いと思っていたんだ」

 今は教会が開かれると同時に人が来て、ベンチに座って寛いでいる人もいるし、次々に人が祈りに来るのに……そんな頃もあったのか。

 私が知らない教会、知らないイラホン様の話を、私はズビズビ鼻を啜りながら黙って聞く。

「でもある日から、何も祈らないアルサが来るようになった。ちょことちょこ来るのに君ってば何も祈らないから、何しに来ているのか不思議でしょうがなかったよ」

 困惑したような嬉しそうな表情を浮かべながらそう笑うイラホン様に対して、私は昔の自分の行いが恥ずかしくてしょうがなかった。

 涙でぐちゃぐちゃだし、恥ずかしさのあまり赤面する私の頭を、イラホン様は優しく撫でてくれている。

「けれど、アルサが祈らないのを不思議に感じて……やっと分かったんだ。あぁ、人間は誰にも言えないことが言いたくて教会に来るんだなって……祈りも懺悔も、叶えてほしいというよりも聞いてほしいんだなって」

 イラホン様は教会のベンチに座っている人たちを、穏やかな視線で見つめながら呟いていた。

 かと思うとこっちに振り返り、頬を染めながら優しい笑顔を浮かべて私を見つめてくる。

「アルサが未熟な俺を……神様にしてくれたんだ。アルサのおかげで、今の俺がいるんだよ。ありがとう、アルサ」

 イラホン様にそう言われて、余計に涙が溢れる。

 もう体内の水分がなくなるんじゃないかと思うくらい、涙が目から流れ落ちているように感じる。

 でも止められない。

 そんな私を見つめながら、イラホン様はよしよしと優しく頭を撫でてくれる。

 頭を撫でてもらうのが心地よくて、それはそれでまた涙が溢れてくる。

 もう何をしても涙は止まらないんじゃないかと思うくらいだった。

「だから俺もアルサの役に立ちたくて、君が心から祈ってくれるときをずっと待っていたんだよ」

 イラホン様の気持ちが嬉しくて、でもそれを知らなかった自分が申し訳なくて謝ろうとすると、イラホン様は二カッと笑って話を続けた。

「でも全然祈ってくれないからさ、あの日、ついに待ち切れなくて俺から声をかけたんだ! そしたら幸せになりたいって考えていたから、俺が幸せにすることに決めたんだ!」

 嬉しそうにそう言うイラホン様に、私はもう何も言えなかった。

 あの日というのは、私が家から追い出された日のことだろう。

 正確に言うなら、私が家を追い出される前の話……かな。

 声を掛けられた時は、私もついに幸せになれるんだと思って嬉しかった。

 でも家に帰ったら婚約破棄されて、家から追い出されて……思い返してみると、あの一日だけで色々なことが起こり過ぎだったように思う。

 でもイラホン様の言葉だけを頼りに教会に来たら、イラホン様はいなかった。

 数日前のことだけど、あの時の絶望は今でも鮮明に思い出される。

「なのに約束した夜、ドキドキしながら教会に行ったら君があんな懺悔をしていて……もうびっくりだったよ」

 確かに時間の約束はしていなかったなと、今更ながら思った。

 イラホン様にとっても、あの時のことは予想外のことでひどく驚いたようだった。

「……でもいつものように無表情なのに悲しそうに懺悔する君を見た時、俺は君を幸せにするだけじゃなくて『妻にしたい』って気付いたんだ。アレは雷に打たれたような衝撃だったよ」

 懐かしそうに・悲しそうに・嬉しそうに・大げさなほどオーバーリアクションで話すイラホン様は、コロコロ表情が変わって、ついつい目が離せなくなる。

 淡い水色の瞳が、熱っぽくキラキラと輝いている。

 イラホン様のコロコロ変わる表情を見る度、話を聞く度に少しずつ心がほわっと温かくなっていくのを感じる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています

窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。 シナリオ通りなら、死ぬ運命。 だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい! 騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します! というわけで、私、悪役やりません! 来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。 あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……! 気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。 悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!

限界王子様に「構ってくれないと、女遊びするぞ!」と脅され、塩対応令嬢は「お好きにどうぞ」と悪気なくオーバーキルする。

待鳥園子
恋愛
―――申し訳ありません。実は期限付きのお飾り婚約者なんです。――― とある事情で王妃より依頼され多額の借金の返済や幼い弟の爵位を守るために、王太子ギャレットの婚約者を一時的に演じることになった貧乏侯爵令嬢ローレン。 最初はどうせ金目当てだろうと険悪な対応をしていたギャレットだったが、偶然泣いているところを目撃しローレンを気になり惹かれるように。 だが、ギャレットの本来の婚約者となるはずの令嬢や、成功報酬代わりにローレンの婚約者となる大富豪など、それぞれの思惑は様々入り乱れて!? 訳あって期限付きの婚約者を演じているはずの塩対応令嬢が、彼女を溺愛したくて堪らない脳筋王子様を悪気なく胸キュン対応でオーバーキルしていく恋物語。

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜

しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。 高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。 しかし父は知らないのだ。 ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。 そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。 それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。 けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。 その相手はなんと辺境伯様で——。 なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。 彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。 それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。 天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。 壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。

リリィ=ブランシュはスローライフを満喫したい!~追放された悪役令嬢ですが、なぜか皇太子の胃袋をつかんでしまったようです~

汐埼ゆたか
恋愛
伯爵令嬢に転生したリリィ=ブランシュは第四王子の許嫁だったが、悪女の汚名を着せられて辺境へ追放された。 ――というのは表向きの話。 婚約破棄大成功! 追放万歳!!  辺境の地で、前世からの夢だったスローライフに胸躍らせるリリィに、新たな出会いが待っていた。 ▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃ リリィ=ブランシュ・ル・ベルナール(19) 第四王子の元許嫁で転生者。 悪女のうわさを流されて、王都から去る   × アル(24) 街でリリィを助けてくれたなぞの剣士 三食おやつ付きで臨時護衛を引き受ける ▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃ 「さすが稀代の悪女様だな」 「手玉に取ってもらおうか」 「お手並み拝見だな」 「あのうわさが本物だとしたら、アルはどうしますか?」 ********** ※他サイトからの転載。 ※表紙はイラストAC様からお借りした画像を加工しております。

処理中です...