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交際12日目 ツボのおさえかたが的確すぎませんか
しおりを挟むその後も順調に動物たちを見て回り、入り口の売店まで戻ってくると、シーナに一声かけてトイレに向かう。
トイレから戻るとシーナは売店の中にいた。
何やら手に持ち、熱心に眺めているようだ。
そのうち少し目を細め、愛おしそうに親指で一撫ですると元の位置にそれを戻す。
ポーラールの姿に気付いたようで、「やはり俺も用を足してくる」とすれ違うように手洗いに向かっていった。
(何見てあんな顔してたんだ?)
本日2度目の衝撃だ。
シーナにあんな顔をさせる物体とは一体!?
先程までシーナがいた場所に向かう。
するとそこにあったのは、手のひらに収まる大きさの白熊のキーホルダーだった。
背中のボタンを押すと「ガオガオッ」と荒い音で鳴き声が流れる。
ポーラールは白熊の獣人だ。
手のなかの白熊のキーホルダーを愛しげに撫で付けていたシーナを思い出す。
(もしほんとの恋人になって、シーナ団長がもっと俺に心を許したら……
あの綺麗な目を愛しそうに細めて、俺のこと見つめたりすんのかな。)
想像しただけで、心の奥底が熱を持って落ち着かない。
(いやいや、デカい男は範疇外!俺は可愛いのが好き!)
自分に言い聞かせるように頭のなかで何度もそう唱えた。
「そろそろ腹空かないっすか?」
シーナがトイレから戻り、時計を確認するとお昼にはちょうどいい時間だ。
ここからだと店はどこがいいだろう。
ポーラールが考えていると、シーナが手に持っている籠を少し持ち上げる。
「弁当を作ってきた。」
実はシーナが持っている籠が朝からずっと気になっていたポーラールはその謎をやっと解くことができた。
(弁当だったのか。)
謎が解けてポーラールは少しすっきりした心持ちになり、動物園に併設するように大きい芝生の公園に移動することにした。
楠の木の下に二人で腰を落ち着けると、シーナが籠から、サンドウィッチやら、揚げ物やら、可愛く串に刺さったプチトマトとチーズの添え物やらと続々と美味しそうな食べ物たちを出していく。
デザートに焼き菓子まで用意してあった。
これまた可愛らしい丸みのあるフォークとお揃いのデザイン水筒、皿を並べ、ポーラールに手渡してくれる。
「どもっす。
どれもめっちゃ旨そうっすね。」
知らず知らずのうちに頬が緩んでしまう。
褒め言葉はお世辞ではなくつい口からでてしまった。
綺麗にタッパーに詰められた食材は色彩豊かで目にも楽しい。
パストラミのサンドウィッチも唐揚げもキッシュも詰められている何もかもがポーラールの好物ばかりだった。
今日の待ち合わせ時間はポーラールが朝早くに設定した。
夕方から別の恋人と予定があったから。
これだけの弁当を用意するのに一体どれほど早くに起きて準備をしてくれたのか。
それにシーナはいつもポーラールより前に来て待っていてくれる。
自分の都合で朝早くに集合時間を設定してしまったことに少しだけ罪悪感を覚えた。
(俺のためにわざわざ早起きしてこんなに用意してくれたのか。)
そう思うと、心臓がじんじんするような、むず痒いような気持ちになる。
「まじで旨かったっす。
ごちそーさまでした。」
見た目通りの美味しさでポーラールは手を止めることなくペロリと全部平らげてしまった。
シーナがコップに注いでくれたお茶を飲んで一息着くと、春先の気持ちのよい風に意識が向く。
実家にいるときは大勢の兄弟に囲まれてギャーギャー賑やかしく暮らしていたし、騎士になってからもムサい男どもに囲まれ、昼は汗と土埃にまみれ、夜は恋人と遊び回る日々。
(こんなに心が凪いでいると感じるのは久しぶり……いや、初めてかもしれない。)
二人で隣に並び、木に背を預けて
穏やかにゆったりと過ぎてゆく時間を楽しんだ。
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