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優しい騎士団長

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ハルが目を覚まし、最初に目に入ったのは美しい天井の壁画だ。

王宮のサロン並みに綺麗な部屋。
だけど見たことないも部屋だ。

あの時、自分は意識を失ってしまったのだろうか・・・・?

周りを見回しても分からない。
ハルがベッドから降りようとしたちょうどその時、部屋の扉が静かに開いた。


「あぁ、よかった。目を覚ましたんだね。」

朗らかに微笑むその人は騎士団長様だ。

「具合はどう?」
「平気です。ご迷惑をお掛けしました。」
「そう。よかった。」

騎士団長様は自然な動作でハルをベッドに戻すと水を一杯手渡してくれる。

「君にはいろいろ聞きたいことがあるんだが、いいかな?」

真剣な騎士団長様の声色にハルも姿勢を正し、一つ頷いた。

「倒れた時、君の腕を引っ張ったのはベレー子爵だ。知り合いかな?」

・・・・・・・・なんだ、よかった。
妊娠のことがバレたのかと思ったがハルの予想とは違った質問にホッとする。

「はい。13歳まで飼われていました。」
「飼われていた?」

「赤ん坊の時にあの人に買われてから13歳までずっとあの人の家の檻にいたんです。
13で僕が特殊オメガだと分かって森に捨てられました。」

ハルはなんてことない様に言うが、騎士団長様の表情は険しい。

「・・・・じゃあ、背中の傷もベレー子爵が?」
「はい。」

正確に言うとあの人の息子から受けた傷の方が多いが些末な違いだろう。
騎士団長様は痛ましそうに僕のことを見ていたが、もう過ぎたことだ。
それに、あの人の顔を見るまでは大して気にもしていなかった。

「君が妊娠しているのも彼が関係しているの?」
「・・・・・・・・えっ?」

突然の質問に弾かれたように騎士団長様の顔を見上げる。
中隊長様と同じライトグレーの瞳が真剣な眼差しでハルを見つめていた。

「なんで・・・・。」
「君が倒れた時医者に診せた。診断を聞いて驚いたよ。それで相手は誰だ?ベレー子爵に関係ある人物かい?奴になにかされた?」


どうしよう・・・・。本当のことは言えない。
騎士団長様はゼノウ様のお父さんだ。相手を知られたら確実に王太子様の耳にも入る。

「ち、違います。でも・・・・相手については言えません。」

これがハルに返せる精一杯だ。
だが、ハルの答えを聞いて騎士団長様の目は鋭く細められた。

「まさかレイプか?」
「それは違います!僕も・・・・合意のうえでした。
あの、お願いです!このことは誰にも言わないでください。」

 必死な形相で何度も「お願いします。」と言うハル。騎士団長様はそんなハルを痛ましそうに見つめる。

「まさか相手にも伝えてないのかい?」
「・・・・はい。これからも言うつもりはありません。
喜んでくれるとは思えないし・・・・。」


爪が食い込むほど強く握り締められたハルの拳を優しく包むように騎士団長様は手を重ねた。


「分かった。君がそこまで言うなら誰にも言わないよ。でも、いらないお節介かもしれないが、相手には伝えたほうがいい。相手の人の子供でもあるわけだし、案外喜んで受け入れてくれるかもよ?」


「・・・・・・・・考えてみます。」

先ほどの王太子様とリンダン様の様子を思い出すと、ハルにはとてもそうは思えない。
でも、騎士団長様は本当はハルが伝えたいと思ってることを薄々感じ取ったのかもしれない。
ハルもこれ以上否定する気にもなれず、素直に返事をした。

「あとベレー子爵の件だが、もう少し調べてみよう。この国では人身売買は禁止されている。ハルくん以外にも被害者がいるかもしれないからね。」


「ありがとうございます。」


終始穏やかなトーンで会話をしてくれる騎士団長様にすっかり絆され、ハルはいつの間にか笑顔を取り戻していた。
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