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ハルのお誕生日大作戦
しおりを挟むハルの誕生日当日――――――
「…………ほんとにここか?」
4人は周りを木々に囲まれたあばら屋の前に居た。
あばら屋の横には小さな畑があり、見覚えのある野菜が何種類か実をつけている。
他にあるのは木、木、木――――
あとは道かどうか怪しい細い獣道が一つ。
「「「…………。」」」
「空気が澄んでていいところだな。」
言葉も出ない3人とは違い、呼ばれてきたイヴァンは物珍しそうにあたりをキョロキョロ伺い、ニコニコして言った。
「と、とりあえず中に入れてもらいましょう。」
扉をノックするが反応はない。
「いないんじゃないか?」
「いや、裏から音がする。」
4人はあばら屋のくせに無駄に大きな建物をぐるりと回り込んだ。
カツーン カツーン
規則正しく響く音の元までやってくると、ハルが上半身裸で薪を割っているのが見える。
こちらに背中を向けており、4人がいることには気づいていない。
4人はハルの背中を見て、思わず息を飲んだ。
程よくついた筋肉には皮膚が破けたような痕が無数にあり、右側の肩甲骨の上の皮膚の一部は抉られたように窪んでいたのだ。
その時、誰かの足が小枝を踏み、パキッと音が鳴る。
ハルがこちらを振り向くと驚いたように目を見開いた。
「皆さんどうして……?」
ハルも驚いただろうが、3人も驚いた。
ハルの前髪が上がっているところを始めて見たからだ。ゴムで適当にとめているためちょんまげのように上を向いている。
いつもは前髪の隙間からチラリとだけ見えていた瞳がまん丸くなっているのがよく分かる。
「ハル、前髪あげるとすごく可愛いね。若草色の瞳が綺麗だ。」
レオが笑顔でそう言うと、ハッと思い出したのか急いでゴムを引っ張り、恥ずかしそうに前髪を下ろした。
「今日ハルの誕生日だろ?俺らプレゼント持ってきたから、よかったら家の中に入れてもらってもいいか?」
ゼノウが笑顔でそう言うとハルは「はい。」と小さく返事し、コクリと頷く。
ハルの後に続いて家の中に入ると、外観とは違って家の中はそれなりに手入れがされていた。
暖炉は十分暖まっているし、調度品もアンティーク調のもので纏められている。
あまり見た目に頓着しないハルなので、質の良い家具たちでお洒落に整えられた室内は意外と言うほかない。
「へー、中はいい感じですね。」
オリバーが年季の入ったダイニング椅子の背もたれを撫でながら感慨深く言った。
ハルは一旦どこかに消えたと思ったら、シャツを着て戻ってきた。先ほどまで結んでいた前髪は所々まだハネている。
「あの、こんなところまで来ていただいて申し訳ないのですが、皆さんをおもてなしできるような家ではなくて……。」
申し訳なさそうに眉毛を下げるハル。
オリバーがメガネをクイっと直すと、自信満々にこう言った。
「問題ないです。今日はハルの誕生日なので全部こちらで用意してます。持ってくるので少々お待ちください」
オリバーはそう言うと、パッと消えて数秒後にまたパッと現れた。
両手に料理の乗った皿を持って。
「えっ!?…… 手品?」
ハルが驚くなんて珍しい。
いつも淡々としてるのに。
「いや、オリバーは空間魔法が使えるからな。瞬間移動で王宮に用意しておいた料理を運んできたんだ。」
消えては現れるを複数回繰り返し、机の上が料理や飲み物でいっぱいになる。
次々増えていく料理を子供のように凝視するハルをみんなは微笑ましく見ていた。
「よしっ、全部運び終わりました。始めましょうか。」
オリバーそう言うと、各々席に着く。ハルは主役なので誕生日席だ。
「じゃあ、ハルから一言頼むな。」
ゼノウがハルに立つよう促し、みんなはグラスを構える。
立たされたはいいが、何をすればいいやら分からないハルは両手でグラスを握りしめた。
「えっと……僕誕生日を祝ってもらうのが初めてなので勝手がよく分からなくて……何を話せばいいのか・・・・。」
「……じゃあ、俺が代わりに。」
戸惑うハルの代わりにレオが立ち上がると、ハルはホッと息をついた。
「ハル……今日は急に押しかけてごめんね。
俺たちハルにはいつも助けてもらってるからどうしてもお礼がしたかったんだ。
ハルのおかげで最近よく眠れるようになった。
この間もオメガのヒートフェロモンで苦しくて仕方なかったのに、ハルの匂いを嗅いだら呼吸が楽になったんだ。
全部ハルのおかげだよ、ありがとう。
それと誕生日おめでとう。
俺たちは可愛くて優しいハルのことが大好きだよ。」
「「「……おめでとー。」」」
ハルに加えて他の3人まで思わず赤面した。
レオの人たらしぶりに一緒にきた3人は居た堪れない。
分かってるのか、いないのかレオはいつものアルカイックスマイルを浮かべてその光景を機嫌良さそうに眺めていた。
顔の熱が引いた頃、ハルは目の前の料理に釘付けになっていた。
見たことのない豪華な料理ばかりである。
「これ、食べていいんですか?」
「もちろんだよ。ハルのために用意したんだから。たくさん食べてね。」
もきゅもきゅと口いっぱいに料理を頬張るハルをみんな和やかに見つめる。
体はでかいのになぜか小動物を愛でている気分だ。
ハルのフェロモンの匂いが染みついたこの家はいるだけで心をほんわかさせた。
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