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30 明日からヒートです
しおりを挟む綺麗すぎて落ち着かないと思っていた一ノ瀬さんの家。
5日も経てばだいぶ慣れてきた。
まだコンシェルジュさんの前を通る時とマンションの共用スペースは緊張するけど、部屋の中はだいぶ自由に動き回れる。
最初は、掃除も料理も何もしなくていいと言われていたので、汚しちゃいけないとか、洗濯物出すのにも恐縮しっぱなしだった。
(一ノ瀬さんは洗濯物はほぼクリーニングの人。)
けど、僕の様子に気付いた一ノ瀬さんが
キッチンも洗濯機もアイロンも掃除機も好きに触っていいと言ってくれたので、今はかなり気楽だ。
汚したら自分で掃除できるし、お腹が空いたら自分で作ればいいし、寝る部屋も客間を僕専用にしてくれたから、プライバシーも守られている。
夜はリビングで一ノ瀬さんとテレビを見たり、ゲームをしたり、ちょっとだけ晩酌したり、もはや気分は老夫夫。
隣で並んでソファに座ってる時なんか部屋の中なのに手なんか繋いじゃったり、肩抱かれちゃったり、なんやかんやスキンシップも増えてる気がする。
もしかしたらなかなか運命の番が現れないから形式上の恋人感をワンステップ上げてみたのかもしれない。
ただ、あの時みたいな濃密な接触はしていない。
勇士くんが現れる気配はないし、匂いをつける必要がなくなったんだろう。
それか一回抱いてみて、やっぱり僕みたいな見た目のやつは違うなって思ったのかも。
・・・・でも、それでもいい。
だって今、すごい幸せなんだ。
手繋いでもらえたり、頭撫でてもらえたり、すごくすごく優しい顔で微笑んでくれたり。
このまま運命の番が出てこなければ、僕にとってそれほど喜ばしいことはない。
まぁ、ただの夢だけどね。
取り敢えず僕がすべきことは、荷造りだ。
明日の土曜日からホテルに泊まる。
職場には来週分の休みの連絡をしてあるし、オメガ用ホテルも予約した。
あと、内緒で一ノ瀬さんのハンカチを一枚拝借してしまった。
どうしても彼の匂いのついたものが欲しくて。
事前に同じものを購入して差し替えておく念の入れようだ。
僕ってばヤバい?
「明日からホテルに移りますね。
10時くらいに家を出ます。」
「おう。気を付けて。」
一緒に夕飯の冷麺を啜りながら明日の予定について話す。
せっかくの土曜なのにホテルに缶詰は勿体無いけど、ヒートはオメガの宿命だからしょうがない。
「帰りは月曜の夜か遅ければ火曜日くらいになりそうです。」
「分かったよ。」
一ノ瀬さんはにこやかに頷いていた。
「そうそう、今日取引先のところに行ったんだけど近くに美味しい杏仁豆腐のお店があってさぁ、買ってきたんだ。」
冷麺を食べ終わると、一ノ瀬さんが冷蔵庫から白い箱を出してきた。
中には美味しそうな杏仁豆腐。
食後のデザートにぴったりだ。
「わー、この杏仁豆腐すごく美味しいですね。」
「だなー。なんか普通のより濃い感じがする。」
「はい。今まで食べた中で一番かも。」
って会話をしたところまで、覚えてる。
でも、それ以降の記憶がプツリと途切れていたーーー。
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