6 / 9
すれ違う日々と恋人の気配
【6】
しおりを挟む
「みんなはコトの作品を知らないだけだよ! 今日会う人だって、そんなコトの良さを知ってくれた人で……」
「もうこれ以上、私を惨めな気持ちにさせないで! ジェダだって、こんな私に付き合うのはうんざりなんだよね!? 早くここから出て行きたいから、毎日遅くまで仕事をして、私と顔を合わせないようにして。今日だって顔を立てるために恋人を引き合わせようとしてっ!」
「何か誤解しているよ! 俺はずっとコトのためを……」
「もう放っておいてっ!」
そう言って、部屋に駆け込むとベッドに突っ伏す。自然と涙が溢れてきて止まらない。
(最悪。何もかも上手くいかないからって八つ当たりなんてして。いつかはジェダも独り立ちするって、分かっていたじゃない……!)
この世界に来たばかりの頃は、私以外に頼れる人がいなかったかもしれない。でも初めて会った時から、もう三年も経った。
その間に私の知らない人と知り合って、仲睦まじい関係になってもおかしくない。いつまでもジェダと一緒にいられると思っていた私がおかしい。
(謝らなきゃ……)
しばらくして気持ちが落ち着いてくると、ジェダへの罪悪感が募ってくる。これまでジェダと喧嘩したことなんて無かったし、こうして泣いたことも無かったから、きっと困っているよね。
結婚するのならジェダとも一緒に住めなくなるし、早い内に今後の相談もしないと。
ドアの前で深呼吸をして気持ちを落ち着かせてから、何とも無いように開ける。
「ジェダ、さっきはごめんね……」
そう言いながら部屋から出たものの、リビングにジェダの姿は無かった。一応、ジェダの部屋も覗いてみたけれども、小雪が丸くなっているだけだった。
(やっばり、そうだよね……)
恋人が来るみたいだし、私よりもそっちを優先するよね。部屋から立ち去ろうとした時、机の上に表紙がボロボロになった古い本を見つけて、思わず手に取ってしまう。
「この本、懐かしい……。そっかジェダに貸したままになっていたんだっけ」
その古本は私が小説家になりたいと思うきっかけになった、ひと昔前のファンタジー小説だった。
ありきたりな子供向けの内容ながらも、かっこいい勇者やかわいい王女、頼もしい魔法使いや強いドラゴンが出てきて、寝る間も惜しんで読み耽ったっけ。
小学生低学年でも読めるように、難しい漢字はほとんど使われてなくて、簡単な漢字でも読み仮名が振られているから、文字の読み書きを始めたばかりのジェダにも丁度良いと思って貸したんだよね。
(あの頃は文字が読めないジェダの代わりに、私が読み聞かせをしたんだよね。もう必要無いけど)
この世界に来たばかりのジェダは何故か日本語は話せるけれども、日本語の読み書きは一切出来なかった。それで幼児向けの日本語のテキストを買ってきて、一緒に学んで……。
(そっか。今までずっとジェダのことを手の掛かる弟みたいに思っていたんだ)
それならこんなに悲しい気持ちになるのも納得する。姉離れされて、寂しいだけなんだ。兄弟や姉妹がいない一人っ子だったから、歳が近いジェダと暮らすうちに、いつの間にか姉のつもりになっていたのかもしれない。
歳はジェダの方が二歳上のはずだから、いつまでも私が歳上ぶっていたら、一緒に暮らすのが嫌になるのも当たり前だよね。
(私もジェダから離れる良い機会かもしれないね)
私はジェダの部屋から見つけた本を持って部屋に戻ると、雄介君との待ち合わせの時間まで読んだのだった。
「もうこれ以上、私を惨めな気持ちにさせないで! ジェダだって、こんな私に付き合うのはうんざりなんだよね!? 早くここから出て行きたいから、毎日遅くまで仕事をして、私と顔を合わせないようにして。今日だって顔を立てるために恋人を引き合わせようとしてっ!」
「何か誤解しているよ! 俺はずっとコトのためを……」
「もう放っておいてっ!」
そう言って、部屋に駆け込むとベッドに突っ伏す。自然と涙が溢れてきて止まらない。
(最悪。何もかも上手くいかないからって八つ当たりなんてして。いつかはジェダも独り立ちするって、分かっていたじゃない……!)
この世界に来たばかりの頃は、私以外に頼れる人がいなかったかもしれない。でも初めて会った時から、もう三年も経った。
その間に私の知らない人と知り合って、仲睦まじい関係になってもおかしくない。いつまでもジェダと一緒にいられると思っていた私がおかしい。
(謝らなきゃ……)
しばらくして気持ちが落ち着いてくると、ジェダへの罪悪感が募ってくる。これまでジェダと喧嘩したことなんて無かったし、こうして泣いたことも無かったから、きっと困っているよね。
結婚するのならジェダとも一緒に住めなくなるし、早い内に今後の相談もしないと。
ドアの前で深呼吸をして気持ちを落ち着かせてから、何とも無いように開ける。
「ジェダ、さっきはごめんね……」
そう言いながら部屋から出たものの、リビングにジェダの姿は無かった。一応、ジェダの部屋も覗いてみたけれども、小雪が丸くなっているだけだった。
(やっばり、そうだよね……)
恋人が来るみたいだし、私よりもそっちを優先するよね。部屋から立ち去ろうとした時、机の上に表紙がボロボロになった古い本を見つけて、思わず手に取ってしまう。
「この本、懐かしい……。そっかジェダに貸したままになっていたんだっけ」
その古本は私が小説家になりたいと思うきっかけになった、ひと昔前のファンタジー小説だった。
ありきたりな子供向けの内容ながらも、かっこいい勇者やかわいい王女、頼もしい魔法使いや強いドラゴンが出てきて、寝る間も惜しんで読み耽ったっけ。
小学生低学年でも読めるように、難しい漢字はほとんど使われてなくて、簡単な漢字でも読み仮名が振られているから、文字の読み書きを始めたばかりのジェダにも丁度良いと思って貸したんだよね。
(あの頃は文字が読めないジェダの代わりに、私が読み聞かせをしたんだよね。もう必要無いけど)
この世界に来たばかりのジェダは何故か日本語は話せるけれども、日本語の読み書きは一切出来なかった。それで幼児向けの日本語のテキストを買ってきて、一緒に学んで……。
(そっか。今までずっとジェダのことを手の掛かる弟みたいに思っていたんだ)
それならこんなに悲しい気持ちになるのも納得する。姉離れされて、寂しいだけなんだ。兄弟や姉妹がいない一人っ子だったから、歳が近いジェダと暮らすうちに、いつの間にか姉のつもりになっていたのかもしれない。
歳はジェダの方が二歳上のはずだから、いつまでも私が歳上ぶっていたら、一緒に暮らすのが嫌になるのも当たり前だよね。
(私もジェダから離れる良い機会かもしれないね)
私はジェダの部屋から見つけた本を持って部屋に戻ると、雄介君との待ち合わせの時間まで読んだのだった。
11
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
保健室で授業サボってたら寝子がいた
夕凪渚
恋愛
毎日のように保健室で授業をサボる男――犬山健はその日、保健室で猫耳の生えた少女――小室寝子と出会う。寝子の第一発見者であり、名付け親の養護教諭、小室暁から寝子を保護しろと命令され、一時は拒否するものの、寝子のことを思い保護することになるが......。
バーニャ王国から寝子を連れ戻しに来た者によって、「寝子をこっちの世界に適応させないと連れ戻す」と言われてしまう。そんな事実を健は最初皆に隠し通し、一人で全てやろうとしていたが、最終的にいろいろな人にバレてしまう。そこから寝子の真実を知った者だけが集まり、寝子を世界に適応させるための"適応計画"がスタートしたのだった。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
大人な軍人の許嫁に、抱き上げられています
真風月花
恋愛
大正浪漫の恋物語。婚約者に子ども扱いされてしまうわたしは、大人びた格好で彼との逢引きに出かけました。今日こそは、手を繋ぐのだと固い決意を胸に。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
愛するオトコと愛されないオンナ~面食いだってイイじゃない!?
ルカ(聖夜月ルカ)
恋愛
並外れた面食いの芹香に舞い込んだ訳ありの見合い話…
女性に興味がないなんて、そんな人絶対無理!と思ったけれど、その相手は超イケメンで…
粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる
春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。
幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……?
幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。
2024.03.06
イラスト:雪緒さま
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる