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忘れ物を届けに
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「さっきの人、オリバーさんって名前なんですか?」
「ああ。この法律事務所に所属しているオリバー・ジェンキンズ弁護士だ。俺が所属する法律事務所は所属弁護士が十人もいない小規模事務所だが、その分、各分野における専門弁護士を雇っている。オリバーは主に刑事事件を担当しているな」
「刑事事件って、殺人事件や傷害事件、窃盗事件などでしたっけ。こっちでも専門ごとに分かれているんですね」
楓さんと初めて出会った時、貰った名刺には交通事故担当と書かれていた。きっとここでも交通事故を担当しているのだろう。
近くのバス停まで歩きながら、楓さんは説明してくれる。
「専門ごとに分かれているのは日本と同じだ。他には遺産相続や離婚問題、後は債務関係だな。育休を取っている弁護士や出張中の弁護士も居るから、今は事務所に四人ほどしか弁護士はいないが」
「ジェニファーはパラリーガルなんですよね」
「ああ。主に受付と電話対応、書類作成などの雑務を担当している。ジェニファー以外にも二人パラリーガルはいるが、受付も担当しているのはジェニファーだけだな。さっき受付にいたのは受付担当の事務員だ」
「そうなんですね。あの、本当に良いんですか? お仕事、お忙しいんじゃないんですか。やっぱり、私に自宅に帰ろうかと……」
「小春が気にする必要はない。所長も言っていた通り、午後は特に予定が無かったからな。事務所で書類作成をするつもりだった。だだ、書類作成なら家でも出来るからな」
足が長い分、私より歩くのが早い楓さんについて行きながら、楓さんの話しに耳を傾ける。
「それにどっちにしても、休日にはどこか観光に連れて行こうかと思っていた。ずっと自宅に居るのも退屈だろう。何より、外出して、経験を積む事で英語の勉強にもなるだろう。英語が苦手なら、尚の事、出掛ける事で周囲から刺激を受けた方がいい。必要に迫られるのも良いだろう」
「ところで、どうして私が英語が苦手な事を知っているんですか」
「お義母さんが言っていた」
そんな事を話している内に、バス停に到着した。数人がバスを待っている中、楓さんは時刻表に近づくと、腕時計と見比べていた。
「もう午後だからあまり遠くには行けないが、どこか行きたいところはあるか」
「行きたいところですか、そうですね……」
う~んと考えるが、急にそんな事を言われても特に思い当たるところがなかった。どこが近くて、どこが遠いかも分からない。日本で買った旅行本も家に置いてきてしまった。
スマートフォンで調べようかと、カバンから取り出した時、楓さんがスマートフォンごと私の手を掴んで制したのだった。
「もしかして、特に行きたいところが無いのか?」
「はい。ここに来る時は楓さんに会う事しか考えてなくて、観光なんて全く考えていなかったので……」
正直に言うと、楓さんは目を丸くした後に、「それなら」と話し出したのだった。
「俺に付き合ってくれるか、小春。手帳を届けてくれた礼もある。君を連れて行きたい場所があるんだ」
その時、丁度バスが到着したようで、並んでいた人達が続々と乗車して行く。
楓さんもバスに乗ると、片手でドアの脇にある手摺りを掴んで、反対の手を私に差し出してくる。
一瞬だけ迷った後、私はおそるおそるその手を掴むと、バスのステップに足を掛けたのだった。
「ああ。この法律事務所に所属しているオリバー・ジェンキンズ弁護士だ。俺が所属する法律事務所は所属弁護士が十人もいない小規模事務所だが、その分、各分野における専門弁護士を雇っている。オリバーは主に刑事事件を担当しているな」
「刑事事件って、殺人事件や傷害事件、窃盗事件などでしたっけ。こっちでも専門ごとに分かれているんですね」
楓さんと初めて出会った時、貰った名刺には交通事故担当と書かれていた。きっとここでも交通事故を担当しているのだろう。
近くのバス停まで歩きながら、楓さんは説明してくれる。
「専門ごとに分かれているのは日本と同じだ。他には遺産相続や離婚問題、後は債務関係だな。育休を取っている弁護士や出張中の弁護士も居るから、今は事務所に四人ほどしか弁護士はいないが」
「ジェニファーはパラリーガルなんですよね」
「ああ。主に受付と電話対応、書類作成などの雑務を担当している。ジェニファー以外にも二人パラリーガルはいるが、受付も担当しているのはジェニファーだけだな。さっき受付にいたのは受付担当の事務員だ」
「そうなんですね。あの、本当に良いんですか? お仕事、お忙しいんじゃないんですか。やっぱり、私に自宅に帰ろうかと……」
「小春が気にする必要はない。所長も言っていた通り、午後は特に予定が無かったからな。事務所で書類作成をするつもりだった。だだ、書類作成なら家でも出来るからな」
足が長い分、私より歩くのが早い楓さんについて行きながら、楓さんの話しに耳を傾ける。
「それにどっちにしても、休日にはどこか観光に連れて行こうかと思っていた。ずっと自宅に居るのも退屈だろう。何より、外出して、経験を積む事で英語の勉強にもなるだろう。英語が苦手なら、尚の事、出掛ける事で周囲から刺激を受けた方がいい。必要に迫られるのも良いだろう」
「ところで、どうして私が英語が苦手な事を知っているんですか」
「お義母さんが言っていた」
そんな事を話している内に、バス停に到着した。数人がバスを待っている中、楓さんは時刻表に近づくと、腕時計と見比べていた。
「もう午後だからあまり遠くには行けないが、どこか行きたいところはあるか」
「行きたいところですか、そうですね……」
う~んと考えるが、急にそんな事を言われても特に思い当たるところがなかった。どこが近くて、どこが遠いかも分からない。日本で買った旅行本も家に置いてきてしまった。
スマートフォンで調べようかと、カバンから取り出した時、楓さんがスマートフォンごと私の手を掴んで制したのだった。
「もしかして、特に行きたいところが無いのか?」
「はい。ここに来る時は楓さんに会う事しか考えてなくて、観光なんて全く考えていなかったので……」
正直に言うと、楓さんは目を丸くした後に、「それなら」と話し出したのだった。
「俺に付き合ってくれるか、小春。手帳を届けてくれた礼もある。君を連れて行きたい場所があるんだ」
その時、丁度バスが到着したようで、並んでいた人達が続々と乗車して行く。
楓さんもバスに乗ると、片手でドアの脇にある手摺りを掴んで、反対の手を私に差し出してくる。
一瞬だけ迷った後、私はおそるおそるその手を掴むと、バスのステップに足を掛けたのだった。
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