上 下
714 / 731
第四章 アルティメット編開始

第711話 魔術師リアムのアルティメット編・プロジェクト解散飲み会の後の涙

しおりを挟む
 祐介とナイフを持った羽田が揉み合っている中、リアムは頭を殴られた所為か酒の所為かは分からないが、よたつく身体で必死に祐介の背後に回った。

「くっ……!」
「余計な時に来やがって!!」
「なんでこんなことするんだよ!」

 祐介が、歯を食いしばりながら羽田に向かって叫んだ。

「俺はもうどうだっていいんだ! 全部終わっちまった! でもどうしてもこいつのことだけは許せねえんだよ……!」

 羽田の血走った目が、リアムを捉える。

「弱っちかった癖に急に偉そうに説教しやがってよ! だからそいつを泣かせてやってからじゃねえと、俺は次に進めねえんだよ!」
「どんだけ……どんだけ勝手なんだよ!」

 上背のある祐介が、上からぐぐぐっと全身を使ってナイフを持つ腕を捻ろうとするが、羽田はそんな祐介の足をゲシゲシ蹴って抵抗する。

 祐介が離れてくれれば、フルミネを唱えられる。リアムは、人差し指を羽田に向けてその機会が訪れるのをまだかまだかと待った。すると、羽田の蹴りが祐介のスネに当たり、祐介の身体が一瞬ガクン! と揺れた。

「祐介!」
「うぜえんだよ、山岸!」

 羽田はそう叫ぶと、ナイフを持った腕を振り払い、祐介に飛びかかった。

「あああああっ!!」
「ゆ、祐介!?」
「ははっははははっ! ざまあみろ!」

 何と、羽田が持っていたナイフが祐介の腹に刺さってしまっているではないか! 祐介は痛そうに顔を歪め、ナイフの刺さった腹を支えている。

 リアムの頭が、真っ白になった。祐介が、祐介が死んでしまう。

「ゆ……祐介えええっ!!」
「に、逃げて……!」
「何を言っているのだ! 出来るか!」

 地面に転がって呻く祐介。急いで助けなければならない。こんな時までリアムの心配をしてどうするのだ! リアムは泣きそうになったが、奥歯をぐっと噛み締めて耐えた。今は泣いている場合ではない!

 リアムはこちらにくるりと向き直って狂人の様な笑みを浮かべている羽田に向かって、人差し指をピンと向け、全集中して唱えた。

「フルミネ!!」
「ぐあっ!!」

 バチッ! と電気音がしたかと思うと、羽田がドサッと地面に膝を着いた。だが、それでも立ち上がろうとしている。これでは駄目だ、効き目が足りんのだ。

 リアムは羽田の元に駆け寄ると、羽田の頭に手を置き唱えた。

スネイル軟化魔法!!」
「うえぇっ!?」

 それまでしっかりと形のあった羽田の輪郭が、でろりとスライムの様に歪み、羽田の皮膚を被った物体がその場にべしょっと潰れた。

「死にはせん! いずれ戻ろう!」

 それがどの位かは分からんが。リアムはぶにょぶにょになった羽田の身体を蹴ってベンチの下に転がすと、急ぎ地面に倒れている祐介の元へと走り寄った。

「祐介!」
「う……ぶ、無事……?」

 祐介の顔面は真っ青になっており、痛いのだろう、脂汗が浮いている。とうとうリアムの瞳から、涙が溢れてきてしまった。

「私は大丈夫だ! 羽田さんは今は動けなくなっている!」

 リアムが必死でそう言うと、祐介が手を伸ばして笑った。

「よ、よかった……」

 その手は、血まみれになっていた。

「祐介! 傷を見せろ!」

 倒れた時の衝撃でだろうか、ナイフは抜け落ち近くに転がっている。祐介が押さえている腹は、白いシャツが真っ赤に染まっていた。リアムがシャツをたくし上げると、腹の傷からどくどくと血が溢れ続けている。

「祐介、今……!」

 祐介を見ると、静かに目を閉じようとしているところだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約者様の仰られる通りの素晴らしい女性になるため、日々、精進しております!

つくも茄子
ファンタジー
伯爵令嬢のバーバラは幼くして、名門侯爵家の若君と婚約をする。 両家の顔合わせで、バーバラは婚約者に罵倒されてしまう。 どうやら婚約者はバーバラのふくよかな体形(デブ)がお気に召さなかったようだ。 父親である侯爵による「愛の鞭」にも屈しないほどに。 文句をいう婚約者は大変な美少年だ。バーバラも相手の美貌をみて頷けるものがあった。 両親は、この婚約(クソガキ)に難色を示すも、婚約は続行されることに。 帰りの馬車のなかで婚約者を罵りまくる両親。 それでも婚約を辞めることは出来ない。 なにやら複雑な理由がある模様。 幼過ぎる娘に、婚約の何たるかを話すことはないものの、バーバラは察するところがあった。 回避できないのならば、とバーバラは一大決心する。 食べることが大好きな少女は過酷なダイエットで僅か一年でスリム体形を手に入れた。 婚約者は、更なる試練ともいえることを言い放つも、未来の旦那様のため、引いては伯爵家のためにと、バーバラの奮闘が始まった。 連載開始しました。

関係を終わらせる勢いで留学して数年後、犬猿の仲の狼王子がおかしいことになっている

百門一新
恋愛
人族貴族の公爵令嬢であるシェスティと、獣人族であり六歳年上の第一王子カディオが、出会った時からずっと犬猿の仲なのは有名な話だった。賢い彼女はある日、それを終わらせるべく(全部捨てる勢いで)隣国へ保留学した。だが、それから数年、彼女のもとに「――カディオが、私を見ないと動機息切れが収まらないので来てくれ、というお願いはなんなの?」という変な手紙か実家から来て、帰国することに。そうしたら、彼の様子が変で……? ※さくっと読める短篇です、お楽しみいだたけましたら幸いです! ※他サイト様にも掲載

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

ヒルデ〜元女将軍は今日も訳ありです〜

たくみ
ファンタジー
「どこに行っちゃったんですかねー?」  兵士たちが探しているのは、王国一の美貌・頭脳・魔術を操る元女将軍。    彼女は将軍として華々しく活躍していたが、ある事件で解雇されてしまった。でも彼女は気にしていなかった。彼女にはやるべきことがあったから。

自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

如月 雪名
ファンタジー
★2024年9月19日に2巻発売&コミカライズ化決定!(web版とは設定が異なる部分があります) 🔷第16回ファンタジー小説大賞。5/3207位で『特別賞』を受賞しました!!応援ありがとうございます(*^_^*) 💛小説家になろう累計PV1,830万以上達成!! ※感想欄を読まれる方は、申し訳ありませんがネタバレが多いのでご注意下さい<m(__)m>    スーパーの帰り道、突然異世界へ転移させられた、椎名 沙良(しいな さら)48歳。  残された封筒には【詫び状】と書かれており、自分がカルドサリ王国のハンフリー公爵家、リーシャ・ハンフリー、第一令嬢12歳となっているのを知る。  いきなり異世界で他人とし生きる事になったが、現状が非常によろしくない。  リーシャの母親は既に亡くなっており、後妻に虐待され納屋で監禁生活を送っていたからだ。  どうにか家庭環境を改善しようと、与えられた4つの能力(ホーム・アイテムBOX・マッピング・召喚)を使用し、早々に公爵家を出て冒険者となる。  虐待されていたため貧弱な体と体力しかないが、冒険者となり自由を手にし頑張っていく。  F級冒険者となった初日の稼ぎは、肉(角ウサギ)の配達料・鉄貨2枚(200円)。  それでもE級に上がるため200回頑張る。  同じ年頃の子供達に、からかわれたりしながらも着実に依頼をこなす日々。  チートな能力(ホームで自宅に帰れる)を隠しながら、町で路上生活をしている子供達を助けていく事に。  冒険者で稼いだお金で家を購入し、住む所を与え子供達を笑顔にする。  そんな彼女の行いを見守っていた冒険者や町人達は……。  やがて支援は町中から届くようになった。  F級冒険者からC級冒険者へと、地球から勝手に召喚した兄の椎名 賢也(しいな けんや)50歳と共に頑張り続け、4年半後ダンジョンへと進む。  ダンジョンの最終深部。  ダンジョンマスターとして再会した兄の親友(享年45)旭 尚人(あさひ なおと)も加わり、ついに3人で迷宮都市へ。  テイムした仲間のシルバー(シルバーウルフ)・ハニー(ハニービー)・フォレスト(迷宮タイガー)と一緒に楽しくダンジョン攻略中。  どこか気が抜けて心温まる? そんな冒険です。  残念ながら恋愛要素は皆無です。

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

処理中です...