702 / 731
第四章 アルティメット編開始
第699話 魔術師リアムのアルティメット編・飲み会会場へ
しおりを挟む
今回の飲み会会場は、会社のある表通りを駅に向かって真っ直ぐ進んだ先にある居酒屋だった。
「ねえ、あんた何か今日元気ないわよ、どうしたのよ」
そう言ってリアムの隣を歩くのは、ユメだ。前回は参加しなかった彼女だが、今回は社員全員参加ということだそうで参加を決定したそうだ。派遣の田辺さんは息子さんが待っているからと帰ってしまい、羽田も参加はしない意向を示したとは、ユメとは反対側のリアムの隣を歩く佐川からの情報だ。
祐介はというと、潮崎と木佐ちゃんと一緒に前を歩いている。何やら相談事したいことがあると、先程リアムの隣を並んで歩いていた祐介を潮崎が呼んだのだ。祐介がいたその場所に、佐川がさっと陣取ったということである。
「山岸ともあんまり話してなくない? 喧嘩でもしたの?」
佐川がいると話しにくい。事情を知っているユメならば何か助言を貰えるかとも思ったのだが、昼はユメの弟のマサくんの様子を聞いているだけで終わってしまった。長年の寝たきり生活で筋力が衰えている割には早く動ける様になりそうだと医者が驚いていた、とユメが嬉しそうに教えてくれた。恐らく、ヒールライトの効果であろう。
「私は……」
「どうしたの、本当表情暗いよ」
「佐川煩い」
時折肩が当たる位の距離にいる佐川を見て、ユメはしっしっと手を振ったが、佐川は全く意に介していない様である。
「野原さん、俺でよかったら相談乗るし」
「うわ、彼氏持ちにそういうこと言う男ってハイエナみたいで最低」
「……早川さんってこんな感じの人だったっけ……」
「猫を被る必要がなくなったのよ」
「うわあ」
佐川が慄くふりをしてみせたが、ユメは一瞥をくれただけでそれを無視する。
「ほら、言っちゃいなさいよ。折角あんたと話せると思って参加したんだから元気になってよね」
何とも嬉しいことを言ってくれるではないか。リアムは心がじん、とした。ユメ、我が友よ。
「何というかだな……。私は自分の不甲斐なさを実感したのだ」
「不甲斐なさ?」
ユメが怪訝そうな顔になった。リアムは深刻な表情でこくりと頷く。
「私は祐介がいないと何も出来ん。何かあればすぐ祐介を頼ってしまう。私はいつも祐介の優しさの上に胡座をかいてしまっている。それが果たして正しいことなのか、それが祐介にとって幸せになるのかと考えた結果、祐介に頼らない生活を送ってみようと思ったのだ」
横に佐川がいる為、具体的な話をすることが出来ない。だから抽象的な言い方になってしまったが、これは致し方のないことであろう。
すると、ユメが顔を歪ませて言った。
「うわ……山岸くん凹んでそう。まあざまあみろだけど」
「何故祐介が凹むのだ」
リアムがそう尋ねると、ユメが深い溜息をついた。
「あんたといることが生きがいの男からあんたを奪っちゃったらそりゃあ凹むでしょうよ」
「生きがい? 私がか?」
「出た、恋愛オンチ」
ユメの言葉は辛辣だ。
「恋愛オンチ……否めぬ」
まあそこに関しては、言い訳をする気も起こらぬ。ろくな恋愛経験もないまま数十年を過ごしたリアムだ。むしろ魔術研究が恋人だったと言っても過言ではない、世間から見たら少し外れていると見られているであろうことは理解していた。
「山岸って何でもそつなくこなしちゃうもんなあ」
「元来が器用なのだ」
「俺、そこそこ不器用だよ?」
「それがどうした」
「あれ、伝わらない」
佐川がはは、と笑った。ユメが思い切り睨みつけているが、本人は全く気にしていなそうだ。
「俺に乗り換えればって言ってんの」
はは、と佐川が笑った。
「ねえ、あんた何か今日元気ないわよ、どうしたのよ」
そう言ってリアムの隣を歩くのは、ユメだ。前回は参加しなかった彼女だが、今回は社員全員参加ということだそうで参加を決定したそうだ。派遣の田辺さんは息子さんが待っているからと帰ってしまい、羽田も参加はしない意向を示したとは、ユメとは反対側のリアムの隣を歩く佐川からの情報だ。
祐介はというと、潮崎と木佐ちゃんと一緒に前を歩いている。何やら相談事したいことがあると、先程リアムの隣を並んで歩いていた祐介を潮崎が呼んだのだ。祐介がいたその場所に、佐川がさっと陣取ったということである。
「山岸ともあんまり話してなくない? 喧嘩でもしたの?」
佐川がいると話しにくい。事情を知っているユメならば何か助言を貰えるかとも思ったのだが、昼はユメの弟のマサくんの様子を聞いているだけで終わってしまった。長年の寝たきり生活で筋力が衰えている割には早く動ける様になりそうだと医者が驚いていた、とユメが嬉しそうに教えてくれた。恐らく、ヒールライトの効果であろう。
「私は……」
「どうしたの、本当表情暗いよ」
「佐川煩い」
時折肩が当たる位の距離にいる佐川を見て、ユメはしっしっと手を振ったが、佐川は全く意に介していない様である。
「野原さん、俺でよかったら相談乗るし」
「うわ、彼氏持ちにそういうこと言う男ってハイエナみたいで最低」
「……早川さんってこんな感じの人だったっけ……」
「猫を被る必要がなくなったのよ」
「うわあ」
佐川が慄くふりをしてみせたが、ユメは一瞥をくれただけでそれを無視する。
「ほら、言っちゃいなさいよ。折角あんたと話せると思って参加したんだから元気になってよね」
何とも嬉しいことを言ってくれるではないか。リアムは心がじん、とした。ユメ、我が友よ。
「何というかだな……。私は自分の不甲斐なさを実感したのだ」
「不甲斐なさ?」
ユメが怪訝そうな顔になった。リアムは深刻な表情でこくりと頷く。
「私は祐介がいないと何も出来ん。何かあればすぐ祐介を頼ってしまう。私はいつも祐介の優しさの上に胡座をかいてしまっている。それが果たして正しいことなのか、それが祐介にとって幸せになるのかと考えた結果、祐介に頼らない生活を送ってみようと思ったのだ」
横に佐川がいる為、具体的な話をすることが出来ない。だから抽象的な言い方になってしまったが、これは致し方のないことであろう。
すると、ユメが顔を歪ませて言った。
「うわ……山岸くん凹んでそう。まあざまあみろだけど」
「何故祐介が凹むのだ」
リアムがそう尋ねると、ユメが深い溜息をついた。
「あんたといることが生きがいの男からあんたを奪っちゃったらそりゃあ凹むでしょうよ」
「生きがい? 私がか?」
「出た、恋愛オンチ」
ユメの言葉は辛辣だ。
「恋愛オンチ……否めぬ」
まあそこに関しては、言い訳をする気も起こらぬ。ろくな恋愛経験もないまま数十年を過ごしたリアムだ。むしろ魔術研究が恋人だったと言っても過言ではない、世間から見たら少し外れていると見られているであろうことは理解していた。
「山岸って何でもそつなくこなしちゃうもんなあ」
「元来が器用なのだ」
「俺、そこそこ不器用だよ?」
「それがどうした」
「あれ、伝わらない」
佐川がはは、と笑った。ユメが思い切り睨みつけているが、本人は全く気にしていなそうだ。
「俺に乗り換えればって言ってんの」
はは、と佐川が笑った。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
関係を終わらせる勢いで留学して数年後、犬猿の仲の狼王子がおかしいことになっている
百門一新
恋愛
人族貴族の公爵令嬢であるシェスティと、獣人族であり六歳年上の第一王子カディオが、出会った時からずっと犬猿の仲なのは有名な話だった。賢い彼女はある日、それを終わらせるべく(全部捨てる勢いで)隣国へ保留学した。だが、それから数年、彼女のもとに「――カディオが、私を見ないと動機息切れが収まらないので来てくれ、というお願いはなんなの?」という変な手紙か実家から来て、帰国することに。そうしたら、彼の様子が変で……?
※さくっと読める短篇です、お楽しみいだたけましたら幸いです!
※他サイト様にも掲載
婚約破棄は十年前になされたでしょう?
こうやさい
恋愛
王太子殿下は最愛の婚約者に向かい、求婚をした。
婚約者の返事は……。
「殿下ざまぁを書きたかったのにだんだんとかわいそうになってくる現象に名前をつけたい」「同情」「(ぽん)」的な話です(謎)。
ツンデレって冷静に考えるとうっとうしいだけって話かつまり。
本編以外はセルフパロディです。本編のイメージ及び設定を著しく損なう可能性があります。ご了承ください。
ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。
転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す
エルリア
ファンタジー
【祝!なろう2000万アクセス突破!】
転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた!
元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。
相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ!
ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。
お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。
金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。
五年目の浮気、七年目の破局。その後のわたし。
あとさん♪
恋愛
大恋愛での結婚後、まるまる七年経った某日。
夫は愛人を連れて帰宅した。(その愛人は妊娠中)
笑顔で愛人をわたしに紹介する夫。
え。この人、こんな人だったの(愕然)
やだやだ、気持ち悪い。離婚一択!
※全15話。完結保証。
※『愚かな夫とそれを見限る妻』というコンセプトで書いた第四弾。
今回の夫婦は子無し。騎士爵(ほぼ平民)。
第一弾『妻の死を人伝てに聞きました。』
第二弾『そういうとこだぞ』
第三弾『妻の死で思い知らされました。』
それぞれ因果関係のない独立したお話です。合わせてお楽しみくださると一興かと。
※この話は小説家になろうにも投稿しています。
※2024.03.28 15話冒頭部分を加筆修正しました。
ほんわりゲームしてます I
仲村 嘉高
ファンタジー
※本作は、長編の為に分割された1話〜505話側になります。(許可済)
506話以降を読みたい方は、アプリなら作者名から登録作品へ、Webの場合は画面下へスクロールするとある……はず?
───────────────
友人達に誘われて最先端のVRMMOの世界へ!
「好きな事して良いよ」
友人からの説明はそれだけ。
じゃあ、お言葉に甘えて好きな事して過ごしますか!
そんなお話。
倒さなきゃいけない魔王もいないし、勿論デスゲームでもない。
恋愛シミュレーションでもないからフラグも立たない。
のんびりまったりと、ゲームしているだけのお話です。
R15は保険です。
下ネタがたまに入ります。
BLではありません。
※作者が「こんなのやりたいな〜」位の軽い気持ちで書いてます。
着地点(最終回)とか、全然決めてません。
(完)あなたの瞳に私は映っていなかったー妹に騙されていた私
青空一夏
恋愛
私には一歳年下の妹がいる。彼女はとても男性にもてた。容姿は私とさほど変わらないのに、自分を可愛く引き立てるのが上手なのよ。お洒落をするのが大好きで身を飾りたてては、男性に流し目をおくるような子だった。
妹は男爵家に嫁ぎ玉の輿にのった。私も画廊を経営する男性と結婚する。私達姉妹はお互いの結婚を機に仲良くなっていく。ところがある日、夫と妹の会話が聞こえた。その会話は・・・・・・
これは妹と夫に裏切られたヒロインの物語。貴族のいる異世界のゆるふわ設定ご都合主義です。
※表紙は青空作成AIイラストです。ヒロインのマリアンです。
※ショートショートから短編に変えました。
お馬鹿な聖女に「だから?」と言ってみた
リオール
恋愛
だから?
それは最強の言葉
~~~~~~~~~
※全6話。短いです
※ダークです!ダークな終わりしてます!
筆者がたまに書きたくなるダークなお話なんです。
スカッと爽快ハッピーエンドをお求めの方はごめんなさい。
※勢いで書いたので支離滅裂です。生ぬるい目でスルーして下さい(^-^;
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる