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第四章 アルティメット編開始

第699話 魔術師リアムのアルティメット編・飲み会会場へ

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 今回の飲み会会場は、会社のある表通りを駅に向かって真っ直ぐ進んだ先にある居酒屋だった。

「ねえ、あんた何か今日元気ないわよ、どうしたのよ」

 そう言ってリアムの隣を歩くのは、ユメだ。前回は参加しなかった彼女だが、今回は社員全員参加ということだそうで参加を決定したそうだ。派遣の田辺さんは息子さんが待っているからと帰ってしまい、羽田も参加はしない意向を示したとは、ユメとは反対側のリアムの隣を歩く佐川からの情報だ。

 祐介はというと、潮崎と木佐ちゃんと一緒に前を歩いている。何やら相談事したいことがあると、先程リアムの隣を並んで歩いていた祐介を潮崎が呼んだのだ。祐介がいたその場所に、佐川がさっと陣取ったということである。

「山岸ともあんまり話してなくない? 喧嘩でもしたの?」

 佐川がいると話しにくい。事情を知っているユメならば何か助言を貰えるかとも思ったのだが、昼はユメの弟のマサくんの様子を聞いているだけで終わってしまった。長年の寝たきり生活で筋力が衰えている割には早く動ける様になりそうだと医者が驚いていた、とユメが嬉しそうに教えてくれた。恐らく、ヒールライトの効果であろう。

「私は……」
「どうしたの、本当表情暗いよ」
「佐川煩い」

 時折肩が当たる位の距離にいる佐川を見て、ユメはしっしっと手を振ったが、佐川は全く意に介していない様である。

「野原さん、俺でよかったら相談乗るし」
「うわ、彼氏持ちにそういうこと言う男ってハイエナみたいで最低」
「……早川さんってこんな感じの人だったっけ……」
「猫を被る必要がなくなったのよ」
「うわあ」

 佐川が慄くふりをしてみせたが、ユメは一瞥をくれただけでそれを無視する。

「ほら、言っちゃいなさいよ。折角あんたと話せると思って参加したんだから元気になってよね」

 何とも嬉しいことを言ってくれるではないか。リアムは心がじん、とした。ユメ、我が友よ。

「何というかだな……。私は自分の不甲斐なさを実感したのだ」
「不甲斐なさ?」

 ユメが怪訝そうな顔になった。リアムは深刻な表情でこくりと頷く。

「私は祐介がいないと何も出来ん。何かあればすぐ祐介を頼ってしまう。私はいつも祐介の優しさの上に胡座をかいてしまっている。それが果たして正しいことなのか、それが祐介にとって幸せになるのかと考えた結果、祐介に頼らない生活を送ってみようと思ったのだ」

 横に佐川がいる為、具体的な話をすることが出来ない。だから抽象的な言い方になってしまったが、これは致し方のないことであろう。

 すると、ユメが顔を歪ませて言った。

「うわ……山岸くん凹んでそう。まあざまあみろだけど」
「何故祐介が凹むのだ」

 リアムがそう尋ねると、ユメが深い溜息をついた。

「あんたといることが生きがいの男からあんたを奪っちゃったらそりゃあ凹むでしょうよ」
「生きがい? 私がか?」
「出た、恋愛オンチ」

 ユメの言葉は辛辣だ。

「恋愛オンチ……否めぬ」

 まあそこに関しては、言い訳をする気も起こらぬ。ろくな恋愛経験もないまま数十年を過ごしたリアムだ。むしろ魔術研究が恋人だったと言っても過言ではない、世間から見たら少し外れていると見られているであろうことは理解していた。

「山岸って何でもそつなくこなしちゃうもんなあ」
「元来が器用なのだ」
「俺、そこそこ不器用だよ?」
「それがどうした」
「あれ、伝わらない」

 佐川がはは、と笑った。ユメが思い切り睨みつけているが、本人は全く気にしていなそうだ。

「俺に乗り換えればって言ってんの」

 はは、と佐川が笑った。
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